新拠点の第一印象は小さな館といったところだろうか。
1階、2階共に左右前後に並んだ窓が目立ち、どことなく明治や大正に建てられたような西洋館らしさがある。もっとも壁や柱に使われているのは木材系のブロックばかりで、他はガラスや土台の石レンガくらい。白漆喰や赤煉瓦などといったものは使っていない。 各窓にはカーテンの代わりにブラインドを設置している。
葵が外壁をスリスリと撫でながら言う。
「窓の辺りは凹凸つけたけど、やっぱり壁はのっぺりしてるね」
「しゃあないな、表面の質感は高解像度のテクスチャでも入れんと限界や」
「手触りは本当に木なんだけどねぇ」
なお、防御力を考えるならやはり黒曜石で作るのが一番である。以前にも軽く触れたが、クリーパーの爆発に巻き込まれても破壊されず、火がついても延焼しない。岩盤のような一部の例外を除けば基本的にこれ以上に強固なブロックはないと言ってもいい。爆発や炎上を多用する敵を追加するMODにおいても採用されるほどだ。
ただし、黒曜石の数を揃えるのは結構な手間がかかる。黒曜石は材料となる溶岩源1ブロック分につき1つ。その溶岩源自体は地上から地下深くまで点在しており見つけるのは難しくないが、大きめの建築で壁も天井も床もカバー出来るだけ用意するとなると溶岩溜まりを積極的に探していく必要がある。
「せや、メイドさんにちょっくら溶岩源探しの旅に……」
メイドさんは『実家に帰らせていただきます』と文をしたため始めた。
そういうわけで黒曜石による拠点建築は断念した。今のところ、バニラ装備で太刀打ち出来ない敵が追加されている様子がなく、そこまでの防御性を求めなくても大丈夫なのではないかと見ていることもある。これでえげつない感じのが出てきたらMCヘリの兵器で対処するしかない。そうならないことを切に願っている。
話を拠点に戻し、玄関ポーチの部分に注目すると階段を用いたステップになっており、柵を利用した細い柱が庇を支えるような見た目になっている。そして庇部分には家具MODで追加された吊り照明を設置しており、夜間でも玄関を照らせるようになっている。
一方で出入りが楽になる感圧板による自動ドアは採用していない。確かに便利ではあるのだが、プレイヤー以外のモブも自由に出入り出来るようになってしまうというデメリットもあるからだ。さすがに気がついたら家の中にモンスターが入ってきていたなんてのは御免被るので大人しく手で開け閉めすることにした。
「セキュリティMODが入ってたら顔認証のドアとか監視カメラとか地雷とかつけられたんやけどなぁ」
「欲しかったような物騒なのが増えなくてホッとするべきなのか……」
拠点は上から見ると漢字の「田」のような間取りとなっており、中の十字が廊下で外の国構えが外壁、4つの空間が部屋となっている。
玄関を開けると真っ先に目に入るのは真っ直ぐに伸びた廊下と左手側にある2階へ続く階段。この階段を確保するためもあって、玄関に入ってすぐは2階の天井まで吹き抜けになっている。上がり框は設けていないので、カーペットを用いた玄関マットの辺りで靴を脱ぐ。廊下をまっすぐ行った突き当たりには裏口があるが、階段がなくて多少広いことと吹き抜けになっていないことはそう玄関と大差はない。
1階の入ってすぐ左、「田」でいう左下の部分は倉庫だ。拠点に戻ってきた時、すぐに荷物をしまえるようにこの位置にした。ある程度素材の種類を分けて別々に収納してはいるが、まだまだ空いているチェストは多い。そりゃ単位がラージチェストになるような集め方をしたら不足するだろうが、その時は独立した倉庫を用意するまで。地下の鉱石も大部分は手つかずで残してあるから、倉庫の空きが無くなるとしても遙か先のことになるだろう。
入って右、「田」の右下部分はリビングである。現代的なソファとかテーブルとか、そういった基本的な家具が置いてあるが、何よりも目を引くのはデンと置かれたテレビの存在だろう。そう、紛う事なきテレビだ。
「ガワだけで何も映らんけどな」
「そりゃそうでしょ」
ただし、ただのインテリアだ。ゲームでもただの置物だったりせいぜい設定した画像を表示出来たりするだけで本当に番組を受信出来るってわけじゃなかったし、予想の範囲内だった。ワンチャン何か放送してたりしないかと思って作ってみたが、そんなことはなかった。
続いて「田」の左上はというとトイレ、洗面所、お風呂になっている。ユニットバスのように一緒になっているわけではなく、トイレはトイレで個室になっており、洗面所を経由してお風呂に入る形だ。もちろんトイレは家具MODで追加される現代の洋式だ。洗面所にはちゃんと洗面台が用意してあるが、これを使用するために床下には4マスの無限水源を用意してある。こうしないと水が出てこないのだ。一方で排水溝に流れた水はどこかへ流れていって消滅している。
