『琴葉茜』とマイクラ世界   作:糸内豆

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第21話 『茜』と葵の畑拡張

 1階に降りた俺は葵が朝ご飯を作っているのを、食堂の椅子に腰掛けてぼんやりと見ていた。葵はチョコミントアイスを讃えてそうな感じの鼻歌を歌いながら上機嫌にしている。エイヤッ。

 やはり通常の手段で料理を作ること自体は出来るようで、葵がどうせなら普通に作りたいと言ったのだ。時間に追われている訳でも無いし、料理というのは出来上がるのを待つのもまた醍醐味である。俺は頷き、待つことにした。

 

「お待たせ、簡単なものだけど出来たよ」

「美味しそうやんか、おおきに」

 

 2人でいただきますと手を合わせる。

 テーブルに出てきたのはトーストに卵スープ、それからチキンサラダだった。

 確かに葵の言う通り簡素ではある。だがスープの卵は一塊になっていたりしないし、サラダも食べやすくカットされた野菜が丁寧に盛り付けられていたりと、もう見た目からして美味しそうだ。俺だったら食えてそこそこの味ならいいで、雑に済ませてしまうところまで行き届いている。葵ちゃんはきっと良いお嫁さんになることだろう。

 

「それで今日はどうするの?」

「畑広げようと思うとる。今は小麦しか育ててへんから、野菜使い切ったらパンと焼き鶏の生活になるで」

「パンと焼き鶏だけはきついなぁ。うん、分かった」

 

 さほど時間もかからず朝ご飯を食べ終えたところで葵が予定を聞いてくる。

 そこで俺はかねてから考えていた畑の拡張をしようと答えた。

 村で色々種や苗木を貰ったのに手つかずのままだからな。このままじゃ葵に言った通り、ある分を使い切ったら食の水準が逆戻りだ。一度上がった生活水準を下げるのはなかなかに厳しいものがある。急務と言えた。

 それに畑作りはクラフターの能力を試すのには手軽だし、葵にとってもいい練習になるだろう。そういえばこの世界では水流による回収とか出来るのだろうか。ゲームの頃は段々畑を作ってレッドストーン回路で水を流してとかが比較的手軽だったのだが。まだレッドストーン持ってないから回路は作れないが、そこら辺は後で試してみるか。

 外に出て畑の方に向かう。

 既存の畑を拡張することも考えたが、村で予想以上に色々と貰ったからな。

 新しく作ることにした。

 

「ほな、ここからあの辺りまでズビャビャっと作るで」

「うん。……うん?」

 

 葵にクワを渡しつつそう言うと、彼女は何か腑に落ちないような表情をしながら頷いた。

 それが少し気になったが、ともかく畑作りを開始だ。

 まずはいつも通り9×9の範囲に区切り、その真ん中に水源を設置する。

 それからざっと範囲内の土を耕して、というところで葵に止められた。

 

「お姉ちゃん、ストップ」

「ん? どうしたんや葵?」

 

 一体どうしたのだろう。

 首を傾げる俺に葵は眉を寄せて少し困り顔で言った。

 

「えっとね、多分お姉ちゃんってこの規模のをいくつか作る気なんだよね? どう植えるつもりなの?」

「んー1列ずつ別の種類のを植えてくつもりやけど」

 

 俺がそう答えると彼女は頬を掻いた。

 

「多分、1列に数種類でも充分足りるんじゃないかな。聞いた感じの成長速度だと育ったら必ず収穫する場合、ローテーションしてる間に備蓄分が溜まるでしょ? 消費が追いつかないんじゃないかなぁ」

「あー……せやなぁ」

 

 葵に指摘されて、言われてみればと思い直す。

 確かに1食で消費する量はたかが知れてるし、使い切れない程に備蓄したって倉庫が埋まって困るだけだ。それに今回植えるPam’sModの農作物はバニラの小麦やニンジン等とは違って、1回収穫しても成長段階が1つ前に戻るだけで植え直す必要がないものばかり。大人数が暮らしている村でも食料には余裕があるような状況だったから交換に使うのも無理だろう。

 この世界に不作なんて概念は無いだろうしな。全部が全部ではないが、マインクラフトの法則に沿っている以上、本来だったら懸念すべき事態のほとんどを想定しなくていいのだ。

 

「後は通り道を確保した方がいいと思う。収穫自体は離れていても出来るけど回収するには近づかなきゃいけないから」

「確かに小麦と違って分け入る訳にもいかんなぁ。言ってくれて助かったで葵。……む?」

 

 どうにもゲームの時の感覚で考えてしまいがちだと反省する。

 その間に、気がつけば手が伸びて葵の頭を撫でていた。

 

「ん、どういたしまして」

 

 自分の行動なのにも関わらず内心焦ったが、彼女の反応が嫌がる感じでもなかったので安堵する。

 

「ほな、ちょっと考え直そうか。葵はどんな野菜使うん?」

「んーそうだね」

 

 それからは使うことの多そうな作物を中心に、何を育てるのかを2人で話し合った。

 最終的には最初に考えていたよりはずっとこぢんまりとしていて、でも生活していくには充分な量が採れるくらいの規模に落ち着いた。

 

