アンペルのアトリエ ~ホグワーツの錬金術師~   作:志生野柱

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秘密の部屋
秘密の部屋編 プロローグ


 夏休みも終盤のころ。

 アンペルはうだるような暑さを呪いながら、頭に氷属性の爆弾、レヘルンを乗せて涼んでいた。

 レヘルンは昨年度に世話になったノルデンブランドより下位のアイテムで、たとえ頭上で爆発を起こしてもアンペルに害を及ぼすことは出来ない。しかし、漏れ出る冷気は頭を使っているアンペルに程よい癒しを与える。

 

 いまアンペルの頭を悩ませているのは、熱気ではなく『石』だ。

 

 アンペルは自室にストックしてある『賢者の石』の存在を隠している。

 例外となるのは、アンペルが信を置く相棒、リラ・ディザイアス。アンペルが『賢者の石』を作れると知っている、アルバス・ダンブルドア。そして、アンペルの部屋に諜報術を仕掛けた、ヴォルデモート卿。

 

 品質999、特性全開放の『賢者の石』があれば世界征服くらいは容易い。正確には無尽蔵の魔力による武力支配だが。そして、ヴォルデモート卿ならば()()使うだろう。故にアンペルにとって、自室の防御強化は急務であった。

 

 問題は、ヴォルデモート卿の本気度合いがアンペルには分からないことだ。去年のクィレルを利用した侵入の折、アンペルの自室にある良質な方ではなく、幾重にも罠の張り巡らされた、しかし大して質の良くない方を狙った辺り、全く狙いが読めない。アンペルは別に実力を隠しているわけではないし──喧伝している訳でもないが──アンペルの持つ錬金術の腕前を知ることはそう難しくないはずだ。逆にアンペルと、そしてリラの戦闘能力を知ることも難しくなかった訳だが、アンペルたちは今のところ高レベルのアイテムは使っていない。強いて挙げるなら回復用の『女神の飲みさし』と武器・防具の類だけだ。この辺りで手を抜くと痛い目を見るというのは、リラは戦士としての経験で、アンペルはトロールの一撃から学んでいる。

 

 それはともかく、ヴォルデモート卿はどの程度本気で『石』を狙ってくるのか。部屋に侵入するものを撃退する程度で足りるのか、この城を吹き飛ばされてもなお部屋だけは残るほど堅牢にする必要があるのか。前者はかなり容易いが、後者は・・・少なくとも部屋そのものに、多少なりとも手を加える必要がある。アンペルの一存では決定できない。

 

 「とりあえず、許可なく入った者を焼き払う程度で良いか?」

 「そこまでの殺意が必要な相手か? 正直言って、あの程度の魔法使いならレントでも倒せる。」

 

 リラの言葉は正しい。

 そもそも錬金術は魔法に対して優位にある。錬金術で作り出したものは程度の差こそあれど、魔法に対して高い耐性を持っている。魔法による防御・変質・攻撃その他の干渉を封じてしまえば、ほぼ一方的な戦いができる。

 しかし、裏を返せば『錬金術師は準備が全て』ということでもある。強力な武器を準備し、堅牢な防具を準備し、多種多様なアイテムを準備して初めて『戦闘用意完了』なのだ。

 

 クィレルに寄生していた1/5程度のヴォルデモート卿とはいえ、ほぼ何も準備もしていない状態の二人に完封された。多少の慢心も仕方ないほど、あっさりと。

 

 「いや、組織の長が常に組織最強とは限らないぞ? ヴォルデモート傘下・・・死喰い人の中に、奴以上の猛者が居るかもしれん。」

 「あの手の悪党は強さが全てだ。・・・とはいえ、あの逃げ足の速さは不自然だな。強者はプライド故に、逃走を善しとしない。にも拘わらず、奴は高度な逃走術を持っていた。・・・影武者の類かもしれんな。」

 「或いは、逃走しても目的を達成できると確信していたか。」

 

 リラは楽観し、アンペルは悲観する。クーケン島に居た頃も、それ以前からも続いている、二人合わせて丁度いい立案ができる方法だ。

 いつも通りネガティヴに考えるアンペルに、リラは苦笑して肩を竦めた。

 

 「今はこれ以上は妄想になるな。・・・ところで、新しい『闇の魔術に対する防衛術』の教授が来るというのは今日だったか?」

 「早くて今日の夜、遅くとも明日の午前中、という話だったな。なんだ、興味があるのか?」

 

 アンペルが少しだけ愉快そうにリラの方を見遣る。

 リラは片眉を上げて不思議そうに視線を合わせた。

 

 「そう見えるか?」

 「とても楽しそうだぞ? ・・・実は、私もなんだが。」

 

 アンペルのデスクには数冊の本が置かれていた。タイトルに一貫性は無いからシリーズものではないのだろうが、作者は同一人物だった。

 名を──ギルデロイ・ロックハート。

 

 「グールやトロールはともかく、人狼やヴァンパイアといった危険度の高い亜人種と高度な意思疎通を取れた例はあまりない。」

 「そうだな。・・・だがアンペル、本は所詮本だぞ? フィクションかもしれないし、盛っている部分もあるだろう。」

 「分かっているさ。その辺りは直に会ったときに聞くまでだ。」

 

 アンペルはレヘルンを額からどけると、紅茶を口に含んだ。

 

 「・・・そういえば、ライザの“お願い”はどうだ? なんとかなりそうか?」

 「・・・正直、厳しいな。」

 

 昨年のクリスマスごろにライザから届いた『吠えメールもどき』で、彼女はバシリスクの毒が欲しい旨を伝えてきた。

 バジリスクといえば、即死の魔眼と腐食の吐息をもつとされる、蛇の王だ。流石にクーケン島にはいないだろうし、仮に接敵してもライザ一人では・・・いや、ライザ一人でも余裕か。だが死骸の運搬や素材の切り分けには人手が必要だろう。

 

 アンペルの脳裏に、ライザが難無く最強の蛇を打倒し、その骸の前で運搬方法に頭を悩ませる光景が浮かんでくる。

 薄く口角を上げると、リラは少し怪訝そうな顔をして続ける。

 

 「バジリスクの持つ攻撃手段は有名だし、対策も簡単だ。耐性の方も・・・まぁ、影の女王よりは下だろう。問題は──」

 「──生息地だ。全く、この手の問題はいつもいつも・・・」

 

 上級炎素材である『永遠の焔』をその身に宿すという“巨岩の兵士”を探して歩き回った時間は計り知れず。結局それが特定条件下(クエスト)でしか現れないと知った時の絶望もまた。

 

 「もしバジリスクを見かけたら、生け捕りにして不死身にして、それから永劫素材サーバーとして使い続けよう。」

 「八つ当たりも甚だしいな・・・」

 

 

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