望外のダイヤツールを得た俺達は2日程、木材の調達も兼ねて大平原周囲の伐採を行なった。
作業は思っていた以上に捗った。これは鉄の斧との性能差もさることながら、軽量になり負担が減ったのが大きい。伐採速度だけでなくインターバルが短くなったことで効率が向上したのだ。
なお、気持ちいいぐらいに切れるので切りまくっていたらすぐバテたのは葵には内緒だ。
「すぐ調子に乗るんだから」
「なんでバレとるんやぁ」
「いや、明らかに速度がガクッと落ちてるし……」
そして、バレるのもすぐだった。
ともあれ必要な資材は揃い、いよいよ新拠点の建設に入ることとなる。
たくさんの鉱石を手に入れてから3日目の朝、俺と葵は建設予定地に来ていた。
「まずは柱の位置だっけ」
最初は前回の拠点と同じく定番に沿って、柱の位置に目印となるブロックを設置する。
こうすることで間取りが分かりやすくなり、構想と出来上がりとの乖離を防ぐことが出来るのだ。
まあマイクラの建築ってその間取りを考える部分が大変なんだけど。
動線を考えないと不便で使わなくなるし、かといって豆腐にしちゃ味気ない。
現実と違ってキッチンやトイレの水回りをまとめるとか、土地に合わせて設計する必要が無いのも一因かもしれない。仕様の範囲内ならどんな風にも建てられるからな。
そういった意味では、この世界での建築は方針を決めやすいのかもしれない。
「せや、ダイヤブロックで目印つけたるで。ふははは」
ふと思いついてダイヤブロックを目印として設置する。
腐るほど余ってるという訳ではないが、これも結構な量があるから出来ること。
こんな贅沢な真似をしたクラフターは……いるかもしれないけど、そう多くはあるまい。
「えいやっ」
「あっー!」
そんな風に優越感に浸っていたら、葵がさっさとダイヤブロックを回収してしまった。
思わず悲鳴を上げると、呆れたように彼女が言う。
「はい没収。成金みたいなことしないの」
「うぅ、葵が辛辣や」
柱の位置さえ決まってしまえば、後は梁を繋げて床や壁を張っていくだけだ。
おっと、その前に土台も敷いておかないと。これがあるとないとでは外見が変わってくる。
「おーよしよし、とりあえずおおよその見た目は出来たな」
2人がかりだと建築も早い。
以前の拠点を1人で作った時とは大違いだ。
お昼になる頃には1階部分が完成し、2階や屋根も日暮れには終わった。
まだ外見の装飾は残っているが、一応家としての形になっている。
作業自体はただ決まった場所にブロックを積んでいくだけだからな。
それに決まった形にしか置けないとはいえ、角度やら隙間やらを気にしないでいいし。
「明日は内装まで一気にやっちゃいたいね」
内装については手つかずではあるものの、大まかなレイアウトは決まっているからささっと設置して終わりだろう。そこまでいけばひとまずは今の仮拠点から移ることが出来る。
「ほな、今日はこの辺りにしておこか」
「そうだね」
仮拠点に戻るとメイドさんが食堂の椅子に座っていた。
いつも通りの無表情だが、そこはかとなく夕食を要求する雰囲気を醸し出している。
というか既にフォークとスプーンを手に持っている。
いくらなんでも気が早い。
「はいはい、ちょっと待っててね」
そうして葵が料理にとりかかっている間、腹ペコメイドはその背中をじぃーっと眺めていたのであった。
やがて肉の焼ける音や香ばしい匂いが部屋中に広がりきった頃、今夜のご飯が出来上がる。
葵がよそって食卓に置く。
「おおっ、牛丼や!」
「ふふ、久しぶりでしょ」
竹MOD改め飯MODで追加される料理にあったのを思い出しながら、まず一口。
うん、牛丼だ。
牛肉とご飯を一緒に頬張ると、肉の脂やご飯の甘み、それらを包み込むような醤油とゴマのタレの風味が口いっぱいに広がる。
それが若干ワンパターンになってきたら隣のお味噌汁をスッと飲み込んでリセット。
「うん、これやこれ」
久々の牛丼に舌鼓を打っていると、ふとメイドさんが静かなことに気がついた。
