『琴葉茜』とマイクラ世界   作:糸内豆

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第36話 拠点を目指すも

 気づけば時刻が昼過ぎになっていたということもあり、俺達は家へと戻った。

 今は葵が昼食を作っているのをメイドさんと一緒にぼんやり眺めている。メイドさんにも自分の宿泊場所があるはずなのだが、いつの間にかすっかりこの家に居着いている。葵のご飯とおやつが目当てであろうことは言うまでもない。

 しかし、メイドと言ったらむしろ家事をする側では……まあ細かいことはいいか。

 

「はい、おまたせ」

「おおきに」

 

 今日のお昼はナポリタンだった。茹でたスパゲティにレトルトソースをかけて完成といったものではなく、しっかりとソースをからめてあって具のウィンナーやピーマン等も食べ応えのある本格派だ。昭和チックな洋食店のイメージ。まあパスタの本場であるイタリアじゃナポリタンはないらしいが。

 

「さて、外壁も作ったことやし、そろそろ拠点に戻ろか?」

 

 舌鼓を打ちつつ今後のことを話す。

 葵の体調不良やら大襲撃やらあったものの、本来は行き来含めて3日くらいで帰る予定だったのだ。

 僥倖なことに行商人と会うことも出来たし、そろそろお暇しても良い頃合いだろう。

 

「そうだね、向こうも防御固めないといけないだろうし……あっ!」

 

 俺の言葉に頷いていた葵だったが、突然何かを思い出したのか大きな声を上げた。

 驚く俺に対し、葵は慌てた様子で言う。

 

「お姉ちゃん、動物さん!」

「……あっ!」

 

 一瞬遅れて葵の言っていることを理解し、頭の片隅にあった違和感が氷解する。

 そもそも数日で帰る予定を立てていた理由が、飼育している動物達の世話があるからだったのをすっかり忘れていた。

 

「どどどないしよう葵ー!」

「急いで帰るしかないよ!」

 

 そんな風に2人で慌てていると、不意にくいくいと袖を引っ張られる。

 見れば口の周りをソースで赤く染めたメイドさんだった。

 とりあえず手元のナプキンで拭いてあげた。

 

「何やメイドさん……えっ、平気やって?」

 

 フォークを片手に、いつも通りの器用なジェスチャーでメイドさんは動物について解説してくれた。

 曰く、この世界の動物は1週間やそこらなら別に餌を与えなくても生きていけるぐらいには食い溜めが利くそうだ。もちろん可能なら毎日餌をやった方がいいらしいが、たくさんの動物を飼育している農家の中には2~3日に1度たくさんやって済ませるところもあるとか。

 

「メイドさんも数日に1回で平気だったりしないん……いや、なんでもあらへん」

 

 ふとそんな軽口が出たが、メイドさんから殺気の籠もった視線が飛んできたのでやめた。メイドさん相手に食べ物を減らすような素振りをするのは止した方が良さそうだ。

 ともあれ葵と2人、胸を撫で下ろす。

 

「なんや、それなら良かったわ」

「でも、どっちみちそろそろ帰らないと1週間経っちゃうよ」

 

 そういうわけで翌日、拠点へ帰ることになった。

 門番に一声かけて村を出る。

 

「ほな、また」

「気をつけるんだぞ」

 

 帰り際にまた色々と持っていくか聞かれたが、今回はだいぶ助けてもらったこともあるので遠慮しておいた。今のところは野菜には困ってないし。今後は拠点で行商人から買った米や大豆等を重点的に作って、野菜は村から貰うようにしてもいいかもしれないな。人数少ないとたくさん作っても余るだけだし。

 それから、まあ予想はしていたが。

 

「はい、あーん」

 

 帰りの道中、葵にクッキーをもらってモシャモシャしているのはメイドさん。

 案の定というべきか、メイドさんは俺達が村を発つのにしれっとついてきたのである。あれか? 行きにケーキを食べたのが雇用した扱いにでもなったんだろうのか。食欲に忠実なだけな気もする。

 

「ちゃんと警戒するんやでー」

 

 一応剣を佩いてはいるがのどかに見えるメイドさんへそう言うと、彼女は涼しい顔でVサインを送ってきた。今まで一人旅をしてきたんだろうし大丈夫だとは思うが、ちょっと不安だ。

 そんなことを思いつつ、目印を頼りに来た道を戻る俺達だったが妙なことに気がついた。

 

「なんか静かな気がせぇへん?」

「んーそうかな?」

 

 今、俺達は森の中を通っている。

 この世界に来て探索を繰り返すうちに分かったことだが、森の中というのは様々な音がするものなのだ。都会の喧噪に比べればそりゃあ静かだけど、生き物が動いたり木々や茂みが揺れたりする音が意外に響く。

 それなのにどうしたことか、俺達3人以外の気配が感じられない。ひっそりと静まりかえっていて、まるで生き物のいないみたいだ。

 

「メイドさんはどう思う?」

 

 試しにメイドさんにも聞いてみるも首を捻るばかりだ。

 

「そか……まあウチの気のせいならそれでええんやけど」

 

 そして、苦笑しながら変なことを言ってすまなかったと言おうとした時だった。

 頭上からガサリと葉擦れが聞こえてきて――

 

「お姉ちゃん! 危ない!」

 

 顔色を変えた葵が咄嗟に()の腕を取って寄せた。

 何事かと驚く間もなく、即座に反応したメイドさんが抜剣して何かに斬りかかる。

 それは炭酸が抜けるような独特の断末魔を上げて消滅した。

 クモだったようだ。木陰で敵対状態になったのが奇襲してきたのか。

 

「た、助かったで葵、メイドさん」

「どういたしまして」

 

 ニコリと微笑む葵。

 対照的にメイドさんは剣をぶんぶん振りながらドヤ顔をしている。

 どうだ見たかと言わんばかりだ。

 

「早いとこ抜けてまうか」

 

 やはり昼間とはいえ、見通しの悪い森の中は危ない。

 そのことを再認識しつつ森の中を進んでいく。

 ゲームだったら通り道を舗装したり空中にトロッコの線路を敷いたりもしたのだが、そんな悠長なことはしていられないしな。

 もしもクラフターとしての能力がゲーム並みだったらもっと採掘も建築も捗るのだろうが。ただ料理とかは融通が利かなくなって物足りなくなりそうだ。あとリスポーンも可能になるのか? ハードコアの仕様だからまた別か。

 やがて前方が明るくなってきた。森の出口が近づいているのだ。

 

「よっしゃ、やっと出られ……」

 

 

 平原に抜けた俺は視線を遠くにやって、思わず声を失った。

 何かがおかしい。

 目を擦りながら確認するも景色は変わらない。

 

「葵、ウチ疲れてるんかなぁ。葵も顔色が青いでぇ」

「お姉ちゃん……下手な冗談言ってる場合じゃないよ」

 

 そう返す葵も困惑しているようだ。

 メイドさんはどうしたものかと思案顔をしている。

 

 

 

「拠点……なんかぶっ壊れとらん?」

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