『琴葉茜』とマイクラ世界   作:糸内豆

14 / 52
第13話 『琴葉茜』の情報整理

「お世話になりました、また次もよろしゅうお願いします」

「こちらこそ、気をつけて帰るんだぞ」

 

 翌朝、俺は門番に別れの挨拶をして村を発った。昨日あれだけ騒いでいた割には特に何事もない、あっさりとしたものだった。まあこれからはちょくちょく来る予定だしな。いくら伝説の存在とはいえ、常連同然になる相手にいちいち盛大な見送りや出迎えなんてしなくて当たり前か。

 もう1日くらい滞在したいところではあったが、3日くらいで拠点に一旦戻るというのが元からの予定だからな。家畜のことが気になるし、インベントリも村から貰った色んな物でだいぶ埋まっているから置きに戻らなければならない。ひとまず今回の交流はここで終わりだ。

 それにしても出発前には思ってもみなかった程の大成果だったな。レシピブックや野菜の種をはじめとした様々なアイテムもそうだが、何よりも情報が手に入ったのが大きい。それは何も村長から聞いた話だけではなかった。

 元来た道を戻りながら、村で得た情報を思い返す。

 

「しかし、見かけないと思ったらリンゴはちゃんとリンゴの木に生るものだったとは」

 

 昨日、村の修復作業を行なった合間に農民の村人から聞いた話である。曰く、この世界ではリンゴは野生ではあまり見かけないリンゴの木に生るものであり、基本は自分で植樹して育てて収穫するのだそうだ。そりゃあ見つからなかったわけだ。俺は半ば止むを得ず狩猟生活に移行したが、もしも野生動物を狩るのを躊躇ってリンゴに拘ってたら飢え死にしてたな。

 ちなみにリンゴの苗木は貰ったものの中にいくつかあったので、帰ったらまずはリンゴ畑を作ろうと思う。あ、でも待てよ。他にも色々と野菜の種や果物の苗木を貰ってるし、家財も増えたからな。家の増築をしなきゃいけないし、畑も現在の規模では小さすぎる。

 

「拠点周辺の開発計画を見直さないといけないか」

 

 クラフターの力があるとはいえ、ゲーム通りにはいかないこの世界では家や畑を軽く広げるだけでもそれなりの時間と手間を要する。だからと言って無計画に拡張していったら後で困るのは目に見えている。日頃の動物の世話や物資の集積も進めなきゃいけないし、区画を考えるのも含めてしばらくはかかりっきりだな。急ぐ必要が無いことが幸いだ。

 

「うん、雇いたいなメイドさん」

 

 今はまだいいが、そのうち1人じゃ手が回りきらなくなってくるだろう。今でさえそれなりに時間を持ってかれているのだ。俺が冒険に出ている間に留守番も兼ねて拠点周りのことに専念してくれる人員が欲しい。給料として砂糖さえちゃんと持たせておけばしっかり働いてくれるリトルメイドはうってつけの存在だ。

 ただし、村人によればリトルメイドに会えるかどうかは運次第らしい。リトルメイドは個人差はあるが当て所もなく旅をする自由気ままな存在で、雇いたければ路銀を稼ぎに立ち寄ったところで契約するのが基本だとか。契約が満了するとまたどこかへと旅立っていくという。

 一応大きな村、というか町まで行けば大抵は流れのメイドがいるので雇えるとも聞いたが、最寄りの場所でもだいぶかかるという話だった。荷物をインベントリにしまっておける分、足の早いクラフターでもそこそこの期間がかかると見積もっておいた方がいいだろう。そしてそれだけの間、拠点を留守にしておくわけにもいかないわけで。とりあえず町まで行くというのはお預けだな。もっとクラフターやこの世界に関する情報を集めたいから、一度は行ってみるつもりではあるが。

 あ、ちなみにリトルメイドとはLittleMaidMobというMODによって追加されるNPCである。ケーキで雇い、砂糖を支払って戦闘から農業までを手伝ってもらえるとても便利な存在だ。何より可愛くてゲームが賑やかになるので海外でも人気のMODだ。あ、だからといって何かを爆破してもらおうなどと思ってTNTを持たせると自爆して死んでしまうので気をつけよう。

 そしてMODと言えば、レシピブックも色々と情報を提供してくれた。

 

「やはり家具系MODは入っていると。村では知ってる人はいなかったけど、和風系のも入っている。農業系は果物や野菜が充実してることからも明白だな」

 

 今回手に入れたMOD産のレシピブックには、他のMODで追加されるアイテムのクラフトレシピが記載されていた。それによれば拠点で試しに配置したら作れた机や椅子とかで気づいてはいたけど家具MODの有名どころ、それから竹MODや和風MODのような和風系、多くの野菜の種や果物の苗木、料理を追加する農業系のMODなどがこの世界には適用されているらしい。

 レシピブックを読んでこれに気がついた時には思わず喝采を上げそうになった。村の中で夜中に近所迷惑だから抑えたけど。大げさかもしれないが、考えてみても欲しい。風呂に入れたり、松明じゃなくて電灯が設置出来たり、トイレがあったり。他にも洗濯機や冷蔵庫、テレビまである。三種の神器も揃って文明レベル爆上げ待ったなしだ。まあ洗濯機や冷蔵庫はともかくテレビは使えないだろうけど。ゲームでも数パターンの映像が流れるだけのインテリアだったし、まともには映らんだろうな。