いや、喋っているのを聞いたことはないのだけれど。
それにしたって妙に大人しい。
「メイドさん、どうかした? もしかして口に合わなかったかな」
葵が心配そうに尋ねるも、メイドさんは首を横に振った。
それから例によってジェスチャーを始める。
何かを熱く語っているようだ。
「味に感動した? もっとお米を増やす? 何ならお米を通貨にすべき?」
「石高制か!」
どうやら牛丼がいたくお気に召したようだ。
そんなこんなで夜は更けていった。
翌日も葵と2人で拠点制作だ。
やはり作業自体はそう難しくもなく、それほど語ることもない。
プレイ動画を見ていても雑談だったりコメント返しだったりで間を持たせたり、いっそ丸々カットされることも少なくなく、ブランチマイニング同様に単調になりやすい部分だ。
建築のコツなんて1回語ったら終わりだろうし、後はその時作っているもののコンセプトについて話すぐらいか。
そう考えるとマインクラフトというゲームは、実況するにはトーク力が必要なゲームなのかもしれないな。
「ほわぁぁぁ!?」
「お姉ちゃぁぁぁん!」
屋根の階段ブロックで足を滑らせて1回落下した以外は特に事故もなく、無事に新拠点の基本的な構造が完成した。
窓周辺の外観を整えたら、次は内装だ。
個人的には建物の見た目以上にセンスが問われる箇所だと思っている。
ただ物を置いただけではゴチャゴチャするだけだし、結局必要な設備以外はろくに設置しないって人もいるんじゃないだろうか。
もっとも基本的に1つのマスにつき、1つのアイテムしか置くことが出来ないって仕様やバニラだと家具そのものはあまり存在しないって事情もあるかもしれない。階段ブロックを椅子に見立てたり柵と感圧板を机代わりにしたりするしかないからな。
お洒落な家を作れる人はそれでも生活感のある雑然さとでもいうか、そういった雰囲気を演出するのが上手いからすごい。
「家具MOD様々やなぁ」
家具MODはそういったバニラだと出来なかった内装の選択肢を大幅に拡張してくれる。 ついでに家具や家電に合わせた機能やギミックがついていることもあるから、本格的な建築をするにはほんともってこいだ。
生活に必要なものを設置したり殺風景な通路にカーペットや絵画で飾り付けをしたりする。それに今回はスペースに余裕があるから色々置けそうだ。
そうだ。俺は廊下の一角に棚を配置し、その上に花の植えてある鉢植えを置いた。
「ほれ、葵見てみ」
「あ、お花だ。可愛いね……って、これもしかして」
葵に声をかけると、彼女は何かに気がついたようだった。
俺は頷く。
「せや、ウチらや」
寄り添うように植えられた桃色のチューリップと水色のヒスイラン。
言うまでもなく琴葉姉妹がモチーフである。
もしも写真が撮れたら写真立て辺りを置いても良かったけど、あいにくそんなものはないからな。
この世界じゃ使えても分からないけどスクリーンショットなんて、バニラの標準機能でついているし。
「自分で言うのも何やけどなかなかやろ?」
「うん、いいと思うよ。でも……」
葵にも好評なようだった。
しかし、ふと葵は不思議そうな表情を浮かべた。
「この隣にあるのは?」
彼女は鉢植えの隣を指差す。
そこにはドンと大きな植物の実が置いてあった。
「カカオの実やで」
ジャングルの原木に生るカカオの実である。
廃坑のチェストかジャングルを見つけないとなかなか入手に困る素材だ。
まあ使い道はクッキーを作るか茶色の染料として用いるぐらいであるが。
「なんでこんなところに?」
「メイドさんや。仲間外れじゃ可哀想やろ」
「えっ」
何故か葵がポカンとした表情で固まる。
ちょうどその時、メイドさんが様子を見にやってきた。
良い機会なのでメイドさんにも教えることにする。
「おっ、ほらほらメイドさん。ウチ、葵、メイドさんやで」
メイドさんはただ肩を竦めた。
と、まあそんな一コマもあったが内装は順調に施されていく。
そして、最後に外装や照明周りを調整し……新拠点は出来上がったのであった。