素直になれない私のロマンス   作:huuuuuuum

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開戦前

「……なあ、雪ノ下? 」

 

「……」

 

「……雪乃。」

 

「何かしら? 八幡。」

 

あれから少しして、俺たちはまだお互いの体温を感じていた。

いやいや、ちゃんと服越しでだぞ。そんな付き合ってから直ぐに致してしまうなんて節操のない事はしない。

 

……いや、しないよ? 理性の化け物舐めんな、俺は十分に冷静だし落ち着いている。いくら近くにいる雪乃の柔らかい感触だとか、気持ちが通じ合った後の高揚感だとか、いい匂いだとか、見たことのない雪乃のポワポワした雰囲気だとか、握られた手の感触だとか後諸々があっても……そんな物が俺の理性を攻撃していたとしてもな。ああ、大丈夫だ。まだ慌てるような時間じゃない。

 

「ねえ、八幡。話しかけてきたのはあなただと思うのだけれど? あなたまさか耳も腐っていたの? 」

 

「そんな心の底からにこやかに罵倒するのやめてね。……ただな、名前呼びがまだ慣れないだけだから……慣れるために、少し言ってみたってだけだ。」

 

「あっ……そう……。そうなのね、、、うふふっ。でも、私は恥ずかしくないわよ? むしろ幸せなの ……八幡。」

 

 

今の、ベッドの上でのたうちまわりたくなる俺たちの会話を聞いて貰えば分かる通り、先程雪ノ……雪乃による提案で、俺たちは今後お互いの事を名前で呼ぶ事になった。

まあ、でも俺が最初に雪ノ……雪乃に話しかけた理由っていうのは、名前を呼ぶ練習なんてボッチがベッドの上で阿鼻叫喚する事必至な、『お前の名前をただ言ってみただけ』なんて理由ではなくて、雪乃が俺の事を膝枕している(させている)ことに起因する。

 

まあ、なんかもうどうでもよくなったから膝枕については聞くのやめたけどな。

こんな幸せオーラを撒き散らしてる、俺が今まで見てきた中で一番の可愛い顔(雪乃の今の顔)を見たら、そんな細かいことはどうでもよくなったから。

 

 

 

 

 

 

「……ねえ。どうしたの? そんなに顔を赤くして。上からだとよくあなたの顔が見えるから、とってもよく分かるわよ? 」

 

「それは、雪乃には言われたくないな」

 

「そう。なら、私も顔が赤い? 」

 

「ああ、白い肌だからよく分かる。……だから顔が赤いのは、お互い様だろ? 」

 

「……じゃあ、このドキドキも、お互い様かしら? 」

 

「……ああ。そうだな。」

 

 

 

 

そこまで会話を続けて、嬉しそうに目を細めた雪乃がまた顔を近づけてきた。近づいてくる目の前の彼女(雪乃)の顔を見て、『やっぱ、俺の彼女メチャクチャ可愛いな』なんて浮ついた思考に支配される。サボンのいい香りに包まれながら、そのまま、今日何度目かのキスの為に、彼女(雪乃)をうけいれるために目を閉じたその瞬間。

 

 

「雪乃ちゃんっ! 一昨日は大丈夫って言ってたけど本当に大丈……夫……あ、、あっちゃ〜、、、なんか、、、ごめんね〜? 」

 

 

唐突に勢いよくドアを開けて、目の前の状況に唖然呆然としてから割りと直ぐに気まずそうにドアを閉めた魔王の方に顔を向けながら、さっきとは別の理由でプルプルと震える彼女(雪乃)を見て、あまりの愛おしさに思わず頰が緩んだのは秘密にしておこう。

 

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あれから雪乃は紅茶を淹れてくると言って部屋から足早に出て行った。よっぽど恥ずかしかったのだろう。流石に顔が赤くなりすぎて哀れに思ってしまうほどでした。そんな訳で、この部屋には俺と雪ノ下さんだけになっていた。

 

 

「あ〜〜、なんかごめんね? 雪乃ちゃんとの甘いひとときを邪魔しちゃって」

 

「んまあ、別にしょうがないんじゃないですか? いやでも雪乃の家に勝手に入ってくるのは止めてやってもいいんじゃないですかね? 流石に。」

 

「じゃあ、比企谷君はもし小町ちゃんが一人暮らしをしていて、なんだか様子が変だったり危なっかしかったりしても指を咥えて放っておけるって言うの? 」

 

「いえ、雪ノ下さんは正しいと思います。どんどんやっちゃってください。」

 

いや、どんどんやるって何をだよ。俺。

ただ確かに小町が一人暮らししてどこか異変があったら……鍵を複製するくらいするな。うん。むしろしない訳がないだろうしそれと雪ノ下さんの口調が段々とマジになっていくのが怖かった。……つくづく、千葉のシスコンって本当全47都道府県の中で一番愛が重いと思うのは俺だけだろうか。

 

「まあ、雪乃が本気で嫌がらない程度に……ほどほどにしてください」

 

「……比企谷君っ! 今、いやさっきから考えてみたら雪乃ちゃんのこと雪乃って……!! 」

 

両手で口を押さえた雪ノ下さんが目をキラキラさせて俺の方を見ていきている。

この人が目をキラキラさせる時って大体面倒なことを起こす前触れだからいつも警戒するんだが、なぜだか今の魔王からはそう言う邪気が感じられないので、ただ普通に雪乃呼びを恥ずかしがるだけで済んだ。

 

……大丈夫だよね? この魔王何も企んでなんてないよな?

