アンペルのアトリエ ~ホグワーツの錬金術師~   作:志生野柱

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閑話 エジプトにて2

 ウィーズリー家の父親と母親、アーサーとモリーにそれぞれ求められた握手に応えた後、留まることを知らない勢いに流され、二人はディナーをウィーズリー一家と共にしていた。

 円卓に掛けたアンペルの右側にアーサーが、リラの左側にモリーが座り、二人は完全に包囲された気分だった。

 レストランに入るまでは自重していたようだが、個室に入り料理が届いたとたん、彼らは堰を切ったように話しかけてきた。

 

 「フォルマー先生はどうしてエジプトに?」

 「先生はどちらのホテルにご滞在なんですか?」

 「先生、そこのソース取ってもらえます?」

 「先生、秘密の部屋でのことをぜひお聞きしたいのですが」

 「先生、車の件はどうなってますか?」

 「先生、『錬金術』について教えてくれませんか?」

 

 完全に被っていた。アンペルとリラには「先生、車の部屋のソースについて教えてくれませんか?」としか聞こえなかったし、喋っている彼らもまともに自分の声が聞こえていないはずだ。

 アンペルはとりあえずソースの入った小椀を取ると、全体を見回す。「あ、どうも」と言ったのはフレッドだった。

 

 「えー・・・秘密の部屋についてですが、食事中にする話ではありませんし、またの機会にということで。それとジョージ」

 「はい、なんです?」

 「あとで話がある。少し時間を貰えるか?」

 「あー、なぁ相棒。心当たりがありすぎてわかんないぞ。どれがバレた?」

 

 相談モードに入った双子を無視して、アンペルは料理に向き直った。

 なぜわざわざバカンス先で説教を垂れなければいけないのか。ただ車を返してやるだけだというのに、随分と警戒されている。

 

 「それで、お二人はどうしてエジプトに? やはりバカンスで?」

 「えぇ・・・あ、いえ。私の専門は『錬金術』と『古代魔法学』でして、今回はピラミッドの探索に。リラも、その手伝いで。」

 

 アンペルは咄嗟に出まかせを並べた。なにか途轍もなく嫌な予感がしたからだ。

 リラも訂正や訝しむようなことはせず、ただ黙々と料理を食べている。

 

 「そうですか。いや、お仕事でしたら、もしよければご一緒にというお誘いもできませんね。」

 「ありがたいですが、お気持ちだけ。」

 

 

 ◇

 

 

 翌日。二人は早々に一つ目のピラミッドを探索し、最後の一つに侵入していた。

 ここ数日で慣れつつあった黴臭い閉鎖空間もこれで最後と思えば、不思議と名残惜しく───は、別にならないが。

 

 「ここに無ければ、最悪のパターン二択だな。」

 「どちらも勘弁してほしい話だ。」

 

 既に失われたピラミッド跡地に埋まっている場合。或いは───

 

 「この散在するピラミッドが、『門』を封じる要石というのは。」

 

 エジプトはオアシスこそあれ砂漠地帯だ。乾燥した地を好むフィルフサの残党が再度力を伸ばすのには絶好の地といえる。

 しかもフィルフサの強さはピンキリ。今のアンペルでさえ手を焼くような個体もいる。

 もしピラミッドが内部に『門』を封じるためではなく、大規模な『門』を封じるために作られたものだとすれば。そんな規模の『門』が開けば、流石に二人では対処しきれない。

 

 「いや・・・リラ。その懸念は必要なさそうだ。」

 「・・・ということは、見つけたのか?」

 

 アンペルが無言で狭い小道の床を撃ち抜き、大穴を開ける。本職の考古学者が見たら絶叫モノだが、あとでそうと分からないように修復するので問題ないだろう。

 穴の先には、かなり大きな空間があるようだ。少なくとも床下収納のサイズではない。試しに魔法で作り出したランプを落としてみるが、光が見えなくなるまで衝突音はしなかった。

 

 「そうらしいな。少なくとも光が届かない程度に深い。そして下は恐らく砂だな。」

 「よし。じゃあ────」

 

