拠点に帰還した翌日。いつも通りに畑と家畜の世話を終えた俺は、早速拠点の増築計画を考え始めた。
「うーん……」
家の周囲をぐるぐる回って眺める。
ついこの間、改築したばかりの家。内装もその時ある限りの素材で少しは凝っており、若干手狭ではあるが充分に生活出来るだけの空間はある。壁に一部穴を空けて部屋を立てて繋げてしまえば、ひとまずそれだけで機能は追加出来る。屋根や出っ張りをつけたとはいえ、主な構造は豆腐建築のまま。拡張性の高さは健在だからな。
手っ取り早さで言えば、それが一番なのだが。
少し考えた末に俺は結論を出した。
「とりあえず、まずは更地にするか」
ああ、あと立て直ししてる最中の仮屋や倉庫も先に建てないとな。豆腐でいいか。
俺はインベントリから建材を取り出した。
何故改築してから間もない家を解体してしまうのか。
一言で言えば、今の家自体が所詮急場凌ぎのものだからというのが答えとなる。
元々今の家は初日に壁と天井だけのセーフハウスとして作ったものを、2週間にちょくちょく生活する空間として手直ししたものだ。
だから寝室兼リビング兼キッチン兼作業場のワンルームという、機能が圧縮されたものとなっている。
ゲームの時ならそれでも問題無かった。というかゲームの時の知識を元にして現在の状態になっているわけだが……実際に生活するとなると、これがだいぶ不便なのである。
「何よりも、やっぱり狭い」
先ほど考えたように生活出来るだけの空間はある。あるのだが、どうしても窮屈な感じがするのも確かだった。
村で一泊した家が寝室、リビング兼キッチン兼玄関、トイレに分かれていたのも一因かもしれない。ゲームのボックスホテルもかくやというワンルームハウスとは違って、ちゃんと家だったからな。まあゲームでも扉がついてなくて家と認識されていないのもあったけど。
それにいずれはメイドさんを雇ってみたいと考えた時に、どのみち改築しなければならなくなるだろうからな。もう1軒建ててもいいかもしれないが、住む人が入るまでの管理が大変だ。そうなると部屋を増やすことになるのだが、さすがに今の家にそのまま部屋を増やすわけにはいかない。動線なんて考えていなければ、物もごちゃごちゃしててどかさないといけないし。内装も住むのが俺一人という前提の配置になっているのだ。
「それに、トイレや風呂まで同じ部屋に設置したくはないしな」
そして今回の計画にあたって、村で入手したトイレ、それからレシピブックの情報を元にクラフトした風呂を増設するのは絶対だった。1人暮らしでも、さすがに同じ部屋に風呂とトイレがそのままどんと置かれているのには抵抗があった。それからユニットバスみたいな感じで部屋を増やすのも考えたが、複数人で生活するのであれば独立させるべきだろう。となると、その分スペースを要するわけで、それぞれの部屋に続く扉をつける場所も考慮しなければいけなくて。
そういった諸問題を考えた末に出たのが、無理に広げるよりも今ある家を解体してしまった方がいいという結論だった。残そうとしても側だけになりそうだし、そこまでするほど愛着があるわけでもない。せいぜい最初に建てた家程度の感慨だろうか。
「よし、これで仮家は完成だ」
そんなことを考えつつ作業しているうちに、豆腐建築な仮家が完成する。
内装はベッドに作業台、かまどにチェストと防具立て。加えて壁で区切ってトイレを設置し、天井には吊り下げ式の電球もある。電力要らずでオンオフも出来る優れものだ。レシピを見るにグロウストーンのおかげのようだが、どうやって手に入れているんだろうな。
そんなこの仮拠点は無駄の無い分、今の家よりも過ごしやすいかもしれない。一瞬このままこれを家にしてしまおうかという考えが脳裏を過ぎり、慌てて打ち消す。あくまでこれは仮家だ。物資が充実して家につけられる機能が増えれば、また手狭になって今の二の舞だ。
それにどうせ住むなら豆腐よりもお洒落な家の方がいい。お洒落と言っても建築センスは俺だが。まあプレイ動画で見る感じとか現実の家の作りを思い出しながらやってみるとしよう。