 

「ねえ、なんとか言いなよ比企谷君!! 」

 

「っ……脇腹グリグリしないでください雪ノ下さん。あいつとさっきお互いを名前で呼ぶって約束したんで……まあ、まだ気恥ずかしくて慣れないですけど」

 

「え嘘まさかさっきってことはさっき付き合い始めたとか!? ねえねえねえねえお義姉さんに包み隠さず全部言っちゃえよほらほら恥ずかしがらないでさあっ! さあ! 」

 

「今お姉さんがお姉さんでなかった気がするんですけど気が早すぎませんか……? 」

 

「あら、八幡は嫌なの? 私が義理の姉になるのは」

 

そう言って、雪ノ下さんは俺に近づいてきた。ちょっと、顔が近いんですけど……あんた魔王とはいえ怖いくらい美人なんだから自重しろよ。妹の彼氏だぞ? いや、つーか何どさくさに紛れて俺の名前呼んでんの近い近いってっ! 近いから!

 

「すみません。雪乃に悪いんで、もうちょっと離れてくれませんか? 」

 

「……うん。」

 

迫り来る雪ノ下さんが止まった。かと思うと、真面目な顔を作って……いきなりの表情の変化に対応が追いつかないでいると、その状態のまま俺に語り掛けてきた。

 

「八幡。雪乃ちゃんを宜しくね? 」

 

近くにいる雪ノ下さんの声には、もうさっきまでのふざけた色はなくて、どこか寂しげな感情でさえ見て取れた。

ただ何れにしても、こんな質問に対して俺が言うことは決まっている。

 

「はい。任せてください。」

 

その言葉を聞いて満足したのか、顔の筋肉を緩めてまた雪ノ下さんは違う質問を俺にぶつけてきた。

 

「じゃあ、お義姉さんのことは名前で呼んでみなよ。 あ、もちろんさん付けでさ」

 

「いや、なんでですかね? 別にそんなことする必要は……」

 

「お願い。八幡。……今だけだから。……大丈夫。一回だけで、しかも今後家族になる関係だよ? 八幡は小町ちゃんのこと名前で呼ぶでしょ? 雪乃ちゃんに不義理になることなんかないし、もしそんな事八幡がやろうものなら私が八幡の事殺しかねないのは分かると思うし、それとも、八幡は私の事名前で呼んだだけで心変わりしちゃうくらいな簡単な子なの? 」

 

……お願いその笑顔やめてっ! 般若が透けて見えるから! めっちゃ楽しんで俺をいじってるように見えるのに、俺が浮気した場合の処遇の時だけすごい顔になるのやめてっ!

 

まあ、確かに将来的に家族になるんだからな……なら、別に悪い事ではないのか。さんづけ強要されてる訳だし

 

「陽乃さん。」

 

「っ……」

 

俺がそう言った後、陽乃さんは顔を一気に下に向けてしまった。何なのか全く分からないでいるとその後、俺の顔を雪乃の部屋の床に押し付けてくる。

 

「うぶっ……なぁにすぅんですぅか」

 

床に押し付けられているため上手く話せないが……何せ力が凄いのだ。無理矢理起き上がることも出来なくはないのだろうが……それをやるとなんだか後が怖い気がする。そんな風に考えていると、陽乃さんの声が聞こえた。

 

「……”比企谷君”。雪乃ちゃんを頼んだよ。……それと……ありがと。」

 

それだけ言って、陽乃さんは一気に走って部屋から出て行ったのだろう。起き上がると、開かれたままのドアが目に入るだけで、陽乃さんの姿はもう見えなかった。

 

ただ何故か……俺が床に伏していたその少し横、ちょうど陽乃さんがいたところには、何滴か小さい雫が落ちていたのだけを確認することができた。

 

 

 

「八幡……」

 

「雪乃……雪ノ下さんなら今……」

 

「いえ、大丈夫よ。……全て、何となく分かった気がするから……姉さんなら大丈夫だから。今は紅茶、二人で飲みましょう? 」

 

「あ……ああ。なあ、あれって」

 

そこまで言って、雪乃が鋭い視線を俺に向けてくる。

その目は間違いなく

 

(これ以上深追いするな)

 

と語っていた。

 

 

 

「比企谷君、明日、大丈夫かしら? 今回の件に関わりがある人たちに、私たちの思いを言いたいの。」

 

「……まあ、早い方がいいか。分かった、とりあえずメールしとく」

 

「あ、そうだ。……八幡。明日お母様は家にいらっしゃるのかしら? 」

 

「ああ……出張帰りだからまあ、明日までは休みらしい」

 

「なら、明日、全員に話す前に、お母様に会わせてくれない? 」

 

「ああ、まあ、、、いいけど、、、」

 

いいけどさ、何でそんな好戦的な目をしてんだよ雪乃。長い黒髪がウネウネしてる気がするんだけど……。

 

 

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いきなりのメール申し訳ない。

比企谷八幡だ。全員のメールアドレスは小町から聞かせてもらった。

 

唐突で悪いんだが、全員明日、日曜日の12時に俺の家に来てくれないか?

