アンペルのアトリエ ~ホグワーツの錬金術師~ 作:志生野柱
それからの一週間は、アンペルにとっては変わり映えのない一週間だった。
校内を歩き回り、新しいレシピのインスピレーションを探したり。授業でへまをした──アンペルにとってサボりが
「なぁリラ、これは興味本位なんだが・・・」
ならばこそ、学者───いや、錬金術師特有の好奇心を発揮するのは必然とすら言えた。
「なんだ、一応聞いてから反対してやろう。」
「反対するのは前提なのか・・・まぁいい、他の教員のギミックを────」
「却下だ。全部が全部お前のレベルの専門性で、全部が全部お前くらいの殺意なら、教員の数だけ死ねるぞ。そんなのは御免だ。」
食い気味に反対され、アンペルはがっくりと肩を落とした。
アンペルは魔法があまり得意ではない。錬金術で作った道具や戦闘魔法による対個戦闘なら魔法界でも上位に食い込めるだろうが、それでも後衛であることに変わりはない。前衛・・・フィジカルが必要な場面ではリラの力も必要だし、何より安定感が違う。1+1を100にするだけの連携が、アンペルとリラならば可能だ。
「・・・はぁ、わかった。」
そんな相棒抜きで、イギリス魔法界でも上位の魔法使いたちが組み上げた、イギリス魔法界最悪の魔法使いに対抗するためのギミックを相手取るのは不安だ。
「言っておくが───」
「分かっている、お前無しじゃダメだ。」
「・・・分かっているなら、それでいい。紅茶は?」
「貰おう。」
夜も更けた頃合いだというのに、アンペルもリラもカフェインを入れようとしていた。
アンペルは新レシピの研究、リラは付き合いだろうか。
アンペルがパイ────カクテルレープを摘まみつつカップを傾けていると、不意に部屋の外から大きな金属音が響いてきた。
「・・・ピーブズか? 蒼炎の種火にぶち込んで────」
『生徒がベッドから抜け出した!! 四階右の廊下だ!!』
人に迷惑をかけることを生き甲斐──生命体ではないが──にしているポルターガイスト、ピーブズの仕業かと思えば、そのピーブズが大声を上げて糾弾していた。
「はぁ・・・何処の間抜けだ。少し見てくる。」
言って、アンペルは部屋を出た。
◇
四階右の廊下と言えば、ダンブルドアに言われて『賢者の石』防衛用のギミックを仕込んだ場所────に通じる扉がある場所だ。迷い込んだ生徒が何年生かは知らないし、自分以外の教員が何を仕込んだのかも知らないが、アンペルの仕掛けは学生どころかイギリス魔法界最悪の魔法使いでも殺しうるものだ。ダンブルドアに、迷い込んだ生徒を跡形もなく吹き飛ばしていました、なんて報告はしたくない。
「・・・?」
ドアを開けると、アンペルのモノクル────幻視ルーペは、魔力を持つ存在や物質を探すコンパスとリンクし、簡易的なレーダーのように機能している。・・・忍びの地図に近いといえば、誰もが欲しがるだろうか。
そのモノクルに見える地図には、いまアンペルの目の前を通る赤点──魔力を持った存在を示す──が四つ、表示されていた。だが、幻視ルーペ越しの視界にも、肉眼の右目にも、そこを通る人影も、半透明のゴーストでさえも映らない。
「誰だ。・・・おい、止まれ!」
アンペルの誰何に反応して、赤点が慌てたように移動する。足元は毛足の長いカーペットだから足音はしないが、一瞬だけカーペットに足跡が残るのが見えた。高品質でよく手入れされた繊維はすぐに元の形状に戻ってしまうが、それも────四人居る。ヴォルデモートの手先、死喰い人だとしたら、見逃すわけにはいかない。
アンペルはクロークの内側に手を入れ、道具を取り出そうとして───逡巡する。
(何を使う? 手持ちはルナーランプ、賢人の宝典、エターンセルフィア・・・駄目だ、火力が高すぎて内装まで壊しかねん。リラを呼んで・・・)
その一瞬の隙に、四つの光点は突き当りの扉───『賢者の石』へと至る部屋へ入った。
「しまった・・・」
アンペルはこの時点で“赤点”が死喰い人であるという想定を捨てていた。施錠されたドアを開ける寸前、
「生徒なら尚更不味いかッ・・・!」
アンペルは駆け出し、ドアを開け放つ。
中に居たのは四人の生徒と、三匹の犬───いや、三つの頭を持つ大犬、ケルベロスだった。既にケルベロスの三対の瞳は生徒たちを捉え、ある頭は唸り、ある頭は涎を垂らし、ある頭は吠えている。
冥界の番犬たるケルベロスが上げる気勢に、背丈的に低学年らしい生徒たちが悲鳴を上げた。
「ッ!!」
歴戦の錬金術師とはいえ、アンペルも(一応)人間だ。生命の核をすら揺さぶる咆哮に、咄嗟に戦闘態勢に入る。
だがケルベロスはおそらく、魔法生物に詳しいハグリッドの防衛ギミックだ。
「殺すのは不味いか・・・」
アンペルは生徒たちの襟首を引っ掴むと、思い切りドアの外に向けて放り投げた。