アンペルのアトリエ ~ホグワーツの錬金術師~   作:志生野柱

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 デススト楽しいめう(更新が遅れてしまい申し訳ありません。エタる(死語)つもりはありませんので、今後ともよろしくお願いいたします)


20 仕掛けられた罠

 『錬金術』の実技試験は、定期試験最終日の最終コマだった。

 流石に試験で馬鹿を遣る間抜けは居なかったが、緊張からミスをする生徒はいた。とはいえかなりの期間休講していた分、課題の難易度はかなり低い。復習問題が殆どで、休講期間中も研鑽していればO・優が付く簡単なテストにした。おかげでミスした生徒も怪我一つない。というのに────

 

 「これはどういうことです、フォルマー先生!!」

 「いや、アンペルの所為では・・・」

 「貴女は黙っていてください、ミセス・ディザイアス!!」

 

 アンペルとリラは、医務室でマダム・ポンフリーの説教を受けていた。

 彼女が怒っている理由は他でもない、ベッドで横たわり虫の息となっているネビル・ロングボトムのことだ。

 

 「彼は何者かに操られ、例の四階奥の部屋に入ろうとした。そして私の仕掛けた罠に───」

 「罠! 生徒が引っ掛かるかもしれないと考えなかったのですか!」

 

 引っ掛かるなら、それは侵入を試みた間抜けだ。間抜けがそれに相応しい結末を見るのは当然だし、別に死ぬわけではないからいいのではないか。

 アンペルがそういう旨の言い訳を口にすると、マダム・ポンフリーは激昂を通り越して呆れた様子で二人を追い出した。

 

 「それで、どうするアンペル。『イバラの抱擁』は突破されたのか?」

 「一回の発動で全てのストックを使い切るような仕組みにはしていない。もし突破されていても、地下のあれを突破できるとは思えん。」

 

 二人は足早に四階の廊下に戻ると、扉に仕掛けてあった罠を確認した。

 

 「・・・大丈夫だ。あとは────」

 「待て、何か聞こえないか?」

 

 言って、リラはアンペルの口を押えた。

 アンペルは戸惑いつつも耳を澄まし───扉の奥から聞こえる()に気が付いた。

 

 「・・・アンペル、すぐに装備を整えるべきだ。」

 「同感だな。」

 

 アンペルの罠は確かにまだ動作している。しかし───侵入された痕跡があるのも確かだ。どうにかして──たとえば、作動した瞬間に身代わりを盾にし、その間に扉に滑り込むなどの手段で──罠を潜り抜けられたと考えるべきだ。

 二人は最高の装備を身に着け、部屋に突入した。

 

 

 その背後、廊下の突き当りから身を乗り出す影が三つ。

 それらは素早く扉まで進むと、後を追うようにその中に入った。

 

 

 

 ケルベロスは、戦闘準備を万全にしたアンペルとリラの敵ではない。二人の言うレベルに当て嵌めれば20レベルそこそこ、魔力は高いが物理攻撃特化。対策の立てようはいくらでもあるし、各種状態異常への耐性も高くない。アンペルに殺害の意志は無いが、睡眠や麻痺など、行動阻害の手札は多い。万が一それらへの耐性を付与された特殊個体でも、前回の攻防からフィジカルを逆算すれば、リラの敵ではないだろう。

 中から聞こえてくる音楽は、『エネルジアニカ』のようなバフ系アイテムと当たりをつける。ケルベロスを正面戦闘で打倒する気だろう、と。

 

 そう、即開戦、ケルベロス対侵入者対自分たちの構図を覚悟して突入する。

 しかし、二人を敵意が出迎えることはなかった。

 それどころかハープが独りでに穏やかな音楽を奏で、ケルベロスは三つの頭がシンクロするように安らかに寝息を立てている。

 

 「・・・無力化された、と見て間違いなさそうだな。急ぐぞ。」

 「あぁ。」

 

 それを歓迎の計らいと受け取るほど、二人は平和ボケしてはいない。

 二人はケルベロスが守っていた跳ね扉を開けると、ぽっかりと空いた穴に滑り込んだ。

 

 「リラ!」

 「分かっている!」

 

 リラがオーレンヘルディンを壁に突き立てる。耳障りな音を立てながら制動し、残った手をアンペルのクローク──戦闘用の“智者のクローク”という特別製──に伸ばす。

 

 「・・・ヨシ。」

 「・・・言いたいことはいくつかあるが、後にしておこう。」

 

 錬金術で作られたそれは、対物理・対魔力共に高い防御力を持つ。故に──アンペルの体重を支えるくらい、造作もない。体に掛かる負荷はとんでもないのだが。

 とはいえ先の分からない穴を無計画に落ちるよりはマシだ。最悪、落ちたら溶鉱炉なんてこともあり得る。

 

 「下は・・・植物だな。」

 「落ちても大丈夫そうか?」

 「有毒っぽい感じではないな。だがこの部屋にある以上、誰かの罠であることに間違いはない。ツタ植物みたいだが・・・経験から言わせて貰えば、こいつは絞め殺す系の植物だな。・・・焼き払うか?」

 

 フィジカルに自信のないアンペルが逆さ吊りのままエターンセルフィアを出し、リラが首を振って否定する。

 

 「私が切り刻んだほうが安全だろう。高さは?」

 「6・・・7メートルくらいか? 落ちるときに」

 

 合図を、という前にリラが手を放す。

 

 「リラ!?」

 「すまん、だが上から何か降ってきたんだ!!」

 

 リラがアンペルを抱えて着地すると、数舜遅れて三つの人影が落ちてくる。

 即座に戦闘態勢を取った二人に、慌てたように声が掛けられる。

 

 「待ってください、先生!」

 「僕たちです! 敵じゃありません!」

 「・・・なに?」

 

 アンペルが暗がりに目を凝らした瞬間だった。足元の植物が高速で動き、その全身に絡みついた。

 

 


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