『琴葉茜』とマイクラ世界   作:糸内豆

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第15話 『琴葉茜』は雨に降られて

「ここは……あ、そうか。新しい部屋か」

 

 目が覚めた時、見慣れない部屋に困惑しそうになった。

 しかし、ここがつい昨日建ったばかりの新拠点ということを思い出す。

 こういう時はとりあえず知らない天井とでも言えば良かったか。何だかんだでもう古いネタだなこれも。それにそもそも天井の素材は今まで寝泊まりしていた部屋と同じオークの木材だし、この部屋を作ったのも俺自身だ。

 

「起きるか。っとと、着替えないと」

 

 ベッドから体を起こし、そのまま部屋を出ようとしたところで今の服装を思い出す。

 今の服は村で貰った寝間着だ。()の見た目に合わせてくれたのだろうか、ピンク色のゆったりとしたものだ。おそらく主な素材は羊毛のはずだが、それにしてはあまり布が厚くないしチクチクする感じもなく着心地は良い。この世界の動植物は元の世界とは似て非なる生物だし、素材の性質もまた変わっているのだろう。レシピブックを見たらクモの糸から羊毛を作るレシピもあったことだし。完成品に全く使用していないはずの素材が使われているのはゲームではよくあることだ。

 ドアから手を離し、部屋に設置したチェストから他の服を取り出す。服というか、正確には鎧かもしれないけど。

 

「布アーマーがこの世界だと残っているとは。便利だからいいけど」

 

 俺が取り出したのは、その名も布アーマーというド直球なネーミングの装備だった。これはPam’sModsというModによって追加されていたもので、先ほど触れたクモ糸から羊毛を作るレシピも入っている。バニラの素材をクラフト出来る代替レシピ自体は色んなModにあるが、クモ糸2つから織布という追加素材を経由して羊毛にするようだから恐らくPam’sModsのものだろうと思う。

 この布アーマーはその織布を素材とすることで作れた装備だ。性能はバニラの革の鎧と同様。要するにゲームにおいては最弱クラスの装備であり、防御力という観点からすれば既に持っている鉄鎧には遠く及ばない。無いよりはマシといったところだろうか。そんな微妙な存在だったためなのかModの更新に伴って削除され、織布は綿生地という別の素材に代わり、その綿生地から直接作れるのはバニラの革の鎧になった。

 ところがこの世界では若干の防御性能を持った外行きの服として、革の鎧共々昔から作られ続けているらしい。まあ気軽に着られて尚且つある程度の防具として役立つんだったら、モンスターのいるこの世界では便利だろうな。鉄やダイヤの鎧をずっと着込むのなんて辛いし。金鎧なんてゲームの時以上に趣味装備じゃないか?

 もっとも鉄鎧もPam’sModsで同じく追加されるハードレザーアーマーの存在で出番が無くなりそうだが。ハードレザーアーマーは蜜蜂の巣を圧搾して出来る蜜蝋、あるいはキャンドルベリーという非食用の作物から作れるワックスと革で製作出来る。手間はかかるがそれでも鉄を使わず、比較的低コストで同等の性能だからな。鉄を様々な用途に使う以上、鉄鎧の代替品があるならそれを使うに越したことはない。

 

「でも、その割には色々と抜けているんだよな……」

 

 ただし、少し気になることがある。それは布アーマーのような削除されたアイテムが残っている一方で、無限水源代わりになる井戸や自動で牛乳が溜まる瓶などといったアイテムがレシピブックには載っていなかったのだ。俺が気がついていないだけで他にも無いアイテムだってあるかもしれない。

 単に載っていないだけなのか、そもそもこの世界には存在しないのか。無限水源はこの世界でも作れるし、牛乳だって採り放題だからその辺りが引っかかるというわけではないと思うのだが。

 と、そんなことを考えていたらお腹が可愛い音を立てた。まるで茜ちゃんボディが腹減ったと抗議しているようだ。さっさと着替えて朝食にしよう。

 1階に降りた俺はそのままキッチンへと向かった。冷蔵庫から野菜を取り出してそれを包丁でカット、しない。CookingForBlockheadsというMODで追加される調理台に調理器具と共にセットするとクラフト可能なメニューが浮かび上がってきたので選択。するといつの間にか手元にはサラダやスープが。後はいつも通りのパンと焼き鶏を用意して朝食の完成だ。

 昨晩試した時にも思ったけど、文明レベルが今までとは段違いだな。むしろ一瞬で出来上がる分、元の世界よりも未来に生きているかもしれない。あれだ、SFでよく出てくるボタンを押すだけで完成品の料理が出てくるみたいな感じだ。レトルト食品や冷凍食品と違って食材の加工からやってるからな、これ。

 

「まあ、味はそれなりなんだけど」

 

 ただし、唯一欠点があるとすれば味か。別にまずいわけではないのだが、どうにも味気ない。村で振る舞って貰った料理は美味しかったのに、何でだろうな? 気分の問題とかではなく、本当に味が違うのだ。今までクラフトで出来る物の品質は一定だと思っていたのだが、そういうわけでは無いのだろうか。

 もぐもぐと朝食を食べ終えた俺はシンクでせっせと皿や調理器具を洗う。作るのは自動だけど洗うのまではさすがにやってくれないようだった。一応食器洗い機なら存在するようだが、現状わざわざ使う程でも無いしどのみちフライパンや包丁には使えないし。まあ作る手間が省けるだけありがたい。料理が趣味の人には逆の方がいいかもしれないが。

