「この村が、クラフターによって?」
「あくまで伝承ですがの」
村長は話し始めた。
――かつて、1人のクラフターがこの地にやってきた。
そのクラフターはとにかく地面を均すことが好きで、
当時森と丘があったこの土地を見てたちまち夢中になってしまった。
何日、何週間、何ヶ月とかけて、何本もシャベルやツルハシを使い倒して、
ついには平野としか呼びようがないまでに土地を均した。
筋金入りの整地厨やな、と言いそうになった。
マインクラフトにおいて建築は醍醐味の1つだが、当然そのためのスペースが無ければ建築は出来ない。
もちろん地形に合わせた建築をする手もあるが、やはり平らな土地で建てる方が基本的に楽である。
そこで行なわれるのが整地である。やること自体は単純だ。読んで字の如く、地面を均すだけ。
ただし、世の中にはこの整地そのものを目的とするクラフターが存在する。
建築のためでもなく、素材のためでもなく、ただひたすら平らな地面を広げていくのである。
極まった人になるとMODに頼ることもなく、何年もずっとひたすら掘り続けている。正直なところ俺には理解の追いつかない領域ではあるが、まあそういう遊び方もあるのだ。
……でも、今聞いている話のクラフターはこの世界でそれをやったんだよな。掘った分だけ、動いた分だけ疲れるこの世界で。
――広がる平野に満足したところで、クラフターは息抜きに何か建てようと考えた。
凝り性だったのだろう。
自分のための一軒家を建てたものの満足がいかず、さらにもう一軒、
まだ何か違うとまたまた一軒が建ち、時には息抜きの息抜きに別の施設を建て。
納得の行く家が完成した時には、立派な町が出来上がっていた。
この世界での経験から察するに、この間にさらに何ヶ月も経っているな。
設計を考えるのも含めると今の拠点を建てるのに4日くらいかかったからな。
十分短いとは思うが、これはあくまで手持ちの素材で足りる範疇に収めたり、細部の装飾や仕掛けなどを施さないシンプルな設計にしたりした上での日程である。
話を聞く限り、途中で足りない素材を集めてきたり建て直したりしたことだろう。工期が伸びに伸びていくパターンだ。
――クラフターは人気のない家が立ち並ぶのはさすがに物寂しいと感じ、
余所から住人を連れてこようと考えた。
そこでクラフターは連れてくる住人のために大きなトロッコ駅を築き上げると、
交流のあった村から移住してもいいという村人達を町へ招待した。
村人達は立派な家々の様子に喜び、そのまま互いに熱い眼差しを交わすと
おもむろに大量にドアがついた家へと入っていき
「わあぁぁぁ!?」
「お姉ちゃん!?」
「ど、どうなされた茜殿!?」
急に話の流れがとんでもない方向へ行きそうになり、思わず話を止めた。
「い、今話してるのは村の成り立ちについてやろ? なんで話がそっちに行くねん!?」
「あっ……そうでしたな。この辺りが好きでしてな、つい」
俺のツッコミに対し、村長は顔を赤らめると恥ずかしそうに言う。
「ちなみに話に出てくるクラフターはこの光景を喜んで見ていたそうですぞ」
「いらんわ、そんな情報!」
「えっと、お姉ちゃん。さっきからどうしたの? 話の流れが見えないんだけど……」
俺と村長がそんな応酬をしていると、蚊帳の外になっていた葵がおずおずと声を上げた。
彼女は不思議そうにしている。
「村人さん達が家に入っていくのが、そんなに変?」
「え? あっ……」
葵の様子に俺は気がついた。
そうか、葵は知らないのか。村人がどうやって増えるのか。
教えるべきか、でも何だか純粋なものを汚すような気がして憚られる。
悩んだ挙げ句に俺は一言だけ言った。
「……アダムとアダムや」
「え? え?」
「すまん、話の腰を折ってしもた。とりあえず今のところを抜かして続けてくれん?」
首を傾げる葵をあえてスルーし、村長に続きを促す。
村長も気を取り直したようで、話を再開した。
――それからかれこれ何年かが過ぎた。
町は人で賑わい、この地域でも有数の大きな都市と呼べる程になっていた。
開拓者であるクラフターもまたこの地に根を下ろして活動するようになっていた。
全てが何の憂いもなく進んでいた。
災厄の日が訪れるまでは。
「災厄……」
隣で葵が呟いた。
いよいよ話の核心に入るのだろう。
村長の語りにも熱が入る。
――ある日、突然大きな咆哮が響いた。
驚いた人々は家を出て空を見上げると、瞬く間に日が落ちて世界は闇に包まれた。
やがて暗い空の彼方から何かがやってきた。
巨大な黒い竜だった。
竜は町を睥睨すると飛び回っては炎を吐いたり、その巨体で家を吹き飛ばしたりと暴れ回った。
そうしてひとしきり町を破壊すると、どこかへと飛び去っていった。
エンダードラゴンか?
