我らエンリ将軍閣下が配下!   作:セパさん

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杞憂と決意

 燦燦と日光の照らす中、ザクザクと土を(たがや)す軽快な音が響いている。

 

 そこにみえるは、各サイズに調整の施されたミスリル製の(クワ)を持ったゴブリンや人間・オーガたち。(クワ)には魔化が施され魔法の輝きを纏っている。

 

 見た目よりもずっと軽く鋭利であり、また大地の病を取り除く森祭司(ドルイド)の魔法が宿っており、まるで小枝のように数回振りかぶると一瞬で荒れた地が肥沃な田畑の土台へ変わる。

 

「しっかし本当にすげぇな……。耕すというより、土を斬ってるみてぇだ。」

 

 人間の農夫が手にしたドワーフ謹製であるミスリルの(クワ)を見つめなおし、感嘆の息を吐いた。男は別に剣士でも戦士でもないが、男として生まれ、カルネ村における2度の襲来で、一度目は命を落としかける経験を、二度目は命を懸ける経験をした身として、強固なミスリルで造られた刃の美しさには見惚れずにいられない。

 

 ……実際(クワ)のミスリル純度・刃の鋭利さ・宿された魔法技術を武具として考えれば、オリハルコン級冒険者――下手をすればアダマンタイト級冒険者が装備していても不思議でないレベルの代物だ。少しでも武具の知識がある冒険者や兵士・騎士が見れば、そんなものを農具にして土を耕すなど頭がおかしいと糾弾されて然るべき光景だろう。

 

 カルネ村は救世主ゴウン様から5000人分のゴブリン集団の兵站をお借りし、返済に乗り出すべく、カルネ村の農業は様々な失敗を経てようやく軌道に乗り始めた。

 

 とはいえやっと自給自足の目途が立った程度で、完済は数十年から数百年先……しかし慈悲深きゴウン様はそれでもかまわないと話してくれている。

 

 もちろん、カルネ村の族長エンリは慈悲に甘えることを良しとしない。山の中でも薬草がとれない箇所を開墾し、農地にあてる政策をとっている。現在耕している場所は山菜や薬味野菜の畑となる予定だ。

 

「この調子だと、思ったより早く終わりそうだな。明日には肥料を撒いてタネ付けまでできそうだ。よし、みんな!この調子で終わらせちまおう!」

 

 ゴウン様が兵站維持のため送ってくださった野菜や肉といった食品は、今まで食べたことが無いほど豊穣な代物だった。返済のため、ゴウン様は未知の種を分け与えてくださり、〝またあの未知で美味なる野菜を食べたい〟という欲求から来るやる気はかなりのものだ。

 

「畏まりました。全てはエンリ将軍閣下のために。」

 

「ぞくちょうのため おれたち がんばる」

 

 リーダーを任された男はやる気に満ちた返事に満足し、再び仕事が始まる。

 

 

 

 ●

 

 

 

 村の執務室でエンリはルプスレギナから渡された徴税書類に目を通して驚愕に陥っていた。払えない金額だからではない、逆だ。安すぎる。

 

 リ・エスティーゼ王国に統治されていた開拓村時分と同等程度でしかない。もちろんかつてのカルネ村は徴税人を蛇蝎の如く嫌っており、税を納めれば冬には蓄えがなくなり、貧苦による病に倒れたまま亡くなる村民も少なくなかった。

 

 だが今のカルネ村は違う。神殿にも匹敵する――神殿の治癒魔法など凌駕しているがエンリにそんな自覚はない――治癒魔法を扱う施設があり、鍛冶や魔化を施せるドワーフ達も移り住み、暮らしはいい意味で激変した。カルネ村の会議では現在請求されている額の数千・数万倍を覚悟していただけに、嘘ではないかと何度も目を通す。

 

「アインズ様が魔導国という国家を建国されたことで、カルネ村も栄えあるアインズ・ウール・ゴウン魔導国の庇護下となった。当然、納税の義務が発生する。まさか払えないなんてことはないわよね〝村長〟さん?」