草の生えてない土ブロックを設置し、木の棒でテキトーな平面図を描き始める。
「出入りの楽さも考えて、まずは村の家みたいにリビングと玄関は一緒でいいか。トイレや風呂もすぐ入れるようにリビングの隣で。キッチンも間に扉を挟みたくないからな。よし、ちょっとした1LDKにしてしまおう。それから……」
こういう時、まずはブレインストレーミング。だから夢いっぱい盛りにしてもいいよね。などとなんだかんだでウキウキと建築計画を考え始めた俺が、今の家の解体や中の物を倉庫に運ぶのを忘れていたのに気がついたのは実に日差しの弱まる時刻のことだった。
「あー……もう明日に回すしか無いな。今日中にこっちやるか」
冷静になった頭で今しがたまで描いていた線のぶれている簡素な設計図を見返す。
リビング兼食堂兼キッチンが1つ、トイレと風呂が独立して1つずつ、寝室兼自室が2部屋、加えて作業場兼小さめの倉庫が1部屋。ここまではいいだろう。
が、何やら間取りがおかしい。家の形状が上から見るとかなりでこぼこしている。屋根を佩くつもりなのに、これじゃあ平らな屋根にするならともかく三角屋根をつけるには面倒なのは間違いない。というか俺の建築技術でこれに違和感のない屋根をつけられる気がしないぞ。
それから他に問題は……エンチャント部屋は増設スペースだけ確保しておき、後から建てるのでもいいだろう。離れみたいな感じでもいいかもな。
だが非常用の隠し通路は絶対にいらんだろう。地下からどっかに逃げる! と覚え書きがしてあるが、そのどっかとは一体どこなのだろうか。外にセーフハウスなんてないぞ。むしろこの隠し通路が敵の侵入経路になりそうだ。後、そこまで深く掘るのが面倒くさい。これだったらブランチマイニング場を深くした方が有意義である。
時間がかかった割にいまいちな家が出来上がる未来しか見えないな。どうしたものか。
唸りながら、昔見た建築の解説動画を途切れ途切れに脳内再生する。そのうち、あることを思い出した。
「豆腐の組み合わせだったか? 先に柱で間取りを測ってたような?」
そうだ。確かいきなり部屋の構造や配置を考えるんじゃなくて、先に大体の大きさを決めていた気がする。柱で豆腐というか、等間隔で同じ大きさのスペースをいくつも作ってから各部屋に割り振って間取りを決めるというか。
そのやり方に当てはめて先ほど作った設計図を直してみる。
……うん、こっちの方が良さげだ。それに壁も一段目を石ブロックなんかにするとのっぺりした感じが減るんだったか。後はハーフブロック使って木材を節約するのもいいか。普通に上を歩く分には強度は変わらないんだし。
さっきまでが嘘のようにすいすいと大まかな設計図が出来上がる。やがて外がすっかり暗くなったのに気がついて、夕食を取ると早々に寝る。
次の日、やはりいつもの仕事を終わらせると俺は今度こそ改築作業に取りかかった。
まずは元の家に置いたチェストの中身を仮拠点の簡易倉庫に運ぶ。内装もこの時に全部取っ払ってしまう。まだまだラージチェスト1個に収まっているからいいけど、これがだいぶ物資も充実してくるとこれだけでも結構時間がかかる。トラップタワーなんかで使い切れない程に、それこそ広い空間にずらりとラージチェストが並んでいるような状況になるとな。もっともそこまで行くと倉庫をあらかじめ分けてあるか、あるいは拠点を建て直さない人の方が多そうではあるが。
それが終わったら次に家の解体に取りかかる。砂ブロックを積み上げて屋根に登り、上から下に向けて斧を振るっていく。疲れはするが、考えながら組み立てるのと違って大して時間もかからない。
「何かを生み出すより破壊する方が簡単、なんてな」
軽口を叩いてみる。
それが終わったらいよいよ建設開始だ。まずは建設場所に等間隔で柱を建てていく。
