「うわっ、めっちゃ細かいなぁ」
無事、拠点まで戻ってきた
題名だけが書かれた簡素な表紙をめくると、目次も前書きもなくいきなり文章が始まっている。余白がもったいないとばかりにギッシリと書かれており、ページ数に対してそこそこのボリュームがありそうだった。
葵の横から本の内容を覗き込む。
「ちょっと、お姉ちゃん」
装丁を知らない人が本を作ったらこうなるといった感じだ。これが原本か写本なのかも、誰によって、いつ、どういった経緯で著されて売りに出されたのかも分からないが……読んだらそのことについても書いてあるのだろうか。
「お姉ちゃんってば」
マイクラ世界の謎文字を日本語として認識出来るとはいえ、文字が細かくて見辛いのまではどうにもならない。健康体な茜ちゃんボディの視力が下がってしまいそうだ。
「お姉ちゃん、近いよ!」
そんな風に食い入るように本を眺めていたら、気がつくと葵にくっつくぐらい寄っていた。
慌てて距離を開けると、葵が微かに頬を赤くして半目になっている。
「す、スマン」
「もう……渡すから読んでて。私、晩ご飯作るから」
葵は本を押しつけるように渡してくる。
そのまま声をかける間もなく、台所の方へと行ってしまった。
「あ~……どないしよメイドさん、葵怒らせてもうた~」
瀟洒という言葉とは程遠い、ソファでゴロンと横になっているメイドさんに助けを求める。しかしメイドさんはやれやれだぜとでも言いたげに、手のひらを横にして上げるばかりだ。
メイドさんは当てにならないし、かといって葵の後を追いかけるのも気まずい。
葵の言ったように本を読んでおいて、後で謝るしかないか。
気を取り直して本の内容に目を向ける。
「ふむふむ」
文章はまず著者が訪れた土地の説明から始まっていた。
どうやらこの時点でクラフターについて探る旅を始めてから何年か経っているようで、それ以前に赴いたことのある土地についても若干触れられている。紙の特産地だったようで、もしかしたらここで旅を記録しようと思い立ったのかもしれない。
この辺りにはクラフターに関わる事柄は書いてなさそうだ。流し読みしてめぼしい情報が出てくるまでパラパラとページをめくっていく。
「これや」
やがてそれらしき単語を見かけた辺りで捲るのを止め、じっくり読む。
本には次のようなことが書かれていた。
――そもそもクラフターとは、どこからやってきた存在なのだろうか。
私がそれを伝承をよく知る古老に尋ねると、老人は答えた。
「外の世界――この世ではないところから」
この世ではない? それはつまりあの世、ネザーから来た存在ということだろうか。
私がそう問うと老人は首を横に振った。
「それは全く理の異なる世界。我々の想像の及ばぬ世界。
クラフターはそこからやってきたと語った」
どのように?
「門にして鍵であり、天地創造の力を持つ書によって。
その書は記されたままの世界へ読み手を送る力を持つという。
クラフターはそれを携え、やがて終わりの地へと姿を消した」
「ビンゴォ!」
俺は思わず喝采を上げた。
間違いない、『時代の書』だ。
何やら宇宙的恐怖みたいに形容されているものの、『時代の書』そのものがゲートでもあり、使用する鍵でもあるという解釈はそう外れてはいない。
ちょっと気になるのは天地創造の力を持つという点だ。
以前村長から聞いた話によれば、この世界を作り上げたのは『神様』であってクラフターではないはずだ。しかし、これではまるでクラフターが『時代の書』を使って世界を作り上げたようにも見て取れる。
もしも世界生成を行なうMystCraftの『時代の書』だった場合、元の世界へ戻る役には立たないことになる。
「それに終わりの地か……」
マインクラフトで終わりを意味する土地と言えば、『ジ・エンド』だろう。
エンド要塞という場所から転移する、ネザーとはまた別の世界であり、ある意味マインクラフトにおけるラストステージとも言える。
そこへ行ったということは話に出てくるクラフターとはエンダードラゴンを倒しに行ったということだろうか。
いずれ行くことになる可能性も考えてはいたが……。
「それも含めて、葵と話さんとな」