アンペルのアトリエ ~ホグワーツの錬金術師~ 作:志生野柱
閃光の出所であったハリーとは違い、ロンはある程度俯瞰して状況を観察できた。
炸裂した閃光の向こう側、呆れ顔のリラと感心したように目を細めるアンペルの表情も、しっかりと。
「着眼点はいい。機転というのはセンスに依るところが大きいからな。」
「それも知識あっての事だろう。経験不足は仕方ないにしても、相手の技量を読めないようではいつか痛い目を見るぞ。」
ロンは困惑しつつ、教師然とした雰囲気を漂わせる二人に釣られて挙手をする。
「あの・・・先生たちは敵じゃないんですか?」
呆れと怒りが混じった表情のリラではなく、努めてアンペルに視線を固定して尋ねる。
アンペルもやや苦笑気味になると、緩やかに首を横に振った。
「違うとも。私たちは誘拐された生徒を助けに来ただけだ。・・・二人、救助対象が増えたがね。」
それだけ言うと、アンペルは踵を返した。リラも続き、取り残されそうになったロンが慌てて後ろに続く。
「あの、先生? 先生は、攫われた生徒をご存知ですか?」
「いや、知らないな。ただ生徒が拐されたので救出してくれと・・・言われただけだ。」
自分で言っておきながら苛立ちを募らせるアンペル。
本格的に休暇を取らねば爆発しそうだと自己分析しつつ、脳内で休暇のプランを組み上げていく。
とりあえず王都に戻り、不用品の整理や外貨の換金。次いでクーケン島に行きバカンス。最高だ。バーベキューでもするか。
そんなことをぼんやりと考えながら、アンペルは行く手を阻む円形の鉄扉を吹き飛ばした。
◇
トム・リドルの幻影と対峙したハリーは、自らの早とちりを悔いていた。
「フォルマー先生は『継承者』じゃなかったんだ・・・君が全て仕組んだんだ、ハグリッドのことも!」
「フォルマー? ・・・奴のような血の定かでない者が『継承者』なわけがないだろう。奴め、いろいろと邪魔をしてくれたが・・・フン。確かに奴に魔法は効かないが、バシリスクの目は別だ。」
杖は奪われ、手には古びた帽子だけ。対するリドルは、部屋の最奥にある巨大なスリザリンの顔を模した石像に語り掛ける。
「スリザリンよ。ホグワーツ四強の中で最強の者よ。我に話したまえ。」
喉を絞るような不快な音。しかしハリーには意味がしっかりと理解できた。
軋みを上げ、石像の口がゆっくりと開いていく。続く、重いものがこすれる音を聞いた時、ハリーは咄嗟に目を瞑って後退した。
しかし杖もなく、リラやアンペルのような戦闘能力も持たないハリーにはどうすることもできない。
古びた帽子を握りしめる手に、自然、力が入り───轟音と衝撃が足元を揺らした。
バシリスクの攻撃だ。ハリーがそう思っていたのは、リドルが慌てたような声を漏らすまでの一瞬だった。
「やはり来たな、フォルマー!」
ハリーが振り返ってから目を開けると、秘密の部屋の入り口を固く守っていた鉄扉が、石造りの壁ごと吹き飛ばされていた。
砂埃と粉塵の舞う中に見える人影は三つ。クロークを靡かせるものがアンペル。手甲の目立つものがリラ。そしてひとつ小さいものがロンだろう。
「だが一足遅かった。既にバシリスクは解き放たれているぞ! やれ、バシリスク。あいつを殺せ!」
「フォルマー先生、こいつが継承者です、ヴォルデモートだ! こいつは僕がなんとかします!」
大声で、そして重ねて叫ぶ二人の声が聞こえなかったのか。或いは聞こえた上で意味を測りかねたのか。アンペルは首を傾げた。
「リラ、あの生徒とポッターを回収できるか?」
「任せろ。ついでに、あのゴーストもどきも倒そうか?」
「いや、それはまだでいい。少し聞きたいことがあるんだ。」
気楽そうに言って、アンペルが無造作に一歩を踏み出す。
同時に、バシリスクが赤いオーラを身に纏う。
アンペルがクロークを脱ぎ、リラに投げ渡す。黒い包帯と金属質な補助義手が露わになり、リラが一瞬だけ眉根を寄せた。
アンペルにしてもやや大きいサイズだ。まだ体格の小さい二年生三人くらいならば、問題なくリドルの魔法やバシリスクの魔眼から守れるだろう。
バシリスクの黄色い瞳がひときわ輝き、耐性を無視する即死の眼光が放たれる。
視線はつまり、光と同義。回避も防御も不可能。
そう、トム・リドルとバシリスクは考えていた。
しかし────光は、重力によって歪曲する。
アンペルの魔術が眼前の空間を歪め、小規模なブラックホールを生成する。それはバシリスクの目から放たれた視線、バシリスクの目に反射し即死効果を付与された光を呑み込んだ。
「馬鹿な!?」
予め対応策を考え、用意していたが故の防御。いわゆる
その隙を突いて、リラが二人を回収する。
アンペルは久々に思い通りに進んだ展開に口角を上げ、赤いオーラの消えたバシリスクを挑発した。
「く、空間操作だと!? それは・・・魔法、なのか!?」
実現不可能な三大呪文、「死者蘇生」「永続」「単独飛行」の三命題に挙げられない以上、限定的であれば時間操作・空間操作は可能だ。逆行時計や姿くらましがこの辺りに該当する。
しかし、アンペルが見せた魔法は闇の魔術にすら精通したヴォルデモート卿を以てして初見であり、また実現不可能と思わせるものだった。
「そうとも。・・・ところでリラ、プランAを再始動してもいいんじゃないか?」
プランA────バシリスク素材サーバー化計画。
バシリスクの強さを鑑み、保留にしていた計画だ。
しかし、アンペルもリラも今や装備は万全。あとはリラの助力があれば盤石。そう判断しての問いにはしかし、リラは首を横に振った。