屋根を葺いた時に合流させることも考えて、上から見たときに凸凹はしていてもあまり段にならないように、また屋根の高さの調整が面倒になるので極端に非対称にならないように気をつける。手直しする前の設計図だとたぶん屋根の高さをうまく合わせられなくて、変になっていただろう。
それが終わったら柱同士を梁でつなげて、そこから設計図の間取りに合わせて壁を張る。ここまで出来たらもう家の構造は半分出来たようなもので、後は床を張っていくだけだ。村への道中で手に入れた白樺を早速使ってみるか。オークの木より色が明るい素材だ。さほど数があるわけでもないのでハーフブロックにして量を節約するが、それでも足りなかった。仕方が無いのでリビングとキッチンの辺りだけに使用し、後はオークのハーフブロックにしよう。ゲームと違って足りないからちょっと取ってくるって出来ないし。ここの平原は広いからほとんど移動時間になってしまう。整地の手間がだいぶ省けているのはありがたいのだが。本当に建設にはお誂え向きの地形だ。
床を張り終えたので、次は2階部分の作成にかかる。やることは1階と変わらない。ただ低めとはいえ高所なのでだいぶおっかなびっくりの作業になった。ゲームだと大したこと無かったけど実際の3メートルは高いぞ。それにゲームの時みたいに軽微だからとダメージを無視して飛び降りるなんてのもとても真似出来ない。ある程度は体力制のこの世界でも、もし頭から落ちて首でも折ったら即死しそうだ。用心に越したことは無い。
そんなこんなで建築を進めていき、3日と経たないうちに屋根も張り終わる。そこから後は内装だけだ。まだ全部屋の内装をするわけでもないから必要なところだけササッとやって区切りにはするがしよう。それにしてもあらかじめ設計図が決まってると、こんなにも建築が早くなるものなのか。なんだかんだで数日でほとんど終わるとは。
「クラフターの力様々だな」
内装といっても家具を設置する以外は松明を家の中に配置して明るくしたり自分の部屋のレイアウトをちょっと考えたりしたぐらいである。
ひとまず今回の改築もとい建築は、これで完了だ。
簡単にどうなったのかを説明すると、まず1階は玄関があり、そのまま台所兼食堂兼居間の空間、要するにLDKとなっている。奥の台所には裏口を設けており、右手側にはトイレと風呂に繋がる洗面所がある。左手側が廊下になっていて作業場兼簡易倉庫の大きめの部屋がある。廊下はL型になっていて突き当たりを右に曲がると階段があり、2階に繋がっている。
そして2階に上がってからすぐ左に曲がると部屋が2つある。片方は俺の自室で、もう1つの部屋は今のところ空き部屋だ。一応いつかメイドさんを雇ったら住んでもらおうと考えている。廊下をさらにいくと右手側には玄関の天井が床になっている小さなベランダがあり、後はエンチャント部屋予定のスペースともう1つ部屋を用意出来そうな空間がある。用途は追々考えるとしよう。
出来上がってから階段を家の中央に配置した方が移動距離が短くて済みそうだとか、構造上2階の床に原木の梁が見えているだとか、気になる部分も色々出てはきたが今のところは満足だ。一仕事終えた後の達成感もあるが、少なくとも今までの仮拠点よりはずっと家らしくて立派だからな。羊毛が集まったらカーペットを敷いたり家の周りに花壇を作ってみたりするのもいいかもしれない。
しかし、広くなると少し落ち着かないな。村で交流したり家が自分以外の誰かが住むことを考えた作りにしたりしたせいかもしれない。
「誰か仲良く住める人が来てくれるとか……ないか」
まあメイドさんが通りかかったら雇うぐらいしかないだろう。村人はわざわざ村の外に住もうとはしないだろうし、それに、そのなんだ。やっぱりちょっと見た目が気になるからな。そのうち慣れるだろうけど。
後は仮拠点のチェストの中身を移し、仮拠点も解体するくらいだ。
その後、バスタブやシャワーが使えることに感動したりキッチンの設備に食材を投入して出来た食事の味が可も無く不可も無くだったり、村から貰った服から寝間着を見繕ったりして。俺は出来たてほやほやの新築の自室で初めての床についたのだった。