『琴葉茜』とマイクラ世界   作:糸内豆

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第6話 『琴葉茜』とニワトリ

 第1次ニワトリ繁殖作戦は、大失敗に終わった。

 

「ひえぇぇぇ!?」

 

 素っ頓狂な悲鳴を上げてしまったのは決して俺がニワトリ嫌いな訳でも、先のニワトリショックのせいでも無い。

 ゲームみたいにちょこちょこと寄ってくる感じを想定していたのが間違いだった。それはもう奈良公園の鹿もかくやという勢いだ。

 あっ、と思った時には既に一斉に群がられていた。

 

「ちょっ、こら、やめ、痛っ!」

 

 バサバサと翼で叩かれるわ、爪で引っかかれるわ、嘴で種を持ってる手を突っつかれるわ。視界を覆い尽くすニワトリは、ものすごい迫力だった。

 端から見れば、鳥葬か何かかと思われるに違いなかった。少なくとも女の子が小鳥を手や肩や頭に乗せて微笑むといった風の素敵な絵面とは程遠い。別にそこまで幻想的なのを期待していたわけではなかったが、せいぜい牧場の楽しい餌やり体験くらいかと思ったらこれだ。

 集めたばかりの種が手元から無くなる頃には、俺はすっかりボロボロになっていた。ダメージは受けていないが髪は乱れてしまい、腕や手にかすり傷や突かれた跡がついている。

 そして肝心のニワトリ達はお目当てのものが無くなると見るや否や、さっさと解散して再び付近をうろつき始めた。全く何事も無かったかのように、のんびりとしている。中には卵を排出するようにポンと産んでいるのもいる。3歩歩けば物事忘れる鳥頭ということか、もはやこちらに興味を寄せる様子は全くない。

 

 頭の中のどこかで何かが切れる音がした。

 

 

 

 拠点に戻った俺はニワトリを囲っておくための柵を設置したり誘導するための種を入手がてら草刈りしたり、後は足りなくなった木ブロックの補充に伐採をしたりなどした。

 今は家で休憩中だ。

 

「少しずつじゃないと駄目だな、あの感じ」

 

 せっせと生の鶏肉をかまどに放り込んでは焼き上がった端から口に運ぶ。いやあ大猟だった。数日は困らないだろう。インベントリ内なら腐らないだろうし、余った分は取っておくか。食べ飽きるかもしれないが、この際そんな贅沢は言ってられない。とにかく栄養になればそれでいい。食卓の充実は落ち着いてからの課題の1つだな。

 さて、さっきの反省は制御出来ない数を一気に引き寄せようとしたこと、挙動を見誤っていたことか。まさかあそこまで激しく反応するとは思わなかった。まだニワトリで良かったのかもしれない。これが牛や豚だったら重さで潰されていたかもしれない。せめてもの成果、怪我の功名と言ったところか。

 それに連れてきても留めておくための場所が無かったのも問題だ。家の中に放し飼いなんてしたら、やかましい荒らされる臭いがつくの三重苦は免れないだろうし。ニワトリ用の柵も家からは少し離れたところに仮設置した。そのうち他の動物も飼いたい。配置をちゃんと考えないといけないな。

 それじゃあもう1回やってみるとしよう。休憩を終えた俺は再び森の中へと分け入っていった。

 

「よし、発見」

 

 ニワトリの群れを見つける。さっきと比べて規模は小さく、手頃な感じだ。

 そういえばこの森ではニワトリばかり見つけて牛や豚は見かけないな? ゲームだったらこの辺りはニワトリのスポーン範囲って感じなんだろうけど。いやでも、確かスポーンする生物やモンスターはランダムで、動物の発生頻度は少なかったような。単に群生地ってことなのか? あの草原で全然動物見かけないのも不思議な話だよな。水飲み場もあってなだらかでたくさん草も生い茂っているのにな。

 もっとも今はニワトリの誘導が先だ。手元に再度集め直した種を出してニワトリ達の前にちらつかせる。こちらへ寄ってきたニワトリと来たらどいつもこいつも種にしか目が向いていない。どれだけ種に執着があるんだ。

 

「ちょっとずつ来いよー」

 

 相変わらず一心不乱に寄ってくるが数が少ないし、こちらも合わせて下がっているからさっきのように群がられて動けなくなるということもない。転んだり木にぶつかったりしないように気をつけながら誘導を続ける。

 そうしていると特に苦労することもなく、最初は何だったのかというくらいあっけなくニワトリ達を連れてくることが出来た。途中で何匹か誘導が外れたり柵の辺りでつっかえたりかくらいはすると思ったのだが。

 ちょっと釈然としないが、上手くいったものは良しとしよう。

 

「じゃあ、試してみるか」

 

 ニワトリを柵の中へ誘導した俺は、一旦種を手元から外す。そしてニワトリが興味を失っている間に柵を出ると、今度は外側から種を見せた。ニワトリが寄ってきたのでそのうちの2羽に種を与えてみる。

