我らエンリ将軍閣下が配下!   作:セパさん

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人狼神官への試練

「なるほど……、アインズ様はあの人間統治の実験場にそこまでの意味を持ち合わせていたのですか。」

 

 ナザリックで働く者には強制的に〝休憩時間〟が1時間与えられる。食事をするのも仮眠をとるのも自由と言われているが、一般メイドなら兎も角守護者クラスともなれば食事をゆっくりとる時間程度でしかない。これで食事も睡眠も必要無いアンデッドならば、アインズ様にお仕えすることの叶わない苦の時間でしかないだろう。

 

 とはいえ、いと尊きアインズ様のご提案に反対する愚など犯せるはずもなく。各々休息をしっかりと取っている。それはナザリック1の知者であり、秒単位のスケジュールを組んでいるデミウルゴスも同じだ。

 

 ……第9階層談話室で、サンドイッチを片手にパンドラズ・アクターとチェスを行うデミウルゴス。〝休息時間〟を利用し、デミウルゴスは〝休憩中の雑談〟として、この1時間をナザリック内外の情報収集の時間としていることが多い。

 

 デミウルゴスは、アウラから闘技場で〝アインズ様以外の人間らしき者〟がナザリックの威とも言うべきスタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウンを使用していたと聞き、パンドラズ・アクターに【休憩時間久々にチェスでもしよう】と誘いをした。

 

「ええ!デミウルゴス殿!なんとわたくしは!!彼の至高の41人、その御方々の証〝スタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウン〟にこの手を触れることを許されたばかりか、その御力を使う事まで許されたのです!これ以上の喜びはあるでしょうか!?いえ、御座いません!」

 

 パンドラズ・アクターは闘技場でナザリック最高位の証であり、偉大なる創造主以外所持を許されない武器を御手より一時的にでも賜った興奮を思い出し打ち震えていた。

 

「カルネ村の薬師、ンフィーレア・バレアレか……。ルプスレギナ・ベータを信用していない訳ではないが、ふむ……。わたくしだったらその人間を即座にナザリックへ監禁し、ポーション作製も合わせて行うものだが、アインズ様の深淵なるお考えには届きません。パンドラズ・アクター、君は?」

 

「わたくしがアインズ様のお考えに及ぶなど、それこそとんでも無いことです!デミウルゴス殿も、幾つか推測がついておりましょう?」

 

「勿論メリットは幾つか挙げられるさ、一番はシャルティアを洗脳した勢力のあぶり出しだ。だがアインズ様のことです、我々の到底及ばぬ深慮を秘めていることでしょう。そして君やアウラが、先の実験をアインズ様から口止めされていないということは……。」

 

「ええ、我々は試されているのかもしれませんね。……もし、カルネ村に不慮の事態がおこればどうなるのか。シャルティア嬢を洗脳した勢力を炙り出す場として相応しいか。」

 

「わたしは、アインズ様の端倪すべからざる越智と御力を、またしても正しく理解出来ていなかったようですね。……QXE7+(クイーンテイクスイーセブンチェック)

 

「ああああ!!わたくしの活路が全て消えたではありませんか!」

 

「休憩が終わればこのまま仕事の話をしたいのだが……。時間は?」

 

「今日は〝モモン〟の仕事もありませんし、構いませんとも。」

 

 

 

 ●

 

 

 

 目深なフードを被ったゴブリンが、錠のついた黒い箱の前で7つの鍵開け道具を駆使し、時に魔法で、時にドリル、ペンチ、曲げ柄ドリル、バール、クランプ、錐などで鍵開けを行い……5本の閂を取り出し解錠した。鍛冶師や天候予報士と同じく、5000のゴブリン軍団に1体しか居ないゴブリン盗賊は、誇らしげにパシパシと手を払った。

 

「5分43秒。最長記録だ、俺の手をここまで煩わせるとは大したもんだ。……エンリ将軍閣下、解錠が終わりました!」

 

「ありがとうございまーす!ゴブリン盗賊さん!」

 

 中央の広場では盗賊ゴブリンを聖騎士ゴブリンが護衛し、他の住民やエンリは200m以上離れた位置にいる。この錠がついた黒い箱は、村の門の入り口に知らぬ間に置かれていたなんとも不穏なもので、爆発物や毒物の探知は出来なかったが、ンフィーレアが<道具鑑定(アプレイザル・マジック・アイテム)>を行ったところ、第八位階の魔法が込められた品が箱の中に入っていると解った。

