我らエンリ将軍閣下が配下!   作:セパさん

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釣り餌に食い付く者

 エ・ランテルの共同墓地。秘密結社ズーラーノーンによるアンデッド騒動で一時閉鎖されていた期間もあったが、魔導国の首都となってから〝死者に正しき安寧を〟という方針の下、以前よりもしっかりとした設備が整えられ、静かに始動した。

 

 そんな共同墓地の奥、霊廟ともいえる立派な墓碑の前には4つの宝石が拵えられた短剣が供えられ、墓碑には立派な文字で『漆黒の剣』と4人の名が刻まれている。墓碑の前で黙祷を捧げるのはンフィーレアとエンリ、そして漆黒の鎧姿に赤いマントを靡かせた巨躯、〝漆黒の英雄〟モモン。

 

 ンフィーレアの命を護るため戦い、そして亡くなった勇敢な4名。ンフィーレアはその弔いに来ていた。魔導国の王であるアインズ・ウール・ゴウンもモモンから話を聞き、新ポーションの開発者であるンフィーレアを護るため果敢に戦い亡くなった偉大な4人を高く評価し、こうして丁重に弔われている……

 

 ……ということになっている事を、ンフィーレアは知っている。

 

 何しろ横で共に黙祷を捧げている人物こそ、魔導王陛下その人であり、行き違いから助けることの叶わなかった命だ。とはいえゴウン様=漆黒の英雄モモンである事実は妻のエンリにも話していないし、話すつもりもない。

 

「モモン様。わざわざここまでの護衛をありがとうございます。」

 

「いえ、本来であればカルネ村から護衛を行うべきなのでしょうが、立場上エ・ランテルを離れる事の出来ないわたしをお許しください。帰りには魔導王陛下が準備しましたエルダー・リッチ、デス・ナイトが16体護衛に回ります。……ゴブリン兵の皆様も大変優秀であらせられるので、超越者クラスが襲い掛かって来ない限り問題は無いと思いますが。……どうかされましたか、エンリさん?」

 

「い、いえ。村を出たときから時折なんだか寒気が……。」

 

 モモンは現在ふたつ嘘をついている。ひとつは〝漆黒の英雄モモン〟がアインズではなく、パンドラズ・アクターであること、ふたつ目はンフィーレアがカルネ村を離れると報告を受けた際に、護衛としてルプスレギナに代わり、完全不可視化を行使したシャルティアとセバス、マーレの3人が刺客に目を光らせていること。

 

 ンフィーレアの生まれながらの異能(タレント)は、超位魔法星に願いを(ウィッシュ・アポン・ア・スター)で奪い取ることが可能だ。アインズは世界級(ワールド)アイテムの存在がこの世界で確認されている以上、自分たちに出来ることは他のプレイヤーも出来ると考え行動に移すべきだと結論を下した。

 

 上手く行けば、シャルティアを洗脳した勢力を釣り上げる釣り餌と出来る。アインズから勅令を受けた3人-特にシャルティア-のやる気は半端なモノでは無く、多少殺気が漏れ出してしまうのも仕方がない。

 

(シャルティア、意気込む気持ちはよーく解りますが、我々は釣り人。無駄に水面を揺らしては本来食い付く魚まで逃がす羽目になりますよ。)

 

(解っていんす!ドワーフの国以降、わらわは生まれ変わったでありんす!アインズ様の偉大なるお考えを汲み、頭を使うことを覚えたでありんすよ!)

 

(えっと……でも、ですよ?僕たち3人が必要なほど、この人間ってスゴイんですか?)

 

(はん!マーレはアインズ様の至高なるお考えに届いていないようでありんすね!……セバス、説明してあげるでありんす!)

 

(畏まりました。〝ありとあらゆるマジック・アイテムを使用可能〟というこの世界でも希有な生まれながらの異能(タレント)を有しております。至高の41名の御方々の中でも、アインズ様以外所持を許されなかった〝スタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウン〟さえも使用可能であると、パンドラズ・アクターの実験から明らかとなっており、敵の手に渡れば、我がナザリックは最悪崩壊の危機に立たされることでしょう。)

 

(そうなのですか!?)

 

(そうなんでありんすか!?)

 

(しかしナザリックが手札として持っている内は逆に鬼札としても作用します。そしてこのように釣り餌としても……。なのでアインズ様はあえて、この少年から能力を奪わずにおられるのでしょう。)

 

(そ、そうだったのですか。僕思わず殺しちゃった方がいいのかと考えちゃいました。)

 

(は、はん!マーレはまだまだでありんすね。)

 

(こうして我々……個人としては最強のシャルティア、広域殲滅では最強のマーレ、僭越ながら無手での戦闘には些か自信のあるわたくしが選ばれたのも、アインズ様がシャルティアを洗脳した忌まわしき勢力を警戒しての事でしょう。……エ・ランテルを出るようですね。)

 

 シャルティア、マーレはデス・ナイトやエルダー・リッチを乗せた首無し馬が引く馬車に乗り、セバスはそのまま疾駆し朱い瞳で周囲を警戒した。

 

 この馬車達の中で釣り餌はンフィーレアと……世界級(ワールド)アイテムを所持していないセバスの2人だ。故にセバスの完全不可視化だけは課金アイテムを使用していない、やや不完全なものとなっている。

 

(掃いて捨てる様な野盗程度しかおりませんね。――アインズ様の超智をもってして狡猾に姿を隠し続ける忌まわしき団体です。当然では御座いますが……。)

 

 命令は接敵次第、偽のナザリックに<転移門(ゲート)>を作り転移し、ンフィーレアとエンリを保護すること。セバスは接敵した相手が、己に匹敵する強敵の場合、相手の狙いを探れれば上々、もしくはナザリックが侵略への大義名分を得るため、無抵抗のまま殺される事も視野にいれている。