 ……特に変化はない。ニワトリは種を飲み込んだっきりで求愛状態になった感じでも無さそうだし、動きが変化する様子もない。他のニワトリで試してみても一緒だった。

 これは宛てが外れたか。さすがにゲームみたいにその場で子供を産みはしないか。そもそもニワトリなのに卵無しで出産したり卵を放り投げてたら確率で産まれたり、ニワトリの子供なのにヒヨコじゃなかったりとか不思議なところは色々あったが。

 気がつけば少し暗くなってきている。まだ陽は昇っているが、あと少しで夕方といったところだろう。今日はもう外をうろつかない方がいいな。

 家に戻り、川辺で採取した砂をかまどで精錬する。これでガラスが出来た。それを6個組み合わせてクラフトし、窓ガラスを作成する。家の壁の一部を撤去してはめ込んでみる。

部屋の広さ自体は変わらないが、心持ち狭苦しいのが和らいだように思う。

 

「おお」

 

 外の様子がよく見える。これで今朝みたいに不意打ちを食らうこともないだろう。

 もっともカーテンも覆いも無い今は外からも中が見えることになる。ひとまず夜中は松明を外しておくか。モンスターが明かりに反応するかどうかは分からないが、気づかれる可能性はなるべく排除しておきたい。

 早いけどそろそろ寝てしまおうか。やれることがないし、起きていたって退屈凌ぎになるものなんて無いし。元の世界だったらゲームでもネットでも、それ以外にも本を読むなり何なり色々あったんだけどなぁ。娯楽はあって当たり前のもので、事欠かなかった。

 

「おやすみ」

 

 誰に言うとでもなく、俺はそう呟くと横になった。

 気がつけば体のダメージも回復してる気がする。ニワトリ様々だな……。

 そんなことを思いながら。

 

 

 

 翌朝、コケコッコーというけたたましいニワトリの鳴き声で俺は叩き起こされた。

 

「うひゃあ!?」

 

 我ながら可愛い悲鳴だった。他人の体だけど、これって自画自賛に入るのだろうか?

 ニワトリの爆音目覚ましは家のすぐ傍から鳴り響いた。ニワトリはもっと家から離れたところに集めたはずなのだが。おかしいな。

 それにしてもよく寝てたんだなぁ、俺。直に床で横になっている割にはぐっすり寝られている。自覚は無いが、それだけ疲れているのだろう。いかに身体能力が上がっているとはいえ、この茜ちゃんボディ自体は鍛えられてるって感じではないし。ここで生活していれば自然と体力もつくだろうけど。

 じゃ、話を戻そう。完全に目も覚めてしまったし、俺は家を出て様子を確かめることにした。もちろん昨日設置した窓から、モンスターがいないか窺うことは忘れない。今日は大丈夫そうだ。

 

「ああ、いたいた……?」

 

 案の定、家のすぐ傍にニワトリがいた。何羽かがうろついている。見渡すとまばらに散らばっているから、たまたま近寄ってきていたのが朝日に反応して啼いたんだろう。

 しかし、何だか変だ。ほとんどは昨日見た通りなのだが、明らかに小さい個体が混じっている。

 

「もしかして子供か?」

 

 マインクラフトにおいては、ニワトリの子供はヒヨコではなく小さい成体である。奇妙ではあるが、基本的に他の生物も子供は成体を小さくした見た目をしているから、そういう法則なのだろう。

 それはさておき、これはいったいどういうことだろうか。てっきりこの世界では現実同様に繁殖には時間がかかると思っていたのだが。ニワトリの柵へと足を運んでみると、そちらにも小さいのがチラホラといる。

 様子を眺めていると柵内の端にいたニワトリが飛び上がって、そのまま柵を乗り越えていった。どうやら家の周りにいたのはそうやって脱走したようだ。

 

「あー。まあ、そうなるか」

 

 ゲームの時と同じように柵で囲ったものの、高さが足りなかったようだ。ゲームだと上に何も設置しない場合、1.5ブロック分の高さとして扱われていた。しかし、この世界においては、別にそんなこともなく見た目通りの高さしかないようだ。

 ふむ、他の動物を飼う時は気をつけた方がいいな。それにウシが体当たりなんかしたら壊されそうだ。

 なんだかんだでニワトリ飼育がテストケースとして役立っているな。

 柵の高さをもう1マス分上げてから、外に散らばったニワトリ達を誘導して中へと戻した。入れる時が中のニワトリも集まってきてちょっと大変だったが、種を地面にばら蒔いたところそちらへ引き寄せられて何とかなった。

 結局、まだ繁殖についてはよく分からないが、ひとまずニワトリは一晩くらいで増えると考えておこう。クールタイムがあるのか、子供の成長速度はどのくらいかなども分からないし。経過を見るしかなさそうだ。

 

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