「お姉ちゃん、大丈夫?」
「ん、平気やで」
階段状に足下を掘って降りてきた葵に答えながらも、俺は目の前の光景に戸惑わずにはいられなかった。
鉱物ブロックとは、その名の通り鉱物で出来たブロックのことである。よくクラフターが採掘している鉱石ブロックではない。石炭やダイヤ、エメラルド、あるいは精錬済みの金属、すなわちインゴットを3×3に9個並べることで作成出来る。
建材やらその他特殊な用途に用いることもあるが、集めた素材を圧縮してより多く保管するために作ることもある。鉱物ブロックは再び9個の素材に戻すことも可能だからだ。64個ずつスタックされた鉱物ブロックがラージチェストを埋め尽くす光景は圧巻の一言だ。さすがにバニラの環境下でダイヤやエメラルドをそこまで集めるのは相当骨が折れるだろうが、鉄インゴットであればゴーレムトラップによって比較的簡単に実現出来る。簡単とは言っても、相応の手間はかかるが。
「すごい数だね……ゲームの時もこんな風だったの?」
「いや、こんなん見たことない」
さて、そんな鉱物ブロックは基本的にプレイヤーが作らなければ手に入らないものだ。最近のバージョンでは自然生成されるチェストや構造物から入手出来ることもあるが、この世界はおそらく1.7.10をベースとした古めのバージョンだ。
それにたとえ俺の知らない新しいバージョン、あるいは過去のバージョンにおける仕様などがあったとしてもだ。いくらなんでもこんな素材の山みたいな状態で鉱物ブロックが自然に、しかも大量に配置されることなど、まずあり得ないだろう。素材集めもまた醍醐味のゲームでその過程をすっ飛ばすような要素を公式が追加するとは思えない。無制限に建築したいだけならアイテムも素材も使いたい放題のクリエイティブモードで済む話だ。
だとすれば、この鉱物ブロックだらけの状況は意図的なもの。何者かが用意したものと考えるのが自然だろう。一体何のためにかは、分からないが。
「じゃあこのブロックはどうする?」
「もちろんもらってくで」
とはいえ当分はまず困らないであろう量の鉱物ブロックは魅力的だ。これに匹敵する量を自分たちで集めるとなると、どれだけの時間になるか分かったものではない。
「あ、でもちょい待ち。罠があるかもしれへんし」
だが、その時ふとあるものを思い出した。それはTheTwilightForest、和名黄昏の森と呼ばれるディメンションを追加するMODにあった罠だ。
手頃な難易度や独特の雰囲気、高い完成度などで好評のこのMODにはある罠が出てくる。ダークタワーという高層ダンジョンに出てくるギミックブロックだ。これを動作させると金ブロックとダイヤブロックらしきものが生成される。が、手を出した途端にまるでバグったように見た目が変化していき最終的には爆発してしまう。つまりはダイヤブロックや金ブロックに釣られたクラフターを痛い目に遭わせる罠なのだ。
あるいは同じく黄昏の森に登場するラビリンスにあるワイヤートラップとTNTの罠、もっと単純にバニラの感圧板とTNTを組み合わせたピラミッドのような罠とか。
……こうして考えると結構マイクラの罠って爆発オチだな。単に大ダメージを出せて、あまりスペースを取らないとなるとそうなるか。まあ個人的に一番クラフターを殺しにかかってくるのはさりげなく空いた穴や湧いている溶岩のような地形なのだが。
「葵、一旦通路に戻ってや。ちょっと掘って様子見てみるわ」
「無理に取ることはないんじゃない?」
それはさておき、もしも先に述べたような罠がこの部屋に仕組まれているとしたら、このままブロックの回収を始めるのは危険だろう。
葵に下がるよう促すと、彼女は心配そうに言った。
「放置しとけば平気なもんかも分からへんし、何事も無かったら大損やで」
確かに何が起こるか分からないという不安はあるものの、かといって手出しせずに放っておけば大丈夫という保証だって無いのだ。どのみち調査する必要がある。
それにもしも何事も無ければ、この膨大な素材の山が手に入るのだ。建材にでもしない限りは早々使い切れない程のたくさんのダイヤ、たくさんの金が……じゅるり。
「お姉ちゃん?」
「……はっ、なんでもない、なんでもないで」
怪訝そうな葵の呼びかけに我に返る。
いかんいかん、すっかり目の眩みそうな光景に煩悩塗れになってしまっていた。
古今東西、目先の宝に釣られてろくな目に遭った者はいない。
危うく死亡フラグを立ててしまうところだった。
「ほな下がっといてな」
葵が通路に戻ったのを確認してから鉄のツルハシを取り出す。
狙うのはすぐ足下のダイヤブロック。用心のため一括破壊はオフ、一気にブロックを壊して落下なんてのは勘弁だ。
ツルハシでペシペシと叩けばみるみるうちにヒビが広がっていく。
やがてそれが全体に広がると、小気味いい音を立ててダイヤブロックが砕けるように消滅した。
……何も起きない。インベントリにはダイヤブロックがそのまま入っている。何の変哲もない、ただのダイヤブロックのようだ。
「……大丈夫そうやな」
ホッと一息つく。
少なくとも今すぐにドカンと爆発するとか、そういうことは無さそうだ。
通路の方へ振り返って葵に声をかける。
「葵ーなんとも無さそうや、あひぃん!」
「お姉ちゃん!? 後ろにスケルトンが!」
その時だった。
突然お尻に鋭い痛みと衝撃が走り、俺は思わず飛び上がる。
スケルトンの放った矢だ。
この空間のインパクトで失念していたが、この部屋は特に湧き潰しもしていない。
どうやら隅っこの暗がりで出現したらしい。
「あ、あんにゃろ!」
思わず頭に血が上るが、ここで突撃するとハリネズミみたいな死体にされてしまうのがオチ。エンチャント付きのダイヤ装備ならそれも許されるだろうが、今は革装備レベルの防御力しかないんだ。
まずは敵の射線を遮らないと、攻撃されるばかりだ。咄嗟に土を取り出して目の前に防壁を作る。
「葵! 弓撃って下がって!」
「分かった!」
頭上を葵の放った矢が飛んでいくとスケルトンに命中した音が聞こえてくる。
通路の方が高い位置にある分、狙いやすいというのもあるだろう。
僅かに防壁の脇から様子を見ると、スケルトンは攻撃してきた葵の方に気を取られている。
ここだ。
「おりゃあ!」
すかさず飛び出すとそのまま鉄の剣で斬りかかる。
一閃は胴体に直撃したがまだ倒せていない。
もう一撃だ、急げば2射目を放たれる前に仕留められるはず。
「チェストぉ!」
斬るというよりはほとんど体当たりをする勢いで剣をぶつけた。
ガシャンと破砕音を立ててスケルトンが床に伏し、骨1本を残して消滅する。
何とか仕留め切れた。
「全く、ウチのお尻が割れるところやったで」
「何言ってるのお姉ちゃん」
さっき矢が刺さった辺りを摩りブツクサと文句を言いながら、降りてきた葵と再びモンスターが湧かないように松明を部屋に設置して回る。今度こそは大丈夫だろう。
「ともかくこれでブランチマイニングはしなくて良さそうやな」
「そうだね」
意気込みを出鼻で挫かれた気分ではあるが、正直なところ掘り下げるだけでも大変だったし手間を省けるのなら大歓迎だ。
「骨折った甲斐があったもんや、スケルトンだけに」
「私、先に戻ってるね」
「そんなぁ」