『琴葉茜』とマイクラ世界   作:糸内豆

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第26話 微かな違和感

「ん、ん~……よく寝た」

 

 翌朝、俺は爽やかな目覚めを迎えた。

 昨日の疲れがきれいさっぱり消えており、体中に力が漲っている感じがする。

 凄いな茜ちゃんボディ。まるでエネルギーの有り余ってる小学生みたいだ。

 ……なんて言い方をするとちょっと貶しているみたいだろうか。

 控えめとはいえちゃんと出てるところは出ているし。

 

「今日は……あー、荷物の整理と拠点の見回りか。まあ大丈夫だとは思うが」

 

 さすがに1日くらいであれば畑や動物達がどうこうなっていることも無いだろう。

 まあ畑はともかく動物の餌については可哀想なことをしたが。

 ……あの俺に対してはやたら態度のふてぶてしいことを思い出すと同情が薄れそうになるが。

 何にせよ、まずは朝ご飯だな。

 そう思い着替えを済ませて1階へ降りた俺だったが。

 

「ん?」

 

 いつもなら先に起きて朝ご飯を作っている葵の姿が無い。

 一瞬困惑したものの、だいぶ疲れた様子だったからまだ寝ているのだろうと気を取り直す。

 出会う前のことを除けば、あれが葵にとっては初探索だったはずだ。

 それが思いがけないハプニングに見舞われ、危うく命を落としそうになって……。

 ……ってよく考えなくても、これトラウマになっていてもおかしくないぞ! 

 

「……葵!?」

 

 内心で簡単なことにも気づかなかった自分を罵倒しつつ、慌てて2階に上がる。

 俺は葵の部屋の前に立ち、声をかけた。

 

「葵!」

「……あっ!? いけない!」

 

 呼びかけから僅かな間があり、一瞬肝が冷える。

 だが、それからガバリと布団をはね除ける音と葵の声が聞こえた。

 聞く限りでは慌ててはいても、憂鬱な感じは無い。

 

「んんっ、ごめん寝坊した! 今起きるから!」

「ええでーそんな急がんでも。……ふぅ」

 

 いつも通りの雰囲気に胸を撫で下ろす。

 待っていると程なくして扉が開き、葵が顔を出した。

 

「おはようさ、ん?」

「おはよう! ごめんね、今から朝ご飯作る……えっ?」

 

 俺は、挨拶もそこそこに階段を降りようとした葵を思わず引き留めた。

 自分でも何故そうしたのか理解出来ないまま、彼女の肩を掴んでじっと顔を見つめる。

 

「お、お姉ちゃん? 急にどうしたの……?」

「ん……いや、なんでもない。スマンスマン」

 

 戸惑う葵を暫し眺めた後、俺はそう詫びつつ葵を離した。

 

「もう、変なお姉ちゃん。じゃ、ちゃちゃっと作っちゃうから!」

「分かったでー」

 

 腑に落ちないといった様子ながらも朝食のことを思い出したのだろう。

 今度こそ葵は階下に降りていった。

 

「……何なんだったんだ、今の感覚?」

 

 一方で、どうにも腑に落ちないのは俺もだった。

 なんと言おうか。部屋から出てきた葵の表情を見た瞬間、違和感を覚えたのだ。

 別に葵が変な格好や寝癖をしていたわけでもないし、ましてや俺みたいに中身が別人になってるとかそういう風でも無い。初めて会話した時の、彼女が本物の琴葉葵であるという感覚は今でも確かにある。

 しかし、だとすれば何なのだろう。

 

「気のせい、か?」

 

 拭いがたいものが思考の隅に残るのを感じつつ、俺は食堂へと向かった。

 

 

 

「そういえば村には1回行ったきりやな」

「村? ああ、そういえば言ってたね。村があるって」

 

 葵の作ってくれた朝ご飯に舌鼓を打ちながら、ふと村に行っていないことを思い出した。

 呟きに反応した葵へと頷く。

 

「せや。村の整備と引き換えに色々貰うって約束したねん。別に何時とかは決まってないんやけど」

 

 村と交わした約束はかなり緩い。工期があるわけでもなく、定期的に行くというわけでもなく、時々村に寄ったらそうするといったくらいのものだ。もちろん間を置きすぎても良くはないだろうが、それでも前に話した時には都合の良い時で構わないと言っていた。

 そもそもこの世界にはあまり火急の用というものが無いらしい。人々はゆったりとした現状に満足していて、技術やら経済やらを発展させるという発想そのものが希薄のようだ。それは必死にならなくても充分に食べ物があり、生活圏から出ない分には命の危機に晒されることが少ないのもあるだろう。

 だがそれ以上に、どこか根本的に地球における生存競争の原理とはかけ離れたものがあるように感じられる。まさしく牧歌的な、マインクラフト世界といったところだ。まあプレイヤーがその気になれば、いくらでも殺伐としたゲームにはなるけれども。

 

「行商人が珍しいモン売ってたら取っておいてほしいとも頼んだし、また明日辺り行ってみてもええかもしれんなぁ」

「そうなんだ。それじゃあ、その時は私もついてくよ」

「それは構わんけど、葵大丈夫か?」

 

 先ほどのこともあって、事も無げについてくるという葵につい尋ねた。

 

「大丈夫って、何が?」

「ほら、昨日色々あったやん? 外に出るの怖くなったり、せえへん?」

 

 俺の言葉に葵は得心が行ったという表情をした。

 それから少し考え込んだ後、口を開いた。

 

「うーん、確かに外の危険性は身を以て体感した。けど」

「けど?」

 葵はきっぱりとした口調で言った。

 

「お姉ちゃんが一人出かけてるのを待ってる方が怖いかな」

「あー……スマン」

 

 ぐうの音も出ない。

 そんなことないと言い返すには心当たりがありすぎた。

 もっと言えば昨日増えたばかりだ。

 

「思ってたんだけど、お姉ちゃん時々向こう見ずになるから。気をつけてね?」

「善処するわ……」

 

 この頃、姉ムーブが出来てない気がする……茜ちゃんの代わりしないとあかんのに。

 これじゃあ全くどっちが姉で妹なのか。

 そんなことを思いながら、俺はただ頷くことしか出来ないのであった。

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