 リラが手甲を付けたとき、聞き覚えのある、二度と聞きたくはなかった怪鳥のごとき金切り声がした。

 フィルフサだ。それも複数体の甲中型───二人ではいささか手に余る大物、将軍級の存在を覚悟した方がいいだろう。

 

 「どうやら、『門』は開いているらしいな。」

 「勘弁してくれ・・・」

 

 ピラミッドの分厚い石壁は、どうやら将軍級を呼び寄せるほどの年月を持ちこたえ、砂漠をフィルフサの手から守っていたらしい。

 大穴を開けたことを少しだけ申し訳なく思いながら、アンペルはリラと顔を見合わせた。

 

 「行くぞ?」

 「あぁ。」

 

 リラが精霊を纏い、アンペルは多様な補助アイテムを使う。

 万全の戦闘態勢になったその瞬間、二人は暗闇へと身を投げた。

 

 気味悪く渦巻く『門』、4割ほど砂を残して地面を埋め尽くすフィルフサ、30メートル眼下に見える特徴的な配列の石柱。

 もはやヒエログリフの刻まれた石柱は門扉の役目を果たしておらず、一から再構築する必要がある。それは面倒なのだが。

 

 「「壁だけでいい!」」

 

 千年単位でフィルフサの侵攻を食い止めたピラミッドの外壁。傷つけてはいけないのはそれだけだ。存分に暴れられる。

 アンペルとリラは互いに叫び、それぞれが互いの反対側を確認する。

 

 「アンペル、ホーンデーモン3だ! 甲虫型多数!」

 

 最上級の甲虫型個体を発見し、リラが焦り気味に叫ぶ。着地前に一撃入れようとフィルフサに有効な火属性攻撃、インジェクトブレイズの予備動作に入る。

 しかし、続くアンペルの言葉が動揺を生む。

 

 「不味い・・・影の女王だ!」

 

 影の女王。二人が今まで対峙した中で最強のフィルフサだ。異界をほぼ喰らいつくした蝕みの女王、その怨嗟の残滓。しかしその強さは蝕みの女王をすら上回る。

 歴戦の戦士であるリラにさえ、些か以上の動揺を生む名前だ。インジェクトブレイズは3匹のうち2匹を焼き尽くしたが、残り一匹にはかすり傷しか付けなかった。

 

 アンペルが早々に決着を付けようとルナーランプを起動するが、群れる雑魚を薙ぎ払うだけに終わる。

 一瞬で配下の半数ほどを消し飛ばされた影の女王は、群れの真ん中に着地した()()に咆哮する。

 

 「・・・これは、想定外だな。」

 

 アンペルもリラも、ここまで大規模な群れに遭遇するとは思っていなかった。通常の侵攻隊ならサソリ型が主軸、群れの長は甲虫型中位の影の指令程度だ。影の女王やホーンデーモンがこうも居るとなれば。

 

 「殆ど異界、か。」

 

 

 

 

 

 早々に雑魚を一掃できたのは大きかったが、それでも影の女王は驚異的だった。

 まず何より、素早い。二人の連携に絶妙に反撃を差し込み、コンボを繋げさせない。

 そして、賢い。一番のダメージソースであると同時に最も身体能力の高い、攻撃を回避されやすいリラ。補助に徹してはいるが、群れの大半を一撃で消し飛ばしたアンペル。二人を不規則に狙い、アンペルが防御アイテムや回復アイテムを使い辛くしている。

 

 もう一人居れば。

 

 そう思ったのは何度目だっただろうか。不意に、影の女王の動きが鈍る。

 アンペルがアイテムを使った訳でもなく、リラのスキルという訳でもない。影の女王の動きから見て、かなり強力なデバフだ。

 

 クラウディアのフェイタルドライブ。いや、もっと強力な───!!

 

 「キロか!」

 

 気付けば、『門』のすぐ側に、フードを目深に被った人影が立っていた。

 サイズの合わないフードでシルエットを隠した彼女の名前はキロ・シャイナス。リラと同じ異界の出身であり、リラ以上に精霊との親和性が高い。

 その戦闘力はリラ以上。つまり、この場において最も頼もしい援軍である。

 

 

 

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