 また和風系のMODが入っていることからご飯や大豆関連の食べ物もあるし、日本風の家具や建材も追加される。温泉にだって入れるようになる。惜しむらくは必要になる種籾や大豆、筍などが村には無かったことか。かなり遠方の地域にあるらしく、この辺りではわざわざ育てなくても他に十分食べ物があるため、ほとんど嗜好品のような扱いらしい。定期的に村に来る行商人が売っていることがあるというので、俺がいない時に見かけたら取っておいて欲しいと頼んでおいた。高くつきそうではあるが、日本人としても和風趣味の琴葉姉妹になった身としても見逃せない。一度手に入れば後は栽培も可能だろうし、初期投資だ初期投資。

 一方で工業や魔法の要素を追加するMODは、レシピブックを眺めてみた限りではないらしい。工業は環境が整うまで大変だし管理の手間も増えるからともかく、魔法が使えないのはちょっと残念だ。

 いや、工業に関してはそれっぽい感じのがあるにはあったが。

 

「まさかMCヘリがああなってるとは……」

 

 MCヘリコプターMODとは、その名の通りのヘリコプターや航空機、戦車や車両などを追加するMODだ。レシピブックに作り方が載っていたことから、どうやらこの世界には適用されているようだ。バージョン1.5.2から1.7.10までの対応ではあるが、エリトラのない当時のマインクラフト世界の空を飛び回れる楽しいMODの1つだった。実用面では基本的にヘリコプターがあれば十分であったが。高速の戦闘機があってもゲーム側の処理や描画が追いつかなかったり、戦車もマインクラフトの複雑な地形に対応しきれなくて移動不可能になったりしたからな。何より戦闘力があっても、ちょうどいい相手があんまりいないのもある。バニラの敵相手には強力過ぎて、MODの敵相手でも一方的に勝てるか逆に一方的にやられるかというのが俺の印象だった。そもそもマインクラフト自体が空中戦を想定しているわけでも、戦闘を主体としたゲームでもないから仕方がないのだが。本格的にバランス取ろうとすると面倒なのはゲームにMODを入れる際にはよくある話である。

 ちょっと話が脱線したが、そんなMCヘリの乗り物はゲームだったら基本的に鉄ブロックを中心としたバニラの素材があれば作れた。燃料も鉄と石炭で用意出来たし、利便性に対してかなりの低コストと言っていいだろう。それがこの世界では、工業系MODの上位アイテム並に中間素材を要求されるようになっており、そう簡単に手の届く感じではなかったのである。根気を入れて素材を収集すれば作れなくはないだろうが、そこまでして用意するべきかとなった時に必須ではないと切り捨てられるくらいには手間がかかる。

 もっとも手に入れたところでちゃんと操縦出来るかは怪しい。ここまでの感覚からして、現実よりはずっと簡単だがゲームより難易度が上がっている気がする。もちろん事故ったり墜落したりなんかしたら機体と共にあの世行きだろう。

 

「そう。あの世行き、なんだよな」

 

 ……昨日、村人との交流をする前に村長からクラフターについてさらに聞いたことがある。

それによれば、クラフターは神様のような創造の力こそ持っているもののあくまで生物であるとのことだった。

 昔々とある村をモンスターの襲撃から守って戦死し、以来ずっと称えられているクラフターがいたらしい。ある町を気に入って定住し、老衰で町の住人達に看取られたクラフターもいたそうだ。つまりは、そういうことなのだ。この世界では現実と同様、死は不可逆で絶対的なものとして横たわっている。クラフターも例外ではない。ゲームのようにリスポーンしてとかアイテムロストに嘆いてとか、そんな易しい話は無いのだ。

 

「ほんっと、警戒してて良かった」

 

 もしもこの世界でゲームと全く同じように振舞っていたら今頃俺は死んでいただろう。過去の俺に感謝だな。うっかり穴に落ちたり油断してクリーパーに吹っ飛ばされたり目先の鉄鉱石に目が眩んでスケルトンに射られまくったりした? そんな昔のことは覚えてないね。これからもドジを踏みまくりそう? そんな先のことは分からないね。

 さて、まだ細かい話はあるが概ねこのくらいだろうか。どれもこれも有益な情報ばかりであり、これからの生活に役立つことは間違いない。クラフターには使命があるとかそんなことは全くないらしいし、のんびりやっていくか。

 草をかき分けたり敵がいたりしないか気をつけながら歩いていたら、いつの間にか森を抜け、大平原の端っこに辿り着いていた。まだずっと向こうの方ではあるが拠点が見える。朝に村を出発して、今はたぶん夕方手前くらいか。行きと違って、道が分かっていて迷いのない分早いな。これから村と交流する時は3日くらいかかると思っておくか。行きで1日、村での作業に1日、帰りに1日。結構かかるな。

 馬を見つけたら飼おうかな。サドルをどこかで入手したいな。ゲームだったら線路を引いてトロッコに乗ったのだが、この世界では土地の問題も出てきそうだし、着工しても資源の関係もあって長期間かかるだろう。家具作るのにも鉄を大量に使う予定だし、やっぱりこの世界じゃダイヤより鉄の方が重要資源だな。拠点へと歩を進めながら俺は特に何を心配することもなく、そんなことを考えていた。

 

 

 

 ただ、気になることが残っているとすれば。

 

「結局、俺は何でこの世界に来て琴葉茜の姿になっているんだろうな?」

 

 一番の疑問に対する答えが全く分からないままだということか。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。