アンペルのアトリエ ~ホグワーツの錬金術師~   作:志生野柱

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17 ノルウェー・リッジバック

 不思議な鏡のことがリラとアンペルの記憶から消えた頃だ。

 いつものように夕食を終えたとき、アンペルはハグリッドに呼び止められた。何も聞かずに、今日の深夜に自分の小屋に来て欲しいと。

 アンペルは首を傾げつつ了承し、リラは先に部屋に戻ると言った。

 

 だからアンペルは、一人でハグリッドの小屋に来た。もしここに過去のアンペルが居れば、アンペルはその頬を張り倒して説教しているだろう。どうしてリラを連れてこなかった、自分とは違った知見を持つ者の存在がどれだけ重要か知らないのか、と。

 アンペルを待っていたのは、小屋の持ち主であるハグリッドと飼い犬のファング。

 そして、法律で許可なき者の所持・飼育が禁じられているドラゴンの幼体だった。

 

 「ハグリッド、悪いことは言わないから、どこかの山野に放すか、処分すべきだ。」

 「そうできないから、お前さんの力を借りたいんじゃ。頼む、この通り。」

 

 巨体を曲げて頭を下げたハグリッドの姿を見ても、アンペルの頭痛は癒えそうになかった。

 

 ハグリッドの説明によれば、ドラゴンの種族はノルウェー・リッジバック。ドラゴン種が往々にして持ち合わせる魔法耐性も高く、爪や牙、膂力による殺傷力も凄まじい。魔法省にチクられれば、退職どころかアズカバン行きだってあり得る。

 アンペルはハグリッドに、森で見つかった魔法生物の死骸やハグリッドが狩った生き物から素材を譲り受けている。つまりは借りがあるし、そうでなくてもこの気のいい巨漢を監獄送りにはしたくない。

 

 「ハグリッド、具体的にどうしたいんだ? 飼い続けたいなら、魔法省に届け出を出して正式に飼うか、隠れて飼うか・・・どちらかだぞ?」

 

 アンペルが一般論を口にすると、ハグリッドは首を横に振った。

 

 「魔法省は好かんし、奴らも俺に許可を出したりはせん。隠れて飼うにしても、ダンブルドアに迷惑をかけちまう。」

 

 ハグリッドの言葉を聞いたアンペルは引っ掛かりを覚えたが、そこには触れずに言葉を続ける。

 

 「なら、誰か・・・きちんと許可を取っている知人に預けるとかだな。ドラゴン・テイマーの知り合いは?」

 「・・・チャーリーのやつがドラゴンの研究をしとる。許可も取っとるはずだ。」

 「チャーリー・ウィーズリーか。・・・連絡出来るか?」

 

 ハグリッドは頷くと、目に涙を溜めてアンペルの手を掴んだ。

 

 「ありがとう、フォルマー先生。あんたのおかげで道が見えてきた・・・この礼は、必ずする。」

 「あ、あぁ。・・・ところでハグリッド、ドラゴンの幼体なんてどこで手に入れた? まさか拾った訳でもないだろう?」

 

 アンペルとしては連絡を取ったとして、どうやって受け渡すのか気になるところではある。まさか堂々とホグワーツの正門から入って来てもらう訳にもいかないだろう。出る場合も同様だ。が、それこそハグリッドの問題だし、チャーリーと摺り合わせるべき問題だ。

 アンペルはそう結論付けて、代わりにもう一個の気になっていたことを聞いた。

 

 「あぁ、賭けで貰ったんだ。」

 「賭けか。」

 

 どこでどんな相手と、というのは聞かない方がいいだろう。まさかそこらの酒場という訳でもあるまい。なんせ相手は、法律違反のドラゴンの幼体を賭けの対象として出すような輩、あるいは賭博場だ。突かない方がいい藪である。確実に。

 

 「じゃあ、私はそろそろ戻るよ。リラが寝てから戻ると、起こしてしまうかもしれないからな。」

 

 アンペルが小屋を出ると、既に城の明かりは半分ほどが消えていた。

 位置的にアンペルたちの部屋は見えないが、リラはもう眠っているだろうか。

 

 アンペルは足早に城に戻った。

 

 


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