朝っぱらからクリーパーに爆破されたり意を決してニワトリを捌こうとしたらアイテム化したりと何が何だか分からない目に遭ってきたわけだが。
焼き鶏を食べて無事腹拵えも出来たので、そろそろ当初の予定に戻ろうと思う。いや、本当にボリュームがあった。ニワトリ一羽分丸々と考えれば不思議でもないのかもしれないが、見た目は手で持てるサイズだったからな。
「まあ、1個食べるだけで空腹度の3分の1弱が回復するくらいだからなぁ」
ただ食べ始めた瞬間、アイテム化が解けたのか急に手が油まみれになったのには焦った。慌てて服で拭いそうになり、着ているのが茜ちゃんのお洒落ないつもの服ということを思い出して踏み止まった。とりあえず近くの水源で手を洗ってから乾くがままに任せたが、こんなのを繰り返してたら肌が荒れそうだ。
今は無理でも食器とかタオルとか生活用品も用意しないと駄目だな。そこら辺のアイテムを追加するMODが適用されていればいいんだけど。それともベッドとかいい感じに引っぺがして布として使えないかな。
おっと脱線した。さしあたって今から行なうのは豆腐ハウスの改築だ。どのようにするかというと、一番下の地面を丸石にして、その上に木の床を張る。
それから3ブロックの高さで天井を張って空間を確保。ただし、部屋の一部はハーフブロックを張って2.5ブロックくらいにする。これは目が合うと全力で殺しにかかってくるエンダーマン対策の待避空間だ。うっかり目が合って、家の中にワープして来たら今のままじゃ普通に殴り合っても勝ち目無いし。正面戦闘は鉄装備くらいは揃えてからじゃないとやりたくない。
入り口部分は階段ブロックを使って簡単に玄関を設けよう。壁は昨日のを使い、奥行きや横幅はそのまま。まだそんなに広くなくていいだろう。積み直すのも大変だし。
内装は作業台とかまど、それから松明とチェストを設置するくらいだ。別に床で寝られないことはないが肌寒いし堅くて凝るからやはりベッドも欲しい。他に家具の類も置きたいところだが、MODのレシピを知らないから実装されていても試せない。既に作れるのもあるとは思うんだが。
それから今度は窓も用意しないと。さっきは油断もあったが、家の陰が死角になっていたのもクリーパーに気がつかなかった要因の1つだ。そうでなくとも外の様子を確認出来る構造は必要だろう。でもさすがにモンスターもガラス越しに視認するくらい出来るよな? 出来るだろうな。カーテンが欲しい。そうなるとやっぱり羊毛が必要になるわけで。最初は狩って剥ぎ取るしかないだろうけど、やっぱり気分的にも効率的にも鋏用意した方がいいよな。となると鉄を用意して……鉄も色々なのに使うな。
ああ、やっぱり全然素材が足りない。マインクラフトに限らず、こういった徐々に環境を整えていく時が一番楽しいって人もいるだろうけど、俺としては歯痒いばかりだ。エアコンとか冷蔵庫とか文明の利器が恋しい。記憶無いけど。
ふと思いついて呟いてみる。
「うちは今をときめくピチピチの文明人ウーマンやからな」
……いかん、今すごく残念な感じになった気がする。文明人ウーマンって、頭痛が痛いみたいな。いや、そうじゃないだろう。ピチピチっていうのも何だかオッサン臭い。違う、そうでもなくて。
ああっ、やめだやめ。今は先のことなんて考えても仕方ない。あるものでどうにかこうにかやりくりするしかないんだ。とにかく手を動かそう、手を。時は金なり。実際、マインクラフトで最終的に物を言うのはプレイ時間だ。
それからは黙々と改築作業に取りかかった。とは言っても石を敷いて木ブロックを置くだけだから大した時間もかからずに終わった。完成したのはちょっと玄関で出っ張りがある豆腐。もはや何も言うまい。柱部分を原木にするなんて贅沢は必要ない。中も先の通り、作業台やかまど等が置いてあるだけだ。
他に特筆することがあるとすれば松明の炎が触っても全然熱くないし、何も燃やさないのを確認したのと外壁に屋根に登る用の梯子をつけたくらいか。最初は階段をつけようかとも思ったが、後々窓ガラスを張ることを考えると死角を作りたくなかった。松明の謎? ニワトリショックに比べれば、もう大したことじゃない。あれを上回る衝撃なんて早々無いだろう。
さて、一仕事終えたらちょっと喉が渇いたな。
「ああ、そうだ。水場も必要か」
今は無理だがバケツを作ったら無限水源も用意しないとな。いちいち外に出て行くのも面倒だし、夜なんかは危ないから家の中に作ることになるか。
