『琴葉茜』とマイクラ世界   作:糸内豆

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前話を加筆修正


第7話 『琴葉茜』の初戦闘

 さて、ひとまずニワトリは一段落したので次のことをするとしよう。

 とはいえやることは朝食の焼き鶏を食べたら今日も探索をするくらいだが。物資不足だから、とにかく周囲を回ってめぼしい物を取ってこないといけない。

 石の剣を片手に森へと入っていく。今日は昨日とは少し違うルートを取ってみるか。

 歩いていると白いものが草木の間に見えた。またニワトリかとも思ったが、どうやら違うようだ。スケルトンじゃないよな、と思いつつ近寄って確認する。

 

「おっ、やった」

 

 ヒツジだった。3匹が草を食んでいる。どことなく間の抜けたような顔に見えるのはゲーム通りだが、ちゃんとモコモコしている。結構可愛い。

 まあ逃げられないように周囲を囲ってから容赦なく狩ったのだが。抵抗が無かった訳ではないし、ニワトリよりも来るものはあったが、かといって見逃すだけの余裕もなく。羊は羊毛と羊肉になった。これで今夜はベッドで寝られるな。悲しげな最期のメェーという鳴き声は記憶の外に押しやる。

 ……羊肉があるってことは、この世界はバージョン1.8以降なのだろうか? 今まで考えてなかったけど、マインクラフトってバージョンによって内容が結構変わるからな。ゲームならバージョンによってMODも適用出来たり出来なかったりするんだけど、この世界だとどうなんだろう。あまり当てにはならないだろうか。

 

「でも川を見た感じ、魚は泳いでなかったな」

 

 知識が正しければ近年のバージョンだと釣りでしか手に入らなかった魚がモブとして実装されていたはずだ。前までと比べてずいぶんと水中が賑やかになっていたのが印象的だったのだが、昨日見た川には一匹もいなかったな。

 ただ、だいぶ前のバージョンから実装されているイカもいなかったし、たまたまかもしれない。まだまだ結論づけるには情報不足だ。このことを考えるのも後回しだな。今は探索を続けよう。

 再び森の中を歩き続ける。途中から迷いそうになり、とりあえず手持ちの木ブロックを目印としてところどころに設置することにした。距離的にはさほどでもないと思うのだが、

背の高い草や木々に視界や道を塞がれていると思った以上に周りが見えないし移動に時間もかかる。一応草をいつもの殴る感じで軽く刈りながら進んではいるが、それでも道は悪い。

 

「ああもう、鬱陶しいな」

 

 服に引っかかった葉っぱを取り外しながら、ため息交じりに呟く。何かしらの力が働いて頑丈になっているとはいえこの服、野外活動には全く向いてないからな。これが町中だったら男を引っかける側になれるだろうに。

 ……あ、茜ちゃんはそんなことしないから。むしろ悪い男に引っかけられる側というか、被害者枠というか、いやいや何考えてるんだ自分。茜ちゃんに失礼だし、今は俺が琴葉茜じゃないか。被害者になんてなりたくないぞ。

 どうにも思考が変な方に行っている。もっと周囲の様子に注意を向けないと。

 そんなことを考えながら進んでいたら、やがて壁に突き当たった。小山のようでちょっとした崖になっている。

 

「おっ、石炭」

 

 崖は石の層が露出しており、その一部に黒い点が混ざっているところがあった。石炭鉱石だ。早速ツルハシに持ち替えて採掘を行なう。石炭はまとまっていることが多く、今回も結構な塊になっていた。一括破壊のおかげもあり、あっさり10個以上が溜まる。

 とは言ってもこの程度では早々に使い切ってしまうだろう。見つけやすい石炭ではあるが、主要な燃料で使用頻度も多いからな。

 さて、ここからはこの壁沿いに進んでみるか。同じように石炭があるかもしれないし、鉄鉱石が見つかる可能性もある。そう思っていたが、俺は別のものを見つけることとなった。

 

「洞窟か……」

 

