アンペルのアトリエ ~ホグワーツの錬金術師~ 作:志生野柱
SCP界隈は才能が溢れててモチベが下がりますね。2000といい3001といい、有名どころは特に。個人的にはSCP-3005が秀逸過ぎてすき。
ギルデロイ・ロックハート。
ホグワーツ魔法魔術学校『闇の魔術に対する防衛術』担当教員。
著書『泣き妖怪バンシーとのナウな休日』『グールお化けとのクールな散策』など多数。
闇の力に対する防衛術連盟名誉会員。
勲三等マーリン勲章受章。
彼の肩書を一言で表せば、誰もが、アンペルとリラも口を揃えて「輝かしいものだ」と評するだろう。
そして実際に出会い、言葉を交わした者は、だいたい半数くらいが「素晴らしい人だ」と評し、残る半数は「なんか胡散臭いよな」と目を細めるだろう。
アンペルとリラは───前者だ。
著書を読み、内容に興味を持つ。ここまでは、世に居る大勢のファンと同じ流れだ。中には偶然会えたり、握手会やサイン会に行くコアなファンもいるだろう。だが───幾度となく修羅場を潜り、かつて異界を呑み込んだ蝕みの女王、その怨嗟の化身である影の女王すら下した猛者であるアンペルとリラ。二人は一目見ただけで実力───戦闘能力を見抜いた。
リラは言う。フィクションだと悟らせない文章力や想像力は脱帽に値する。
アンペルは言う。誰かの経験をそのまま文にしたような本は初めてだった。
二人にとって、ギルデロイ・ロックハートとは───稀代の夢想家にして当代一の作家である。
アンペル・フォルマー。
ホグワーツ魔法魔術学校『錬金術』担当教員。
明らかになっている功績は『賢者の石』の製造に成功したというもののみ。未知の魔術を扱うという噂や、不老不死であるという噂もあるが、所詮都市伝説である。
出身・経歴はおろか年齢さえ不明。
リラ・ディザイアス。
ホグワーツ魔法魔術学校『錬金術』補助教員。
アンペルの助手兼護衛だとされているが、内縁関係にあるのではないかと目される半人らしき女性。
白兵戦でトロールを下すなど、常外の力を持っている。
出身・経歴・年齢はおろか詳細な種族さえ不明。
彼らの話を聞いたとき、ロックハートは大して興味をそそられなかった。
知られている功績は『ギルデロイ・ロックハート』の能力・公歴からはかけ離れているし、聞こえる噂も眉唾ものばかりだ。加えて言えば、ホグワーツはダンブルドアのお膝元だ。
そして、その印象は実際に会っても変わることは無かった。
『賢者の石』の製造すら疑わしい、覇気のない男。女の方は白皙の美貌を持ってはいるが、あれは良くない。あの見定める、というにはあまりに機械的な目つき。ああいう目をする手合いを、ロックハートは見たことがあった。
闇払い。魔法界でも一握りのエリートであり、戦闘能力でも突出した者たちだ。そうと注意して見て、ようやく分かるほど巧妙な観察眼。迂闊に接触すれば、ロックハートの全てを見透かされる。そんな確信があった。
◇
「・・・なぁ、アンペル。」
「なんだ? 今は手と目が離せない。」
錬金釜の前でかじりつくように液面を見つめているアンペル。リラは呆れ顔でその頭を小突いた。
「素材の錬成は不可逆性や固定化の関係上、不可能だ。こんなの教科書にだって載ってるだろう?」
「ニコラス・フラメルでさえ知ってるだろうな。・・・だがな、リラ。どう考えてもバジリスクの毒は───」
リラは聞き飽きたと遮り、大釜を覗き込む。
「今度は・・・ポイズンキューブからの逆抽出か?」
「あぁ。すべての毒の成分を含んだポイズンキューブからなら、バジリスクの毒も精製出来るかと思ったんだが・・・」
アンペルは目を伏せると、興味を失ったようにローテーブルに置かれていたカップを傾ける。
冷め切った中身に顔を顰めつつ新しい紅茶を用意するアンペルに、リラは揶揄うような視線を投げた。
「バジリスクの毒の粉末か?」
「ただの燃えないゴミだ。錬金灰ですらない、本物のな。」
ここ数日で何度となく見た錬成物、あるいは失敗作。リラの目から見ても分かる、どうしようないクズが錬金釜の底にこびりついていた。
「削り取って廃棄、でいいのか?」
「あぁ。・・・全く、ライザはバジリスクの毒を何に使うつもりなんだ?」
ライザはあれでコレクター気質なところもある。わざわざ賢者の石を使ってまでエネルギーを再充填した吠えメールもどきは、「理由はね・・・完成してからのお楽しみ! じゃあよろしくね、アンペルさん。クーケン島のみんなも会いたがってるから、たまには帰ってきてよね!」という言葉を再生した後に、灰も残さず燃え尽きた。
その才能を十全に発揮した素晴らしい作品が出来上がるか───ライザの手帳の空欄が埋まるだけか、どちらかだ。