「ここをキャンプ地とする! ほな仮拠点をチャチャッと建ててまうでー!」
「お、おー?」
あれから葵と話した結果、ひとまずは早急に仮拠点を建てることとなった。
まだ日が高く昇っているとはいえ既に正午は過ぎており、損壊した拠点の撤去をしていては野宿する羽目になりかねないからだった。
地面を掘って地中で一晩過ごすという手もあると言ってみたものの……。
「お姉ちゃん、それ生き埋めになったりしない?」
という葵の一言であえなく没となった。
大丈夫だとは思うのだが、崖が崩れた前例があるのを鑑みると断言出来ないのがこの世界の厳しいところだ。
あと竪穴式住居でももうちょっと文化的な生活をしてると言われたのも地味に響いている。なんだかんだこの世界に来た初日から基本的には家屋で寝泊まりしていたわけで……ここに来て原始生活以前に水準が逆戻りというのも、うん。なんか負けた気がするな。クラフターとして、文明人として、一応今は女の子の身として。
ともあれ、そんな具合で簡素ながらもちゃんと壁も床も天井もある家を建てることと相成った。
ちなみにメイドさんには荒らされた畑を整えるように頼んである。
動物達はモンスターに襲われることはないと思うが一応柵で囲っておいた。
どちらかというとオオカミ対策になるかもしれない。
でも、今のところ目撃したことはないのでこの付近には生息していないのだろうか。
「葵、大変や」
「えっ、どうしたの?」
「お腹空いた」
「何も言わないと思ったら忘れてたんだ……」
開始早々にそんな一幕もあった。
「それでお姉ちゃん、どうするの?」
「せやなぁ、まあ仮住まいやし豆腐でええやろ」
無事だったキッチンの設備で葵が作ってくれたサンドイッチを頬張りながら、仮拠点の計画を話す。
ひとまずは当面雨風とモンスターが凌げればいいので豆腐建築でいいだろう。ゲームでは何となくダサいとか初心者っぽいと言われがちな四角そのものな豆腐建築だが、実用面においてはトップクラスだ。というか建築基準も無ければ倒壊の恐れもないマインクラフトにおいて、わざわざお洒落な家を作っても景観が良くなる以上の意味はない。攻略が目的であれば住みづらいということまである。
この世界においても大きくは変わらないと思う。なまじ現実の物理法則が入り交じっているのを考えると、前衛芸術的な家に住むのはなかなか命知らずな行為になるのではなかろうか。
「あ、でも間取りについてはちゃんと決めななぁ」
もっとも個別の部屋を作るとかお風呂やトイレはちゃんと区切るとか、そういった点はゲームじゃなくて現実世界に即すべきだろう。さすがにそこまで効率重視というか、精神面を度外視したような家には住みたくない。
とはいえそうなると必要なスペースも大きくなるわけで。
「ダイニングキッチンやろ? お風呂とトイレやろ? それから3人の部屋か」
「私はお姉ちゃんと同じ部屋でもいいよ」
豆腐とはいえ結構なサイズになりそうだ。
そう思っていたところ、葵がある提案をしてきた。
「葵?」
「今日中に一通り建てるとなるとそう大きくは出来ないし、かといって仮拠点なのに広げてたら手間がかかっちゃうでしょ? なら、ちゃんと家が出来るまでは一緒でも良いんじゃないかと思って。……あっ」
説明してから葵はハッとした顔になり、慌てて付け加えた。
「もちろん、お姉ちゃんが別々が良いっていうなら……」
慌てる彼女の頭をそっと撫でる。
途端に静かになった。
「村じゃ一緒に寝てたやん。ふふふ」
「そ、そうだけど……ってもう、笑わないでよ」
どことなく照れた風の葵がおかしくて思わず笑ってしまい、拗ねた目で睨まれて軽く謝る。
全く、そんな恥ずかしがることなんてないのにな。
いつも助けてもらっているのはこっちなんだから、こういう時くらいお姉ちゃんらしいことさせてくれてもいいのに。
まあ、所詮は真似事に過ぎないが……。
「お姉ちゃん?」
「ん、部屋割りも決まったことやし早速作業にかからんとな」
