アンペルのアトリエ ~ホグワーツの錬金術師~ 作:志生野柱
なんとか新学期までにギミックを作り終えたアンペルは、褒美と言わんばかりのタイミングで開かれた入学式で、一心不乱に糖蜜パイを貪っていた。
「イギリスはいい。甘味が豊富で、しかも洗練されている。紅茶に合うことを前提にしているのが玉に瑕だが・・・そうは思わないか、リラ。」
教員テーブルの左端に掛けたリラに、隣に掛けたアンペルが視線を向けることなく問う。口は咀嚼と会話に、目はデザート漁りにだけ使われていた。
「甘味にだけ全力を費やした国、という感じだがな。話に聞くアーランドでは、錬金術師すら菓子作りに傾倒しているらしいぞ?」
「是非行ってみたいものだな・・・そこに『門』があれば、だが。」
「目的は見失ってないようで安心したよ、アンペル・・・っと、組み分けだな。注目の生徒は?」
「新入生の何を見ろと? ライザ以上のセンスを持つ者がそうそう居てたまるか。私は寮監でもないしな。」
それもそうか、と、リラも新入生の列から興味を失ったように、アンペルの皿にどっかりと盛られたデザートに目を向ける。
「乾杯もまだだというのに、どこからくすねてきた?」
「厨房の屋敷しもべ妖精には何人か知り合いがいてな。」
リラは皿から手ごろなクッキーを取ろうと手を伸ばし───アンペルにそれをぺちっと払われた。
「乾杯もまだだぞ、我慢できないのか?」
もぐもぐと口を動かしながらの一言は、リラの逆鱗を掠めた。
「・・・ほう?」
手を伸ばす。 ぺちり、払われる。
手を伸ばす。 ぺちり。
ぺちり。 手を伸ばす前に先制攻撃された。
「おい、アンペル───」
組み分けの喧騒も気にせず戯れていた──アンペルは本気でデザートを防衛していたが──二人だったが、不意に今までを倍する歓声が沸き上がり、新入生のほうに目を向ける。
ひときわ大きく盛り上がっているのはグリフインドールのテーブルだった。悪戯好きのウィーズリーの双子が『ポッターを取った! ポッターを取った!』と叫んでいた。
「ポッター、というと、ハリー・ポッターか。そういえば今年入学だったか。」
「あぁ。・・・そういえば質問なんだが、それはぷにゼリーか?」
見慣れた錬金術製の菓子がしれっとアンペルの皿に乗っているのを見つけたリラが、もう
「ん? あぁ、私のお手製だ。品質は600程度だが、いろいろと効果を付与してある。・・・何より、食感がもちもちだ。」
「・・・何味なんだ?」
「さぁ・・・色合いとしては七色葡萄の味だろうが、ドンケルハイトなんかも入ってるからな・・・」
「また超のつく希少素材を・・・」
ドンケルハイトは薬の素材としては最上位に位置する薬草で、死者の蘇生すら可能と言われている。植生地も、適切な採取・保存法も、具体的な成分すらも不明。幻の花と言われていたり、或いはおとぎ話の産物と言われていたりもする。テーブルの反対側に座っている魔法薬学担当のスネイプ教授や、薬草学担当のスプラウト教授辺りが聞いたら発狂してもおかしくない。
「ブルーのを見慣れていたから抵抗があるが・・・まぁ、不味くはないだろう。」
「一口、いいか?」
「ん? あぁ、まぁ、それぐらいなら構わんぞ。私の分も残してくれよ。」
リラが虹色のプニゼリーを食べて首を傾げるのを横目に、アンペルはダンブルドアが立ち上がるのを察してデザートを食べる手を止めた。
「おめでとう、ホグワーツの新入生、おめでとう!! 歓迎会を始める前に、二言、三言、言わせて貰いたい。では、行きますぞ。そーれ! わっしょい! こらしょい! どっこらしょい! 以上!」
アンペルとリラは顔を見合わせて苦笑を交わした。
◇
「あの人、ちょっぴりおかしくない?」
ハリーが微笑と苦笑の中間くらいのどっちつかずな表情で向かいに座ったパーシーに聞くと、パーシーは満面の笑みで答えた。
「おかしいだって? あの人は天才だ! 世界一の魔法使いだよ! ・・・でもちょっぴりおかしいかも。ところで君、ポテト食べる?」
ハリーはいつの間にか目の前の皿を満たしていたさまざまな、そして山盛りの料理を見て瞠目した。
そして喜色満面で取り皿に盛っていく。ダーズリー家ではお目にかかることのなかった──いくらかランクの下がったものなら見たことはあるが、すべてダドリーが食べてしまった──ご馳走に舌鼓を打ちながら、周りに座った友人たちといろんな話をする。
魔法のこと、半透明のゴーストとも話したし、ヒキガエルの自慢をする友達の話も聞いた。
ハリーがなんとなく見上げた上座の教員テーブルでは、ハグリッドがゴブレットで酒を飲んでいた。ダンブルドア校長はマクゴナガル教授と話していた。
『漏れ鍋』で出会ったクィレル教授は黒髪で目つきの悪い教授と話している。不意に、ハリーの傷跡が軋んだ。
「イタッ!」
思ったより大きな声が出て焦っていると、パーシーが心配そうな顔をしていた。
「大丈夫、なんでもない。・・・あの、クィレル先生と喋ってる先生はどなたですか。」
「あぁ、あれはスネイプ先生だね。その横で酒を飲んでるのが森番のハグリッド。クィレル先生の隣はマクゴナガル教授だ。僕らの寮監だよ。」
「へぇ・・・」
一瞬で痛みは引いたが、まだ疼きのような後味を残す傷跡を撫でながら、ハリーはなんとなく教員テーブルを見渡してみた。
ひときわ大きいハグリッドとは反対側のテーブルの端で、山積みのデザートを一心不乱に食べている教授の姿が目立っていた。
「あの、モノクルをつけた先生は?」
「あぁ、あれはフォルマー教授だ。三年生になると選択科目で取れる、『錬金術』を教えてる。隣に座ってるのが、助手のミセス・ディザイアスだ。」
「奥さんなんですか?」
「本人たちは否定している、が、まぁ見ていればすぐに嘘だと分かるさ。」
ハリーはしばらく関わることもないだろう、と、目の前のご馳走に意識を切り替えた。