欲望の赴くまま、己を解放せよ 作:カレーパン
ある街の地下。
「はい、メンゲレ!新鮮な人間だよ」
「君が犯してるから新鮮ではないのでは」
茶々を入れたジャックに対して蹴りを軽く入れながらハイルブロンは黒い袋から片腕と片足がらない女を出す。気絶していて、意識はないようだ。
その女の状態を見て、メンゲレと呼ばれた男──"死の天使メンゲレ"はため息をついた。
「駄目じゃあないか、貴重な研究材料に傷を付けては。だからハイルブロンに頼むのは嫌だったんだ。ジャァァァァック! しっかりと見張っていたんじゃないのかァ!?」
「見張っていても言うこと聞かないのだよ、ハイルブロンは割と股間で物事を考えるからね……。寧ろなんとか生きて持ってきたことに感謝して欲しいのだが」
ジャックのその点に関してはどうしようもないというという態度にメンゲレは頭を抱えて嘆く。
「どうしてこんなのばかりが同僚なんだ……ああ、クソどもめ、クソどもめが!! 全て奴らのせいだァ!」
メンゲレは突然頭を掻き毟り叫びだした。ハイルブロンとジャックはいつもの発作と言わんばかりにスルーして研究室を後にする。
研究室を後にして報告の為にある部屋に向かう必要があったためにメンゲレのいつもの発作に構っている暇はないのだ。というかメンゲレ程度の変態なら本当に優しい方なので感覚が麻痺しているとも言える。
そして目的の部屋に入ると片眼鏡をかけた青年と、ぽやぽやとしている高校生くらいの少女がいた。入ってきた二人に対して二人にニコニコと手を振ってきた"暗殺の天使コルデー"に対してジャックは軽く会釈を返し、片眼鏡の青年の方を向く。
「やあ、そろそろ来ると思っていたぞ、ジャックにハイルブロン」
「はい、ただ今帰りました"教授"。ボクたちが今日確保した人間で今回の採集は終了でよろしいですか?」
「ああ終了でいい。これだけあればメンゲレの研究も進むだろう。君たち二人とも一週間お疲れ様、次の集会までゆっくり休みたまえ。集会以外に何かあったら"コルデー"を通して連絡するとも」
「了解です。では」
普段の様子からは考えられないほど真面目に返すハイルブロンにジャックは相変わらず笑いそうになるが堪えていた。我らが敬愛する"教授"の前だからハイルブロンもまともになるのも当たり前だが、やはり普段とのギャップが酷すぎる。
この組織に所属する者全員が、"教授"を名乗るこの青年に集められたのだ。元傭兵や、処刑人、家具屋……様々な人間がこの組織には所属している。職業も国もバラバラな人間たちが教授のカリスマ性に惹かれて集まった。ハイルブロンでさえ教授の前では大人しくなるのも道理というわけだ。
退出した二人を待っていたのは"キングズベリー・ランの屠殺者"という名を与えられた少女だった。少女はジャックとハイルブロンを見ると無邪気に走り寄ってくる。血塗れの格好で、誰かの腕を片手に持って。
「あ、ジャックとハイルブロンだ!任務終わったの?」
「やあキングズベリー。任務はついさっき終わった所だとも」
任務が終わったという話を聞いて、キングズベリーの顔がぱあっと明るくなる。
「じゃあ一緒に遊ぼう! ハイルブロンもジャックも!」
「ボクは構わないよ〜、暇だし。ジャックはどうする? 」
「ふぅむ、ゆっくり寝ようかと思っていたが……まあいいか。私も同行しよう」
やったー!!と誰かの腕を持ってはしゃぐキングズベリー。ジャックはその様子を微笑ましそうに見た。
「いやはや、子供が楽しそうなのは良いことだよ」
*死の天使*
ヨーゼフ・メンゲレは、ドイツの医師、ナチス親衛隊将校で親衛隊大尉。第二次世界大戦中にアウシュヴィッツで勤務し、"死の天使"と渾名された。収容所の囚人を用いて人体実験を繰り返し行い、実験の対象者やただちにガス室へ送るべき者を選別する際にはSSの制服と白手袋を着用し、クラシック音楽の指揮者さながらに作業にあたったと伝えられ、メンゲレの姿を見た人々からは恐れられた。
*暗殺の天使*
シャルロット・コルデーは、フランス革命において、ジロンド派を擁護し、ジャン=ポール・マラーを暗殺した女性である。後世、その美貌から、"暗殺の天使"と呼ばれた。最後は断頭台へと消えたが、その途上の彼女の儚さに恋した男性も多かったという。
*キングズベリー・ランの屠殺者*
アメリカ合衆国オハイオ州のクリーブランドで1930年代に犯行を重ねた正体不明の連続殺人犯。「キングズベリー・ラン」とは最初の犠牲者が発見された地のこと。"クリーブランド胴体殺人者"による犠牲者は全て斬首されており、しばしば四肢が切りとられているものや胴が半分に切断されている異常なものであった。