でもあいつはクリエイティブモードで呼び出すかMODでも使用しない限り、通常はエンドの外には出てこないはずだし、村人を襲うことも無かったはずだ。
疑問を抱きながらも続きを聞く。
――人々が混乱から立ち直る間もなく、
今度はモンスターの群れが波のように町へ押し寄せてきた。
大勢の人が犠牲となる中、クラフターは身近な住人を集めると
頑丈な地下室を作ってそこへと避難した。
町を築き上げたクラフターは、ただ破壊と暴虐が繰り広げられるのを
歯噛みして耐えるしかなかった。
ようやく静かになってから地上に顔を出した時、
そこに町はなく、ただ平野だけが広がっていた。
「そんな……」
葵が声を漏らした。
クラフターにとって長い時間をかけて築き上げた建築物はまさしく宝である。
ましてや町ほどの規模ともなれば、どれだけ無念だったことか。
それにこの世界の住人は生きているのだ。
――その後、クラフターは生き残った住人と共に小さな村を築いた。
それからしばらくはこの地で生活していたが、やがてどこかへと旅立っていった。
「世界の歪みを正さなければならない」と言い残して……。
「世界の、歪み……」
「詳しい意味までは伝わっておらぬが、ともかくこれがこの村の始まりだと言われておる」
話し終わった村長は一息ついたようだった。
はたして今の話のどこまで真実なのかは分からない。
なんでエンダードラゴンと思しき存在が現われて町を襲ったのか?
どうしてモンスターの群れが突然出てきたのか?
疑問は尽きないが、1つ言えることがあるとすれば……。
「そのクラフターには、心当たりがあったっちゅうことか」
口ぶりからして、ただ築き上げた町が破壊された傷心から去ったわけではないだろう。
そのクラフターには何かしら災厄が起きた原因に心当たりがあり、故に対処するために旅立っていったに違いない。
だが……現に昨夜、ゾンビの異常な襲撃は起きた。
クラフターは災厄を止めることに失敗してしまったのだろうか。
「うーん、今すぐどうこう出来る問題じゃ無さそうやな」
世界の歪みというのがいったいどういう意味なのか、何を指すのかさえ分かれば、もうちょっと具体的に取るべき行動が分かるのだが。
しかし、それが分からない以上はお手上げだ。
村長も特に残念そうにすることもなく頷いた。
「そうですな。それにクラフターに関する話は他にも色々ありますからの。あのポーションを置いていったクラフターもまた別の人物らしいと伝わっておる」
「そんだけ大昔の話っちゅうわけか。まあ伝承やしな」
それだけ長い年月を経ているのに同様の出来事が起きたのは昨日が初めてっていうのもなぁ。
全くの別物では無さそうだが、かといって伝承の災厄そのものとも言えない。
玉虫色の答えになってしまうが、現状はそう判断するしかないだろう。
「ありがとな、村長」
「いえいえ、こちらこそ久しぶりに話せて楽しかったですぞ。村人はもう皆が知っておって話し甲斐がありませぬからの」
そう言って村長は朗らかに肩を揺らした。
さて、俺と葵は村長の家を後にし、ひとまず村での自宅に戻ることにした。
その途中で葵に問いかけられる。
「お姉ちゃん、これからどうしようか」
「うーん」
村長の話を聞いて色々と思うことはある。
それは葵も同じだろう。
けれどもきっと、今は考えても仕方のないことだ。
これから何をしようかと考え、あることに思い至った。
「せや、村の守りを固めんと」
「あぁ、そうだね」
結局のところ、昨夜の襲撃であんなに追い詰められたのは防御が不十分だったからだ。
何匹かたまに寄ってくるモンスターを防ぐ程度の想定で巡らされた柵。
今まではそれでよかったのだろうが、ああなった以上はそうも言っていられない。
昨日の襲撃で残った柵もダメージを受けているだろうし。
門番に声をかけて、ひとまず村周辺の工事をするかな。
元々、何かしらの手直しをするつもりで村に来たんだし。
「ただいまー……」
自宅のドアを静かに開ける。
メイドさんはまだベッドで寝ているようだった。
すぅすぅと寝息を立てている。
「こうしてれば純粋に可愛いんやけどなぁ」
「あはは……」
俺がそう言うと葵は苦笑した。
でも、実際にはこっちの胃がもたれそうになるような甘党の健啖家で、しかも喋れないのかは知らないがジェスチャーで意思を示し、どうも悪戯好きな気配もある。
色々と助けてもらってるし、優秀なメイドさんであるのは間違いないだろうが……。
「お茶でも飲んでから行こか」
「そうだね」