暗黒大陸の山々に朝日が差し込み、日が昇るにつれ、アルケイディアにも陽が差し込む。セバスとアリーシャは日が昇る前から起床し、暖炉に火を入れ、朝食の準備。カバラはそれより少し後で起床し、外に作ってある粗末な祭壇で朝の祈りを捧げる。
そしてセバスが二階に上がりオーマの部屋をノックする。
「んっ…だれ?セバス…?」
「失礼いたします。オーマ様。朝となりました。起床しますか?」
セバスのモーニングコールである。もう少し寝たければ寝てもいいがやはり人間とは違う肉体ゆえ、目覚めはいつでも良好。二度寝は必要ない。
「いや、起きるよ。おはよう。セバス。」
「はい。おはようございます。今日も快晴でございますよ。」
セバスが窓を開けると今日も青空が広がっている。暗黒大陸とは言われているが実際は緑豊かで美しい場所である。
「それではお召し替えをいたしますね?」
「ん。」
最初は着替えくらい自分でやると言ったがセバスが「いえ!それも執事の役目!」っと凄まじく押されたのでやってもらうことにした。最初は髪を櫛で解かされる。(ちなみに角はどうやら魔族ならオンオフ切り替えが出来る。)その後、寝巻き脱がされ、何時もの貴族風の衣装に着せ替えられる。正直、自分で着るより早い。
「ふう。ご苦労様。セバス。」
「労いのお言葉。ありがとうございます。」
セバスが一礼する。それからアリーシャがやって来て朝食を取る。今日の朝食はジャガイモの薄切り揚げ(もはやポテチ。)キラーラビットの煮込みスープ。
朝食を終え一階のリビング擬きな場所で粗末な円卓を囲み、これからの事を話し合う。
「再建となると僕たちだけでは限界があるなぁ。」
「確かにそうですね。私とアリーシャだけでは…。」
「やっぱり、ゴブリンさんやオークさん達には戻って来てもらいたいですね?」
「ゴブリンさんとオークさん?」
「かつてアルケイディアに共に暮らしていた種族です。」
カバラが説明し出す。
ゴブリン族とオーク族は土木に優れており、かつてはベルゼが見取り図を作り、このアルケイディアの基盤を作り上げた種族であるらしい。
カバラの説明が終わるとヴァナルガンドが起動した。
『対象種族のデータを確認しました。』
ヴァナルガンドは立体映像を映し出した。そこにはゲームや映画で見たことのあるゴブリンやオークとは違い、恐ろしげではなく醜くも機の良さそうなゴブリンとオークだった。その映像にセバスが懐かしそうな表情を見せる。
「懐かしいですね。時間があればベルゼ様が城に招き酒を振る舞っていました。」
「ゴブリンやオークってお酒飲むの?」
「はい。彼らほど酒豪はいませんよ。」
思い出話を聞いている時、セバスが突如席から立ち上がり家の外に出た。オーマ達は何事かとセバスの後を追う。
「そこにいるものはどちら様ですか?出て来なさい。」
「うぅ……誰か……いるのか?」
崩れた壁の影から出て来たのは傷だらけで血を流し、足を引きずるゴブリンとオークが現れた。
「た…助けてくれ…人間が…。」
倒れるオーク。しかしアリーシャが駆け寄り支える。それと同時にセバスも警戒を解き、オーマもカバラも駆け寄る。
「大丈夫!?しっかりして!カバラ様!!」
セバスとアリーシャとカバラは急ごしらえのベッドに二人を寝かせる。そしてカバラが回復魔法をかけるが傷が多く深すぎるのか中々治らない。
「くっ…傷が多く深すぎる!それに妙じゃ。ベホイムが効きにくい。」
オーマも手伝おうとしたがセバスが「疫病などの心配があります。」と止められた。
ドクン!
(また、変な気持ち。)
オーマが見ているとゴブリンとオークが痙攣を起こし始めた。
「ま、まずい!くそぅ!死なせるものか!!」
ドクン!
(……このままじゃ二人とも死んでしまう……嫌だ……死なせたくない!誰も……死なせたくない!)
