幼馴染以上、夫婦未満   作:イチゴ侍

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夫婦になるまで後2年
夫婦への一歩


 満員の観客。熱気あふれる会場。その中心に彼女は立っている。

 

 彼女はたくさんの人の目に臆することなく、その大きな一歩を踏み出す。彼女が歩く場所は、まるで夢への階段のように見えた。

 

 儚く、でも力強い声。必死に声を振り絞るその様に僕は強く胸を打たれた。

 

 

 

 ***

 

 

 

「これって、あの時のライブだよね?」

 

 その日は、何気なく虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会のライブ映像を眺めていた。

 映像の歩夢ちゃんはまだ高校二年。

 

 

「なんだか、自分の踊ってる姿を見るのってすっごい恥ずかしいな」

 

 照れ笑いの歩夢ちゃん。

 

 

「? いつも鏡の前でダンス練習してたのに」

「今の自分を見るのと昔の自分を見るのとじゃあ全然違うんだよっ!」

 

 ぷんぷんと怒りながらも照れる彼女は、とても魅力的だ。

 

 そんな中でもライブ映像は続く。

 

 

「でも、懐かしいなー。もうあれからだいぶ経ってるよね」

「そうだね。今よりもみんな若いし」

「むぅ……まるで今は若くないみたいに聞こえる」

 

 ソファーに座る僕の隣には頬を控えめにぷくっと膨らませる歩夢ちゃんがいた。

 そんな彼女と映像の中の彼女は何一つ変わらず可愛い。

 ひとつ違う点を上げるなら、

 

 

「ごめんごめんって、今は可愛いって言うよりも美人になったって言いたかったんだよ」

「……もう、最初からそう言ってよ」

 

 呆れなのか照れているのか分からない声のトーンだ。

 僕としては、ただ単に"美人"と言う言葉を面と向かって口にするのが恥ずかしかったんだ。

 もちろん、今も変わらず歩夢ちゃんを含め他のみんなも若い。

 

 

「女の子はずっと若くいたいんだよ。特に、一生を誓った人がいるともっと……ね」

 

 その言葉に僕は頬が熱くなる。

 

 人の人生は何があるか分からないもので、あの時ステージに立っていたアイドルと僕は結婚を前提に付き合っている。

 アイドルと言ってもその前に一人の幼馴染だけど。

 

 ある日、彼女に意図せず告白してしまった僕。今となっては後悔は無い。が、一時期はあんな勢いだけの告白をしてしまったことを悔やんでいたこともあった。

 

 

「ねぇ、覚えてる? あなたが告白してくれた時のこと」

 

 忘れるわけがない。

 

 

「もちろん。僕にとっても忘れたくても忘れられない黒歴史だよ……」

「黒歴史なんかじゃない。私にとってはそれまでの人生で二番目に嬉しかったことだもん」

「に、二番目……なんだ」

 

 それじゃ、一番は? と聞こうとする前に歩夢ちゃんは、

 

 

「一番はね、あなたに出会えた事だから」

 

 そんな嬉しい言葉をくれた。

 僕は何かを声に出したくても出せないで出かかっていた言葉も飲み込んだ。

 

 

「そうだ、ココア飲む?」

「……うん。貰おうかな」

 

 歩夢ちゃんが隣からいなくなるだけで肌寒さが一気に増した。彼女の隣は冬が近い今の季節でさえ、寒さを感じさせない。

 少し離れているだけでも寂しくなる。

 

 しばらくして、歩夢ちゃんが二つのマグカップを持って戻ってきた。

 

 

「はい、どうぞ」

「ありがとう」

 

 僕は可愛らしいクマが描かれた方を受け取った。残ったうさぎの方は歩夢ちゃんに。

 このマグカップはお互いの誕生日に渡しあった物で、今では歩夢ちゃんのも僕の家に置いてある。

 

 

「こうしてると本当に夫婦になったみたいだね」

「う、うん。でもまだ結婚は……」

「わかってるよ」

 

 結婚してほしいと言った手前、撤回してくれなんて言うわけがないが、それでも事には順序というものがある。

 僕達はまだ社会人じゃない。大学二年になったとはいえ、今の僕には彼女を幸せにしてあげられる程の余裕はない。

 だから、

 

 "お付き合いする所から始めよう"

 

 言わば予約。

 彼女を物みたいに扱うようで嫌だが、それがこの状況では的確だと思う。

 

 

「あ、今自分のこと悪く思ったでしょ? 分かるよ。あなたが私をとっても大事にしてくれてる事。だからまずは付き合う所から始めようって言ってくれたんでしょ?」

「……歩夢ちゃんはそれで良かったの?」

「うーんとね」

 

 歩夢ちゃんはマグカップをそっとテーブルに置くと、空いた手で僕の手を取った。どこに誘うのかと見ていると、見る見るうちにその先は歩夢ちゃんの胸元へと向かっていた。

 

 

「ちょ、ちょっと歩夢ちゃん!?」

 

 ピタリと歩夢ちゃんの胸元に僕の手が添えられた。

 

 

「感じる……かな」

 

 深い意味は無い。深い意味は無い。

 僕の手を通じて、トクントクンと胸を打つ振動が伝わってくる。

 紛れもなく歩夢ちゃんの胸の鼓動だ。

 

 

「この音はね、あなたと一緒だからなんだよ。こうして大好きなあなたと恋人同士になれているからこその音なんだ」

「恋人同士だからこその音……」

「そう。夫婦じゃ味わえない大切な、とっても大切な音」

 

 迷って焦った先でも彼女は、前向きでそれも自分だけじゃなく僕さえも巻き込んで前へ進ませてくれる。

 

 

「私はこの音を大切にしたい。きっと夫婦になったらこの音は一生聴けない。そう思ったらなんか嫌だなーって、だから私もあなたとお付き合いする所から始めたいの。あなたが自分を責める事なんて一切ないんだよ」

「ずるいな……」

「え?」

「そんなこと言われたら自分を悪く言えないじゃないか」

 

 そんな彼女に僕があげられるものは少ない。

 でもゆっくり、ゆっくりと増やしていこうと思う。

 

 

「歩夢ちゃん、来週の土曜って空いてるかな?」

「ん? うん。大丈夫だよ」

「なら、さ」

 

 僕と歩夢ちゃんは口約束だが、結婚して夫婦。でも"夫婦"である前に"幼馴染"だ。そして今の僕達は"恋人"。

 

 "幼馴染以上、夫婦未満"。

 それが僕達の関係を明確に表している一文だろう。

 

 

「────僕とデートしよう」

 

 こうして僕は、夫婦への一歩を踏み出した。

 

 

 





歩夢ちゃんのUR出ました!(素振り)
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