アンペルのアトリエ ~ホグワーツの錬金術師~   作:志生野柱

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21 仕掛けられた罠2

 「!?」

 

 アンペルが驚愕に身を強張らせると、一瞬でその蔦が燃え朽ちる。

 リラの攻撃、炎の精霊ブレイズによる一撃だろう。

 

 「すまん、助かった!」

 「気にするな。出口は!?」

 「恐らくだが下だ。切り拓けるか?」

 

 リラが口で肯定するより先に腕を振り、一閃で大穴を開ける。

 下に蔦のない空間を認め、アンペルが三つの人影を穴に放り込み、次に自分が飛び込む。最後にリラが続くと、うごめく蔦が穴を閉じる。

 ほのかな明かりを放つ魔法の燭台に照らされ、アンペルが投げ込んだ三人が呻きながら起き上がる。

 

 「うぅ・・・扱いが雑過ぎる・・・」

 「絞め殺されるよりマシだよ。」

 「あの、フォルマー先生、ミセス・ディザイアス、私たち、その・・・」

 

 いつもの三人組がばつの悪そうな顔で二人の顔を交互に見る。

 二人はそれを見返すと、顔を寄せて作戦会議の姿勢になった。

 

 「どうする、リラ。この先は・・・」

 「トラップまみれ、しかもお前の罠は・・・引き返させるか?」

 「いや、罠の対策を立てられないために、ここは徹底した一方通行になっていたはずだ。・・・少なくとも正規ルートなら、だが。」

 

 正直なところ、無理やり──たとえば、上層を遮る植物の天井とその上の本物の天井を破壊するなどの手段で──登ろうと思えば、実行は容易い。勿論しこたま怒られるだろうが、生徒を守るためだったと主張すれば校長は許してくれるだろう。だが、その間にも先行しているだろうクィレルはこちらと差をつけてしまう。

 

 「ここに置いていくか?」

 「正直、それが一番簡単で安全だが──」

 

 アンペルが三人を一瞥すると、彼らは我が意を得たりとばかり揃って口を開いた。

 まだいける、連れて行ってくれ、役に立てる、と。

 

 「・・・子守は御免だ。」

 

 リラの呟きを聞き取れたのはアンペル一人だった。

 

 

 ◇

 

 

 リラの機嫌はともかく、罠の突破はそこまで難しいものではなかった。

 

 飛び回る鍵の群れから正解を見極めて捕獲し、贋作の襲撃を掻い潜る。この程度ならリラの動体視力と運動神経なら朝飯前だ。まぁ彼女に襲い掛かった金属製の鍵はただの金属片と化したが・・・それくらいなら許容範囲だろう。

 

 続く魔法使いのチェスでは、リラとアンペル、加えて名乗り出たロンを駒の代わりに立て、命がけのチェスをする羽目になった。だが──チェスは二人零和有限完全確定情報ゲーム、つまり、相手が取れる手と自分が取る手の組み合わせは有限であり、そのパターンから勝敗を確定できる、先読みの利くゲームだ。アンペルにとってはつまらないパズルだった。

 

 続く薬と毒の論理パズルだが──一人しか進めないのでは意味が無い、と、アンペルが防御用アイテム『神秘の羽衣』を使ってゴリ押すという暴挙に出た。

 

 何故か倒れていたトロールを素通りし、一行は次の部屋へ続く扉に手をかけ──足を止めた。

 

 「アンペル、この先は──」

 「あぁ。・・・お前たちはここで引き返せ。」

 

 アンペルが言うと、三人はその唐突さに困惑しながらも反論した。が、二人は聞く耳を持たない。

 

 「良いから引き返せ。付いて来るのは確かにお前たちの自由だ。だが私たち教師には、お前たちを生かして返す義務がある。」

 

 厳密にはリラは教師ではないが、今はそんなことはどうでもいい。

 扉を開けた先にあるのは、アンペルとリラが仕掛けた罠だ。突破するには、アンペルの知識とリラの力、そして二人の連携が必要になる。或いは、ダンブルドアが校長権限で『姿現し』を許可するか。

 

 「そんな。じゃあヴォルデモートは──!」

 

 どうするんですか。ハリーがその次の句を継ぐことは無かった。

 二人が不意に未熟な魔法使いにも分かるほど濃密な殺気を放ち始めたからだ。

 大量の魔力が吹き上がり、アンペルの持つ戦闘特化の杖『幽玄なる叡智の杖』に集中する。異国の禁術をベースとした戦闘魔法、魂を焼くことすら可能な魔法が準備段階に入る。

 リラの場合は真逆。最上位の手甲『オーレンヘルディン』に、三人には知覚できない「なにか」が集中する。単なる魔力の塊、或いは意思を持った魔法生物、或いはもっと概念的な──とにかく、それは『精霊』と呼ばれていた。燃え上がる炎を、迸る雷を、凍てつく冷気を、逆巻く風を全身に纏い、リラはアンペルに頷きかけた。

 

 「よし。いいぞ、アンペル。」

 「安心しろ、ポッター。そんじょそこらの魔法使いに負けるほど、準備を重ねた錬金術師は弱くない。」

 「最高の護衛もいるし、な。」

 

 アンペルは肩を竦めた。

 

 「行くぞ、リラ。」

 

 ドアを開けた瞬間、緑色の閃光が二人を包み込んだ。

 

 

 


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