『琴葉茜』とマイクラ世界   作:糸内豆

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第34話 防壁建設

 葵と軽くお茶をした後、俺達は門番のところへと足を運んだ。

 昨夜はあんな襲撃があったにも関わらず、村は普段と変わらない様子であった。

 ただ通りかかる度に葵共々、村人達から感謝の言葉を投げかけられるのは正直こそばゆい気持ちになる。

 別に悪い気分ではない。

 けれどもゲームだったら気軽に村を滅ぼしてたような身でいい気なものだ、そう冷ややかな視線を向ける自分がいるのも確かだった。

 

 「おーい、おっちゃーん」

 

 門番はいつも通りの場所にいた。

 違うのは門が無くなって、代わりにブロックが積み上げられていることか。

 やったのは俺だけど。

 

「茜殿、体の具合は大丈夫か?」

「バッチリや。昨日は運んでくれたんやろ? ありがとな」

「なんの、村を救ってもらったことに比べれば大したことじゃないさ」

 

 社交辞令というわけではないが、お決まりな感じの挨拶を交わして本題に入る。

 

「今回は村の防御固めようと思うねんけど」

 

 俺がそう言うと門番は頷いた。

 何でも昨夜の襲撃は前例のないことだけに、また起きるのではないかと不安に思っている村人は多いそうだ。

 まあ、そうだろうな。

 災害らしい災害の存在しない世界に突然降って湧いた大規模襲撃。

 元の世界だったら不安から騒動に発展して、二次災害が起きてもおかしくないところだ。

 

「お姉ちゃん、どうするの?」

「ひとまず柵を壁に変えるで。それから外側もちょっと掘り下げて石垣つける」

 

 要はお城の壕のようにするのである。

 さすがに大がかりなものには出来ないので簡易版といったところになるが、それでも現状の柵だけで囲うだけよりはずっと耐久度が増すはずだ。

 

「まあ今日だけじゃ時間が足りないから、まずは柵の再設置やな」

 

 柵も見た目からは考えられない強度があるのだが、昨日の襲撃ではそのうち限界を迎えそうになっていたからな。

 恐らく防具のように耐久度が減っていることだろう。

 試しに手近な柵に寄りかかってみる。

 

「おお~グラグラして、わぁっ!?」

「ちょっ、お姉ちゃん!?」

 

 そのまま倒れた。

 どうやら限界だったようだ。

 

「あ~びっくりした、ふへ?」

「お姉ちゃん?」

 

 打ったところを摩りながら起き上がると、不意に葵が頬に手を伸ばしてきた。

 何かと思う間もなくきゅっと抓られて、ぎゅうぅ~っと効果音でも鳴りそうな痛みが襲ってくる。

 

「危ないのは無しって言ったよね?」

「ひゅみまふぇん」

 

 まさか倒れるとは思っていなかった。

 なんて、据わった目つきになった葵に反論する度胸が湧くわけもなく、俺は平謝りした。

 ちなみに門番の野郎は素知らぬ顔で警備に戻っていった。

 

「えいえい」

「ウヒのほっぺへ遊ばんほいへ~!」

 

 途中からは何だか葵の目的が変わっていた気がしなくもない。 

 そんな締まらない感じながらも村の防壁作りが始まった。

 とはいえ、やること自体は単純なので特筆すべきこともない。ひとまず柵や門の辺りを直し、夕暮れまでに出来るところまで木材の壁に置き換える。

 途中からは起きたメイドさんがやってきて、無表情で興味深そうに作業を眺めていたり一緒にティータイムをしたりしたがそのぐらいだろうか。

 

「あれ? そういえば何か忘れてる気が……」

「ん~そんなんあったかいな?」

 

 たまにそんな会話を交わしつつも夜になったため就寝し、作業は翌日に持ち越しとなる。

 案の定、途中で木材が足りなくなったために近隣の森まで素材集めに出かけることになった。

 作ってる最中で材料が足りなくなるのはマインクラフトあるあるの1つだが、この世界だとその集める作業が一層手間だ。

 クラフターの能力やインベントリがある分、通常ではあり得ない速度で作業は進むのだが、それでも村と森を行き来するのは十分時間がかかる。

 ただトロッコがあればとも思ったが、そこまでの距離ではないんだよな。

 第一レールを敷設しないと使えないし、さらに言えば速度を稼ぐためのパワードレールも必要だ。

 そうなると金インゴットやレッドストーンダストを集めないといけなくて……ああ、そうだ。

 鉱石ついでに思い出したけど、拠点に戻ったら本格的にブランチマイニングを始めた方がいいだろうな。

 昨日みたいな出来事が起きるならダイヤモンド製の装備が欲しい。

 ゲームみたいに気軽に掘り進めるとはいかないだろうが、きっとそれだけの価値はある。

 なんせ命が懸かっているのだ。備えられそうなものは備えていかなければ。

 閑話休題。

 ともかく葵と2人でせっせと作業を進めること数日。

 

「これで……完成っと!」

 

