「ひぃ、ぜぇ……」
「無理にたくさん掘るからだよ……ほら水」
「ありがと……」
葵の差し出した水入りの瓶を受け取って一気に飲み干した。疲れた時の水って本当に美味しい。
俺達は湧き潰しをした後、早速ブロックを持って帰ろうということで掘ってみたのだが、それがまた凄かった。一括破壊で9ブロックずつガシガシと掘ってもまだ残っているのである。無限に広がっているということはさすがに無いだろうが、それでも普通に掘っていたらどれだけ時間がかかるかという量だ。選り取り見取りで、ついついたくさん回収してしまった。
結果、掘りすぎて尋常じゃない疲労がのしかかってきたのである。そりゃ階段掘りだけであんなに疲れたんだから、当然の話ではあるが。
そんなわけで一旦俺達は仮拠点に戻って休んでいた。地下採掘になると出番が無いため、地上で農作業していたメイドさんも皿に盛られたクッキーをムシャムシャ食べている。
ちなみにメイドさんに金ブロックやダイヤブロックの山を見せても、大して反応を示さなかった。どうやらメイドさんは金銀財宝の類いにはあまり興味が無いようだ。食べ物の山だったらまた違ったのだろうが。
「しっかし、こんだけあれば色々出来るなぁ」
「新拠点の計画も色々とグレードアップ出来そうだね」
先日計画を立てた時にはこんなに鉄とかダイヤとかが手に入るとは思っていなかったから、導入を断念したものが色々とあった。特にMODで追加されるアイテムは結構鉄を要求してくることが多い。手軽に入手出来る素材だから組み込みやすいのだろうか。MODを制作した記憶は無いので分からないが。
ああ、そうだ。
「せや! 手に入ったんやし、早速作っとかなあかんもんがあるやん」
「作っておかないといけないもの?」
「ダイヤ装備や」
葵の疑問に頷く。
クラフターだったらダイヤ装備の重要性は言うまでもなく知っているだろう。
各種ツールも剣も防具も全てが鉄よりワンランクの上の性能だ。特にツルハシはダイヤ製じゃないと黒曜石の採掘が出来ないので一番重要じゃないだろうか。防具も鉄装備一式だとダメージ6割軽減だが、ダイヤなら8割カットだから安心感が違う。仮にクリーパーの爆発を至近距離で食らったって生き残れる。……爆発で吹き飛ばされての落下や帯電? ご冗談を。
「そんなに違うんだ」
「なんたってバニラの最強装備……やからな?」
「えぇ、なんで疑問形なの……?」
あれ、どうだったかな。
なんか記憶の片隅にもっと上位の装備があったような気が……1.14で追加されたのは襲撃者関連だったよな。その前も水中生物の実装、建材の追加、戦闘仕様の変更などのはず。
何か腑に落ちないな。でも、少なくとも1.7.10ではダイヤ装備がバニラで一番強力だった。それは間違いない。
「まあ性能が上がるならそれに越したことはないよね」
葵もダイヤが一番かどうかよりは実用性の方に着目しているようだ。
早速持って帰ってきたダイヤブロックを崩してダイヤ防具を作る。
必要量自体は他の防具と変わらず全部で24個だ。ふと、ある疑問が浮かんだ。
「元の世界でこの一式売ったらどれくらいになるんやろなぁ」
「値段つかないと思うよ……高すぎて」
宝石って確か品質や加工の具合で値段が決まるんだよな。
となると純ダイヤで完璧に形成された全身鎧って……マイクラじゃ所詮消耗品に過ぎないけど。大体エメラルドで経済が成り立っているような世界で元の世界ほど宝石に価値があるとも思えない。
いやでも、この間の行商人は久々に見たというダイヤ1個で本を買うとお釣りが出るくらいって言ってたな。さすがに現代ほど本は安くないと思うが、それでも史実の近代以前程は高くないといった感じか?
