『琴葉茜』とマイクラ世界   作:糸内豆

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第51話 出発と遭遇

 あれから遠出することを行商人さんに伝え、一週間後に町へ向けて旅立つこととなった。

 装備を調えたり野宿に備えて物資を集めたりもしたが、一番大変だったのはメイドさんのご飯だろう。

 かなり長引いた時のことを考えて1ヶ月分も用意したからな。

 今回ばかりは調理してたら時間がかかりすぎるということで、葵もクラフトに頼ったようだ。

 作り手の技量が反映されるので味に問題はないのだが、葵としては不満だったようである。

 まあ同じ料理を一ヶ月分とかならともかく、毎食メニューが違うとのことなので、仕方ないだろう。

 

「それじゃあ留守番をお願いね」

「摘まみ食いからのストライキとかせんでなー」

 

 そんなこんなで当日、俺達はメイドさんに留守番を任せてヘリで村へ飛び立った。

 今回使用するヘリは普段の小柄な機体とは違い、大型の機体となっている。

 いつも乗っているのは機長席と副操縦席しか座席がなく、後ろは基本床に座る感じとなる。町まで行商人さんが同行するのでもっとスペースに余裕のある機体にしようということでこうなった。

 

「にしても大きすぎない?」

 

 葵が座席から後ろを振り返ってそう言った。

 ゆうに10人以上は乗れる後部座席、バスか電車1両並に荷物を置いたり搭乗したりするだけの余裕はある。

 

「え、ええやん。大は小を兼ねるやで」

「全長3倍以上もあったら別物だよ」

 

 障害物のない上空を飛ぶから良いけど、もしこれが車だったらあっちこっちにぶつけてそうだ。

 とはいえ簡易化された操縦自体はほとんど変わらず、運用に問題は無い。むしろ機体が大型になった分、安定感はこちらの方が上なくらいだ。

 特に何事もなく快適な空の旅を過ごすこと数時間、村へと辿り着く。いつも通り村の外へ着陸した。

 普段通りに門番に一声かけて行商人さんの滞在している家へ行く。

 

「行商人さん、来たでー」

「お待ちしてやした」

 

 声をかけると程なくして戸が開き、行商人さんが姿を現した。

 この村で交換したのだろう、様々な作物の詰まった大きな風呂敷包みを背負っている。

 既に段取りは決めてあり、そのまま村を出てヘリへと戻る。

 

「今回はあの空飛ぶ乗り物に乗せていってもらえるということでほんと感激しておりやすいやあやっぱり人生一度は空を飛んでみたいと」

「相変わらず元気やなー」

「ハッチを開けますね」

 

 マシンガントークを受け流しつつ、操縦席から後部のハッチを開く。

 行商人さんが乗ったのを確認して離陸する。

 独特の浮遊感と共にどんどん地面が遠ざかっていくのを見て行商人さんが感嘆の声を上げた。

 

「ほおー空から見ると全然違って見えますなぁ」

「せやろー?」

 

 拠点と村を何度も行き来しているうちに慣れたが、それでも空の上から見る景色は格別である。ゲームだったらパソコンの性能やゲーム自体の仕様などで、どうしても描画の限界により遠くの地形が見えなくなってしまうのだが、この世界ならそんなこともない。

 大地が地平線まで広がり、地上のものがミニチュアのように感じられる。まさしく自分が雲の上の存在になったかのようだ。

 もっともあまり高高度は飛んでいないし、この世界の遙か上空がどうなってるかは分からない。一応は太陽や月、星は見えるものの、本当に宇宙があるのかどうかも不明だ。MODには宇宙のディメンションを追加するものもあったが、そうでなければブロックの設置限界を超えてどこまでも高く飛んでいけたからな。とはいえもし飛行不能だとか低酸素で生存出来ないだとかになっても困る。現状、スケルトンの弓矢が当たらない程度で十分安全なことだし。

 

「すいやせん、ちょっと用を足したいんですが」

「せやなぁ、お昼やしそろそろ休憩しよか」

 

 のんびりと安全な空の旅をすること数時間。そろそろ休憩しようということで、一旦着陸することにした。休むだけならホバリングで空中待機も出来るが、生理現象となるとそうもいかない。さすがに旅客機と違ってお手洗いなんてついていないし、機体内に設置することも出来なかった。用を足すには一旦降りる他ないのだ。