「セバス……そこを退け。」
「オーマ様なりません!もしかしたら疫病など「退けと言っている。」!?」
セバスは思わず黙った。いつもはまるで無垢なオーマだが今は雰囲気も表情も違った。オーマはカバラに歩み寄る。
「代わろうカバラ。僕に任せて。」
「オーマ様…!」
カバラはオーマの表情を見ると途端に手を止め変わった。その表情は前にチート冒険者と対峙した時と同じ表情。
オーマはゴブリンとオークの間に立つ。そしてヴァナルガンドを握りしめる。キューブ状の魔石アダマンタイトが回転し純度の高い魔力を発し、オーマの虹色の眼が輝く。
(絶対に助ける!女神様との約束だし。それに、死なせたら先代に申し訳が立たない!)
オーマがイメージするのは某有名ゲームの、どれだけHPが残り少なかろうが全快にする究極の回復魔法。
「ベホマズン!!」
「「「!?」」」
美しい七色の光がゴブリンとオークを包み込み、光はアルケイディアを覆い尽くす様に弾けた。そして光が消える時、ゴブリンとオークの傷はまるで最初からなかった様に消えており、服まで修復された。
「い、今のは……さ、最上大魔法ベホマズン!」
カバラは驚愕した。最上大魔法はカバラ言えども長い詠唱が必要だがオーマはそれをすっ飛ばし、無詠唱でやってのけたのだ。
「んんっ……なんだ…?痛みが消えた?」
「あ、貴方は一体…?」
ゴブリンとオークは目を覚まして見たのは虹色の瞳を持ち銀の髪、大きな山羊の角を持ち、どの魔族にも当てはまらない美しい顔をした魔族が目に入った。
「この方は数日前にこの地に降り立った魔王、オーマ様じゃ。たった今お主らの傷を治癒して下さったのじゃ。礼を述べよ。」
カバラはすぐに表情を戻し、神官長としての振る舞いをする。(内心はオーマの底知れぬ魔力に興奮しているが。)
「「ま、魔王様!?」」
ゴブリンとオークはベッドから飛び起き平伏する。
「俺たちみたいな下級魔物を癒してくださるなんて!」
「感無量でございます!」
「そ、そんな平伏しなくていいよ!」
先程とは打って変わって何時もの無垢な表情に変わり、頭をあげる様に促す。その時、カバラのスキル「千里眼」が何かを捉えた。
矢が、それも夥しい数の矢が飛んで来たのだ。
「む!いかん!バギマ!」
突風が吹き荒れ、飛んで来る矢を吹き飛ばして行くが数が多すぎる。一つの魔法では無理。しかしカバラは慌てる様子もなく本を広げ呪文を唱える。
「天を翔し精霊、谷を巻く精霊、大地を駆けし精霊。一つと成りて吹き荒れよ!」
すると先程無詠唱で放った風の勢いが激しくなり重なり増大し、巨大な風の竜の様な形になり迫りくる矢を蹴散らしていった。
「後から詠唱!?」
「あれこそカバラ様の十八番。無詠唱で放った下級魔法にあとから上級魔法の詠唱を加える事で魔法の威力を一気に昇華させるスキル。術後詠唱!」
これにはオーマも驚いた。オーマはスキル「魔法創造」によるイメージを元に魔法を作り出すが後から詠唱を加えて魔法を強めると言うのは発想になかった。
「カバラすげぇ!!」
「ほっほ。お世辞を。オーマ様の魔法と比べればなんて事。」
「オーマ様!カバラ様!警戒を。何もかが近づいてきました。」
セバスの言葉にオーマはヴァナルガンドを構え、カバラは魔力炉バベルの扉を遠隔操作で閉じ封印をかけた。その時、ヴァナルガンドが警告音の様な音を発した。
『警告!人間の反応を検知及び飛んできた矢からチートを検出!』
「何!?気をつけて!セバス、カバラ!矢を放った奴はチート持ちだ!」
「な、なんと!?」
「くっ!チート持ちとは厄介じゃ。アリーシャ殿!そのお二方を中へ!」
「分かりました!さぁ!こちらへ!早く!」
アリーシャは怯えるゴブリンとオークの背を押し、仮住まいへ入る。そして床下収納の扉をあけ、その中へ二人を隠し戻って来た。
「誰一人、死なせない!」
再び戦いが始まる。