煉獄さん生き返れ生き返れ   作:ヨフカシACBZ

22 / 28
煉獄さんかっこよかったです~❤

今回の話は映画特典である「煉獄零巻」のネタバレを多く含みます。
というかネタバレしかねえ!!

でも煉獄さんかっこいいから是非ともオリ主を介入させたかった。

本作の前章譚のようなものとして、どうぞごゆるりとお楽しみください


煉獄零巻

煉獄杏寿郎の記憶。

 

最終選別を終え、煉獄家に帰った時のことだ。

車椅子に座る父親、煉獄槇寿郎の姿を見た杏寿郎は、高鳴る胸を押さえながら、その背中に声をかけた。

 

「父上!ただ今帰りました!!」

 

キイ、と車椅子の車輪の音がする。

槇寿郎は無言だ。

 

「最終選別を終え、御館様にも御目通りいただきました!俺も炎柱を目指し、精進致します!!」

 

精神が高揚していた杏寿郎は、そこまで矢継早に喋った。

それに対して、槇寿郎は冷たい声で言った。

 

「お前も」

 

名前で呼ばれなくなった事に、ズキリと胸が痛む。

 

「千寿郎も、たいした才能はない」

 

才能、という言葉に込められた、圧倒的強さへの羨望。

槇寿郎を含め、そこには辿り着けないという絶望が感じられた。

 

「くだらん夢を見るな。炎柱は俺の代で終わりだ」

 

父のように、炎柱になりたいという杏寿郎の言葉を、くだらないと一蹴する。

自分が積み上げてきた実績や、先代達の残したものすら、彼にとっては捨ててしまっていい物なのだろう。

 

「ぴい!」

 

杏寿郎の隣に座っていた、呂律の回らない男が声をあげた。

最終選別の場に突如として現れ、杏寿郎が引き取ることになった男だ。

お館様から直々に預かるように指示された。

杏寿郎からは「ぴぴ男」と呼ばれている。

 

槇寿郎は鼻を鳴らす。

 

「いっそ犬のように暮らせたら、くだらない夢を見ずに済むのかもな」

 

「ぴー?」

 

首を傾げるぴぴ男。

 

「憐れな奴だ。家で飼うのは構わんが、部屋を荒らしたら放り出すぞ」

 

「ぴぃ!」

 

槇寿郎の威圧に押され、杏寿郎の背に隠れるぴぴ男。

無言で立っている杏寿郎と目も合わせず、ただただ突き放すように言い放つ。

 

「お前は炎柱にはなれない」

 

最後に杏寿郎の全てを否定して、槇寿郎は車椅子を漕いで部屋に戻ってしまった。

ぴぴ男はおそるおそる杏寿郎の顔を見上げる。

 

杏寿郎は考える。

 

全てにおいて完璧な人間だけが正しく、その他の人間は、夢を見ることすら許されないのだろうか。

才気で劣る人間は何をしても実を結ばず、その努力や心のあり方は、時間の無駄だというのだろうか。

 

(俺はそうは思わない)

 

杏寿郎は俯きがちになりながらも、自分の尊いと思えるものを大切にしたいと思った。

 

庭では、弟の千寿郎が竹刀で素振りをしていた。

手のひらは豆が潰れており、血が持ち手に染み込んでいる。

愚直にも繰り返し鍛練していたのだろう。

父の言う通り、千寿郎に卓越した武の才能がある訳ではない。

しかし、その真摯に取り組む姿勢は、心構えは、堪らなく愛おしく、かけがえのないものに思える。

 

千寿郎の姿を見たぴぴ男が、全速力で駆け出した。

 

「ぴぴぴぴぴぴぴぴーーーー!!!」

 

そのまま千寿郎に飛び付き、地面に押し倒した。

 

「うわあああああ!!!??」

 

千寿郎の悲鳴に、杏寿郎は思わず笑ってしまった。

ぴぴ男は千寿郎に頬ずりしている。

 

「ぴ!ぴぴ!ぴいい!!」

 

「うわわわわ!!誰!?誰ですか!?何するんですかあ!?」

 

見た目は成人男性であるぴぴ男が、年端もいかぬ少年である千寿郎を押し倒して頬ずりしている絵面は非常に危ない。

警察を呼ばれてもおかしくない。

しばらく悪戦苦闘していた千寿郎だったが、杏寿郎の姿を見て、ばっと立ち上がった。

 