 

 かつてカルネ村を襲ったスレイン法国からか、リ・エスティーゼ王国からの復讐か……。ゴウン様の力に頼ろうかという意見も出たが、伝達役となるルプスレギナ・ベータが本日はおらず、何時どのような効果を発揮するか解らない以上、放置は危険であると判断した。

 

 ただ、解錠することで効果を発動するものならば、踏まなくても良い虎の尾を踏んだことになる。博打ともいえる二者択一であったが、カルネ村にもたらされた品である以上、謎を謎のままゴウン様に丸投げするのはエンリとしても気が引けた。

 

 解錠を終えた盗賊ゴブリンは後方に下がり、カルネ村で一番の力を持つレッドキャップスの一人が、聖騎士や魔法支援部隊から耐性魔法をこれでもかと付加され、黒い箱を開ける。

 

 ……そこには古びた短杖(ワンド)が一本入っていた。中身はそれだけであり、手紙も何もない。

 

「エンリ将軍閣下!古びた短杖(ワンド)が一本、効果は不明です。」

 

「第八位階の魔法を宿した短杖(ワンド)!?……エンリ、これは本格的にゴウン様へ報告した方がいい。僕たちの手に負えるものじゃない。」

 

「……呪いの類は掛かっていない様子です。」

 

「そうですか。とりあえず、即座に村へ被害が出る品でなく何よりです。」

 

 

 

 

 

「……アインズ様。カルネ村に現れました謎の黒い箱ですが、ゴブリンが解錠し、中からは第八位階の魔法を有する短杖(ワンド)が出てきた模様です。」

 

『なるほど、何時、何処から誰が持って来たもので、何故カルネ村に置かれ、どのような効果を持つマジック・アイテムであるか解るか?』

 

「お許しください。わたくしの未熟が致すところで、気がついた時には正門に置かれておりました。魔力系の力を有するマジック・アイテムでは御座いませんが、宿している力が死霊系魔法や即死魔法であり、触れれば即座に命を奪われる恐れも御座います。護衛すべき4名にはあらゆる属性魔法への防護を張っております。」

 

『そうか。ナザリックからどの程度の支援が必要である?』

 

 ルプスレギナは長考する。アインズ様より命を護るよう厳命されている4人の人間を避難させ、自分が持ち帰れば問題無いと思うのだが、アインズ様がそのように話すということは、万全を期すべき事案ということだろう。

 

「……失礼ながらマジック・アイテムの鑑定に長けた者と、第八位階クラスの魔法が暴発した際、脆弱な人間4名を護れるだけのご支援を頂ければ幸いに御座います。」

 

『よしわかった。三分後に向かわせる。その間4人を死守せよ。』

 

「アインズ様のご命令のままに。」

 

 

 

「エンちゃーん!お困りっすか!?」

 

「ルプスレギナさん!」

 

 神出鬼没な天真爛漫な美女、ルプスレギナの登場にエンリは思わず安堵する。

 

「いやー!おかしなモノが現れたもんっすね~。あんな訳の解らない箱を開けるなんて、中々の勝負師っす!無理せずアインズ様の御力を借りてもよかったと思うっすよ?」

 

「いえ、カルネ村は私たちの村ですから、ゴウン様に甘えるばかりではいられません。」

 

「まぁもう少しすればアインズ様が使者を送ってくれるっす!わたしはホウレンソーが完璧な出来る女っすからね!」

 

「ほうれんそー?」

 

 

 ルプスレギナは笑顔の裏で神経を張り巡らせ、4人の護衛に専念する。二度もアインズ様に失望されるなど、それこそ自らの死だけで済む問題ではない。……そんなことを考えていると、膨大な力が肌を撫でた。

 

「待たせたな。」

 

「ゴウン様!?」

 

「あ、アインズ様!?」

 

 ルプスレギナもエンリを始めとした村民やゴブリン軍団も一斉に平伏する。

 

「ああ、ルプスレギナから報告を受けてな。〝マジック・アイテムの鑑定に長け、村の者を護れる存在〟を呼んで欲しいと言われた。わたし以上の適役がいるかね?」

 