 

 いつもの飄々とした口調ではなく、言葉に刃を宿した様子でルプスレギナがエンリに問う。恐らくはエンリが慌てている様子を、逆の意味に捉えているのだろう。

 

「あ、あの!ルプスレギナさん!本当にこの額で間違い無いのですか!?」

 

「アインズ様の御決定に異を唱えるつもり?」

 

 ルプスレギナの声がますます冷たくなる。下等種風情が至高なる御方の御決定に異を唱えるなど、それだけで極刑ものだが、目の前の人間は保護対象と指定されているので、ここで殺すわけにもいかない。

 

「いえ……そんなつもりは毛頭ありません……。」

 

 エンリはルプスレギナから漏れ出る殺気に〝ですが……〟という言葉を飲み込む。

 

「ま、伝えることは以上っす。期日までに耳を揃えて用意しとくっすよ。エンちゃん頑張るっす。」

 

 態度が一変し、いつもの天真爛漫な美女の姿へ戻り、ルプスレギナはそのまま扉を出て気配を消した。同時にゴブリン軍師やカルネ村の内政を手伝っている文官たちが駆け寄ってくる。徴税官がやってくるという事は大抵の村や町にとって、(まつりごと)の存亡に関わる一大事項だ。

 

「エンリ将軍閣下!ゴウン魔導国の使者からは如何程のご請求が!?」

 

「はい、えっと……。」

 

 エンリはゴブリン軍師へ徴税書を見せ、軍師そのまま目を白黒させていた。

 

「この額は……。日額の誤りではないのですか?いえ、書類にそのような記載はされていない。」

 

 ゴブリン軍師は税が安過ぎる事に、何か裏があるのではないかと言う恐怖心と、もし偽りがないとしても偉大なるエンリ将軍閣下の所有物である村をこの程度の税価値としか見ていない、侮られているという怒りを混在させる。

 

「ご、ゴウン様にはゴウン様の御考えがあるのでしょう。兎に角、支払いは麦か同価値の砂金ということなのですが、村民の食料事情は未だ自給自足の領域。食料をゴウン様へ返済することを考えますと、食料品は残しておきたいです。エ・ランテルへ薬草やンフィーのポーションを売りに行き、砂金に変えて納税に当てましょう。」

 

「畏まりました。エンリ将軍閣下のご命令のままに。……食料事情についてですが、ゴウン様より未知の植物の種を数多く賜りましたが、ある程度どの植物がどのような土地・農法で、どう実を付けるか分って参いました。またカルネ村で実を付けた植物の種からも、同じように植物が実る事が分かっております。」

 

「わぁ!素晴らしい事です!」

 

 ゴブリン軍師は微笑みを浮かべる将軍閣下の顔を見ながら釈然としない心情を押し殺す。将軍閣下の夫ンフィーレア然り、ドワーフの工房然り、今回の未知の植物の農法開発然り、どうも主が心酔しているゴウン様とやらは、カルネ村を実験場とみている節がある。

 

 ……いや、確実に実験場として見ているのだろう。偉大なるエンリ将軍閣下の統治する村を実験場とするなど、不敬の極みだが、非力な自分たち程度では配下である謎のメイドにすら敵わない。

 

 何より実験の結果統治を受ける村民たちの暮らしは良くなる一方なのだから、反逆する気にもならない。……もし、次に行われる〝実験〟がエンリ将軍閣下に仇成す存在であった場合、自分たちはどうすればいか。

 

 偉大なる主は自分が傷つくことも覚悟で受け入れるだろう。〝感謝と言う鎖〟とは斯くも厄介な代物だ。

 

(あの得体の知れないメイドが居る限り、密談だろうとゴウン様を悪く言う事はリスクが高すぎます。全てがわたくしの杞憂に終わればよいのですが。)

 

 エンリ将軍閣下には権謀術数とは無縁のまま天寿を迎えて欲しい。もしその時が来たならば……。ゴブリン軍師は仄暗い決意を密かに宿した。

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