 葵が最後のブロックを設置し、ようやく村を囲む防壁と壕が完成した。

 のんびり眺めていたメイドさんがぱちぱちと拍手をしている。

 

「お疲れさんやで」

 

 村を囲む塀は3ブロック程の高さがあり、外側にはクモが登ってくることを考慮して返しをつけている。さらに外側のすぐ脇は2ブロック程度掘り下げており、塀の真下は丸石にしておいた。土のままだと、そのままゾンビに掘られるのではないかという懸念があったためだ。門の辺りだけは普段の行き来のために橋を渡してあるが、いざという時は封鎖出来るようにトラップドアで作っている。さらに今までは木製のドアで出来ていた門を鉄製の物に変えた。鉄製のドアは直接開け閉めは出来ないため、隣に設置したレバーを使ってもらうことになる。手間にはなるが安全には代えられない。

 塀の素材は入手性を考慮し、近隣の森に生えているオークの木にした。原木1つから4つ作れるし、苗を植えればそのうち再び生えてくる。これが一番手軽だった。

 耐久性を考えるのなら全部丸石ブロックにした方が上なものの、ともかく数が足りない。ゲームだったら丸石製造機……溶岩流と水流が接すると丸石が生成される仕組みを使った装置で入手するなりブランチマイニングの副産物として手に入る丸石を使うなりしていたのだが。

 前者については1人で活動していた時に試してみて溶岩から発生する熱に耐えつつ、延々と採掘しなければならないということから、とてもではないがこの世界では出来ないと断念。

 後者については拠点にある分を使っても足りず、今から掘るのも時間がかかるのでやめた。それに拠点の防御を固めるために使いたいというのもある。普段はあっちで暮らしている以上、向こうでも防壁を建てないと不安だし。

 

「うーん……」

 

 出来上がった防壁を眺めながら葵が浮かない顔をする。

 

「苦労した割にはいまいち安心感が無いというか……」

「それはしゃあないなぁ、朝までの時間稼ぎが目的やし」

 

 柵だけだった時より防御力が上がっているのは確かなのだが、いかんせんあの大群に囲まれた経験の後だと頼りなく感じるのは分かる。1ブロックの厚みがあるとはいえ塀は木ブロックだし、壕にしたってあの数が押し寄せたらすぐに埋まる程度でしかない。ゾンビが重みで圧死したり足場が悪くなって少しでも塀への攻撃が弱まったり、期待出来るのはその程度だ。

 けれども現状用意出来る素材だとこのぐらいが精一杯だろう。元よりゾンビを撃退するようなことは考えていない。一晩籠城し、朝になって日光でゾンビが燃えて壊滅したところであのスポーンブロックを破壊する。そんな前提だ。

 村の住人が戦えるのならもうちょっと違う構造にもしたのだが、話を聞く限り何代にも亘って平和な生活を営んできた彼らにそれを求めるのは酷というものだろう。

 

「ほんまやったら黒曜石が一番ええねんけど」

 

 バニラのマインクラフトにおいて、プレイヤーが自由に使えるブロックで最も耐久力が高い黒曜石ブロック。ただし、溶岩源を水で覆う必要があって入手性はさほど高くないし、何よりダイヤモンド製のツルハシが必要になるので現状は使えない。ゲリラMODなどの頻繁に爆発が発生する環境下では拠点を守るために必須レベルとなったりもするが。どのみち現時点では縁の無い素材だ。

 

「黒曜石? 割れたりしないの?」

「葵、ツッコんだら負けや」

 

 そんなことを話していると門番がやってきた。

 何やら見慣れない村人を連れているが……まずは出来上がったことを伝えるか。

 

「おっちゃん、いいとこ来たなぁ。出来たでー」

「そうか! いやあ随分と立派になった、これで皆も安心するだろう」

 

 内心どんな反応が返ってくるかハラハラしていたが、良さげな感触だったので安堵する。

 ここの人達ならよほど変なのを作りでもしない限りはOKを出してくれる気もするけど、それはそれ、これはこれだ。

 作った以上は喜んでほしいのが人情というもの。

 

「おっとそうだ。茜殿に葵殿、実は紹介したい奴がいるんだ」

「そちらの方ですか?」

 

 葵が声をかけると門番と一緒にいた村人が頷いて一歩前に出た。

 いや、村人なのか?

 何となく異国情緒を感じさせるフード付きのローブ。

 大きい風呂敷包みを背負っていたり動物を連れていなかったりと違いはあるが、この人はもしかして……。

 

 

 

「初めましてあっしは村や町を渡り歩いておりますしがない行商人ですいやあ驚きましたよ前までは柵だけだったのにこんな立派な壁や壕がついてて一見知らない村かと思っちまいましたが門番は見知った顔だしはて何が起こったのかと思えば伝説のクラフターが来ていてしかも2人もいらっしゃるというじゃないですかこれは是非ともお声がけさせていただきましょうと思った次第でございまして」

「聞き取れんわ!」

 

 息継ぎも無ければ言葉を反芻する間もなく繰り出されるマシンガントークに、俺は思わずそうツッコんでいた。

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