「えーっと、リンゴにバナナにサクランボにレモンに……モモもええかもな」

「いやいや、こっちもどれ育てるか選ぼうよ」

「こ、こっちは主に輸出用やから。村での需要が大きいねん」

 

 一方で果物の方は野菜畑よりも大きく、色んな種類をまとまった数育てることにした。

 それは実は村人が育てている農作物は基本的に野菜ばかりで、果物はそんなに多くないということを思い出したからである。

 果樹に生るという性質上、畑に植えて継続収穫出来る野菜より場所も時間も取られる果物は優先度が低く、ほとんど嗜好品のような形なのだそうだ。

 その点、ここの拠点は場所も余ってるしクラフターの能力で簡単に植え直しが出来るし、何ならスケルトンの骨から骨粉をクラフトして一気に育てることだって出来る。果物はクラフターの能力以外では村と交易する重要資源になりそうだ。

 

「べ、別にウチがいっぱい食べたいとかそういうわけやないんやから、勘違いせんといてよ!?」

「じー……」

 

 だというのに葵は半目でこちらを見つめてくるのだから困ったものだ。

 ……いや、本当だぞ。この世界じゃ珍しい甘味目当てだとか、そういうわけではないのだ。決して。そんなことはちょっとしか、いやいや全然思ってない。俺は食いしん坊の女の子とかじゃないから。そういうのは某後輩VOICEROIDの役目だし、俺の中身は男だから。

 

「つ、次や次! 次のこと教えるで!」

 

 ともかく農作については一段落したので、別のことを教えることにする。

 家畜については一応昨日教えたし、あまり広げる気も無いしな。よし、ブランチマイニングにしよう。

 

「何だか、採掘場って感じはしないね」

「まあ地上部分はそうやな」

 

 地下採掘場の入り口を見て葵がそう呟いた。

 そういえば採掘場の周りについてはあまり触れていなかった気がするな。

 石炭や鉄目当てで比較的浅いところでの採掘を行なっているのは前にも言った通りだが、

そんな採掘場の入り口はちょっとした小屋の中にある。

 これは地上に出た時にモンスターとバッタリ遭遇したり雨が流れ込んできたりするのを防ぐためであり、またちょっとした鉱石の保管倉庫としての役割を兼ねてもいる。それに中でモンスターが湧いても、ここまで逃げてきて扉を閉めれば一時凌ぎも出来るし。水中では息が出来ない割に、どんな地下深くでも呼吸は出来るマインクラフトだからこそだな。

 入り口の小屋に入ると、中には地下へと続く横3マスの階段がまず真ん中にある。この階段は左右が文字通りの階段で、真ん中はいずれトロッコを走らせるための空間となっている。

 それから階段の脇には鉱石やツール作成用の素材をしまってあるチェストや作業台が設置してある。実際にはそんなに根を詰めて採掘することも早々無いとは思うが、まあこの辺りはゲームの記憶の名残といったところだ。

 

「階段、急だから気ぃつけてな」

「う、うん」

 

 松明を設置しており明るいとはいえ、やはり地下というのは閉塞感のあるものだ。

 葵は少し尻込みした様子だったが、恐る恐る階段を降り始めた。

 浅めとはいえ、それでも高さ5メートル分の階段というのはやや長めだ。そのうちちゃんと金とかレッドストーンとか手に入れてトロッコ作らないと。……その設備整うまでの間、さらに長い階段の行き来や採掘があるのだが。

 

「ここが採掘場や。正直、見るべきところもそんな無いんやけど。黙々とひたすら掘るだけやで……」

「あ、あはは……」

 

 死んだ魚のような目でもしていたのだろう。採掘している時の心境を思い返して呟く俺に、葵は苦笑いをした。

 碁盤上に掘り進めたり時々一括破壊で回収したりで広げられた地下空間は殺風景もいいところだった。洞窟に当たることも無かったし、まだまだ規模としては小さめということもあるだろうが。物理法則を変化させるMODも入っていないようだから落盤もないしな。

 

「より深くを掘るようになったら、ここを倉庫にしてもいいかもね」

「おっ、せやな」

 

 採掘場を見渡した葵の言葉に頷く。

 そうか、別に地上にわざわざ倉庫を建てなくても、この空間を使うという手もあるか。

 ちょっと距離があるのはデメリットだが、新しく倉庫を建てるよりはずっと楽だし。

 どのみち素材がもっと有り余るようになってからにはなるだろうけど。

 

「ウチはあんまりそういうの考えんで作ろうとしてまうからなぁ。葵はほんま気が利く子やな」

「まるでお姉ちゃんが私のお母さんみたいな言い方だね」

 

 ゲームの先入観にとらわれがちな俺としては、別の角度から考察してくれる彼女は本当にありがたい。

 そう思って礼を告げてみたのだが、葵としてはあんまりしっくり来ないようだった。言い方が悪かったか。

 しかし、俺が葵ちゃんのお母さんか。中身の性別は男だし、恐らく年齢も年上とはいえ親子ほどには離れていないだろうけど。

 うーむ。

 

「ウチは別に葵のお母さんでも構わんで」

「却下。不安」

 

 有りかもしれない。

 そう思って葵に言ってみたが、無表情にバッサリ切り捨てられてしまう。

 

「そんなぁ」

 

 情けない声を出す俺に、葵は口角を上げて鼻を鳴らしたのであった。

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