我らエンリ将軍閣下が配下!   作:セパさん

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将軍閣下の徒労

「あの……軍師さん?これは?」

 

 エンリ将軍は、村に造られた【族長執務室】で、見本として持ってこられた品に困惑していた。

 

「はい、エンリ将軍閣下。以前より議論されていた、カルネ村通貨の試作品に御座います。本来は当村の恩人であるゴウン様のお名前と御尊顔を刻むべきなのでしょうが、ルプスレギナ・ベータ殿より確認を取って頂きましたところ、ゴウン様は当村のような寒村通貨に、名を刻まれるのを望まれなかったご様子で、この様になりました。」

 

 そこにはエンリの横顔が刻まれた金の縁がついた鉄製の硬貨、ポーションの瓶が刻まれた銀縁の付いた硬貨、カルネ村の名産だった薬草が刻まれた銅貨の3枚が並んでいる。まず間違いなくドワーフの鍛冶職人達の作品だろう。

 

 以前行商人に支払うためカルネ村にもいくつか有していた、リ・エスティーゼ王国通貨のようにぐにゃぐにゃなモノではない。芸術的なほど綺麗な円形であり、縦して弾けば真っ直ぐ机を転がっていくほど精緻な代物だ。

 

「仮に1000カルネ、100カルネ、10カルネと致しましょうか。この村も既に大所帯、今までのように配給制や物々交換では様々な弊害が出ております。」

 

 カルネ村は現在、数年前まで冬になれば餓死に怯えていたとは思えない繁栄を遂げている。ゴウン様へお返しするため自給自足に乗り出した作物畑は麦だけでなく、様々な野菜や果物まで栽培出来、最初はオーガの食料として買い始めた豚も、立派な厩舎に数百匹と飼育され、村人の口に入るまでに供給が増えた。

 

 開拓村時代のカルネ村では基本、畑を耕すか薬草の採取・臼挽きの仕事を振り分けられ、食糧は村長が各自村人へ配給していくのが普通。しかしカルネ村が繁栄し、領土の拡大、種族や仕事・扱う品が増えていくにつれ、族長による村人への食糧配布や物々交換制度では無理が出てきたのだ。

 

「基準としては、麦100束を1000カルネと考えております。百束の麦は現在ですと、豚肉では約1kg分、芋では二箱、黒々草茶では3年分、ジャスミン茶では2ヶ月分、簡素な服だと10着、高価な服では1着、家具や家庭用品は物によりますが、300束の麦を背負って交換することもあるようです。」

 

「そうですか……。確かに物々交換のために大きな麦束を背負ったり、本来食べられるものを無理に保管して悪くしてしまうのは防げますね。ですが、村の皆様は通貨なんて使ったことがありません、果たして浸透するでしょうか。」

 

 元々は冒険者をしていたブリタや都会にいた夫のンフィー、エ・ランテルからの移住者、通貨の概念があったドワーフ達は別として、カルネ村は元々開拓民だった人間、召喚されたゴブリン、数年前の事件で焼かれ廃れた村から移住してきた者が大多数を占めている。オーガに至っては多分その辺の石と区別が付かないだろう。

 

「通貨とは〝信用〟です。この村を治めたるエンリ将軍閣下が、その名の下に価値を保証すれば問題は御座いません。住民から不安の声があるようでしたら〝族長の館へ1000カルネを持ってくれば、麦100束と交換します〟と公布すれば、不安も払拭出来るでしょう。」

 

 エンリは理解許容範囲をとっくに逸脱した話に、机へ突っ伏したくなる。だがその気持ちを何とか顔を引き攣らせ、我慢した。何故文字も碌に読めない村娘がいきなりこんな偉くなり、やったこともない仕事ばかりしないといけないのか……。

 

 ……そして結局通貨計画だが、カルネ村を占める多くのゴブリンが〝エンリ将軍閣下へ忠誠を捧げる事こそ我らが使命。お金など受け取れません。〟と固辞されたため、計画は延期となり、毎月エンリに襲い掛かる食糧や家具配給の負担は一向に減らなかった。

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