異世界テル・アブ・フレイラにオーマがやって来て早1週間過ぎた。オーマ達は城から移動し城下町の三人が暮らす、石造りの廃墟を改造した家にいる。
「案外居心地いいじゃん。」
正直オーマにはかなり居心地の良い場所だった。小学生時代に仲の良い友達と作った、空き家の一角を改造した秘密基地を思い出す。だが、最初の日はカバラが「オーマ様がこんな所で寝泊りなんて。」とか。セバスが「埃っぽくて申し訳ありません!」とか。アリーシャが「食材がジャガイモだけですみません!!」とか喚き泣き出したりと大騒ぎ。
「贅沢なんて…城もボロボロなんだから言わないのに…。」(こっちの世界にジャガイモがある事がびっくりした。)
瓦礫を利用した石造りの椅子に座り、ふと壁に立て掛けてある杖に目がいく。
(そう言えば…今は僕の杖だけど、前ユーザーがどうとか言ってたな?)
壁に立て掛けてある杖に歩み寄り手に取る。手にするとキューブ状の石が再び蒼く輝く。
(どうやって動かすんだ?これもイメージか?)
オーマは石を「前ユーザーの情報開示。」と念を送る様に見つめる。
すると、キューブ状の石が再びルービックキューブの様に回転し、立体映像が浮かび上がった。動かし方は念でいいらしい。
『前ユーザーのデータを確認。
前ユーザー名:ベルゼ
前世名:ユーザーにより隠蔽されています。
種族:神魔族
称号:女神の開拓者、建築王。
ステータス
筋力A++
耐久A++
敏捷EX
魔力A++
幸運B
スキル
陣地形成EX
道具作成C〜EX(手に入る素材、作成時間で変動)
対魔力A+
魔法創造EX
4000年前にチート勇者と人間の軍から魔族魔物を逃したのちに交戦、後に死去。』
「ステータスとスキル的にセイバーとキャスターを合わせたみたいな…あれ?全体像があります?どれどれ?」
映し出される項目に全体像があると言うコマンドがあったため押してみる。
すると。そこには長い黒髪、金の山羊の角で眼が青い、誰が見てもイケメンと言われるくらい美しい男性が映し出されていた。
「うわ、めっちゃイケメン!」
自分の肉体も美少年だがこちらは違うベクトルのイケメン。
思わず見惚れているとある項目が目に留まった。
『前ユーザー、ベルゼのスキルを一つダウンロード出来ます。』
「スキルがもらえるの!?じゃあ…。」
オーマは迷わず「道具作成C〜EX」を選択した。理由としては自分はどちらかと言えばステータス的にキャスター寄りであり、一番汎用性が高そうだからと今後の事も考えての事。
『ダウンロード、完了。確認して下さい。』
ヴァナルガンドの音声に従い、自身のステータスを見るとスキル項目にちゃんと道具作成C〜EXと出ていた。とりあえず完了っと言うことで再び杖をオフにして立て掛けておく。その時、部屋のドアをノックされた。
「っと。はい。どうぞ。」
「失礼いたします。オーマ様。朝食のご用意が出来ました。」
ドアが開き、アリーシャが蒸かしジャガイモと湯気の立つ紅茶が乗った銀のお盆を持って入って来た。
「ありがとう、アリーシャさん。」
「アリーシャで構いません。オーマ様は魔王様、敬語もいりませんよ?」
ふふとアリーシャは優しく笑う。
「そう?じゃぁ、ありがとう、アリーシャ。」
「はい。それではまた食べ終わった時に下げに来ますね?」
アリーシャはお盆を木箱にテーブルクロスを引いたテーブルに置き、再び一礼して部屋を出て行った。オーマは椅子に座り、蒸かし芋を手に取り皮をむき食べる。
(やっぱジャガイモだよね?美味しいけど…流石にこればかりじゃあ…ねぇ?)
水や明かりは戻っても食料の供給人員がいなくては意味がない。贅沢は言えないが段々と飽きて来た。
「肉食べたいなぁ。」
そう呟くと杖が勝手に起動し、地図の様な画面が浮かんだ。
「な、なんだ?」
食事の手を止めオーマが近づく。すると再び電子音声が鳴った。
『肉類確保推薦区間、狩り対象の割り出しに成功。ゼーレの森に生息するキラーラビット。』
映し出されたのは森の中で駆け回る白く、口元が錆色のうさぎ。
「おぉ!美味そう!…あれ?」
自分の言葉にオーマは違和感を覚えた。
(僕ってうさぎを見て美味そうなんて思えたっけ?)
オーマは鏡を見る。そこには生前の普通な顔ではなく、眼は虹色、髪は銀、頭から巨大な山羊の角が生えた美少年。
(もしかして…人間じゃなくなったから感覚もずれて来ている?)
