翌日、葵の作ってくれた朝食を食べ終えた俺達は、早速新しい拠点をどのようなものにするか話し合うことにした。
「ほな、拠点に必要なモンを挙げてこか」
食器を片付けた後のテーブルに紙を広げ、イカスミと羽で作ったペンを手に持つ。
ゲームにおいては書き込むと再編集不可能な本の一部に過ぎなかった羽ペンだが、この世界では個別のアイテムとして存在しているようだった。
「まずは生活に必要なところだよね。部屋に、トイレに、台所に、リビングに……」
葵の言ったものを紙に記していく。
拠点と言えば、まずは日常生活に必要なところからだろう。
ゲームの頃なら現実で必要となる様々な設備を省略出来たが、ここではそうもいかない。
特にトイレ。家具MODの影響かウォシュレットが使えるというのに、わざわざマグマに水流で流す不要物処理設備とかなんて使っていられない。
一度文明の利器を味わってしまったからには必要もなく不便な生活には戻れないのだ。
「それから……お風呂!」
「でっかい風呂やな!」
どこから取り出したのか、メイドさんがドンドンパフパフと小さな太鼓やラッパを鳴らす。
風呂は英文風に言うならば、最も重要な設備のうちの1つ。五右衛門風呂も悪くはないけど、やはり足を伸ばせる広々としたものであればなおさら良い。
「作れるの?」
ただし、家具MODで追加される風呂は1人用の割と小さめなものだ。
疑問に思ったのか、葵が問いかけてくる。
「竹MODの温泉ユニットが使えるで。こないだ行商人さんからもらった竹でちょうど……」
「温泉!?」
「お、おう……」
温泉ユニットは竹MODの……あれ、名前が変わったんだっけ?
そうだ、竹MOD改め飯MODで追加されるピストンのような見た目のアイテムだ。
オンにすると設置地点の真上1マスを中心として温泉がどんどん湧き出していき、一定時間漬かると回復が早まる。
さらには染料を入れると三原色の法則に従って色が変化し、他のプラス効果を得られるという特徴もある。ただし結構な量の染料を要求する他、無闇に投入すると逆に毒状態になってしまうので注意が必要だ。後はちゃんと囲いを作っておかないと際限なく湯が広がっていってしまう点も気をつけねばならまい。下手すると地上が温泉に沈んでしまうからな。
「その気になれば露天風呂だっていけるでー、まあ檜はないから檜風呂とかは無理やけ……ど……」
気がついたら両肩を力強く握られていた。
目の前には据わった目の葵。
「つけよう、温泉。別に露天じゃなくていいけど」
「せ……せやな、雨の日とか困るしな……」
葵の風呂への思いは俺の予想以上だったらしい。
そういえばこの間だって疲れててもお風呂だけは入ったしな……。
凄まじい眼力を前に、コクコクと頷くしかなかった。
「ほ、ほな生活に必要なモンは大体それくらいとして、次は他に欲しいのやな」
自分の席に戻っていった葵にちょっと安堵しつつ、話を進めることにした。
「素材を溜めておく倉庫、ここにクラフト台も置いておけばいいのかな。それからいつか使うであろうエンチャント部屋を兼ねた図書室に……あとは塀、というよりは防壁だね」
マインクラフトを長くやっているとどんどん大きくなっていくのが素材を保管しておく倉庫だ。おそらくブランチマイニングをする際に出てくる丸石や整地作業で掘った土や砂、砂利などが中身の大半を占めることになるとは思うが。木材や鉱石も装備や設備が整ったら建築でもしない限り溜まってはいくけど。やはり建築が一番消費が激しい。金属ブロックなんか1つ作るのに9個もインゴットを要求される。ゴーレムトラップで鉄の無限供給なんて、この世界じゃ無理だし。
