『琴葉茜』とマイクラ世界   作:糸内豆

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第10話 『琴葉茜』の初遠征

 遠出をするにあたり、まずは準備を整える。

 とは言っても、そう大がかりなものではない。

 鉄装備一式を着込み、剣や弓矢、斧、ツルハシ、シャベル、食料に松明、それから砂ブロックや土ブロックなどをインベントリに放り込むだけである。装備や道具、食料はともかく何故砂や土を持っていくのかというと主に移動用で後は簡易的な高台やシェルターを作るのにも使う。

 特に砂は移動目的では便利だ。マインクラフトにおけるブロックの大半は設置された場所に留まるが、砂や砂利は下に水や溶岩などを除くブロックが存在しない場合、落下する性質を持っている。登りだけなら土でも充分だが、下りとなると砂の方が便利である。それに破壊した直後の砂ブロックの下にタイミングよく松明を置くと落ちた端からアイテム化するので、撤去や回収が楽という小技もある。

 ちなみに落下する性質を利用して水抜きをするという手法もあるが、これはまあ今は関係ないからいいだろう。小さな池程度ならともかく海底神殿の水抜きみたいな真似なんかすることないだろうし。

 

「絶対大規模工事じゃどころ済まないだろうな、っていうか海のど真ん中を埋め立てるって改めて考えると国家事業もいいところだ」

 

 ああ、後は小麦と紙をそれぞれ30ずつ持つぐらいか。これはもし村を見つけた場合、村人と交易してエメラルドを入手するためである。とは言ってもゲーム通りのレートならせいぜい1~2個手に入るくらいだろうが。そもそも思った通りの取引内容が出ない可能性も、バージョンによっては有益なものが数える程しかない場合もある。とにかくこの世界の村人がどんな反応するのか未知数だから何とも言えない。話し合いで野菜の種を譲って貰えれば、それが一番いいのだが。

 持っていくものはこれでいいが、問題は拠点で飼育している家畜だ。一応餌を大量に置いていくが、動物達が節制なんてするはずないだろうしあっという間に無くなってしまうだろう。

 特にニワトリは数も多いし活発だから心配だ。よって遠出はせいぜい数日空ける程度が限界だろう。……野生で何を食ってるのか分からんし、案外そんなに食べなくても大丈夫なのかもしれないが。

 ともかく宛てもなく延々と出かけていても仕方がないので3日を区切りにしようと思う。ゲーム基準ではまだまだ序盤とはいえ、今更新天地で生活を始めるのも大変だし。マインクラフトで遠征をするのも素材目当てのことがほとんどだしな。

 身も蓋もない話ではあるが、単に生き延びたいだけなら食料とベッド、安全地帯さえ確保すればそれ以上は必要無いんだ。視聴者を圧倒するような大がかりな施設もインスタ映えしそうなお洒落な自宅も、もはや仮想敵が分からないぶっ壊れ性能のMODも何もかもだ。

 もっとも、そんな仙人みたいな生活で満足するクラフターは滅多にいないとは思うが。理想の建築と実際の手間の狭間でそこそこまとまったくらいの拠点に落ち着くことはあってもだ。

 さて、話が逸れたが、ともかく遠出の準備は大体こんなものだろう。極端な話、手ぶらで出て行っても何とか出来ないことは無い。インベントリという輸送の常識を破壊するお手軽かつ便利な収納もある。

 今回行く方向は平原が遠くまで続いていて向こう側に丘があり、その先がどうなってるかまでは分からない。もしもこれで海だったら即座にUターンだが、はたして。今いる大草原といい、森や山の感じといいゲームよりもだいぶ土地も広くなっているみたいだからな。ゲームと現実の1キロメートルには差があるというのもあるとは思うが、それにしたって広い。

でも川は高いところから流れているわけでも無さそうだ。というかマインクラフトの川って大体水路のような気がする。地形として以外に海との区別なんて無いし。あ、でもバージョン1.13のアプデで海のバイオームに追加入ってたから、最近はそうでもないか。さすがに淡水と海水の要素までは導入していなかったが。

 

「それじゃ、行ってきます」

 

 動物達の鳴き声が聞こえるばかりで誰一人としていない拠点に告げる。

 そして、俺は意気揚々新たな土地へと足を踏み出した。

 

 

 

「……重い!」

 

 ――そう歩かないうちに重苦しい鉄装備を外した。

 考えてみれば当たり前のことである。マインクラフトののっぺりした鎧一式がどれだけの重さかは知らないが、実際の西洋鎧は比較的新しい軽量化に成功したものでようやく20キログラム以内に収まるといった具合だ。基本的には数十キログラムと思っていい。動き回ることは充分可能だったらしいが、それはあくまで訓練を積んだ成人男性の話である。茜ちゃんボディに自分の体重に匹敵しかねない重しをつけての行軍はまさに荷が重かった。

