アンペルのアトリエ ~ホグワーツの錬金術師~   作:志生野柱

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4 薬草学

 翌朝、呆れ顔のリラを意にも介さず真剣な表情で、周囲に氷の剣──待機状態のノルデンブランド──を漂わせたアンペルは、フクロウたちが入ってくる時間を遣り過ごそうとしていた。

 同じく呆れ顔のマクゴナガル教授がアンペルの周囲に設置型の『盾の呪文』を使うが、アンペルの『智者のクローク』が魔法を阻害する。確かな実力を持つマクゴナガルの魔法が弾かれたのを見て、スネイプ教授が片眉を上げ、スプラウト教授は「打つ手なし」とばかり首を振った。

 そこに颯爽と、そしてにこやかに一人の教師が現れた。

 

 「おはようございます、皆さん。」

 

 彼こそは『週刊魔女』チャーミングスマイル賞、5回連続受賞記録保持者。『闇の魔術に対する防衛術』講師、ギルデロイ・ロックハートである。

 ロックハートは殺気立つアンペルを一目見て、爽やかに笑いながらこう言った。

 

 「あー・・・いいアクセサリーですね。とてもクールだ。」

 

 ・・・少しばかり、困惑した笑顔だった。

 

 

 

 アンペルが闘いの時を終え、落ち着いて食後の紅茶に口を付けた時だった。

 大広間に女性の怒号が響き渡った。

 

 「ロナルド・ウィーズリー!! 車を盗むとは、何てことです!!」

 

 吠えメール。どこの誰か知らないが、災難なことだとアンペルは哀れみ交じりに苦笑した。

 そもそもあれは外観を見るだけで分かるように封筒の指定があるのだから、部屋に帰って開ければいいだろうに。と、クーケン島で弟子のような『友人』が見舞われた悲劇を知らずに。

 聞き耳を立てるまでもなく大広間に響く怒声は、件のロナルド・ウィーズリーを叱責するだけ叱責すると、その妹に真逆の猫なで声を掛けて散り散りの紙片に変わった。

 

 「・・・。」

 

 アンペルとリラ、教師たちも含めて、全員がいたたまれないような気まずいような、複雑な気持ちになって沈黙していた。

 大広間全員の例に漏れずグリフィンドールのテーブルを見ていると、アンペルに向かって拝むような仕草をする双子がいた。少し目を動かせば、三人の兄であるパーシー・ウィーズリーも微かに頭を下げていた。

 

 「どうしろと・・・」

 

 その呟きをきっかけのように、また大広間に喧騒が戻って行った。

 

 

 ◇

 

 

 ホグワーツ魔法魔術学校では、いくつかの授業は城の教室ではなく専門棟で行われる。

 天文学は一番高い観測塔で行われるし、魔法生物学は野外ですることが多い。箒飛行やこの二つと並んで野外で行われる授業と言えば、温室での薬草学だろう。

 ハッフルパフの寮監であり、薬草学の担当教諭であるスプラウト教授が入ってくると、温室内は静かになった。

 

 「おはよう皆さん。」

 「「おはようございます、スプラウト先生」」

 

 揃った挨拶を返した生徒たちは、スプラウトの後から入ってきた顔を見てざわめいた。

 

 「おはよう、諸君。」

 「「おはようございます、フォルマー先生」」

 

 いつも通りに挨拶を返した生徒たちだが、困惑の色は抜けないようだ。

 そこにスプラウトが説明を入れる。

 

 「本来は錬金術の担当をしているフォルマー先生ですが、今回と次回のみ、臨時講師としてお手伝い頂くことになりました。」

 「フォルマーだ。講師とは言うが、報酬目当てで釣られた傭兵みたいなものだと思ってくれ。」

 

 困惑交じりの苦笑が生徒の間に流れたとき、挙手する生徒がいた。

 

 「ミス・グレンジャー?」

 「この植物──マンドレイクですよね? フォルマー先生のような戦闘能力が必要な、直接的な危険があるんですか?」

 

 スプラウトが指名すると、ハーマイオニーが怖々と言った。確かに思い返してみれば、ハーマイオニーとアンペル、そして植物という組み合わせが呼び起こすのは『悪魔の罠』だろう。そうでなくとも、アンペルは彼女の前でトロールやケルベロスと戦っている。

 

 「いいえ、マンドレイク自体に直接的な攻撃能力はありません。ですが、マンドレイクの悲鳴は危険です。特徴を言える人は?」

 

 またハーマイオニーが挙手した。

 

 「マンドレイクの悲鳴は人間の命を奪います。」

 「その通りです。これらはまだ成長前ですから死にはしませんが、数時間は気絶するでしょうね。」

 「その・・・フォルマー先生は、()()()()()()()()で呼ばれたんですか?」

 

 スプラウトは首を横に振り、否定の意を示した。

 

 「いいえ。しかし、マンドレイクは時折、亜種進化系に変質する・・・つまり、別の種に変わることがあります。誰か・・・ミス・グレンジャー?」

 「ホワイトルートという変種になると読んだことがあります。」

 「正解です。まだ他にもあるのですが・・・結構。この先はフォルマー先生にお願いしましょう。」

 

 アンペルが会釈して生徒たちに向き直ると、生徒たちは居住まいを正した。

 

 「マンドレイクは成長すると、自分の足で移動することが可能になる。とはいえ悲鳴による攻撃を封じてしまえば、非力な小動物程度の力しかない。」

 

 温室の空気が弛緩する前に、アンペルは畳みかける。

 

 「しかし、稀に変異した個体が現れることがある。1ランク上のホワイトルート、2ランク上のアルラウネー、そして3ランク上のキンモクジュだ。イギリスで発見されているのはここまでだな。実際にはもう少し強い種類もいるが、滅多に出会うことは無い。そして魔法植物と魔法生物の中間に位置するこいつらは、魔法・物理への耐性を有する。よって、万が一それらが発生した場合に備えて、私が駆り出されたというわけだ。」

 「作業中に攻撃された子はすぐに申し出て───マンドレイクの悲鳴で聞こえないでしょうから、手を高く上げるように。では耳当てを付けて───」

 

 その授業では幸いにして、アンペルが戦うようなことはなかった。

 

 

 




 毎日投稿なぁ・・・してぇなぁ・・・んなぁ・・・

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