歩夢ちゃんに出会ってから初めての誕生日のお祝いになりました。いろいろ思い込めて書かせて頂きました。
その日、僕は20年間生きてきて初めて"心臓が破裂しそう"という言葉を思い浮かべた。
「……な、なんだか緊張しちゃうね」
「……。」
真夜中、街の灯りも消えて夜の街が息を吹き返し始めた頃、僕達もまた静まることは無かった。
いや、実際にはそこは静かなはず。だと言うのに、僕の心臓はドクンドクンと脈打ち、落ち着いてくれないのだ。
少しどこかしらの筋肉を動かす度に、ギシギシとベッドが軋む。
ここが僕の家なら、落ち着いてくれるんだろう。でもここは僕の家でも、彼女────歩夢ちゃんの家でも無い。
僕たちは、男女が"そういうこと"をする宿泊施設────通称、ラブホに来ていた。
「……や、やっぱり僕、床に布団敷いて寝るよ。歩夢ちゃんはそのままベッド使って」
お互い白いバスローブ一枚だ。
歩夢ちゃんは、僕の隣に腰を下ろし、足と足を絡めてじゃれつかせている。その様が何とも可愛らしい。
「だ、だめだよ! それじゃあ体痛くしちゃう」
「そ、それでもだよ。だって、元はと言えば僕のミスだし……」
元を辿ると全ては僕が原因だった。
***
大学生ともなると、同じくらいの人達はみんな大人で、お酒もタバコも楽しむような年代が多い。そんな中で、大学で知り合った友達と飲みに行くことになった。
「うっし、それじゃー俺が乾杯の音頭を取らせて頂きます! まずは────」
『かんぱーい!』
「────おいこら待てやァ!」
合わせて20人くらいの大人数で、この日のために居酒屋内の一番大きい席を予約していたらしい。
もちろんこの場にいるのは同じ大学の人達で、中には先輩の人とかも混ざっている。
その中には当然、歩夢ちゃんもいた。
お酒はあんまり好きではない方だ。ただ飲めないわけでは無くて好んで飲まないだけ。最初はこの飲み会も遠慮気味だったのだが、歩夢ちゃんが女友達と行くと言っていたのを勝手に聞いた僕が、堪らず参加を決めたのだ。
「おーっす飲んでるかー?」
彼はさっき音頭を取ろうとして華麗にスルーされていた僕の友人で、みんなからは"ショウ"と呼ばれている。
「うん、ジュースだけどね」
「いいんだよ。飲みの席に決まって酒飲まなきゃなんてルールねぇんだからよ。遠慮するな」
「ありがとう、誘ってくれて」
「おう!」
慣れない大学生活の中、初めて話したのが彼だった。初めて見た時、本当に怖い人だと思っていた。
眼力が鋭くて、高身長で耳にピアスを付けていて金髪。パッと見は完全にヤンキーにしか見えなかった。けど、いざ蓋を開けてみればなんてことは無く、フレンドリーで気さくな男だった。
「しっかし、なんだぁ。俺が誘ったとはいえ、意外だったよ」
「僕が来たのが?」
ショウ君は首を縦に降ると、手に持っていたサワーを軽く喉に流した。
「最初誘った時だって、あんまし乗り気じゃなかったろ?」
「そうだね。お酒あんまり好きじゃなかったから、浮いちゃうかなって思って」
「それがなんでまた来る気になったんだ?」
答えに詰まった。
どう説明するべきだろうか。
正直に女友達と一緒とはいえ、幼馴染みが一人夜の飲み会に行くのは心配だった。と答えるべきか?