 

お前たちに、どうしても話したい事がある。

 

もし都合が付かなかったりしたら、俺でも小町にでもその旨の連絡が欲しい。

 

勝手かもしれないが……とにかく、全員に話したいことがある。

 

だから……頼む。お前たちに来て欲しい。

 

 

 

 

 

 

 

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「留美〜、ご飯よ〜!早く来なさ〜い 」

 

お母さんが下から私を呼ぶ声が聞こえる。

今日はハンバーグらしい。結構好物だから、いつもの私だったらまるで子供のように小走りをしながら階段を下っていったかもしれない。

でも、今日は……今は、とてもそんな気分にはなれなかった。

 

きっかけは、さっき私の携帯に届いた、知らないアドレスから来たメール。

でも誰が寄越してきたのかはすぐに分かって、私は見知らぬアドレスからのメールに対して警戒どころか、差出人だけを見たら思わず両の頰がだらしなく緩んでしまったほどだった。

 

ただ、問題はそのメールの内容で……

 

 

「八幡……決めるの早いよ。ハァ……私も、小学生じゃなくて高校生だったらなあ……なんでもっと早くに生まれなかったんだろう……。」

 

あまり女の子っぽくない嗜好をしている私から見ても、かなりそっけない文章。

でも、このそっけなさの中に一体どれほどの感情が含まれているのかが分かってしまった。

どうしてかと言われても確実な事は言えないけど……敢えて言うと女の勘ってやつだと思う。

 

……言い換えると、とっても、嫌な感じがした。

 

最初は、八幡からせっかくきたメールで頰はだらしなく力をなくし、思わず夕飯に向かおうと立っていた足が代わりにベッドにダイブ。

柄にもなく小さく奇声が口から漏れたり、ベッドの上で体をくねらせたり……変なことしてたと思うけど……。

 

メールの本文には、そんな私を凍らせる力があった。

 

 

ねえ? 知ってるのかな? 私、八幡のこと男の人として、好きなんだよ?

まあ、知るわけないよね……。

本当に、生まれて初めて、この人とだったら楽しいのかなって……男の人にそう思えた人なんだよ?

もっと、もっと、もっともっともっと……一緒にいて、一緒に楽しいことして……私、まだまだやりたい事、何もできてないよ……八幡。

 

前、モールでいろはさんから『私は……せんぱいとは何もないよ? 』って小さな声で言われた事を覚えてる。

あの時のいろはさんはその少し前まではあんなに鬼の様な怖さだったのに、変わって強さみたいなものを感じたのを覚えている。でも、それと同時に、嘘みたいに悲しげで……なんだか今にも泣きそうに写ったのは……私の思い違いじゃないはず。

だって……いろはさんが時折気にしていた方向には、千葉村の時の八幡と一緒にいた二人の女子高生が確かにいた。

お団子頭の方じゃなくて、綺麗な黒髪の人に視線を向けた時……いろはさんはそんな悲しそうな顔をしたんだ。

 

それだけで、分かってしまった。

知りたくもなかったけど、べつにそうハッキリと言われたわけじゃないけど……あ〜あ、こういう時女の勘ってやだなぁ

 

 

八幡は今、何を考えてるの?

 

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「あ〜あ、決めちゃったんだ。これ」

 

私は、比企谷の事が好きらしい。

愛してるって言われた時が……決め手だったのかな? どうなんだろう。あんまりよく分からないけど。

 

確かに、私は何もしてこなかった。あいつの力に、もっとなれることもあったのかもしれないのに、私はあいつに深く関わろうとしてこなかった。だからまあ……頭では理解できる。だって、比企谷に深く関わろうとしてきたのは、あの三人で……いつも一緒にいたのは、あの二人で、もっとお互いで繋がりあっていたのは……やっぱりあいつで。

 

私は、、あいつに助けてもらってから、何も返せていないと思う。だから……いるだけであいつの助けになっている彼女には、確かに叶いようもないのだって頭ではわかってる。私以外はみんな、告白だってしてるみたいだし……それに比べたら私なんて相手なすらなってない。

だから、こうなるのは、当たり前だった。頭では理解できてしまう。

 

 

でも、でもさ……心の方では、、、やっぱり納得なんて出来ないよ。比企谷……。

 

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「……やっぱり、こうなっちゃうんだよなぁ……。」

 

せんぱい。せんぱいは、私の事、ちゃんと見てくれた上での結論なの? ……それだけは、聞かせて?

 

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「」

 

 

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「ねえ、八幡。もう、メール、送ったのよね? 」

 

「ああ、もう、後戻りはできない」

 

俺と雪乃は、握っている手の力をお互いに強めて、目に強い光を宿していた。

 

 

明日の、来るべき戦いに備えて。

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