「あっ!兄上!おかえりなさい!」

 

「うむ!頑張っているな!」

 

一人でも稽古に励む千寿郎を称える。

千寿郎はワタワタと顔を赤くした。

 

「気配に全く気づきませんでした…恥ずかしいです」

 

杏寿郎は声を大きくして言った。

 

「何も恥ずかしいことはない!それだけ千寿郎は稽古に打ち込んでいたのだ!素晴らしいことだ!」

 

心からの感想だった。

苦難も才能の壁も乗り越えようと足掻き、努力する姿は素晴らしいと思う。

 

千寿郎はパッと顔を明るくした。

兄に努力を認められることは、彼にとって最高の喜びだった。

 

「あ、あの、ところでこの人は……?」

 

未だに千寿郎に抱き付いて匂いを嗅いでいる変質者、ぴぴ男を困惑しながら見つめている。

 

「うむ!最終選別に突如として現れたのだ!お館様から、うちで面倒を見るように頼まれた!」

 

「ぴぴぴい!!」

 

腕をあげるぴぴ男。

 

「あっ、はあ、そうですか……ちょっと怖いですけど、兄上がそう言うなら……」

 

「ぴい!ぴい!」

 

嬉しそうに千寿郎の背中を擦るぴぴ男。

杏寿郎は弟の頭を撫でた。二人から撫でられる千寿郎はくすぐったそうに笑った。

 

「俺はこれから初めての任務に向かう!その間千寿郎は家を守っていてくれ!!」

 

「はいっ!」

 

千寿郎は嬉しそうに返事した。

 

鬼殺隊となった以上、すぐにでも任務につく必要がある。

それだけ鬼による被害は増大しているからだ。

 

「では行ってくる!!」

 

ダッと走り出す杏寿郎。

ぴぴ男もそれを追う。

 

「あっ!兄上!」

 

千寿郎が兄を呼び止めた。

腹に力を入れて、顔を赤くして叫んだ。

 

「頑張ります!俺きっと兄上みたいになります!」

 

振り返り様に、その言葉は杏寿郎の記憶を刺激した。

 

「兄上みたいに」

 

杏寿郎はつい最近の、最終選別の夜を思い出していた。

壮絶な戦いで、顔についた返り血にも気づかなかったほど。

 

「俺、貴方みたいになりたいです」

 

綺麗な瞳の少年だった。長い髪を後ろに纏めている。

煉獄の戦いぶりを見て、いたく感心し、煉獄を崇めるようになった。

 

「俺も貴方みたいに強くなって、仲間を……みんなを助けられる人になりたい」

 

真っ直ぐ向けられた称賛の言葉。

父上から口も聞かれなくなって以来、久しく聞いていなかった言葉で、嬉しさと気恥ずかしさが沸き出す。

それでも煉獄は元気に返事をした。

 

「うむ!俺はまだ柱でも何でもないのでこそばゆいが、一緒に頑……」

 

涙を溢しながら、すがるような表情の彼に、言葉が詰まってしまった。

 

「一緒に頑張ろう!!」

 

それでも最後まで言いきると、パッと顔を輝かせて、彼は何度も頭を下げた。

 

彼の名は安達アスム。そして妹の安達アスカ。

鬼に家族を殺され、たった二人残った兄妹なのだそうだ。

 

彼は俺と同じ15歳だった。

 

鬼に折られた刀を震えながら握り締めていた。刀身の色も変わっていなかった。

いつもなら言えるはずの「頑張ろう」が、一瞬詰まってするりと出てこなかったのは、彼が、どうしてか死んでしまいそうだったからだ。

 

「俺が面倒を見てやる!!」

 

そう言って引き連れていた者達は、半分が命を落とした。

守りきれなかった。取り零してしまった。

 

17人居たはずの最終選別の受験者達は、煉獄を合わせて9人しか残っていなかった。

半数が命を落としたのだ。

煉獄が鬼を斬った背後で殺され、指示を出した先で殺され、狂乱して逃げ出した挙げ句殺され。

 

それでも多い方だと言われた時、この戦いの途方もない死者の量に、愕然とした。

 

彼の、安達アスムの「誰かを守りたい」という意思は、とても素晴らしいものだと思う。

しかし、当の本人が死んでしまいそうな儚さを纏わせていた。

 