 まあ今インベントリにしまった鎧には数十キロの重さはないとは思う。そもそも明らかにクラフトに使った鉄インゴットより質量が増えているし、何よりこの体にピッタリ合う時点でサイズの自動調整機能か何かがついているのは間違いない。ひょっとしなくてもクラフトで作る物って半ば概念が実体化した物なのかもしれないな。自分で言っててよく意味が分からないが。

 ともあれ、鎧を外してからの道程は快適であった。手ぶらで歩いているのだから当然である。初日のように地面に空いた穴に落ちないようには気をつけつつも、難なく平原を渡りきることが出来た。振り返ってみれば拠点が遠くにぽつんと見える。他に遮蔽物も人工物も無いせいで目立つな。モンスターに格好の標的とされなければいいのだが。

 丘はなだらかでそう苦労しなかったが、その先は森が広がっていた。白樺だ。拠点近くの方にあるのはオークの木がメインだから、ひとまず木材の種類が増えたな。白樺はマインクラフトに通常出てくる木の中では頻度が低め、らしい。個人的にはオークの木に混じって割と見かける印象なのだが。まあそんなことを言ったらジャングルもメサも初期スポーンの近くにあることもあるし運次第か。

 とりあえず斧を取り出して何本かを伐採する。白樺の原木に混じり、苗木も回収出来ているのを確認する。やはりリンゴは出ていない。この2週間で一回も見たことが無いから、たぶん何かしらのMODの影響があるのだろう。MODの内容にも変化がありそうだから、どれによるものかまでは分からないが。

 結局1日目の成果はそれくらいだった。それからさらに森の中を進んでいったが、時々野生のニワトリやヒツジを見かける以外は変化も無く、やはり平原と違って進むだけでも時間を多く取られる。やがて日が暮れてきたため、土を積み上げて待避する。視線を切るため壁をつけた結果、土で出来た箱のような形になった。

 ネズミ返しのようになっているので壁越しにこちらを感知してくるクモも平気だ。夜の間、ずっとうるさいのはどうしようもないが、黙らせようと下手に動いたら他のモンスターの相手もしなければならなくなる。どうせ向こうも攻撃出来ないし朝になったら大人しくなると自分に言い聞かせて、鎧を着込むとそのまま目を瞑って横になった。

 翌朝、壁の一部を壊して索敵した後、中立状態になったクモに先制攻撃し、反撃される前に倒す。ドロップするクモの目や糸が欲しかっただけである。別に腹いせではない。多分。

 

「我ながら最初に比べるとずいぶん手慣れたもんだな」

 

 この2週間でゾンビ、スケルトン、クリーパー、クモを何回か倒した。昔からいる馴染みの面子だ。基本的には1vs1だったり退路を確保したりという状況を作ってから戦っている。今のところ初戦のスケルトンが最も危なかったくらいで、後は何とかなった。ゾンビは難易度が高いと、攻撃を受けた際に一定確率で近くに他のゾンビをスポーンさせるという仕様はちょっと気になったが、今のところ確認出来ていない。この世界の難易度がハードでないことを祈るばかりだ。

 あと出会う可能性があるのはエンダーマンやウィッチ、それに子供ゾンビや子供ゾンビonニワトリなチキンジョッキー、スケルトンonクモなスパイダージョッキーくらいだが見かけなかった。どいつもこいつも面倒だから戦いたくないけど。スライムや他のバイオーム、構造物限定の連中はこんな平原に出やしないだろう。

 そのような調子で始まった2日目も最初のうちはほとんど移動するばかりだったが、やがて俺はあるものに気がついた。

 

「これって、もしかして道か?」

 

 それは舗装されているわけでも目印があるわけでもないが、確かに道だった。草が踏まれた獣道といった感じではなく、明らかにある程度草むらを切り開いた後が見て取れる。草の生長具合から新しい道ではないが、かといってだいぶ昔というわけでも無さそうだった。

 道を軽く行き来したり切り開かれた草の感じを眺めてみたりし、どちらから来たのだろうと推測してみようとしたが、そんな心得のない俺には無理だった。考えた末、まずその場に目印としてブロックを置いた後、俺は木ブロックをクラフト、木の棒を作った。

 もちろん、使い方は決まっている。棒を地面に立ててから手を離してみる。

 

「よし、こっちだ」

 

 棒がちょうど左に倒れたので俺はそちらに向かうことにした。

 考えてみればどうせ進行方向が分かったとして、そちらに何かがあると決まったわけでもない。予定では明日には切り上げるつもりなのだ。ちょっと片方に行ってみて何も無ければ、いずれもう片方に行ってみてもいいだろう。時間だけはたっぷりあるからな。

 などとテキトーな方法で進む先を決めたが、どうやら今回は運に恵まれていたらしい。それからしばらく歩いたところで森は途切れ、小高い丘がところどころにある草原に出た。

再度目印を置いてから見渡して、見つけた。

 

「あれは……!」

 

 

 

 ゲームの時よりしっかりしていたが、それは間違いなく村であった。

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