ううん、全然分からん。頭から煙が出そうだ。こういう時は葵に聞くに限る。
「葵ーこの世界の経済ってどうなってるん?」
「ええっ、この世界で元の世界みたいな経済なんて回ってないんじゃないかなぁ。というかメイドさんに聞いた方が早いんじゃない?」
無茶ぶりながらも葵は少し考えてからそう答えた。
ちょうど山盛りのクッキーを平らげたメイドさんに視線を向ける。
今回のジェスチャーは……。
「お互いが納得してればヨシ! かぁ」
まあ食うに困らず、特別贅沢したり生活圏を拡大したりするわけでもない世界ではそんなものかもしれない。無限に湧くモンスターという根絶出来ない脅威だってあるわけだし。
「それよりお姉ちゃん、装備は試さないの?」
「せやったせやった。おおっ?」
話がずれた。
ダイヤ防具を着てみて驚いた。思っていたよりも軽い。もちろん重みはちゃんとあるのだが、鉄装備一式に比べたらずっと快適に動ける。
様子を見ていた葵が納得したように頷く。
「ああ、ダイヤだもんね。そりゃ鉄より軽いよ」
「なるほど」
さらにダイヤの剣も作ってみたが、こちらも非常に軽い。多分1㎏も行ってないんじゃないか? 今更ではあるが、もはや宝石じゃなくて伝説の金属の類いではなかろうか。
ちょちょいと葵とメイドさんの分の一式も作る。ひとまずはこれでバニラの雑魚モンスターと戦う分には早々やられないだろう。とはいえ状況次第では簡単にやられるので油断は禁物だが。決して無敵の装備というわけではないのだから。ダメージ軽減や各種耐性などのエンチャントだってついていないしな。
「それでどうする? 拠点作り始める?」
「んーもうすぐ日が暮れ始めるやろうし、今日はええんちゃうかな」
何だかんだでそろそろ15時くらいだ。まだまだ日は昇っているけれど、中途半端なところで作業が終わってしまいそうだ。夕方くらいからポツポツとモンスターが湧き始めるのを考えるとそんなに長く作業していられないからな。
日が沈んできたらさっさとご飯を食べてお風呂入って寝る。日が昇ったら起きる。昔の人々のように、そんな調子で生活している。昼夜問わず潰そうと思えばいくらでも娯楽で時間を潰せる現代って、ホント豊かだったんだなぁ。
葵は傍にいなかったけど。
「あ、でも1つ試してみたいことがあったんや」
「試してみたいこと?」
「というわけで現在我々は空を飛んでおります」
「操縦手が実況なの?」
パラパラと軽快な音を立てて回るローターと甲高いエンジンの音。
そして、いつもより近い空と浮遊感。ヘリコプターである。
俺と葵は機上の人となっていた。
「いやー空からの景色って新鮮やなぁ」
「それはそうだけど、ちゃんと操縦に集中してよ?」
「大丈夫やて、ホバリング中やから」
滑空出来るようになるエリトラという装備が実装される以前、マインクラフトのサバイバルモードで空を飛ぶとなればMODの力に頼るしかなかった。
その空を飛ぶという夢を叶えるMODの1つがMCヘリコプターMODである。もう少し詳しいことはずいぶん前に思い返したけど、実際に飛ばすと結構感動するものだ。飛行機に乗った経験なんて、もうずっと昔に1回あったかどうか……。
「お姉ちゃん? 何だか遠くを見つめてどうしたの?」
「はっ、な、なんでもないで」
葵の声で我に返った。
危ない危ない。自動で低空をホバリングさせているとはいえ、自分は今ヘリを飛ばしているんだ。意識を飛ばしてちゃ墜落してあの世行きだ。いくらパラシュートは用意したとはいえ、墜落なんてするべきじゃない。
「にしてもずいぶん高価な乗り物になったなぁ」
Flan'sModという別の乗り物系MODがあるのだが、そちらでは機体を作るのに各パーツを作り上げる必要がある。この世界におけるMCヘリはそれに近しいようで、機体のフレームやローターのブレードなどを組み合わせて作るようだった。しかも中間素材が増えててやたら鉄やレッドストーンを食うようになっていた。こんなの鉱物ブロックの山を見つけていなかったら、到底作れなかったぞ。誰だ、こんなに面倒臭い仕様にしたのは。
もう1点気になるのは明らかに本来出るであろうヘリの速度よりも遅いことか。操縦に慣れていないせいで左右にふらふらするせいもあるだろうけど、多分乗用車が一般道路を走る程度の速度しか出ていない。
戦闘機だったらもっと速度が出るのかもしれないものの、それはそれで制御しきれるか不安は残る。離着陸のための滑走路も必要だし。ヘリはその点、スペースさえ確保しておけば垂直に離着陸可能だから楽だ。
幸いだったのは操縦そのものは実機よりは簡単であろうことか。最初は離陸後の機体の傾きとかスイッチの配置とかで戸惑ったが、無茶な挙動さえしなければ結構直感的に動かせるようだった。さすがにゲームで出来た宙返りは絶対墜ちるだろうからしていないが。
「でも、これで遠出必要になった時の目途は立ちそうやな」
「そうだね、思ったより速度は出なさそうだけど歩いていくよりはずっと早いし」
そういえば行商人さんは1週間弱くらい昼間歩いてきたと言っていたが、それは最寄りの集落からって意味だったのかな。すっかり聞くのを忘れていた。そうなると情報のありそうな大きな町はもっと遠いのだろう。ヘリで行くにしても結構かかることになりそうだ。
「と、そろそろ日が落ちそうだよ」
「分かった、着陸するでー」
ゲームと違って描画限界もなく、ずうっと向こうまで見える大地を眺めながら、ふと思う。
きっと自分達はゆっくりと、だけど着実に『前』へ進んでいるのだろう。
でも、それもいつかは何かしらの形で終わりを迎えることになる。
もちろん、そのために今活動の足がかりとなる拠点を作ろうとしたり情報を集めたりしているわけだけども。
はたして、その結論に辿り着いた時、俺は――。
「お姉ちゃんちょっと速くない!? というか落ちてない!?」
ハッと気がつけばぐんぐん高度が下がっている。
このままでは地面とキスする羽目になるだろう。
「おわぁぁぁー!?」
結局低空であまり勢いは無かったのと、全力でエンジンを回したおかげで着陸自体はギリギリ上手くいった。
が、涙目の葵に叱られまくった挙げ句、今日の晩ご飯は抜きになった。
メイドさんはしれっと俺の分まで食っていた。