「……。」
「────はっはーん。さては女だな?」
「────っ!?」
誤魔化そうと口に含んだジュースを危うく吹き出すところだった。
でもどうしてバレたんだ。
「どうして、って顔してるから言っとくが、思いっきり顔……っていうか"目"に現れてたからな」
「め、目?」
まさかとは思うけど、思いっきり歩夢ちゃん達の方を見てたの見られてたかな。
「まぁ、分からないでもないぜ。大学生にもなって彼女の1人や2人欲しくならないわけないもんな?」
うんうん、と頷くショウ君。
「よし、お前が狙ってる子と、いい感じになるようにいっちょ俺が手伝ってやるよ!」
「や、えと……」
「で? どの子なんだ」
「だから僕は……」
ダメだ。完全に聞く耳を持ってくれていない。
それどころか、いろんな女の子に指をさしては「あの子か?」「それともあの子だな?」と声を大きくして言うものだから、僕まで目立ってしまっている。
そんな時だった。
「おいこら彰太郎。あんたは余計な事しないでいいの。恥ずかしいったらありゃしない」
「なんだよアキ。俺は友人のためを思ってだな!」
「はいはい。世の中ではそれを"お節介"って呼ぶんだよ」
「んだと!」
僕では止められなかった彰太郎を止めたのは、彰太郎の彼女さんであるアキさんこと────
「だいたいあんたはいっつもそうやっていい感じだった二人を急かすようなことして失敗するんだから。ケアする私の身にもなれっての!」
「なんだとー!? 自分の手柄みたいにいいやがって!」
「私のおかげで間違いないじゃない」
「いいや間違ってるね! カップルになりかけの奴らは誰かが急かしてハッパかけてやった方が上手くいくんだよ!」
「それに私のケアが入ってやっと上手くいってるのよ! そろそろ気づけ馬鹿」
ヒートアップしていく二人。
話によると、二人は幼馴染みらしい。中学の頃にお互いを男と女として自覚してすぐに告白したと聞いている。ショウ君によるとアキさんから告白してきたらしいのだが、今の感じを見ていると真相はちょっと分からない。
喧嘩し合う二人に挟まれた僕はどうすることも出来ず、ただただ焼き鳥を食べていた。
「……てかさ、あんたがすぐ彼に近づくから話してみたいって子が近づけないで困ってんだよ」
「え……? マジ?」
え……マジ? は僕のセリフなんだけど……。ようやく喧嘩が収まって来たってところで、話の主役が僕へと戻ってきてしまった。
でも話して見たいって誰なんだろう。
「こりゃぁ悪いことしたな」
「はぁ、まぁお節介があんたのいい所でもあるからいいけどさ」
「で、その子は?」
と、そこでアキさんが声をかけるとその子はそそくさとこっちにやってきた。
「あ、あの……」
「おお、清楚系」
「あたしの友達のマナこと
「よ、よろしくお願いしますっ!」
綺麗にお辞儀をする彼女。その礼儀正しさに、僕も思わずお辞儀を返した。
長い黒髪が特徴で、前髪を切り揃えている。服もそれほど派手じゃない爽やかなワンピースで、見るからに清楚な人だった。
「じゃ、改めて4人でかんぱ────」
「あんたはこっち!」
なんの反論も許さずに、ショウ君はアキさんによって連れていかれた。
結果、その場に僕と愛美さんが残されてしまった。
「……行っちゃいましたね」
「そ、そうですねあはは……」
……気まずい。
同じ大学の人とはいえ、つい今さっき顔を合わせたばかりだ。話が弾むわけもない。なんで行ってしまったんだアキさん……。
他の所ではすでにいくつかグループが出来ていて、みんな
「……。」
「……。」
このままではまずい。そう思った僕は、声をかけようと決心したその時、
「つかぬ事をお聞きします」
「────は、はいっ!」
愛美さんが口を開いた。
「あの……上原歩夢さんとはどういうご関係……なんですか?」
「…………へっ?」
「ご、ごめんなさい! 突然……」
「う、ううん。いいんだけど、えと歩夢ちゃんとは幼馴染みだよ」
意外な質問に意外な人の名前が出てきて驚きが隠せなかった。
話の当の本人はというと、今も友達達と楽しく話している最中だ。
「お、幼馴染み!? で、では! スクールアイドルだった時の歩夢ちゃんとも接点はあったんですよね!?」
「う!? うん。そうだよ」
「はぁぁぁー! 羨ましいです!」
な、なんなんだろうこの子。ほんの数分前の初対面時とは打って変わって、どこかキャラが変わってないだろうか。
……もしかして、
「ファン……だったりする?」
「はいっ!!」
即答だった。
「わ、私……初めて虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会の皆さんを見た時からずっと、歩夢さんが大好きで!」
「う、うん。」
「それで、同じ大学に通ってるの知ってもうテンション爆上がりで!」
「そ、そうなんだ。」
僕は、その熱意を緩く受け流すように受け取っていた。
「し、しかも同じ電車で通学してるって知って……もう死んでもいいって思えるほどで……」
「し、死ぬのは流石にまずいんじゃないかな……」
「はっ! た、確かにそうですね。」
なんだかある人の事を思い出してきた。
スクールアイドルに熱心で、アニメや漫画も大好きで誰よりも大好きを大切にしていた赤いあの子の事だ。
愛美さんを見てるとなんだか同じに見えてくる。今度またどこかで会いたいな……みんなにも。
「そ、そこで……歩夢さんとあなたが二人で通っているのを見てしまって……もしや彼氏さんなのかなと」
なるほど、それで僕に聞きたかったのか。
「確かに歩夢ちゃんとは幼馴染み……なんだけど、去年やっと告白して今は彼氏……かな」
「ええ!? ……そ、そうなんですか」
少し照れくさかった。自分で"彼氏”なんて自己紹介するのはちょっとまだ慣れないな。
でも、まずかったかな?