エンチャントも重要だ。アレがあるのと無いのとじゃ、全然効率が違う。最上位の効率上昇系のがつくと豆腐を崩すかの如く、一瞬で土や石が削れていく。武器に威力上昇がつけばそこらの雑魚モンスターなんて一撃で倒せるし、防具にダメージ軽減や耐性系のものがつけば殴られようと高所から落下しようと溶岩の海だろうとへっちゃらだ。……過信すると死ぬのには変わりないが。耐久力の強化もつけないと、あっさり壊れるし。
防壁は言わずもがな、村での襲撃や新拠点を建てることになった原因を考えれば作らないという選択肢は無い。中世ヨーロッパの巨大な城壁みたいなレベルのはいらない、というか作ってられないけど、出来れば素材は頑丈な方がいいな。当分は石造りになるだろうけど、やっぱり一番良いのは黒曜石かな。
黒曜石はMODや岩盤みたいな特殊なブロックを除けば、建材として最高の耐久性を持っている。ボスモンスターのエンダードラゴンやウィザーみたいにすり抜けたり問答無用で破壊してきたりする奴以外なら、クリーパーの爆破だろうと物ともしない。例によって集めるのが手間だけど。ダイヤモンドのツルハシの用意も、必要量の溶岩源を見つけるのも。……後者に関してはこの世界なら抜け道が無いでも無いけど。出来れば行きたくない。でもエンチャントのことも考えると、どのみち行かなくちゃいけないんだろうなぁ。
「せや、脱出用のトンネルとか用意しとくのはどうやろ」
防壁があれば十分だとは思うが、それでもクリーパーの爆発辺りで穴が空いて突破される……など起きることも考えられる。考えすぎかもしれないけど、この間の襲撃でいったいどれだけの脅威があるのかが全く分からなくなってしまったのが悩みどころだ。幸い今のところは敵が強力なMODが適用されている気配は無いが、仮に出てきたらバニラ基準の防衛手段しかない現状ではお手上げだ。場合によっては逃げられるかも怪しい。
とはいえ……。
「悪くないと思うけど、後回しかなぁ」
「せやなぁ」
拠点部分だけでさえ相当時間がかかりそうなのに、避難経路やその先の整備までしている余裕はない。一通りのことが片付いてからになるだろう。バニラの敵しか出てこないのなら空中に逃れるって手もあるんだし。
「まあ拠点本体はこんなモンか。後は周りやな、畑と動物小屋、それに採掘場くらいやろうけど」
動物は現状のままでもいいだろう。
それになんだかんだで解体は一瞬だからともかく、屠殺はそんなに気持ちのいいものでもないし。慣れたけどさ。
だとすれば悩ましいのは畑か。
「畑は何を植えようなぁ」
「よく使う食材は普段から育てて、たまに食べるくらいのは少量ずつ交代でとか? あ、村じゃ育ててないの優先的にやろうよ。和食に必要なのとか」
2人でそんなことを言っていると、じっと話を聞いていたメイドさんが何やら主張を始めた。
「え? サトウキビ?」
「あー確かになぁ」
サトウキビは紙や砂糖の材料として重要な作物だ。
というか無いと困る。色々な、そう、色々な意味で。
「この辺一帯をサトウキビ畑に?」
「さすがにそれは多過ぎや」
でもサトウキビバイオームを作ろうとするのはやりすぎだと思う。
「こんなところか」
あれからも色々と話し合っているうちに、気がつけばお昼ぐらいになっていた。
すぐに決まるものだと思っていたが、あれやこれやと脱線したり戻ったりを繰り返していたらすぐに時間が過ぎていた。
「うん、分かってはいたけど……」
必要なもの、不要なもの、実現出来るもの、出来ないもの。
様々に切り分けて出来上がった新拠点の計画だったが……。
「何にしても、資材やなぁ」
案の定、必要なだけの資材が足りないという話になった。
建材だけじゃない。それを行うために必要な道具の素材も含めてだ。
具体的には鉄。本音を言えばダイヤが欲しいけど持ってないし、かと言って石や木のツールじゃ余計に時間を食うことになる。
「気長にやってくかぁ」
「そだねぇ」
メイドさんがそこはかとなくお昼ご飯を要求し始めたので、ひとまずこれで話し合いは一段落つけることとなった。
全く以てマインクラフトらしい結論であった。