巨木を大胆に使った城壁とも思えるほど高く聳える外壁、入り口の門までは赤いビロードが敷かれており、村の内部まで続いている。門の前には簡素なドレスを着た少女と、燕尾服に身を包んだ髪の長い少年が居た。カルネ村に到着し、馬車から降りたジルクニフは、一瞬辺りを警戒し、改めて門前で出迎える男女を見る。
(あれが噂に名高い〝エンリ将軍〟?一見すれば祭りで着飾った普通の村娘……、横にいる男は、体つきから戦士ではないな。目が髪で隠れて見えないが、礼服を着こなせていない様子から高い地位に居た人間でもない。)
ジルクニフはバジウッド率いる護衛を先導し、赤いビロードを歩く。少女も少年も緊張からか益々顔が赤くなっているようだ。
「この度は急な訪問の願いを聞き受けていただいたことに感謝を申し上げる。わたしは魔導国属国バハルス帝国皇帝、ジルクニフ・ルーン・ファーロード・エル=ニクスだ。」
「こちらこそ、このような辺鄙な村までご足労いただきありがとうございます。わたくしカルネ村で村長を任されております、エンリ・エモットです。横にいるのがわたくしの夫、ンフィーレアといいます。」
「ご紹介にあずかりました。ンフィーレア・バレアレです。皇帝陛下にお会い出来、光栄に思います。」
(この匂い……そして爪に残る染み、それにある程度の魔法詠唱が行えるな。薬師か?)
「ご丁寧にありがとう。お手紙でもお伝えしたが、この度は我が国とカルネ村で友好関係を築きたくご訪問させていただいた。」
「はい、こちらも友好関係を築けるのでしたらこれ以上の喜びはございません。何も無い村ですが、どうぞ。」
少女……エンリ村長の案内で、帝国の一同はカルネ村へ〝入国〟する。そして村に入った瞬間、ジルクニフは一瞬足が止まった。そこには赤い軍帽と制服を着こなした太鼓やラッパ、弦楽器を持つゴブリンが三段の列に並び、後ろには同じくゴブリンの重装甲歩兵団が一糸乱れぬ整列をしている。
そして、大地を轟かせるような重低音が響き渡った。ジルクニフはそれがバハルス帝国の国歌であると認識するのに、一拍ほどの時間が掛かった。それは皇廷で奏でられる典雅な音楽ではなく、戦場に轟く気分の高揚を促す攻撃的とも言える演奏だった。
(ゴブリンの演奏部隊!?いや、見たままを信じろ。常識を疑う余裕はない。……練度も素晴らしい、後ろの歩兵団は威圧目的?違う、歓迎式典に衛兵を並ばせる風習だろう。)
歓迎の式典に武器を持たない衛兵を並ばせる風習がある。歓迎した相手に、敵意を持っていないという意味合いだ。そういう意味では完全武装の衛兵を並ばせるなど、失礼極まりないのだが……
(恐らく聞きかじりの知識で模倣しているという所だろう。)
ビロードの横にバハルス帝国の国旗と、魔導国の国旗を持つゴブリンが交互に並んでいるのを見て、意図的な無礼ではなく、無知によるものとジルクニフは判断する。並ぶ兵士が武器を持っている以外は、開拓村の歓迎とは思えない、立派なものだ。
そしてビロードの先には赤い壇上が作られており、先にジルクニフが壇上へ上り、続いてエンリが壇上へ立って二人で並ぶ。そしてローブを纏ったゴブリンが一礼して現れ、羊皮紙に魔法を宿し、エンリに手渡した。
「友好の証しとして、受け取っていただければ幸いです。」
そこに模写されているのは、並ぶエンリとジルクニフ。後ろにはバハルス帝国の国旗と魔導国の国旗だ。……ジルクニフは思わず絶句しながらも、悟られぬよう笑みを絶やさず受け取る。
(紙の質は第2位階魔法……、そして一瞬の模写。ゴブリンの
「素敵な品に感謝を申し上げる。貴国……失礼、貴村は素晴らしい
あまりキョロキョロとしても失礼だと、ジルクニフはエンリを見据える。
「もったいないお言葉です。」
「さて、こちらも貰ってばかりでは申し訳がない。……こちらの品を。」
ジルクニフが準備してきた贈り物は、第4位階の魔法を宿した青い鉢。水を入れて一晩置けばポーションに変化するというマジック・アイテムだ。
相手がどんな人物か事前に知っていたら相手の意や来歴を汲んだ贈り物を準備するが、何しろカルネ村にくるまでジルクニフはエンリが人間であるかさえ確証出来なかったのだ。よって、贈り物としては至ってオーソドックスな、それでいて最上級の品を与えた。
「素敵な品をありがとうございます。」
(全く驚きがない。魔法に無知なのではない、このレベルのマジック・アイテムなど見慣れた品なのだ。)
ジルクニフは周りの反応も確認しつつ、そう結論づける。実際、あれ程緊張していた夫だという少年も、帝国では国宝クラスの品に全く動じている気配はない。その後、ジルクニフは村の歓迎、精一杯の品であろうジルクニフにすれば見劣りする昼餐を食べ、改めてカルネ村を案内される。