(死んで欲しくない)

 

美しい志も、肉体が死ねば失われる。

人は簡単に死ぬのだ。

寿命で、怪我で、病気で。

鬼と戦う剣士なら尚更。

 

これほど美しく素晴らしいと思える心を持つ人間が、理不尽に命を奪われる。

「誰も奪われたくない」という理由で。

そっくりそのまま、彼に言いたかった。

君にも死んで欲しくないと。

 

「ぴぴっ!ぴっ!」

 

ぴぴ男が周りでうろうろしているが、それも気付かず早足で歩く。

 

言えるはずがない。

それは彼の意思を否定することになる。

結局その時は何もできず、ただ困ったような笑顔で見送ることしか出来なかった。

 

戦場に出したくないなら、冷たく突き放すのが正解だったのだろうか。

 

『くだらん夢を見るな』と。

 

「ぴぴぃー!!ぴっぴっ!ぴー!」

 

この先どれ程の命を、取り零していくのだろう。

失うと分かっていながら、見送るしか出来ない焦燥感を味わうのだろう。

 

俺はどれだけの人を守れるのだろう?

 

そしてどれくらいの人を守れないのだろう?

 

「ぴぴぴぴぴぴぴぴ!!」

 

最終選別を生き延びた者の名前は覚えている。

安達アスム

安達アスカ

神吉友也

森井あいみ

浜辺比留子

堂本光壱

金条敬樹

薪木斧太

 

対して、死んでしまった者の名前をお館様から聞いても、はっきりと認識することが出来なかった。

音として覚えてはいるが、それがそれぞれの顔と重ならない。

 

なんて薄情な人間だと打ちのめされた気分だ。

 

「ぴぃぴぴぴいいい!!ぴぴいいーー!!!!ぴいいいいいぴいいいいいいい!!!!!」

 

自分はまだ未熟者だ。

だが完璧超人が居るのなら、その人が戦いの場に出るのが一番だ。

鬼ですら傷を負わせられず、鬼を簡単に切り裂き、あの鬼舞辻無惨ですら倒せてしまうような、神の御技を持つ者が。

 

「ぴーーーーーーーー!!!!」

 

仮にそんな完璧超人ですら、この世界の理不尽を止められないというのなら、美しい志が失われていくことは誰にも止められず、鬼殺隊のやっていることは、ただの悪足掻きであり、徒労ということになる。

 

俺のやっていることも、結局は無駄な…

 

「ぴぴぴぴぴぴぴぴぴぴぴぴぴぴぴぴぴぴぴぴぴぴぴぴぴぴぴぴぴぴ!!!!!」

 

「うるさいぞぴぴ男!!!!!!!!!

だ ま れ!!!!!!!!!!!!!」

 

「ぴぎぃーーーーーーーーっ!!!!??」

 

沈む思考を中断され、思わず煉獄は怒鳴ってしまった。

ぴぴ男は天を仰いで、ポロポロと大粒の涙を流して大泣きしている。

まるで童のようだ。

 

「うむう!悪かった!俺が悪かったぴぴ男!ちょっと考え事をしていたのだ!許してくれ!!」

 

頭をポンポンと撫でてやると、ぴぴ男は嘘のように泣き止み、笑顔を見せた。

 

完全に子犬のあやし方である。

 

ふと、父上の言葉を思い出す。

 

「いっそ犬のように暮らせたら、くだらん夢を見ずに済むのかもな」

 

フッと笑う煉獄。

 

「そうですね。考えても仕方のないことは、考えない方がいい」

 

「ぴー?」

 

首を傾げるぴぴ男。

煉獄は胸を張る。

 

「俺たちに必要なのは覚悟だ!!そして行動だ!!答えの出ないことを考える暇はない!!」

 

「ぴぴー!」

 

ぴぴ男は腕を突き上げて賛同する。

 

鬼殺隊に必要なのは、この世の全てを受け入れ、挑み、打ち勝つこと。

ぴぴ男のおかげで、少しだけ早く、そのことに気付けた。

 

「礼を言うぞ!ぴぴ男!!」

 

「ぴぴぴーーー!!!」

 

気を取り直し、煉獄とぴぴ男は、初の任務となる鬼の出没地点まで駆けていった。

 