 崖にぽっかりと空いた大きな穴。中は暗く奥がどうなっているかは窺い知れない。マインクラフトではお馴染みの洞窟だ。

 洞窟はマインクラフトの世界中に点在しており、ちょっとした小穴程度のものから別の入り口に繋がっているもの、地底や地下渓谷、はては廃坑や海の下にまで広がる巨大なものまで様々だ。

 洞窟では地上では手に入らない鉱石を見つけることが出来るが、危険も多い。落下やマグマなどの地形もそうだが、何よりも暗いのでモンスターが出現するのだ。松明のような光源を置くことで抑制出来るとはいえ、それは既に通った道に限られる。複雑に入り組んだ場所では思いがけないところから襲われたり、何とか撃退しても帰り道が分からなくなったりすることはしばしばだ。また必ずしも有益なものが見つかるとも限らない。苦労して進んだが結局行き止まりだったというのも珍しくないのだ。

 他にも色々とあるが、概ねはこんなところだろう。ゲームでも時間がかかり、また緊張感が求められる場所だ。現実のものとなったこの世界ではいっそう危険であることは想像に難くない。

 

「大人しく拠点周りでブランチマイニングした方がいいだろうな」

 

 ブランチマイニングとは地上から地下に掘っていって、目当ての鉱石が出る辺りで通路状に掘り進めていく手法だ。若干の手間はあるが、それでも自然に出来た洞窟に入るよりもずっと安全で効率が良い。途中で洞窟に当たってしまったりマグマが出てきたりということもあるが、注意していれば待避も容易だ。

 洞窟探検という言葉には少しばかり冒険心をかきたてられないでもないが、安全が第一だ。仮に洞窟に入らないといけないとしても、装備や物資を調えてからにするべきだろう。

 そう、思ったのだが。

 

「あっ、鉄鉱石」

 

 俺は洞窟の入り口辺りに鉄鉱石があるのを見つけた。鉄は羊毛同様にかなり欲しい材料だ。この世界だと性能が上位の装備を作るのに必要なダイヤよりも需要が多いかもしれない。

 まだ太陽は高く時間もある。入り口のものを採るくらいなら大丈夫だろうと思い、俺は足を踏み入れ、特に何事もなく鉄鉱石を採掘することに成功した。2つか。バケツを作るには1つ足りないな。

 

「ん? まだあるな」

 

 もうちょっと奥にも鉄鉱石があるようだ。大して離れてはいないし、それにどうやらもう突き当たりのようだった。これなら行けるか。

 俺は松明を洞窟の床に置きながら奥へと進んだ。そして鉄鉱石をツルハシで掘る。1つ、2つ、3つ、4――。

 

 

 

 その時、フッと風が吹いて金属音のような低い音が洞窟内に響き渡った。空洞音だ。

 それに混じったカランという微かな音に、俺は気づかなかった。

 

「か、はっ!?」

 

 背中に突然焼けるような痛みと衝撃が走った。息を吐き出すような悲鳴が漏れる。

 反射的に振り返る。そこには弓を構えた隙間だらけの人型、スケルトンがいた。

 続けざまに飛んできたもう1発が空を切って足に突き刺さる。俺は壁に寄りかかるようにして倒れ込んだ。

 

「いっ、ぎっ」

 

 足の痛みに出かけた悲鳴が、壁で折れ曲がりつつ背中をより深く抉った1射目で止められる。

 殺される。殺されてしまう。嫌だ、痛いのは嫌だ。死にたくない。死にたくない。一昨日の夜に感じた恐怖が急激に蘇ってきて脳裏を支配する。

 無我夢中で、俺はブロックを積み上げた。直後、反対側で矢の突き刺さる乾いた音がする。あと少し遅れていたら当たっていた。

 スケルトンが回り込もうと骨を鳴らしながら歩くのが聞こえたので、隣の空間にもブロックを積み上げる。俺は狭い、暗闇の空間に包まれた。

 苦痛から深く息を吸うことが出来ず、しゃくり上げるような短く浅い呼吸を繰り返す。どっと脂汗と涙が流れ出て頬を伝っていくのが分かる。そして矢の刺さった辺りに温いものが広がっていくのも。