「さーて、ここの温泉は体力回復効用付きや。あ、あと染料を適量入れれば他にも効果がつくで」
「絵の具みたいになったりしない?」
「そこまで入れたら逆に毒の温泉になるな」
「怖っ!」
お風呂は飯MODの温泉を利用し、2人が同時に体を伸ばしても余裕がある程度の浴槽、それからシャワーと鏡を設置した体を洗うスペースがある。いっそ露天風呂のような感じで拠点とは別に風呂を作ろうかと思ったが、いちいち行き来するのが大変になるため、あえなく没になった。なお、温泉には特に染料を投入しておらず、ポーション効果がつくことはない。ただ温泉自体が持っている4秒ごとに体力を微量回復する効果はあるはずなので、きっと良い感じに疲れが取れるだろう。まだ試していないから楽しみだ。
「メイドさん、最重要区画やで」
「何言ってるの……うわっ、メイドさんの頷きが早すぎてブレてる!?」
1階最後、「田」の右上に当たる部分はダイニングキッチン。葵がやりやすいようにレイアウトを決めた台所と食卓があり、食材を収納するチェストもここに設置している。……うん、それぐらいしか言うことがない。せいぜい、こことリビングはLDKにしてしまってもよかったかもしれないことぐらいか。リビングと食堂の間にドアを2回挟んでいる形になるし。そのうち壁を取っ払って廊下を取り込む形でLDKになるかも。ただリビングは現状でもだいぶ広めなので、さらに広くなるな。現代日本だったらちょっと羨ましいかもしれないけど、クラフターだからな。普通だったら棚やら何やらで場所を取る分が空くのだ。
とまあ、1階部分はそんな具合だ。
後の2階は階段を上ってT字路になった廊下があり、4隅に1部屋ずつの合計4部屋がある。3部屋がそれぞれの私室で、空いた部屋はいずれエンチャント部屋にする予定である。私室と言っても、そう置く物もベッドや装備の他はインテリアぐらいしかないが。
さて、拠点についてはざっとそんな具合である。ひとまず事前の計画通りに作った拠点は……。
「2階は1階よりも小さめに作ってよかったかも……」
「せやなぁ」
作りやすいので1階と同様の大きさにしたものの、正直サイズを見誤った感が否めない。というか3人で住むような大きさの家じゃない。その気になったら10人ぐらいは住めそうな気がする。もっとも、さすがにそんな大勢で住むことは考えていない。ゲームのマルチでだって、そんな大人数でやるのは一部の配信者とかコミュニティを形成している人達とかぐらいではなかろうか。
「まあでも何か思ってたのと違うのはあるあるやで」
無計画に建てた拠点が完成しないのはよくあること、では計画通りに拠点が建ったとしてそれがしっくり来るかというと、そうでもないのもまたよくあることなのだ。
計画のコンセプト自体に間違いがあったり求めていた感じの雰囲気が出なかったりと理由は様々である。むしろ良い感じに出来上がっても、結局必要な部分しか使わないなんてのもザラだった。
まあ大体は途中で作るのに飽きて、廃墟化させてたような気がしなくもない。
「せやけどこれからここを拠点に活動してくんや。妥協も必要やで」
「それもそうだね」
とはいえ、さっさと生活環境を整えて探索とか情報収集とかを再開させたい身としては、そう何度も手直しなんてしていられない。まだまだ動物小屋や畑、拠点を囲む塀も作らないといけないのだ。拠点としては十分であることだし、ひとまずは満足すべきだろう。
「それより折角の新築や。祝いにご馳走でも食べへん?」
「あ、いいねそれ。作るの私だけど」
「お願いします葵先生!」
メイドさんと一緒に拝むと、葵は呆れたように笑った。
晩ご飯は分厚くて柔らかいハンバーグで、おまけにデザートとして舌触りのいいアイスが出てきた。
冷やすのに時間がかかるからさすがにクラフトしたらしいが、それでも味には製作者の味が反映される。
そろそろ葵の料理を崇拝し始めたらしいメイドさんが葵を讃えるためのモニュメントでも作るべきではないかと主張し始め、当の本人に恥ずかしいからやめてと全力で否定されていた。俺はそんな2人を眺めてニヤニヤしていた。
何だかんだで良い拠点になりそうだ。ずっと3人で居たくなるくらいに。
その夜。
「葵ぃー! 部屋が広くて寂しいでー!」
「子供か!」
このところ葵と一緒に寝ていたせいか、広い部屋で一人落ち着かなくなった俺は葵の部屋に突撃し、無事自分の部屋に送り返されたのだった。
葵ちゃん、ウチは寂しいでー。