ーーーーーーーーーー

 

「おや増援か。たった一人でご苦労な……ん?なんだその狂人は?」

 

木々の生い茂る森の道。

石造りの階段や祠には苔が生え、覆っている。

雅楽装束のような着物を着た細い老人が、階段の先に腰かけていた。

煉獄とぴぴ男を見ても余裕を崩さず、にこやかに笑っている。

その瞳は赤く、鬼であることを隠そうともしていなかった。

 

「寂しくはない、安心せい。

今ならまだ、仲間達が三途の川で待っておる」

 

煉獄とぴぴ男が見たものは、血を流して倒れ伏す鬼殺隊の仲間達の遺体だった。

 

「ほれ、ひい、ふう、みい……九つかの?転がっておる鬼狩りの死骸は」

 

(死骸。

死骸と言ったか?この鬼は……

 

俺の仲間を!!!!!)

 

まるで虫けらのような言いぐさに、煉獄は溶岩が沸き立つような怒りを覚えた。

彼らの顔には見覚えがある。

 

安達アスム、安達アスカ、神吉友也、森井あいみ、浜辺比留子、堂本光壱、金条敬樹。

そして名も知らぬ二人の剣士。

おそらくは新人の鬼殺隊士を先導していたのだろう。

 

「儂が内臓を啜った童の死骸が5つある。おっとまだ童が一匹生きとるのう」

 

わざとらしく聞こえるのは、この鬼が、鬼殺隊がその子を守ろうとして動きが限定的になることを見越しているからだろう。

人質に取ったようなものか。

 

「まあ皆仲良く手でも繋いで、三途の川を渡るが良い」

 

歌うように喋る鬼に、腸が煮えくり返る。

 

「ぴぎ…!」

 

ぴぴ男も歯軋りをして、与えられた日輪刀を握りしめた。

ぴぴ男の姿が消え、刀を振りかざして特攻を仕掛けた。

 

「ぴぴ男!!!」

 

煉獄も駆け出す。

幸い、『攻略の手がかり』は知っている。

あとは臨機応変に対応するのみ!!

 

ぴぴ男の攻撃をヒラリとかわし、老人鬼は笛を口に当てた。

 

「ぴぴ男!耳を閉じろ!!」

 

煉獄は言いながら、己の耳を両手で塞いだ。

勢いよく叩いたため、バンと大きな音がする。

 

老人鬼の不気味な笛の音が響く。

 

言われた通り耳を塞いだぴぴ男だったが、さらに踏み込もうとした足が滑った。

 

「ぴぎぃ!!??」

 

ぴぴ男はその場に転倒し、手足をジタバタと暴れ回らせていた。

 

「ほほほっ!不自由なものよなあ」

 

老人鬼の前に、二匹の餓えた犬が姿を現す。

煉獄はジッとぴぴ男、犬、老人鬼、そして仲間の遺体を見ていた。

 

「儂の笛の音は神経を狂わせる。足を動かそうと思えば頭が動き、手を動かそうと思えば足が動く」

 

血鬼術にかかったぴぴ男は、身体の操作が思うように効かず、汗を流しながら右往左往していた。

 

「お前達人間が日々重ねてきた鍛練も、儂の笛一つで全て無駄」

 

無駄。

死んで、消えて無くなるから、何をしても無駄。

心も、努力も意味がない。

無情に消える人間達を嘲笑う鬼。

 

「ひっくり返された虫けらのようにのたうち回っておる内に…」

 

老人鬼が笛を構え、二匹の犬を繰り出した。

 

「犬に喰われて死ぬとは喃」

 

一匹は倒れたぴぴ男に、もう一匹は、立ち尽くした煉獄へと飛びかかった。

 

ーーーーーーーーーー

 

煉獄杏寿郎は思う。

 

人生は選ぶことの繰り返し。

けれども選択肢は無限にある訳ではなく、考える時間も無限にある訳ではない。

 

刹那で選び取ったものが、その人を形作っていく。

 

ここで戦い、もがき、守ろうとした仲間を想う。

 

誰かの命を守るため、精一杯戦おうとする人は、ただただ愛おしい。

 

清らかでひたむきな想いに、才能の有無は関係ない。

 

誰かに称賛されたくて命を懸けているのではない。

どうしてもそうせずにはいられなかっただけ。

 

その瞬間に選んだことが、自分の魂の叫びだっただけ。

 

ああ、この叫びを、どう表したらいいのだろう。

 

まるで炎のような志を。

自分の全てを出しきる想いを。

 

 

「心を 燃やせ!!!!」

 

煉獄杏寿郎は叫んだ。

心のままに刀を振るった。

 

(そうだろう!みんな!!!)