それは、驚愕の一言だった。機密上見せられないという施設も多かったが、帝国国旗を振って歓迎してくれる人間やゴブリン、オーガ、ドワーフの姿を見るだけでもその大まかな暮らしが見て取れる。
(治癒の
その兵力もそうだが、何よりも驚きなのは、そんなゴブリンの他にもオーガやドワーフが居り……人間と仲良く暮らしているという信じがたい光景だ。ジルクニフは確信出来た。この村を相手に戦争した場合、魔導王が味方につこうが付くまいが、帝国は崩壊する。改めて友誼を結ぶことが出来たことを幸運に思った。
「じ、実に素晴らしい村だ。我が国もこれから亜人やアンデッドを魔導王陛下より受け入れるに当たって、大きな問題が出ることが懸念されていた。しかしこの村を見ると、人間と多種族は共存が可能であると実感させられる。」
ジルクニフの脳裏にふと、クアゴアの王リユロの姿が浮かんで消えた。属国調印の儀式にあたり、控え室で会話が盛り上がった仲だ。今度彼とは会食を予定している。亜人にも良い者は居るかもしれない。
そして閉式を終え、再びゴブリン音楽隊による帝国国歌が響く中、ジルクニフ達はエンリへ一礼し、感謝を述べ、馬車へと戻った。
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「あれは……〝村〟ではない。ひとつの国家だ。」
帰路の馬車で、ジルクニフの呟きに皆重々しく頷く。第一王子バルブロは行方不明となっているが、帝国との戦争……あの大虐殺の前に、カルネ村を最後に訪れたとすればある程度推測ができる。
「王国の第一王子バルブロだが、間違い無く死んでいるだろう。恐らくは、あの村の兵力を侮り、王族の威光で門をこじ開けたか……。あの愚者だ、戦争時にカルネ村の住人を人質にして魔導王の前に立たせる作戦でも浮かんだのかもしれないな。そして見事に返り討ちとなったのだろう。」
「ああ、あの馬鹿王子ならやりかねねぇ。〝死体はどこですか?〟って聞けばよかったじゃねぇですか。」
「今のわたしはリ・エスティーゼ王国への手札など持っていても邪魔なだけだ。さて、バジウッド、あの13体居た異様な凶相のゴブリンだが……」
「間違い無く死ぬね。俺とレイナース、ニンブルの3人でやっと1体を数秒足止めできるかどうかだ。」
ジルクニフは予想通りの答えに、軽く鼻を鳴らす。
「カルネ村に特定の宗教は無し、あえていうならば、魔導王陛下に多大な恩義を感じている。そして亜人種と本格的な共存を成功させている村だ。そして為政者だが、エンリ将軍……彼女そのものからは突出した才を感じない。だが、ゴブリンたちや村人の、彼女に対する信頼と忠誠は絶対的だ。軍師を名乗るゴブリンを抱えており、彼は頭が回る。ならば、我が国は属国として魔導王陛下への忠誠を確かなものとし、亜人への融和を進めていく限り、カルネ村が脅威になることはないだろう。亜人種への奴隷制度の撤廃など、改革を急がなければならないな。」
「陛下もお優しくなったもんだ。」
「帝国のためならば天使にでも悪魔にでもなってやろう。」
「……あの謎の施設ですが、何をしていると思います?」
「1つは薬品の作製と研究。もうひとつはドワーフの鍛冶職人による新たな武具の……いや、止めておこう、これ以上あの村を考察してもしかたがない。あの国家に匹敵する村と友好関係を結べた。今回の目的は達成されたんだ。」
「それもそうですね。いやはや、魔導王陛下の国では村まで普通じゃねぇとは。」
「……亜人との融和か。悪くないかもしれないな。」
ジルクニフが生涯で初となる真なる大親友を得るのは、この10日後の話。
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「もういや……」
「あはは、お疲れエンリ。」
礼服から普段着に着替え終え、見よう見まねの聞きかじり歓迎式典の会場も撤去された夜。ぐったりと机に突っ伏すエンリへンフィーレアが労いの言葉をかける。
「もう!一国の皇帝がただの村に来る!?嫌がらせ!?」
「まぁ、僕が言うのもなんだけれど……ただの村ではないと思うよ。」
「もーーー!贈り物貰ったのにこっちから渡せるものなんてないし、食事だって絶対にお世辞よ!貴族様や王族の作法なんて分かるわけないじゃない!」
「まぁあくまでも村だし……。エンリは頑張ったよ。」
「もう、疲れた。……ん!」
「ちょ!?エンリ!」
二人の唇が重なり、ンフィーレアはベッドに押し倒される。
「……今のわたし、すごーくイライラしてるから。」
「いえ、エンリ。」
エンリはンフィーの服を容赦無く剥いでいく。そして……
そしての後ですか?R-15より3つほど上になってしまうので書けないです。書いてるけれど。