というかここまでマインクラフトでの家作りに沿って進めてきたわけだが、この世界はある程度現実的な法則にも則っている。体感としてもゲームの機能性だけ詰め込んだ家で住むのはキツい。であれば他に何が必要だろうか。
「家と言えばやっぱりキッチンがあって、リビングがあって、寝室があるだろ。あと風呂があって、それから……」
気がついてしまった。
「……トイレ」
ク、クラフターの能力として飲み食いしたものはどこかの国民的ロボットみたいに全部分解されて出す必要が無いとか……ないだろうな。血は出るし、今まで気にしていなかったが汗も出る。
今のところは食べたのがあの焼き鶏だけだし、後は水を飲んだだけだ。特に不調は感じないが、これは死活問題だ。肉体的にも精神的にも、もちろん乙女になった身としてもだ。当面は登山やキャンプみたいな野外活動の時みたいにするしかないだろうけど。
「バニラの時みたいにそれっぽい見た目の作ったって駄目だよな……」
家具系MODでは確かトイレが作れたはず。ゲームだとネタにしかならなかったが、こうなると希望だ。実際に生活すると家具の重要性が身に迫ってくる。ほんと、導入されててくれよ。
水を飲んだり木の床で軽く横になったりで小休憩を挟んだ。
太陽の位置はまだ高い。昨日目覚めた時とそう変わらないくらいの時間だと思う。
「まずは軽く畑作ってみて、と」
インベントリからチェストにアイテムを移している時、昨日移動がてら刈った草から入手していた種の存在を思い出した。全然数が足りないし、やはり畑を作るにもバケツが欲しいからお試しみたいなものだが。
木の鍬を作り、昨日からお世話になっている水源の隣を耕してみる。1カ所耕しただけで周囲ごと表面の土がひっくり返るのは予想通りで驚くこともない。手持ちの種をテキトーにばら蒔くと、隣に目印と夜間の明かりも兼ねて松明を1本設置しておく。
収穫は早くても明後日ぐらいになるだろう。無論、現実のそれと比べれば異常な早さではあるのだが、この規模では作れるのはせいぜいパン1個だ。とても食事を賄うには至らない。
当面は狩猟採集生活だな。
「それじゃあ行くか」
石の剣を片手に持って家の周囲を探索してみる。
迷って戻れなくなっても困るから土地勘を掴むのが優先だが、めぼしい資源が見つかれば持って帰るつもりだ。石炭辺りが露出してないだろうか。
ひとまず森の外縁部に沿って歩いて行った。
「お、川だ。サトウキビもある」
早速、川を見つける。これならばと見渡してみてると案の定砂もあったので回収する。ガラスの材料だ。帰ったらかまどで精錬して壁の一部を交換するか。シルクタッチ付きの道具が無いから壊したら回収出来ないので気をつけないと。
後はサトウキビも川岸に生えていた。一束回収しクラフトするとゲーム通り、白砂糖になった。黒砂糖じゃないんだよな。試しにそれを舐めてみる。
「甘い」
ちょっと体が元気になったような気がする。さすが女の子、砂糖で出来ているというのは本当だったか。いや、あの元の詩ではスパイスもあったからそれじゃ片手落ちだな。
それに砂糖を食べてお腹を膨らませるというのもちょっとな。やっぱりお腹にたまるものじゃないと食べた感じがしない。サトウキビは紙の素材でもあるし、砂糖ばかりに使うわけにもいかない。
とりあえずサトウキビは上の部分だけを回収しておいて、後はそのままにしておこう。そのうちまた伸びるはずだ。
向こう岸にもあったが、それには手をつけずに引き返す。あまり範囲広げたくないし、ゲームと違って濡れるからな。そのうち橋をかけるか。
川を離れて、今度は森の中を歩いてみる。もちろん位置が分からなくならない程度にだ。
物陰にクリーパーやスケルトンがいないかを警戒し、慎重に進んでいく。ついでに木にリンゴが生っていないかを眺めてみるが、見当たらない。葉で隠れているだけなのかもしれないが、そもそもオークの木からリンゴが採れるというのも変な話だからな。出なくなっているのかもしれない。
そんなこんなで歩いていると、やがて先ほども聞いた鳴き声がした。
「……ニワトリか」
そこそこの数が群れでいるようだ。これだけいれば何日かは食いつなげるだろう。
そう思って剣を構えようとしたところで、ふと思いつく。
「そういえば繁殖はさせられるんだろうか」
農場を作って動物を繁殖させ、食料や素材として確保するのはゲームでは当たり前のことだった。動物もまたモンスター同様にスポーンするとはいえ、毎回出かけていって狩るのは効率が悪いし、何より面倒だからだ。
周囲を見渡す。草が生い茂っているのはいつも通りだ。種も充分に出るだろう。
ふむ、試してみるか。