 完全に油断していた。たとえ小さな洞窟でも敵が湧くことは知っていたはずなのに。目の前の鉱石に目が眩んで、索敵と警戒を怠った結果がこれだ。

 

「くぅ、ふぅ……」

 

 何とか息を落ち着ける。まだだ、まだこんなところで死んでいられない。死にたくない。大丈夫だ、俺。俺は、まだ生きてる。状況を整理しろ。とりあえず手持ちの焼き鶏を食べて空腹度の回復をはかる。味わう余裕もなく、痛みを誤魔化すように無理矢理飲み込んだ。

 まず、今の俺の体力はクリーパーに爆破された時はマシなはずだ。矢は突き刺さっているが、ゲーム通りならダメージ自体は2発で最大ハート6個分。たぶんあと1発だけなら耐えられる、かもしれない。出血がどうなるかは分からないが、今は処置していられないし出来ないから放置だ。

 次にスケルトンについてだ。スケルトンはアンデッド系モンスターで基本的に弓による射撃を行なう。その精度はかなり高く、今の距離ではまず回避は出来まい。またゾンビよりも知能が高く日光の下には出ないし、仮に出ても日陰や水中など燃えない場所に逃げようとする。

 強力な装備や体力に余裕があるならともかく、今の俺が正面から戦っても死ぬだけだろう。ならばどうするべきか。このまま反対の壁を掘って逃げるか、いやそっちにも空洞広がってたら終わりだ。回り込むように外に掘って逃げるか?

 松明でこの狭い待避空間を明かるくしてから、試しに壁を掘って進んでみる。そのまま壁を挟んで外に出ようとするが。

 

「くそっ」

 

 スケルトンの足音が明らかにこちらに反応して動いている。どうやら逃がす気はないようだし、見失ってもくれないようだ。

 もっと時間をかければスケルトンの反応出来ないところまで行けるかもしれないが、どこに出るか分からないのが難点だ。この洞窟の真ん前を通るわけにもいかないし、帰るのに時間がかかっても困る。

 なら、答えは決まっている。死中に活を見出すまでだ。

 とはいっても、先ほど考えたように正面から戦うのは無謀である。

 ここはクラフターらしく戦うとしよう。

 少し通路の中をウロウロして壁の向こうのスケルトンの大体の位置に目星をつける。それから俺は足下を掘り始めた。万が一にも一気に掘ってしまわないよう、一括破壊を無効にするのを意識する。

 

「……よし」

 

 やがて、ちょっとした小部屋が掘り上がった。2マスの高さでそのうちある方面の壁の上部1マスだけ穴が空いている。俺はツルハシを構えると、その1マスの空間の天井を掘った。

 軽い音がしてブロックが消失する。同時に――その上に立っていたスケルトンが落下してきた。

 

「こ、このぉ!」

 

 スケルトンの足が見えた瞬間、俺は石の剣を叩きつけるように振るっていた。骨の軋む音を立ててスケルトンは揺らぐが、狭い空間故に倒れることも出来ない。そして足下しか空いていない空間でこちらを弓で狙うことも出来ない。

 時折勢い余って壁を削りながらの一方的な斬撃は、そう長くは続かなかった。何度目かの攻撃でスケルトンから力が抜ける。断末魔のような破砕音と共にスケルトンは1本の骨を残して消滅した。

 

「ぜぇ、はぁ……」

 

 肩で息をしながら剣を下ろす。

 モンスターを倒した。勝った。

 だが、油断は出来ない。俺は気を落ち着けると壁を階段状に掘り、そっと洞窟内に戻った。どうやら敵はいないようで、ようやく安心する。

 改めて確認してみる。入り口からは死角になっていたが、どうやら横の方にも道が続いていたようだ。さっきのスケルトンはそこから来たのだろう。

 

「帰るか……」

 

 ひとまずブロックで横道を封鎖し、俺は洞窟の外へ出た。

 どっと疲れたし、痛いし、やる気も起こらない。

 いくらか素材も手に入ったことだし、今日はもう探索は切り上げるとしよう。

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