アンペルのアトリエ ~ホグワーツの錬金術師~   作:志生野柱

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22 仕掛けられた罠3

 アンペルは自分に向かってくる閃光を確認し、まずドアを閉めた。カチリという微かな作動音を聞き、ノブを捻って施錠を確認する。ドアも錠も特別製で、内側からの魔法では──破砕呪文や開錠呪文のような専用魔法でも──破砕・開錠できないようになっている。二人が追いついたのでなければ、ヴォルデモートはここで()()()、かと言って出ることもできず、こうして誰かが来るのを待っていたのだろう。

 部屋を見回せば、複数用意しておいたギミックのうち、一つ目だったガイダンス──説明文だけが起動していた。そこで追い付いたのか、そこで詰んだのか。非常に興味深い。

 

 「ここで──」

 

 すとん、と。軽い衝撃と共にアンペルの胸に閃光が直撃する。

 

 「馬鹿め! 私の待ち伏せにも気付かずノコノコ──」

 

 大声で哄笑するのは、杖を振りかざしたクィレルだ。もはやいつもの吃りは無く、自信と嘲りが表情と声に表れていた。

 クィレルは直立したままのアンペルと、何故か呆れ顔でそれを見つめるリラに人差し指を突き付けて勝ち誇る。しかし、その声は死体だったはずのアンペルによって遮られた。

 

 「これがアバダ・ケダブラ? 直接的なダメージは軽いが・・・即死効果があるのか。・・・なるほど、耐性のない魔法族には、確かに“死の呪文”だな。」

 「馬鹿な!? 直撃したはず・・・いや、あの忌々しい穢れた血と同じ──」

 

 アンペルが不意討ち気味に黒い光線を放ち、クィレルがそれを転がるように躱す。

 

 「何故生きて──」

 「“死の呪文”は低威力の無属性魔力ダメージと効果の低い即死効果。多少の弱体耐性があれば抵抗(レジスト)するのは簡単だ。それと───」

 

 ぞぷ、と。不快な音を立ててクィレルの胴体から爪が生える。

 いつかのようにねじり抉るように動くそれは、今回は炎を、雷を、氷を、風を纏い殺傷力を増している。

 

 「学習しない奴に斃されるほど、私たちは弱くない。」

 

 リラが爪を引き抜く動作で血振りする。

 崩れ落ちたクィレルの体に、止めのように爪が振り下ろされ──アンペルの声に止められた。

 

 「まぁ待て、リラ。魂の分割と矮小化による寄生の実用化には興味がある。」

 

 既に死に体のクィレルがピクリと動き、彼の物とは違うしわがれた声が届く。

 不安と自信に恐怖を混ぜたような、憎悪に満ちた声だった。

 

 「貴様、どこまで知っている?」

 「何も。私は推測しか話していなかったが・・・その反応を見るに、当たりか? 魂の分割と、肉体への侵入に寄生・・・。」

 

 アンペルの知る禁術に、魂に深く関わる分野のものがある。過去の文献によれば、以前には他者に魂を寄生させて支配することで不老不死を実現する。という試みもあったらしい。

 だが、魂とはその人間の在り方を決定する、人間の持つ最重要ファクターだ。アンペルの傷のように、魂が『治らない傷』と認識してしまえば、たとえ死者すら復活させるエリクシル薬剤でも治せなくなる。薬のスペック上可能であるとしても、だ。それを分割する手段などそうは無いし、他者に乗り移れるほど人格を残すのも難しい。単純に、1の魂と1/2の魂が争ったときに1が勝つ道理がないからだ。

 

 「何をした? 私の知る限り、魂を分割する方法は三つしかない。手頃なのは殺人だが・・・」

 「アンペル、時間切れだ。」

 「何?」

 

 リラがクィレルの首に爪を突き立て、息の根を止める。 即座に四つの精霊が体を破壊し、跡形も残さず消し飛ばした。

 アンペルは特に感情を出すこともなく、崩壊した身体から抜け出した『何か』に魂を焼く魔法を撃ち込もうと杖を掲げ──それを遮るように現れたダンブルドアに面食らった。

 アンペルの魔法は一撃必殺・再起不能を主として作られている。ダンブルドア(肉の盾)を貫いて亡霊もどきを焼き払うことなど造作もない。・・・が、それはイコール、ダンブルドアの死を意味する。

 

 「流石に不味いか。」

 

 アンペルは魔法をキャンセルし、ダンブルドアの背後を一瞥した。

 そこにはもはや死体もなく、リラが呆れ顔で首を振るばかりだった。

 

 

 ◇

 

 

 数時間後、すべての事情を語り終えたアンペルは、リラを伴って校長室を退出した。

 

 「なぁ、結局のところ、クィレルは操られていたのか?」

 「そういう認識で間違いないだろう。一般的な魔法使いと同等かそれ以下の魔法力しか持たないクィレルでは、分割された魂とはいえ最悪の魔法使いには勝てなかった・・・といったところか?」

 

 アンペルは自分の言葉に首を傾げ、リラは矛盾点に気付いた。

 

 「だがアンペル、分割された魂では健全なそれには勝てないんじゃないのか?」

 「まぁな。二分の一でも勝率がかなり低いんだ。それ以上ともなれば──」

 「待て、それ以上だと?」

 

 リラが立ち止まり、アンペルは振り返って不思議そうな顔をした。

 

 「人間の魂を二分割したにしては、あのヴォルデモート卿は矮小過ぎた。おそらく五分割くらいはしているだろうな。」

 「魂を・・・」

 「まぁ、分割するだけならそう大した手間でもないしな。問題はその魂の保管だ。まさか別々に五人の人間に乗り移っていたりしないだろうな・・・」

 

 その場合、容疑者は世界人口約60億である。中にはアンペル以上の錬金術師やリラ以上の戦士も居るだろう。面倒くさいことこの上ない。確実に『違う』と言い切れるのは──

 

 「その場合、あいつらくらいしか信用出来んな。」

 「・・・そうでないことを切に願うばかりだ。」

 

 アンペルは右腕の補助義手を撫でた。

 

 




 賢者の石編はおしまい、エンディングと導入を挟んで秘密の部屋編です。・・・まぁ、秘密の部屋の原作を探すところからなんですが。どこにしまったっけなぁ・・・

 そういえばアンケーヨなるものがあるらしいですね。

アンリラ成分量はこんな感じでいいですか?

  • yes,丁度いい。
  • no,多い
  • no,少ない
  • どうぞお好きに
  • アンリラ地雷です

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