 

煉獄は襲いかかる犬の首を斬り落とした。

 

ぴぴ男は煉獄の声に反応し、弾かれたように刀を振るった。

その刃は犬の首を斬った。

 

「は?」

 

老人鬼は、この異常事態に放心した。

その間に、煉獄の炎の刃が迫り、鬼の首を斬った。

炎の虎のような猛烈な斬撃。

 

「ほ……」

 

宙を舞い、地面に落ちる老人鬼の首。

 

鬼は納得がいかず、未練がましく思考する。

 

(何故じゃ!?耳を塞いでも笛の音は聞こえたはず!)

 

自分の血鬼術に絶対の自信を持っていたから、破られた理由が分からない。

 

(いや!そうかあの時じゃ!こやつ…)

 

煉獄が耳を塞いだ時のこと。

 

(平手で強打し、己の鼓膜を破ったのか!!)

 

笛の音が聞こえなければ、術にかかることもない。

致命的な弱点があったことに気付かなかった。

しかし、何故煉獄は、老人鬼の血鬼術の攻略法を知っていたのだろうか。

 

「仲間が指文字で、お前の能力を示してくれていた。

みんな体が思うさま動かない中で。

断片的な情報だったが、俺には充分だった」

 

仲間の遺した手がかりを、煉獄は見逃さなかった。

彼らの意思を受け継ぎ、為し遂げるために。

 

「糞!!糞ッ!!儂は!!」

 

老人鬼は疎まれ続けた己の人生を垣間見た。

夜に口笛を吹けば蛇を呼び、お前の笛は不幸を呼ぶと。

人々を不安にする不協和音だと。

その笛の音が、あの御方を呼び寄せたのだ。

 

「儂は!!この笛の音で『十二鬼月』に…!!」

 

老人鬼は往生際悪く叫びながら、塵となって消えた。

 

煉獄は生き延びた子供を抱きしめた。

 

「もう大丈夫だ!」

 

生きている娘の温もり、安堵の泣き声に、煉獄の表情もほころぶ。

 

「ぴぴ男!無事か!?」

 

「ぴ……」

 

子を抱き上げ、ぴぴ男の元へ駆け寄る。

ぴぴ男は倒れたまま、夜空を仰いでいた。

自分は何も出来なかったと、無力感にうちひしがれているのだ。

 

「お前は奴の血鬼術に勝った!!」

 

「ぴ?」

 

ぴぴ男が身体を動かし、刀を振るえたのは、狂った神経の動きを全て把握し、身体の動かし方を再調整したからだ。

 

「術にかかった上で、その対策を実行した!お前は凄い奴だ!誇りに思う!!」

 

「ぴ……ぴ……」

 

ぴぴ男は涙を流した。

煉獄を見るだけでは駄目なのだ。

煉獄の生きざま、その見ているものを見なければ、自分は、いつまで経っても弱いままだ。

 

煉獄は仲間の遺体を整えてやり、木にもたれかからせてやる。

安達アスム、安達アスカの兄妹は隣合わせて。

 

(みんなのお陰で命を守れた)

 

かれらの戦いの足跡、仲間を信じて指文字を残してくれたことに、心の底から感謝と、畏敬の念を覚える。

 

(ありがとう。最期まで戦ってくれて。

自分ではない誰かの為に)

 

安達の、残った手を掴む。

そこに残る、僅かな熱を受け取るように。

 

(助けてくれてありがとう)

 

言葉には出さずとも、煉獄は彼らに語りかけるように。

 

(君たちのような立派な人に、いつかきっと、俺もなりたい)

 

己の人生の目標として、彼らの生き様を、心に焼きつけたのだった。




同期組全滅イベント好き。

これで煉獄さんと一緒に最終選別を生き延びたのはぴぴ男と薪木斧太くんだけ。
鬼滅世界の残酷さが味わえて楽しかったあ……(魘夢風)

映画も最高だから皆、見て!(宣伝)

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。