アイドルのファンにとってその子の付き合いとかって結構ダメージになるって聞くし、高校の友達が好きなアイドル声優が結婚したとかで丸一日布団にこもったとかなんとか言ってた気がする。
そんな僕の心配を他所に愛美さんはというと、
「……う゛ぅ……ぐすっ……」
「ま、愛美さん!?」
「お、おめでと゛う……ございます……!」
僕は焦り、近くにあったおしぼりを手渡した。
「あの、大丈夫……ですか?」
「はい……ごめんなさい急に……」
「それはいいんですが、もしかしてそのショック……とかだったり……」
「それはありませんっ!」
物凄い圧を感じた。
「歩夢さん推しとして、ずっと感じてきました。誰かの為に、ただ一人のために彼女が懸命に誠実に想いを伝えていたのをずっと感じていました」
「……。」
「私はそんな彼女が大好きです。歌詞から伝わる誰かへの大切な想い、それがその誰かに伝わっていたらどんなに幸せな事だろうとも思っていました」
ずっとそうだった。歩夢ちゃんの歌詞を作る時、いつも歩夢ちゃんは"こんな感じにして欲しい"と明確なイメージをくれた。
その当時の僕は、その歌詞や曲が"上原歩夢"というアイドルの本質なんだとそう思っていた。
でもそれは今になって思えばアイドルとしてじゃなくて歩夢ちゃんという一人の女の子としての本質だったんだって知った。
幼馴染みとして僕とずっと一緒にいてくれた彼女が大切に持っていた想い、そしてこれからなろうとしている姿を常に僕に伝えてくれていたんだって、そうやっと分かったんだ。
「今日やっと、歩夢さんにとっての"あなた"が誰なのかようやく分かりました」
「僕も去年やっとそれが誰なのか分かったよ。って、遅いよね」
「ファンとしては怒りたい所ですが、推しの想いが伝わったということを聞けただけで私は幸せです。なので許します!」
「はぁー良かった……」
それから僕と愛美さんは、歩夢ちゃんの話だけで時間を忘れるほど何時間も話し続けた。
そして、
「うー……もう一杯!」
「あ、あの……大丈夫ですか?」
「マナさん!」
「は、はい!」
「歩夢ちゃんはね! ほんとにいい子なんだよ! 可愛いんだよ!」
朦朧としながらも断片的に覚えている。
僕は酔っていた。
「とっても分かります」
「でしょぉ? 歩夢ちゃんはね……朝いっつも僕を起こしに来てくれて……お弁当まで作ってくれるんだよぉ……」
「あ、歩夢さんの……手作り……」
「僕が玉子焼きにうるさいってことを覚えていてくれて、僕の好きな味付けの練習までしてくれたんだよぉ……」
「羨ましい……!」
今にして思えば本当に死んでしまいたいくらいだ。
そして、
「よー! ……って、おいこいつ大丈夫か?」
「……んー? あーショウ君ーお酒飲んじゃったよー」
「なんだ酒飲めるじゃん……って、おいこれ……アルコールえぐいやつじゃねぇのか……?」
「あ、飲ませちまったわ。いい話聞けてたもんだからつい」
そうだ思い出した。
愛美さんと話していたところに先輩の人がやってきて、その先輩もアイドルが好きだってことで3人で話してたんだった。
そこに先輩が頼んだお酒がやって来て、勢いで……。
「酒豪な先輩についていけるわけないよな……」
「しまったな。酔いつぶれちまってる」
「……う……うう……」
「誰かこいつの家知ってるやつっているかー?」
「あ、それなら……」
そこで僕の意識は途絶えた。
最後に
***
と、このように全ては僕が原因だった。
それから補足として、僕を連れていくと手を挙げたのが歩夢ちゃんだった。幼馴染みで家が近いと言うことで満場一致で決まったらしい。
その後、みんなは二次会に行ったようだ。
そして僕達はと言うと、
「でも、そのどうしてホテルに?」
「えっと……終電が無くて」
「あ、確かに時間気にしてなかったな……ごめん。でもそれならタクシーとか」
「そ、それは……」
「タクシー代なら僕の財布から出してくれれば良かったのに」
痛い出費だろうけど背に腹はかえられない。元はと言えば、僕が迷惑をかけてしまったのだから当然だ。
