アンペルのアトリエ ~ホグワーツの錬金術師~   作:志生野柱

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11 ニコラス・フラメル

 十二月に入り、城の外が雪に染まり始めた。

 寒がりのアンペルはほぼ確実に暖炉の前に陣取り、リラも大抵は暖炉前の安楽椅子かソファーに居ることが多くなった。

 未だ休講で、アンペルは特にすることもない。暇潰しにリラから貰った義手を磨いたり眺めたりすることはあるが、それを暖炉前でリラに見られて以来、寝室ですることにしている。今は暖炉の前で安楽椅子に掛け、微睡みに沈んでいた。

 

 昼下がり、昼食も終えて眠気がピークを迎えたころ、扉をノックする音で微睡みは破られた。

 少し不機嫌になりながら、向かいのソファで舟を漕いでいたリラに上着を掛けてドアに向かう。

 

 「・・・こんにちは、フォルマー先生。少し、お時間よろしいですか?」

 「ミス・グレンジャー、と、ミスター・ウィーズリーにミスター・ポッター? どうした?」

 

 トロールの一件で懐かれたようで、アンペルはこの三人と会話することはよく──とまでは行かないが、普通にあった。だが、こうして部屋まで押し掛けてきたのは初めてだ。近くに例の部屋と『イバラの抱擁』があり、かつこの三人が前科アリということもあり、少し身構える。チラリと例の扉に目を向けると、目敏く気付いたハーマイオニーがばつの悪そうな顔をした。

 

 「いえ、あの・・・」

 「ニコラス・フラメルという人を知りませんか? フォルマー先生。」

 

 助け舟を出すように、ロンが訊いた。

 知っているか知らないかで言えば、勿論知っている。『錬金術』の授業で扱う教科書の大半は彼が書いたものだし、つい先日には彼の作った『賢者の石』を検分した。魔法史の授業でも確実に出る名前だし、アンペルの記憶が正しければ蛙チョコのカードにもなっていた。つまり、有名人である。

 

 「ニコラス・フラメルだと? 勿論知っているが?」

 

 これは、あれだろうか。世間知らずだと思われているのだろうか。アンペルがそう思い眉根を寄せると、三人は予想外の反応をした。

 目を輝かせ、満面の笑みを浮かべる。そして叫び、詰め寄ってきた。

 

 「本当ですか!」

 「話を聞かせてください!」

 「どんな些細なことでもいいんです! お願いします!」

 

 アンペルは困惑した。そんなのは聞くまでもなく、図書館に行って司書のマダム・ピンスに「ニコラス・フラメルについて書かれた本を」と頼めば百冊単位で出てくる。それなのにここに来たということは──本に書かれていないようなことが知りたいのだろうか。だが生憎、アンペル自身は彼と面識があるわけではない。むしろ───

 

 「ダンブルドア校長に聞いた方がいいんじゃないか? 私が話せるのは一般に知られていることと、あとは錬金術師としての意見くらいだ。」

 

 アンペルがそう言うと、三人は困惑したように顔を見合わせた。

 

 「あの、フォルマー先生。ニコラス・フラメルは一般には知られていない、とても強力な魔法使いなのでは?」

 「一般には知られていない? 馬鹿な。私が授業で使っている教材は、殆ど彼の著作だぞ。」

 

 アンペルがそう言うと、ハーマイオニーがあっと叫んだ。アンペルは指を立てて「静かに」と示すが、ハーマイオニーは余程興奮しているのか無視した。

 

 「分かったわ! 二人とも、ちょっと待ってて!」

 

 全速力でグリフィンドール寮の方に駆けていくハーマイオニーを、残された三人は呆然と見送る。

 

 「じゃあ僕たちはこれで。ありがとうございました、フォルマー先せ──」

 「逃がすと思うか?」

 「ですよね。」

 

 どさくさに紛れて立ち去ろうとするロンの首根っこを捕らえ、引き戻す。元から逃げ切れるとは思っていなかったのだろう、ロンはすぐに観念したし、ハリーも逃げようとしなかった。

 

 「説明してもらうぞ、何故いきなりニコラス・フラメルについて調べ出したのか。」

 

 アンペルは二人の首根っこを掴んだまま、大広間に向かって歩き出す。ハーマイオニーの「ちょっと待ってて」という言葉は完全に無視した。

 

 

 

 

 「・・・それで?」

 「それで、ハグリッドにあの犬の事を聞いたら、ニコラス・フラメルって名前を漏らしたんだ。」

 

 アンペルは一通りの話を聞き終えたあと、こめかみに手をあてて嘆息した。

 この三人は、間違いなく『賢者の石』のことを探っている。それは途轍もなく危険なことだ。防衛ギミックを組み上げたアンペル自身が、そう断言できる。アンペルの組み上げたギミックは、学生風情が破れるものではない。そう自負できるだけの物を用意した。

 

 「フォルマー先生、ニコラス・フラメルは錬金術に関係した人なんですね?」

 

 先ほどアンペルが言ったことを理解したのか、ハリーが断定的に訊ねた。

 アンペルはちょっと考え、正直に言うことにした。この手の好奇心は、満たしてやればすぐに興味を失うものだ。

 

 「そうだ。今代最高の錬金術師と言われているな。さっきも言った通り、私が授業で使っている教材は、ほとんど彼が書いたものだ。」

 「じゃあ、賢者の石にも関係が?」

 

 アンペルは首を傾げた。むしろ賢者の石──アンペルに言わせれば駄作だが──の作成こそが、彼を有名人たらしめていると言っても過言ではない。

 

 「ニコラス・フラメルは世界で初めて『賢者の石』の製造に成功した錬金術師だ。」

 

 アンペルがそう言うと、ハリーとロンは顔を見合わせて頷き合った。

 

 「やっぱり、あの犬は『賢者の石』を守ってるんだ!」

 「・・・言っておくが、見に行こうとか考えるなよ? あの犬はお前たちの手に負える相手じゃないし、奥にはもっと危険な防衛装置もある。」

 

 アンペルがそう言うと、ロンが安堵した顔で頷いた。

 

 「あんなおっかないのが守ってるんだ、たぶん世界一安全だぜ。ハリー。」

 「うん、そうだね──」

 

 ハリーも頷き、そこで大広間に甲高い怒声が響き渡った。

 

 「ちょっと、待っててって言ったじゃない! 探したわよ!」

 

 目を向けると、肩を怒らせたハーマイオニーが立っていた。後ろにはアンペルの上着を持ったリラもいる。どうやら部屋の中にいると思ったハーマイオニーに起こされたらしい。

 

 「人が寝てる側で大声を出すからだ。ほら、アンペル。ありがとう。」

 「あぁ。」

 

 リラが上着を投げて寄越す。

 アンペルは立ち上がって袖を通すと、振り返って三人を順番に指差した。

 

 「いいか、絶対に・・・あの部屋には入ろうとするな。心神喪失状態で医務室に担ぎ込まれたくないならな。」

 「・・・はい、フォルマー先生。」

 

 ロンはそう言うが、ハリーは今一つ納得がいっていないようだった。どうせというか何というか、扉を開けようとすれば『イバラの抱擁』が作動するから問題は無いが。流石に生徒殺しは気分が悪すぎる。

 ともかくアンペルは踵を返し、大広間を出る。その時背後からハーマイオニーが「この本を見て! ニコラス・フラメルについて書かれてるんだけど───」と語り始め、ロンが「知ってるよ、賢者の石を作った人だろ?」と遮るのが聞こえた。

 

 

 

 

 

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