アンペルのアトリエ ~ホグワーツの錬金術師~ 作:志生野柱
アンペルたちが立ち去った後、ハーマイオニーはもう一度二人に本を見るように言った。分厚い本にびっしりと書き込まれた細かい文字を見て、二人は心底嫌そうな顔をする。
「この本、どうしたの?」
「少し前に図書室で借りてきたの。ちょっと軽い読み物が欲しくて。」
「ちょっと軽い!? これが!?」
ロンは自分の腕より厚い本を示した。ハーマイオニーは無視した。
「ここを見て。錬金術のところ───」
ハーマイオニーが示したページには、ニコラス・フラメルについて確かに書かれていた。だが、二人はちょっと見て顔を見合わせた。
「だから、もうフォルマー先生に聞いたってば。」
「うん。ハーマイオニー、悪いけど───」
「あら、ならこれも聞いたのかしら?」
ハーマイオニーはちょっともったいぶって一冊の本を取り出した。抱えるように持っていたものとは別の、普通の教科書サイズだ。
「ここを見て。」
二人はちょっとうんざりしながら本を覗き込み、揃って首を傾げた。
「これ、フォルマー先生のことが書いてる?」
「えぇ、そうよ。その本によれば───」
『我々は錬金術に関する歴史書や教科書を全て書き直さなければならない。今までニコラス・フラメル氏が唯一製造に成功したと思われていた『賢者の石』だが、近年になってもう二人、それを開発または所持・保管していることが判明したのだ。それはフラメル氏と共同研究していたホグワーツ魔法魔術学校校長のアルバス・ダンブルドア氏と、同校教諭のアンペル・フォルマー氏である。』
「まさか、フォルマー先生が?」
ロンがついさっき二人が出て行った扉を振り返る。ハリーはその先を読み進めた。
『“賢者の石”は卑金属から黄金を作り出し、不老不死をもたらす“命の水”の材料になるとされている。この性質を狙い、フラメル氏は幾度となく狙われているが(報告されただけで300回以上)、闇払いたちの渾身の護衛により奪取が叶ったことは一度もない。ダンブルドア氏は賢者の石の製造に成功するも、その場で破壊した。』
『フォルマー氏は 奥方 助手のディザイアス女史と常に行動を共にしており、既に死喰い人や犯罪者など、“賢者の石”を狙った者を100人以上撃退している。』
「・・・フォルマー先生が、『賢者の石』を・・・やっぱり、そうだったんだ。」
ハリーが呟くと、二人も納得したように頷いた。
「・・・けど、それって危なくないか? もし『名前を言ってはいけないあの人』が石を狙ってるなら・・・」
「先生も狙われる。・・・警告しなきゃ。」
ハーマイオニーが言うが、ハリーは首を振って否定した。
「そんなの、先生なら気付いてるに決まってる。」
「そうだよ。・・・それに、君もミセス・ディザイアスの攻撃を見たろ? いや、全く見えなかったけどさ。」
ロンが腕を滅茶苦茶に振り回す。リラがトロールを細切れにした時の再現だろうか。
「えぇ、そうね。でも私たちは、その二人に命を助けられたのよ?」
二人が黙り込んだのを肯定と受けたか、ハーマイオニーは続ける。
「今度は私たちが助ける番よ。・・・二人を影から護衛するの。」