「……あ、そうだ。母さん達に連絡しなきゃ」
「それは私がやっておいたから!」
「そうなの? 何から何までありがとう」
「ううん! お母さん達も二人が一緒なら安心だって」
二人が一緒、というより歩夢ちゃんが一緒なら大丈夫……の間違いじゃないかな。
「う……」
「大丈夫……?」
「まだちょっと酔いが……」
「お水持ってくるね!」
夜風に当たったり、冷水を浴びたりとしたおかげで多少は覚めかけてはいるが、まだその跡は残っていた。
なんでもかなりの強アルコールだったらしい。昔にあったニュースで、一気飲みを強要したせいで大学生が死んだとかあったのを思い出し、背筋がゾワっとした。
「笑い話じゃ済まされないよね……」
「はい、お待たせ」
「ありがとう」
コップに注がれたお水を少しずつ飲み、少しでも酔いを消そうと意識する。
「でもビックリしたんだよ? 気づいた時にはあなたが酔って眠ってたんだから」
「……面目ない」
「あなたはもうお酒飲んじゃ、め! だよ」
「はい……」
返す言葉もありません。
元は飲む気なんてなかった……なんて言い訳を言えるほど僕の発言権が高いはずもないので、僕はただただ頷いた。
「散々だったけど、楽しかったな飲み会」
その時だ。
隣に座る歩夢ちゃんの様子が変わった。
「……うん」
「? 歩夢ちゃんは違うの」
僕は恐る恐る聞く。
「う、ううん! 私も楽しかった……」
「でも」
歩夢ちゃんの顔はどこか曇っていた。それが見過ごせるものでは無いと直感で感じた。
「もしかして……僕がこんなになっちゃったからそれで……」
「────違うのっ!」
「……!」
「あ……ご、ごめんね」
僕の言葉を必死に遮るように声を上げる歩夢ちゃん。
「じゃあ、どうして?」
「……その、怒らないで聞いて欲しいの」
「怒るわけないよ。だから話して欲しい」
僕らは向かい合わずに、互いに正面を向きながら話を聞き、話をする。
「友達と話してた時かな。一緒に来ていたあなたの事が気になって少しあなたを見てたの。そうしたらあなたが女の子と話してるのが見えて」
「愛美さんか」
「愛美さん……っていうんだ。うん、その人とあなたが一緒にいるのが気になって、でも近くに行く勇気も無くて、ただ見てた」
「……。」
「話し始めてから女の子が驚いたり、泣いたりしててあなたがおしぼりを手渡した時かな……どうしてか胸の辺りがギュッって痛くなったの」
……知ってる。僕はこの症状をよく知ってるはずだ。嫌でも思い出すあの悪夢を。
「どうして女の子と仲良く話してるんだろう、どうしてあなたの傍に私以外の女の子がいるんだろう、どうして私以外の女の子に優しくしてるんだろう」
「……。」
「そんなことばかり頭に浮かんで離れなかった。私嫌な子だよね……あなたは物なんかじゃないのに……」
声は震え、目に溜まる涙を横目で見てしまった。
「すごく、怖かったの……すぐに届く距離なのに、それが遠く見えて……私が動かない間にあなたが離れて行っちゃうかもしれない。もう二度と会えないかもしれない」
「……歩夢ちゃん」
「朝起こしてあげることも、ごはんを作ってあげることも、一緒に笑うことも、泣くことも、全部全部……出来なくなるかもしれない。そう考えたら怖かった……!」
両腕を抱き、震える歩夢ちゃんの背中を僕はそっとさすった。
「幼馴染みだからなのかな……離れ離れになるのが怖い……嫌だよ……」
「……うん」
「あなたが優しいこと分かってる。きっと彼女にも何かあって泣いてしまったことも分かる。それを何とかしようとあなたがしてたのも分かる。でも怖いよ……」
「……ごめん」
歩夢ちゃんが心配してしまう原因、それはやっぱり僕だ。
僕たちは幼馴染みで、きっと小さい頃からずっと歩夢ちゃんは僕を好きでいてくれた。そしてずっと一緒にいた。だからこそ"離れる"という行為がとてつもなく怖い。
歩夢ちゃんを好きだと自覚するきっかけになったあの悪夢で僕は"離れる"という行為が恐ろしくて、泣きたくなるほど辛かった。
それは、確かな繋がりが僕たちには何一つないからだ。