 着陸出来そうな場所を探すと、鬱蒼とした森の近くが開けているのを見つけた。うっかり木にぶつからないよう、慎重に位置取りをして徐々にエンジンの出力を弱めていく。接地で軽く機体が揺れたものの、ダメージは無し。着陸成功だ。

 

「ではちょいと失礼いたしやす」

「気いつけてな~」

 

 ポータブルトイレ……またの名を入れたアイテムが消滅する家具MODのゴミ箱を携えて森の中へ入っていった行商人さんを見送る。さすがにインベントリも無しにトイレを持ち歩くのは無理があるから次善の策である。

 そんな話の後にするのも何だが、この間に俺達は昼食にすることにした。インベントリから机や椅子、料理などを取り出す。

 

「なんか違和感あるなぁ」

「そりゃねえ」

 

 レジャー用の折り畳み机や椅子などではなく、がっしりとした家具が野外に置いてあるので全く景色に似合わない。想定されている使い方じゃないから当たり前の話ではあるが。

 

「今日のお昼はなんなんや?」

「ビーフバーガーとオニオンスープだよ」

「リッチやなぁ」

「ふふん、でしょー」

 

 ちょっと自慢げに葵が取り出したバーガーには手頃なサイズとはいえ、それなりに分厚い牛肉と野菜がぎっしりと挟まっていた。元の世界なら店で買ったら一食千円以上はするであろう贅沢なメニューである。なかなか食いでありそうで茜ちゃんボディなら結構これだけで満足じゃなかろうか。

 バーガーが重めなのを考えてか、スープの方はあっさりしている。けれどもコンソメが利いていて物足りない感じはしない。スッと胃に入ってくる。

 2人でのんびりと舌鼓を打っているうちに30分ほど過ぎただろうか。行商人さんはまだ帰ってくる気配はない。

 

「行商人さん、まだかな?」

「そんな具合が悪そうには見えんかったけどなぁ」

 

 森の方へと声をかけたものの、返事は戻ってこない。

 

「もしかしてモンスターに襲われたとか……?」

「そんならもう少し騒ぎになってそうな気ぃはするけど……様子は見に行った方がええな」

 

 家具をしまった後、念のためにダイヤ装備を身に着けて2人で森の中へと入っていく。

 拠点や村の周囲とは違って昼間でもかなり薄暗く、生えている木々の幹も太い。沈んだ色が特徴のダークオークであることもあって圧迫感がある。

 

「これやと場所によっては昼間でもモンスター湧きそうやな」

「行商人さんならそれぐらい知ってそうだけど……そんな遠くに行ったのかな」

 

 茂みを避け、索敵しながら行商人さんへの呼びかけを行ないつつ歩くこと数分。俺達はあるものを見つけた。

 

「ゴミ箱だ……」

 

 先程行商人さんが持っていったゴミ箱だった。

 周りを見渡すもそれ以上痕跡らしいものは見当たらない。

 

「どこ行ったんやろ……」

 

 

 

 その時だった。

 

「動くな!!」

 

 急に野太い声が辺りに響いた。

 ギョッとして目を向けるとガサガサと周囲の茂みが揺れて、いくつもの影が立ち上がった。

 

「えっ、何!?」

「嘘やろ……イリジャー!?」

 

 それはイリジャーだった。スペルは悪いとか邪悪なを意味する『ill』と村人を意味する『villager』を掛け合わせた『illager』で、日本語での呼び名は『邪悪な村人』、そのまんまである。

 と、悠長に解説している場合ではない。コイツらは要はモンスターと同様の敵対的Mobであり、全力でこちらの命を狙ってくる存在なのだ。慌てて剣を構える俺達だったが、大将格らしきピリジャー……今回は斧を持ったヴィンディケーターは不敵な笑いを見せた。

 

「おっと、コイツがどうなってもいいのか」

 

 ヴィンディケーターが背後に控えていた下っ端らしきクロスボウ持ちのピリジャー達に合図をする。

 ピリジャー達が連れてきた人物を見て、俺達は息を呑む。

 行商人さんだった。後ろ手に縄で縛られており、猿轡を噛まされている。

 ピリジャーのうちの一体が猿轡を外すと、行商人さんは申し訳無さそうに言った。

 

「すいやせん……捕まっちまいやした……」

「命が惜しければ俺らに従ってもらおう」

 

 人質を取られて、見殺しにするなど出来るはずもなく。

 こうして俺達は捕まってしまったのだった。

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