アンペルのアトリエ ~ホグワーツの錬金術師~   作:志生野柱

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 アンリラこそ至高。旅路書こうかなと思ったがそっちは本家がやってくれるという期待と信仰を持ってクロスオーバーにしました。

 感想・評価・指摘・誤字報告等いつもお世話になっております。本作でもよろしくお願い致します。

 


賢者の石
1 プロローグ


 アンペル・フォルマー。

 

 その教師には噂が絶えなかった。

 曰く、彼は世界で三人目の『賢者の石』の製造に成功した錬金術師である。

 曰く、彼の使う魔法は既存のどの国の魔法体系にも当てはまらないオリジナルである。

 曰く、彼は死者の蘇生すら可能なエリキシル薬剤を作ることが出来る。

 

 曰く、彼は────異世界人である。

 

 

 ◇

 

 

 「フォルマー先生、どうじゃった?」

 

 ダンブルドアは校長室に入ってきたアンペルを見るなりそう言った。

 杖を振るまでもなく、指を微かに動かすだけでティーセットが動き、ソファーと共に並ぶローテーブルに湯気の立つカップを準備した。

 アンペルは内心で便利な魔法だと感心しつつ、クロークの内側に手を入れた。

 

 「紛れもなく本物の賢者の石です。品質は200そこそこ、付与特性なし。率直に言えば駄作もいいところですが、『賢者の石』として最低限の効果は持っています。命の水くらいなら、問題なく製造可能でしょう。」

 「これは手厳しい。わしとニコラスで作った中では最高傑作だったんじゃが。」

 「・・・『賢者の石』としての役割は果たせるでしょう。ですがそこ止まりです。」

 

 アンペルが気まずそうな顔になったのを見て、ダンブルドアは微笑で流して話を進めることにした。

 

 「さすがは、フォルマー先生じゃ。そこでお願いがあるんじゃが・・・」

 「分かっていますよ。ヴォルデモート卿からの防衛、そのギミックの制作ですね?」

 

 ダンブルドアは真剣な顔になると、ゆっくりと頷いて肯定した。

 

 「フォルマー先生にはディザイアス女史も付いておることじゃし、相手がヴォルデモートだろうと死喰い人じゃろうと遅れは取らんと信じておる。ニコラスもそうじゃ。しかし、その賢者の石そのものを狙われてはどうにもできん。」

 「私や校長が肌身離さず持っていればよろしいのでは? セブルスやマクゴナガル先生でも、死に体のヴォルデモート卿になら勝てそうなものです。」

 

 アンペルが言うと、ダンブルドアは今度は首を横に振った。

 

 「万が一奪われ、全盛期の力をあやつが取り戻してしまえば、いかにセブルスやミネルバが強力な魔法使いといえど時間稼ぎが精々じゃろう。」

 「・・・分かりました。では、早急に取り掛かります。」

 「ありがとう、フォルマー先生。・・・では、おやすみ。」

 「おやすみなさい、ダンブルドア校長。」

 

 

 

 自室に戻ったアンペルを出迎えたのは、不機嫌そうな顔のリラだった。

 ぴこぴこと微かに動く耳と寄せられた眉根が、何より目が、音を発することなく「不機嫌だ」と主張していた。

 

 「・・・いつまで怒っているんだ。やってしまったものは仕方ないだろう。」

 「そうだな。だからそれについては何も言っていない。」

 「なら何に怒ってるんだ、リラ。」

 「今後、私たちがしなくちゃいけないことについてだ。賢者の石の防衛だと? 一体お前は」

 「賢者の石が()()()()()()()()()()()、だろう? ・・・まぁ、100では足りんだろうな。」

 

 アンペルは古式秘具の『複製釜』や中間素材の『赤の輝石』を利用して、既に100以上の賢者の石を製造・所有していた。

 そんなに持って何をするのかと言われれば、アンペルは単純に「錬金術」と答えるだろう。

 

 多くの錬金術師にとって、『賢者の石』は最終目的地だ。物質変換能力という特級の効果をもつ賢者の石を作ることで満足する。

 だがアンペルは違った。

 アンペルにとって、賢者の石はあくまで『中間素材』なのだ。それは中和剤にもなるし、宝石にもなるし、エリキシルにもなる。しかも火・氷・雷・風の四属性すべてを兼ね備えた最高の()()

 それを利用し、新たな素材を、新たな道具を錬成する。それがアンペルのやり方、アンペルの『賢者の石』の利用法だ。物質変換能力を使うことと、物質変換能力を利用することの差は大きい。

 

 そんなわけで大量生産した賢者の石──しかも品質999を前提に、多種多様な強力な付与効果を持たせてある──が、アンペルのトランクに詰め込まれているのだった。

 

 「必要なものを必要な時に必要なだけ作る。旅をする上で学んだだろう?」

 「・・・あぁ、あの時はキツかったな。だが、今はこうして拠点を持っているだろう?」

 

 そういう問題ではない、と嘆息するリラを横目に、アンペルは右手に着けていた金属の枠を取り外した。

 二度、三度と腕を振り、手を開閉して調子を確かめていると、リラが心配そうに近づいて来た。

 

 「痛むか? やはり、もっと高品質な補助義手に変えた方がいい。」

 「いや、戦闘でもしない限り、このままで大丈夫だろう。ライザのセンスには本当に驚かされる・・・杖の性能と釣り合ってないだけだ。」

 

 アンペルの言う「杖」は、魔法界で言う一般的な『杖』とはかなり違っている。魔法族が使う杖は汎用性に優れているのに対して、アンペルの杖は戦闘特化・・・つまり、出力制限が甘い。魔力や余波で、義手や古傷に負担がかかっているのだろう。

 

 「素材はあるんだ、無理はしない方がいい。」

 「大丈夫だと言ってるだろう。・・・もう遅い、部屋に戻れ。」

 

 アンペルがそう言うと、リラは呆れたように溜息をついて、アンペルの寝室の隣、彼女の寝室へと消えていった。

 

 「さて・・・防衛用のギミック、だったか。」

 

 入学式を控えた夏の終わり。

 アンペルは大仕事の予感に嘆息し、大きく伸びをした。

 

 


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