幼馴染み、彼氏彼女、約束。
これらが強く結びつけていてくれるのは、子供の間だけだと僕は知らなかった。
歩夢ちゃんにとっては、例えわかっていても僕の"結婚する"という言葉は"約束"と大して違いはない。確かなものがないと人は安心できない。だからこそ今歩夢ちゃんは怖い、嫌だと怯えている。
大人になればなるほどそれが鮮明に現れる。大人になるということを僕はまだ、しっかりと理解していなかったんだ。
「……歩夢ちゃん」
「……」
「僕はどうしたら歩夢ちゃんを安心させられる? どうすれば歩夢ちゃんに確かなものをあげられる?」
これ以上、歩夢ちゃんを苦しめたくない。どんなことだろうと僕は受け止める。受け止めて、最善の策を見つける。後悔なんてしない道を見つける。そして歩夢ちゃんを幸せにする。
「私、とっても嫌な子だよ」
「歩夢ちゃん?」
この時、初めて僕たちは向き合った。
涙でぐちゃぐちゃな彼女の顔に胸を痛める。
「きっともうあなたが女の子と話すだけで怖くなってまた、嫌な子になる……」
「愛されてるって実感出来る」
「あなたが近くにいないだけで泣いちゃうよ……」
「こうして手をずっと握っててあげるよ」
両手をしっかりと掴む。無意識なのか歩夢ちゃんもギュッ、と離すまいと掴み返してくれた。
「それにさ────」
ちょっと意地悪かもしれない。でも歩夢ちゃんが自分を取り戻すには思い出して欲しい。
ずっと僕に向けてくれた想いを。
「────これからは歩夢ちゃんが僕を支えられるように強くなりたい。今度は守りたい。そうじゃないの?」
「……っ!」
「僕はずっと隣にいるから」
「……うん……うんっ……」
初めてこの日、歩夢ちゃんを抱きしめた。強く、より強く痛いくらい抱きしめた。
「……んっ…………」
「歩夢ちゃん……」
少しずつ僕たちは顔を近づけていく。初めての感触、初めての吐息、甘い誘惑に誘われ導かれる。この一瞬が永遠になればいい。
僕と歩夢ちゃんの唇が触れ合う。
もっと……もっと欲しい。唇だけじゃ足りない。もっと……もっと深く味わいたい。
「はぁ……はぁ…………して…………」
「歩夢ちゃん……?」
「……私、あなたが好き……大好き……愛してるの……だから……ここで全部
バスローブをはだけさせ、熱を帯びた視線を向ける彼女を前に僕は自制心を保っていた。
「で、も……」
「うん。分かってる。あなたが私の事考えてくれてる事も……全部。でもね……」
彼女はついに全てを取り払った。
「もう……我慢できない……よ……大好きって気持ちが抑えられないの……愛してるの……」
「……あゆむ……ちゃん」
「お願い────」
──。
───。
────。
***
朝日が眩しい。思えばずっとカーテンを閉めることなんて忘れていた。
それくらい昨日の夜は濃密な時間だった。
隣で眠るお姫様の頬を指で押すと、ぷにっと弾力のある柔らかさを感じた。
「……んっ…………」
何度も愛を囁いた声色。何度も何度も愛し、そして何度もその唇に触れた。
「今日は僕の方が早起きだな」
床に落としたままだった携帯を拾い、表示された今日の日にちを確認する。
僕はそっとベッドから出て、僕のカバンから一つの小さな箱を取り出しお姫様の元に置いた。
「……もっと早く渡していれば、昨日みたいな思いをさせなくて済んだのかな……いや、たらればやめよう」
今はただ、彼女が起きた時にどんな反応をくれるのか。それだけが楽しみでしょうがない。
「お誕生日おめでとう。歩夢ちゃん」
3月1日。
彼女が生まれてきてくれたその日の朝は、愛に溢れていた。
Q.何故ラブホ?
A.歩夢ちゃんはとにかくあなたと繋がりたかったから
Q.飲み会で2人の接触が無さすぎない?
A.歩夢ちゃんはその可愛さから人気です。そりゃあ身動き取れないはずだ!
Q.新キャラの本編登場は?
A.考え中。
Q.本編との関係はありますか?
A.このお話を作品の終わりと捉えても構いませんし、別世界線のお話だと思っても構いません。正解はありません。
Q.歩夢ちゃんお誕生日おめでとう!
A.お誕生日おめでとう!!