「と、とりあえずどうなってるか確認しようよ」
葵の一言で、俺達3人は恐る恐る拠点へと近づいていった。
見間違いであって欲しかったものの、やはり拠点はボロボロになっている。
もちろんそれが経年劣化などではなく、襲撃によるものであることは明らかであった。
家の裏にあった畑もすっかり荒らされてしまっている。
「おおう……」
さらにもう1つ、嬉しくないニュースだ。
拠点に近づくにつれて、次第にゾンビの声がし始めたのである。
もちろん、その声は家の中から聞こえてきていて、結構な数がいるようだ。
というかこの感じだとかなりの群れだ。
この辺りで唯一日陰になる家の中に隠れているのだろう。
「お、お姉ちゃん……」
葵が引きつった表情でとあるものを指差す。
拠点から少し離れた平原の真っ只中、その宙に出発前には無かったものが浮いていた。
中で火が燃えている檻籠のような物体――紛れもなくつい先日に村に現れたのと同様のスポーンブロックだった。
幸いなのは昼間の野外でスポーンが抑制されていることか。
日が落ちるまでは大丈夫だろうとはいえ、放置したら百害あって一利なし。
一も二もなく駆け寄って即座にツルハシを叩きつければ、この前苦労したのとは打って変わって、スポナーは光を放ちあっけなく消滅した。
拠点から聞こえてきていた呻き声も途端に止む。
「ふうぅ……」
ともかくこれで一安心だ。
一息ついていると、そっと葵が腕に触れてきた。
「なんや?」
「腕……震えてるよ」
見やれば確かに腕が微かに震えている。
それを認識すると同時に、俺は心臓がひどく脈打っているのに気がつく。
全くの無意識であった。
「ツルハシ勢いよく振ったからやろ」
内心の動揺を隠しつつ、葵にそう答える。
彼女はやや不満そうな表情を見せたものの、それ以上は何も言わなかった。
「それよりどうなってるか確認せな」
雰囲気を振り払うように言って、拠点へと戻る。
いや、正確には元拠点と呼んだ方が正しいかもしれない。
扉は跡形もなく消えており、窓は割れ壁にはところどころに穴が空いている。
中にも大勢のゾンビが侵入した痕跡があり、床は土だらけで家具は転がり全く違う位置にある。
メイドさんがアチャーと顔を覆ったのもやむを得なかった。
チェストやその中身が無事だったのは不幸中の幸いといったところか。
「短い命やったな……」
俺は半ば呆然と呟いた。
色んなことがあったからかだいぶ時間が経ったようにも感じるが、その実俺がこの世界にやってきてからまだ1ヶ月とちょっとしか経っていない。
葵と出会ったのも1週間ぐらい前でこの拠点を作ったのもその辺りだ。
マインクラフトらしいといえばそうなのかもしれないが、愛着の湧く前に駄目になるとは思わなかった。
「掃除と修復すればまだ何とかなるとは思うけど……」
「あの規模の群れが襲ってくる可能性考えたら今の構造じゃアウトや」
まだ使用出来るのではないかという葵の問いに対し、首を横に振る。
バニラの仕様のままだったらそれでもよかったのだが、本格的な襲撃が起こるとなれば話は別だ。
ゲリラMODのような黒曜石建築とまでは行かずとも、もっとモンスターの襲撃に備えた構造にしなければおちおち寝てもいられないだろう。
「そうだ、動物さん達は……?」
次いで飼育小屋の方にも向かったが、案の定見るも無残に壊されていた。
仕切りも何もあったものではなく、柱と屋根ばかりが残っているような状況だ。
動物の姿も見当たらない。
ゾンビに襲われてしまったのだろうか。
「ごめんね、ごめんね……」
葵が涙ぐみながらそう呟く。
「しゃあないわ、ウチらにはどうしようもなかったんや」
俺はそう言って葵を慰めようとする。
その時だった。
「ん、何の音や?」
遠くから地響きのような音が聞こえてくる。
一瞬地鳴りかと思ったが、どうもそういうわけでも無さそうだ。
というか間違いなくこっちに向かってきている。
これは、まずいのでは。
慌てて2人に注意を促そうとしたところで、メイドさんにくいくいと袖を引っ張られる。
「えっ、心配ない?」
そのままメイドさんの指差す方向を見る。
「あっ!」
葵が驚きの声を上げた。
音は平原の向こうから聞こえてきていた。
土埃を立てるような勢いで向かってくるのは……ウシやヒツジ、それからニワトリの群れだ!
呆気にとられているとやがて動物達は俺達を……いや、正確には葵を取り囲んだ。
「み、皆! 無事だったんだ!」
喜ぶ葵に動物達はすり寄っていき撫でられている。
感動的な場面、なのだろうが。
俺は忘れてないぞ。
葵には愛想が良い癖に、俺に対してはやたらふてぶてしい態度だったこと。
ジト目で動物達を眺める俺の肩をメイドさんがポンと叩く。
「分かってくれるのはメイドさんだけやで」
俺はインベントリからお菓子を取り出して渡し、これからの相談をしようと葵を呼びに行く。
背後でメイドさんがチョロいもんだぜという表情をしていることに気づくことはなかった。