 

 至高の御方のために死ねることはナザリックにおける最高の誉れであり、ツアレの助命という己の我が儘を認めて下さった慈悲深き御方に対する最高の奉仕である。

 

 

 

 

 ●

 

 

 

 

「ご苦労、パンドラズ・アクター。」

 

「とんでもございません、我が創造主にして至高なる御方!アインズ様!」

 

 エ・ランテルの執務室で、アインズは遠隔視の鏡(ミラー・オブ・リモート・ビューイング)を越しにカルネ村へ向かうンフィーレアとエンリを乗せた馬車の一団……密かに紛れ込ませているセバス、シャルティア、マーレの観察をしていた。

 

 アインズはシャルティアを洗脳した集団が一向に割れない事を焦れていた。かつてのナザリックの様に国すら持たない、名を隠した集団か、それとも地上に顕現する国のどれかか……。それさえも解らない。

 

 この世界にはユグドラシルの影がチラホラと見える。南にあるという浮遊都市〝エリュエンティウ〟なる場所などその筆頭だ。ナザリックが魔導国という国家を持った以上、不必要な虎の尾を踏むつもりはないが、脅威に対する情報の収集まで放棄するつもりはない。

 

 今回ンフィーレアがカルネ村を離れるという報告を聞いたときは、いい機会だと考えた。ンフィーレアの生まれながらの異能(タレント)はプレイヤーからすれば垂涎の能力である。覗き見が好きな相手ならば、その力の一端を知れる上、以前のようにンフィーレアの能力に目を付け奪い取ろうとする勢力が居たら、ニューロニストとしばらく仲良くしてもらおう。

 

「……ダメか。クソ!」

 

 馬車がカルネ村に到着するのを見て、憤怒が燃え上がり、一瞬で沈静化される。わざわざシャルティア、マーレ、セバスにまで出張ってもらったにも拘らず、成果は無し……。と、同時に課金アイテムまで使用し、3人を向かわせた自分の悪手に気がつく。

 

(しまった~~。焦ってたとはいえ、ちょっとやりすぎた。ここまで準備させて〝何もありませんでした〟って俺の責任じゃん。でも3人とも自分達のせいにするよなぁ。どうしよう……。)

 

 久々に営業マン時代盛大な発注ミスをやらかした気分に陥ったアインズは、横に佇んでいるパンドラズ・アクターに視線を向ける。

 

「ふむ。やはり簡単に尻尾は出さないか……。これはわたしのミスだ。3人が自分を責めないといいのだが。」

 

「何を仰いますアインズ様!相手はシャルティア嬢さえも洗脳した世界級(ワールド)アイテムの保有者に御座います!その脅威を常に我々へ意識させるお心遣い、誠に感服致します。」

 

「そ、そうか?まぁ、わたしもミスをするのだ。それを理解してもらえるといいのだが……セバスか!?どうした?」

 

 

 ●

 

 

 カルネ村の南方から全速力で逃げ出す、旅人らしき一団。男性3名女性1名、全員が旅人の格好をしている。〝魔窟カルネ村〟の調査を神官長より賜った密偵の一団は、冥府の騎士デス・ナイト、迷宮の主エルダー・リッチが16体と護衛する馬車を運良く遠方より発見し、一目散に敗走した。

 

 一体で都市や小国を壊滅させうる怪物が16体、未開の地に於ける諜報活動という点では、スレイン法国でも頂点に立つ水明聖典の精鋭だが、相手が余りにも規格外過ぎる。万のゴブリンを手足のように扱う将軍が居ると言う噂とも付かない話だけであったが、カルネ村の将軍とは、彼の魔導王の様にアンデッドまで使役するのだろうか?

 

 考えれば出現時期も同じだ。陽光聖典部隊の壊滅と、リ・エスティーゼ王国第一王子の失踪。その原因であるカルネ村。この情報を持って、帰国しようと考えていたのだが……。

 

「お急ぎですかな?」

 

 文字通り、4人の足が止まった。切断された脚から惰性で身体が滑り、ボトリと音を立てて落ちる。一瞬の出来事であり、顔を上げると執事服に身を包んだ白髪ながら猛禽類の様な鋭く朱い目をし、鍛え抜かれた体躯を持つ老人が佇んでいた。その朱い目は目の前の存在が、人でないことを如実に表している。

 

「お急ぎの所申し訳御座いませんが、わたくしの主が皆様とお話をしたいとお望みです。……ああ、奥歯には毒が仕込まれておりましたので、こちらで引き抜かせて頂きました。丁寧にお預かりし、お帰りの際には洗って返しますので、ご安心下さい。」

 

「な、何者だ!?」

 

「……そちらの紹介は必要無いでしょう。さて、時間を与えましたが、この危機を脱する手筈は無いのですか?30秒後にはわたしの主の前へお連れ致しますが。」

 

 密偵の一団は顔を青ざめさせる。今回の任務に当たって余計なアイテムは不要であろうと、何も持たされていない。

 

「……ふぅ。残念です、釣り餌となったからには大きな魚を釣ることが喜びなのですがね。<転移門(ゲート)>を開いて頂けますか?」

 

 4人の脚は何時の間にか回復が施されており、そのまま歪曲した空間へ1人の執事によって連れ去られた。――4人は知っている全てを吐く事となるが、4人とも傾城傾国の存在を知らなかったがために、ただの密偵として片付けられた。




・傾城傾国の存在って拷問にかけられたニグンさんでさえ知らなかったなら、スレイン法国ではどの程度の地位までの人が知っているのでしょうね?

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