「いえ!しかし御身の手を煩わせるなど!」

 

「構わん。さて、このアイテムか……。ふむ、幸いな事に死に至るマジック・アイテムではないようだ。これならばわたしが直接持って帰ってもいいのだが、ンフィーレア君。少し触ってみるか?」

 

「い、いいのですか?」

 

 第八位階の魔法など神の領域だ。短杖(ワンド)を渡される手が震える。

 

「ああ、誰が何のためにこのような品を置いていったのかは解らないが、呪われるような品でもない。君たち全員の無事も、このわたしが保証しよう。」

 

 アインズはチラリとルプスレギナを見たが、その視線に込められた意味を汲んでくれなかった様子を若干残念に思う。

 

「ありがとう御座います!では……」

 

 ンフィーレアが短杖(ワンド)を手にした瞬間、村を紫色の光が覆った。

 

 

 

 ●

 

 

 

 ナザリック第九階層執務室。倚子に腰掛けるアインズの横には今回カルネ村を舞台とした〝避難訓練〟の発案者であるデミウルゴスと、パンドラズ・アクターが控えている。

 

「さて、今回の訓練の総括だ。ルプスレギナ。まず不慮の事態に対し、わたしに的確な報告が出来たことは素直に称賛しよう。」

 

「……当然の責務に御座います。」

 

「では何を課題と考える。」

 

「ただ報告をするだけでなく、自分の力を過信せず、不慮の事態にはアインズ様の御力をお借りする必要性を実感致しました。」

 

「その通り。あの村の監視役はお前に任せているが、あの村はナザリックの持つ中でも特殊中の特殊。もしもわたしが敵対プレイヤーであれば、あの村を最初に攻め込む算段を付けるだろう。」

 

「おお!やはりアインズ様はそこまでお考えの上で、あの能力を持つ人間やドワーフ達を集めておいでだったのですね!」

 

 デミウルゴスは感極まった様子で、恭しく頭を下げた。

 

「村の重要性は以前口で説明したが……。今回は身を以て体験してもらった。どうだ?人間というのもバカにしていれば足を掬われるだろう?」

 

 第八位階の魔法を宿した短杖(ワンド)……道徳歪曲(ディストーテッド・モラル)を基盤として、カルマ値の±を逆転させるマジック・アイテムはアインズほどの力を持つ存在-それとアインズが秘密裏に防護していたカルネ村の全員-には通じないが、ルプスレギナにはバッチリ効果があった。いきなりエンリとンフィーレアに対して、今まで不穏な考えと不遜な言動をしていたと純真な目で滔々と懺悔をしだしたので、急いで連れて帰ってきたくらいだ。

 

「はい、この愚かな身を以て実感致しました。今まであの村の重要性を軽視していたわたくしに罰をお与え下さい。」

 

「重要性を知ってもらうための訓練だ。お前はンフィーレアの能力を軽視し、術中に嵌った。罰は既に与えたものと考えよ。」

 

「……慈悲深きお心に感謝申し上げます。」

 

「さて、デミウルゴス、パンドラズ・アクター。この度は見事な訓練を提案してくれた事に感謝する。」

 

「勿体なきお言葉に御座います。わたくしもどんな存在であれ、侮っては危険であると再認識が出来ました。」

 

「うむ、素晴らしい!」

 

 アインズは本心から破顔する。この訓練にはナーベラルや他の守護者を始め、全ナザリックのNPCが参加してもらいたかった位だ。

 

「ところでパンドラズ・アクター。」

 

「はい!カルマ値についてですね?3日ほどで元に戻ります。ルプスレギナ嬢の罰には丁度良いかと。今回の演目を造り上げた作家の責任として、3日はわたくしがルプスレギナ嬢の代役を務めさせて頂きます!」

 

「う、うむ。デミウルゴスはどう思う?」

 

「わたくしもアインズ様のお考えを理解出来ないという、彼女自身の招いた愚行を反省する良い機会であるかと愚申致します。」

 

「そうか……うむぅ。」

 

 純真無垢な目でアインズを見つめるルプスレギナを見て、アインズはしていない息を溜めそのまま吐き出した。

 

 ……この3日間、〝困っていたエクレアを助けていた〟〝ツアレに優しくメイドの心得を指導していた〟など、【幻のルプスレギナ】が都度噂になったが、それは余計な話。

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