 それで、今日は何をするのかと言えば畑や家畜の世話以外にはチェストの中身を運んで、工事中の仮拠点を解体するくらいか。新しい作物を育てる畑を作るのもいいが、あまり気分じゃない。ここ一週間程は遠征して村まで行ったり家を建て直したりと動きっ放しだから残り時間はじっと休んでいてもいいのだが、現状出来る暇つぶしもレシピブック読み直すくらいだしな。

 よし、森の中を軽く散策してみようか。洒落た言い方をすれば森林浴という奴だ。まあ今まで森を歩いていて癒やされた感じは一度も無かったが。日陰にモンスターがいないとも限らないから警戒しないといけないし。まあせいぜい新しい発見が無いか探すこととしよう。……結局ただの探索になりそうだな。

 そんなこんなで俺は特筆することも無く日頃の作業やアイテム整理、仮拠点の解体を終わらせた後、探索用の装備を調えると森へと向かった。一応鉄装備はインベントリ内にあるが、服装は布アーマーのままにしている。どのみちクリーパーの爆発の直撃や高所からの落下だと前者はダイヤ装備、後者は落下耐性でも無ければ即死だしな。それよりは機動力を優先した形だ。ハードレザー一式が作れるようになればそっちを着るつもりだが。

 

 

 森に辿り着いた俺は、以前に調べたのとは別の方向に行くことにした。松明を目印として残しているのでもし夜中になっても迷うことはないだろう。

 どこまでも続くオークの森、たまに見かける野生動物。前に歩いてみた時と代わり映えしない景色だな。やはり軽く見て回るくらいで変化を見つけられる程、この森は小さくないか。正直、退屈である。

 などと思っていたのがいけなかったのだろうか。

 

「うん? ……げっ!」

 

 森の中とはいえ、それにしても暗い気がする。とぼんやり思ったのも束の間。

 急に湿った空気が辺りに漂った、そう感じた次の瞬間には軽快な音を立てて雨が降り出していた。

 あるいは気づいていなかっただけで雨雲が近づいてきていたのかもしれないが、とにかく今は雨から身を隠さなくてはいけない。慌てて近くの木に近寄るとインベントリから斧を取り出して一括伐採、手早くクラフトして木のブロックを用意すると柱を1本伸ばし、屋根のようにブロックを置く。いくらか濡れてしまったが、どうにか雨宿りは出来そうだ。

 

「ここに来て初めての雨とは……」

 

 まさか雨が降ってくるとは。困ったな。これは濡れながら帰るしかないだろうか。

 ゲームなら雨が降っていても大した問題にはならなかったが、この世界だとそうもいかない。現実に近づいたこの世界では濡れたままでいれば体力は消耗するし、風邪を引きやすくなる。そしてこの世界にはお手軽な薬なんか……牛乳が風邪に効くかは分からないが、無いだろうし、医者や病院だっていたとしても日本ほど簡単にかかれるものでもないだろう。

 幸いなのはモンスターは夜にならないと湧かないことか。雨天時の日光は通常より3段階暗くなるが、モンスターが発生するにはまだ明るい。とはいえ時間の変化は分かりづらくなるし、長居のリスクは大きい。雨宿りして少し弱まったら走るか。

 しかし、その考えとは裏腹に雨脚はますます強くなっていく。それどころか。

 

「うひゃあっ!?」

 

 閃光に視界を遮られて何事かと思う間もなく、体の芯まで響くような重低音と衝撃が走った。雷だ。何の心構えも無いところに大きな音をかまされて、思わず悲鳴を上げてしまう。

 まずい、この状況は非常にまずい。いつぞやのスケルトン以来の危機感が背中を這い上ってくる。雷雨は、ただの雨天よりさらに天候が悪化した状況だ。当たる確率はごく僅かだが雷が直撃したらダメージを受けるし、何よりも明るさレベルが大きく下がり昼間の間でもモンスターが発生するようになるのだ。見た目の明るさ自体はモンスターが湧かない程度のため勘違いしそうになるが、実際には夜間以上に危険な状況なのである。

 こうなったらもう籠城しかないだろうか。まるで初日に逆戻りしたような感覚を抱きながらも、今ある柱と屋根を基準にもはや相棒の如き豆腐建築を始めようとして、気がついた。

 

「あ、リンゴの木」

 

 ぼんやりと歩いていたから気づかなかったのだろうか。オークの木に混じってぽつんと1本立っていた。なんだ、こっちを探してれば見つかったんじゃないか。ここまで来てようやく1本見つかったという辺り、村人の自生しているのは珍しい話は本当のようだ。

 そんな場合ではないにもかかわらず、俺は一種の感動もあってしばしリンゴの木に視線を取られた。

 だから、分かったのだろう。

 

「なんか実が少ないし、周りの草も倒れているな?」

 

 そのリンゴの木は自生しているにしては不自然だった。いくつも生るはずの実が残り僅かで、その割には下に落ちた様子でもない。さらに木の周辺の草は伸びておらず横に倒れている。まるで、誰かが踏みしめたかのように。

 誰かがここに来た? しかも様子からしてつい最近のことだ。野生動物がリンゴに興味を示すことはないし、モンスターが食べるはずもない。村人は基本的に村からあまり出ないだろうから、消去法でメイドさん?

 暫し考え込みそうに、なったところで再び雷鳴が響いた。

 

「ひゃっ! ……いかんいかん、早く壁を張らないと」

 

 我に返った俺はセーフハウスを建築する作業に戻る。

 

 

 いや、戻ろうとした。

 

 

 

「――――」

 

 

 

 どうして土砂降りの中で、それを聞き取ることが出来たのだろうか。

 後でいくら考えてみても偶然としか理由をつけられなかった。

 だが、それでも俺はこのとき確かに聞いた。聞き取ることが、出来たのだった。

 

 

「……悲鳴?」

 

 聞き覚えの、あるような。

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