ふと葵が不思議そうな顔をした。
いけない、思考が表情に出てしまっていただろうか。
内心焦りつつもなんてことのない風を装う。
「ほなサグラダ・ファミリアも驚くような仮拠点建設いくで!」
「それ完成まで何百年もかかっちゃうから!?」
そんなこんなで意気揚々と始まった仮拠点作りは規模の小ささもあってか、特に何の問題もなく順調に進んだ。
間取りさえちゃんと押さえておけば、後は壁や床、天井を張って内装を施すだけだからな。
2人で作業していることもあって、夕方になる前にはおおよそ完成した。途中からは畑の整備を終えたメイドさんも、3時のおやつに勤しみながら眺めていたくらいだ。……なんか立場が逆転している気もする。いや、メイドさんにクラフターの能力はないんだから仕方ないんだけど。
一仕事終えたという達成感と共に葵と並んで仮拠点を眺める。
これは……分かりきっていたことではあるが。
「豆腐やな」
「豆腐だね」
それはさておき、村から帰ってきての作業で疲れているということもあり、さすがに今日はもう休むことにした。
玄関を開けると、そこはすぐにダイニングキッチンだ。入って左側の部屋角にL字のテーブルを設置してあって、3人が同時に食事を食べられるようになっている。壁にはカーテンをつけた窓を設け、出来るだけ閉塞感が無いようにしている。ファミレスの隅の席みたいな感じと言えば伝わるだろうか。
右側にはそれぞれ
そして玄関から真っ直ぐに進んでいくと突き当たりで左右に分かれていて、左が風呂、右がトイレとなる。とはいえ風呂はシャワーを浴びるためぐらいのものでいささか物足りない。今まではちゃんと浴槽の外で洗って、お湯に浸かることが出来たのと比べれるとどうしても見劣りする。葵とももう少し大きくしようかと途中で再検討したぐらいだ。結局、明日拡張しようということになった。計画性が無いような気もするが、お風呂は譲れない。譲れないのだ。
「ダブルベッドやで葵ー!」
「いや、それツイン……」
夕食も風呂も終えた頃にはすっかり外は暗くなっていた。
つくづく思うが、この世界はとても静かだ。
普段するのは風の音、木や草の葉擦れ、動物達の鳴き声ぐらいのもの。戦闘状態でない時は大人しいのか、不思議とモンスターの騒ぎ声は聞こえてこない。まあクリーパーみたいに爆発の寸前まで物静かな場合もあるが。
「明日からどんな拠点建てような、葵。やっぱりお風呂は広いのがええよな」
「ん、そうだねー……」
疲れてはいるのに床に就いてからも何となく眠れず、葵に話しかける。
「花壇もあった方が華やかでええかな。女子力アップやで」
「ん、そだねー……」
マインクラフトの花はインテリアでもあり、染料の素材でもある。その割に増やすには骨粉が必要とまとまった数が欲しい時にはちょっと面倒だ。スケルトンのトラップタワーさえ確保してしまえば然程ではないのだが、はたしてこの世界であれが再現出来るものなのか。
そんな中で花壇作りはちょっと贅沢な使い方かもしれない。
「せっかくやしメインホールみたいのも作ってみよか。昔やったゲームにあったねん……あ、あれホラーやった」
「んー……」
動画サイトで話題になっていたような大がかりな建築は無理だが、どうせならちょっと凝った家にしてみてもいいかもしれない。いつまでもこの世界にいるつもりはないが、それでも拠点というのは自然と思い入れの湧くものだ。それなりの家を建てるのも悪くはあるまい。……まあ前の拠点は思い入れが出来る前に壊されてしまったが。
「それからな、防御陣地も……葵?」
返事が無く、隣を見やる。
葵はすっかり寝息を立てていた。
それを見ていたら、こちらも何だか急に眠たくなってきた。
「ふわぁ……まあ、今日はいっぱい動いて疲れたからなぁ」
瞼を閉じれば、意識が広がるように薄まっていくのが分かる。
葵の心地よい体温を感じながら、俺もまた速やかに眠りへと落ちていくのであった。
「おやすみ、葵ちゃん」