そんな事を考えるが、途中でまっいいか。と思い、食べ終わったら狩に行こうと思い食事を再開した。
食べ終わり、三人に肉食べたいからキラーラビット狩ってくると言ったら三人とも「お供します。」と付いて来た。そして魔王都を離れ、近くのゼーレの森を歩いている。
「別に付いてこなくても。」
「オーマ様がキラーラビット如きにやられはしないと思いますが、万が一に備えてです。」
カバラは索敵魔法で周りを警戒している。
「ですがわざわざオーマ様が自ら狩りに赴かなくても我々にご命令してくれれば…。」
「いや、土地勘も養いたいし、何より戦闘訓練も兼ねてだし…。」
セバスはいつでも不届き者が仕掛けてこようとも撃退出来るように白手袋の口をキュッと締め直す。そしてカバラの索敵魔法と千里眼が対象を感知するとアリーシャが木を飛び移りながら移動し、そしてしばらくして戻って来た。
「いました。正面、50mです!」
三人が慎重に歩みを進める。そこには。
「やっぱり…うさぎ…だよなぁ?」
地球のうさぎと比べれば明らかに大きいがそれ以外は対して違いのないうさぎがいた。
しかし、すぐに大きな違いがわかった。うさぎは草を食べるものだが、キラーラビットは違った。
「い、猪を食ってる!?」
五匹のキラーラビットは自分の倍以上ある巨体の猪によく似た生き物を食べているのだ。そしてさらに決定的な、恐ろしいものを見た。キラーラビットの口が大きく裂けて猪の頭を噛み砕いた。その口にはうさぎには似合わぬ鋭利な刃が何本も並んでいる。オーマは思わずあんぐりと口を開けて驚くがすぐにスキルを発動する。
オーマの虹色の眼が輝く。
『真名看破発動。対象のステータスを開示します。』
『キラーラビット
筋力A+
敏捷A。
耐久B
注意、時折放つ飛びつきの噛みつき。』
真名看破によりキラーラビットの情報が開示される。人間や仲間の情報も開示されるなら魔物にもと思ったが間違いではないようだ。
(飛びつきの噛みつきかぁ…素早さもあるなぁ。よし!先ずは強化魔法だな。あと武器も欲しいな。)
「誰か武器貸してくれないかな?」
オーマの言葉に三人が首を傾げた。
「杖があるではありませんか?」
「いや、杖じゃ殴るしか出来ないし。」
「初代ベルゼ様はその杖を様々武器に変えて戦うスタイルをしていました。つまりその杖は杖であり剣であり弓であり槍でもあるのです。」
カバラの言葉にオーマはあんぐりと口を開けた。
「そ、そんな事出来るの!?」
オーマの早速ヴァナルガンドに念を送る。
『ヴァナルガンド、
再び付いている石が輝き、電子音声と共にルービックキューブのように回る。杖は細かい光の粒子に変わり霧散、再集結。黄金の刀身を持つ剣に変わった。
「なんじゃこの杖!滅茶苦茶カッコいい!!!」
厨二心くすぐる変形に思わず声を上げてしまった。その声にキラーラビットが振り向いた。
「来ますぞ!」
カバラの声にセバスとアリーシャは前に出て、カバラは強化魔法をかける。
「僕もやるよ!」
オーマも剣に変形したヴァナルガンドを持ち前に出る。
「キシャァァァァ!!!」
キラーラビットは牙を剥き飛びかかって来た。しかしセバスは無駄のない足運びで躱した。
「遅いですね?はぁっ!」
セバスはキラーラビットに踵落としを食らわし討伐。しかしキラーラビットは仲間がやられた事に怒り仲間を呼んだ。
「まだやりますか。ですが私に数は愚の骨頂ですよ!」
アリーシャは飛び上がり、服の中からナイフを取り出しキラーラビットに投げつける。ナイフはキラーラビットの首を的確に狙う。しかしまだうさぎはいる。
「詠唱など不要ですかな?風よ!」
カバラは無詠唱で風魔法を放つ。無詠唱故に威力が落ちるがその分素早い。風魔法はキラーラビットを捉え吹き飛ばし、木に激突させ首の骨を折る。
「キシャァァァァ!!!」
怒り狂った一番大きなキラーラビットがオーマに狙いを定め飛びかかって来た。セバスとアリーシャとカバラはさせまいと踏み出したが。
「
オーマが突如消えた。セバス、アリーシャは驚きの表情を見せ、魔法に詳しいカバラはさらに驚愕した。
「
次の瞬間キラーラビットの首は飛んだ。そしてオーマが再び姿を見せた。敏捷強化などではない。体内に固有結界を展開し、自分の体内の時間経過速度のみを倍速化させ加速すると言う、目が死んだ外道男の時間操作魔法。オーマがやって見たかった魔法の一つ。
「ふぅ。即席だったけど…イメージ通りかな?」
本来反動があるがあの男の場合はいくら魔術師でも人間の身、しかし自分はそれこそ神秘の塊であろう魔王。反動はなかった。
「お見事です!オーマ様!」
「あの様に時間操作魔法を使うとは、このカバラ感服です!」
「素晴らしいお手並みですぅ!」
「いやぁ。でもカバラの強化魔法がなかったらきつかった。」
セバスとカバラは胸に手を当て、アリーシャは拍手を送った。オーマは照れ臭そうに笑う。実際自分でも強化魔法をかけたがカバラの強化のおかげで既に筋力A相当になっていた。
そのあとカバラが転移魔法でキラーラビットをアルケイディアに運び、それから周囲を散策し、香草と木の実を入手し、アルケイディアへ帰還した。
初めての狩りは終わった。
固有時制御・二重加速=目が死んだ、外道男の魔術。本来反動があるが、肉体は人ではない為反動無しで行使出来る。
道具作成C〜EX=fateのキャスタークラススキル。作成にかける時間と魔力と素材によりランクが変動するが逆に言えば素材と時間と魔力さえかければほぼ作れないものはない。某魔女の擬似的な不死の霊薬も毒殺女帝の猛毒も再現可能。