幼馴染以上、夫婦未満   作:イチゴ侍

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二人の夫婦への第一歩……恋人デート始まります!
"タピる"とかおじさん分かりません!
でもこの二人ならピュアピュアな健全なデートだよ!


デート宣言

 デート当日。

 僕は歩夢ちゃんが送ってきた待ち合わせ場所にやってきた。

 

 しかし、そこで待っていたのは、

 

 

「……すぅ……すぅ……」

「あ、歩夢ちゃん……?」

 

 駅のベンチにひっそりと座り、すっかり夢の中の歩夢ちゃんだった。

 

 

 実は前日、待ち合わせ場所について話になっていた。

 そこで、

 

『待ち合わせの事だけど、僕か歩夢ちゃんの家のどっちかで良いんじゃないかな?』

『分かってないんだから……』

『えっ?』

『もうっ、女の子はそういう所もちゃんとしたいんだよ?』

 

 という一連の流れがあった。イマイチ女心というものが僕には分からない。結果、僕の鈍感さに呆れた歩夢ちゃんにより、待ち合わせ場所が決められた。

 

 

 そんな事もあって、今現在に至るという事だ。

 

「うーん、起こすべき……かな」

 

 首をちょこっと曲げている様子が何とも言えない可愛さだ。写真に撮って保存しておきたいが、あいにくシャッター音が消せない機種なのでそれは断念。目にしっかり焼き付けておこう。

 

 

「時間に追われてる訳じゃないし、ここでゆっくりしてても良いか」

 

 僕はそっと歩夢ちゃんの横に腰を下ろし、今にも折れそうなくらいグラグラしてる彼女の頭に自身の左肩を添えた。

 すると、それはあまりにもピッタリはまった。

 僕の肩に乗せられた歩夢ちゃんの頭からは、暖かい温もりが感じられた。

 頬を少し撫でる彼女の髪からは、桜のような優しい香りが嗅覚に触れた。

 

 

「あはは……意外と照れくさいな」

「……ん……すぅ……」

 

 通り過ぎていく人達のまばらな視線がくすぐったい。微笑ましさ、羨ましさ、妬ましさ、人それぞれだった。

 そして、不思議と僕が見つけた時よりも歩夢ちゃんの纏うオーラのようなものが、一段と優しくなっている気がする。ふわふわとしていて、それはまるで、赤、青、黄色、緑……。たくさんの色で染まった空間に連れてこられたような感覚。

 そのどれもが人に癒しを与える色で、それに触れれば触れるほど歩夢ちゃんを愛おしく思えてくる。知人の言葉を借りるなら"スピリチュアル"な現象だ。

 

 これまた知人が話していた事だが、天気のいい日に、地元の広い草原に寝っ転がってただ空を見るらしい。するとそれだけで癒され、嫌なことも何もかも忘れられるらしい。

 その全てをその土地が作り上げた自然が包んでくれる。それが心地よくてつい日が落ちるまで寝てしまう、とも言っていた。

 

 きっと今この瞬間こそが、僕にとっての広い草原で寝っ転がって空を見ると同じなんだ。

 

 

「……あ……なた……」

「!? あ、あゆむちゃん……」

「……ふふっ……だいす……き……」

 

 ……危ない。両肩を上下させて起こしてしまうところだった。

 それにしたって今のは反則だ。ただでさえ近い距離に頭があるのだから、ほぼ耳元で囁かれたのと同じくらいの威力はあったはずだ。

 歩夢ちゃんの気持ちを分かっているはいえ、いざ好きだと言われるとグッと来るものがある。

 

 ここで、僕もだよ。ってすぐに返せればいいんだけど、眠っている歩夢ちゃんに向けてここで言うには少し恥ずかしい。だから僕なりの伝え方で許して欲しい。

 

 

 そっと、もう右の腕を上げて、左肩に乗る歩夢ちゃんの頭を優しく撫でた。

 

 

 

 ***

 

 

 

 それから歩夢ちゃんが目を覚ましたのは、10分程経った後だった。

 

 

「んっ……あれ……ふわぁ……」

「おはよ。眠れたかな?」

「うん、おはよ……って、ん?」

 

 肩からゆっくりと頭を上げて目を擦る。そして気の抜けた挨拶を交わし、ふと我に返った様子だ。

 恐る恐る右隣に座る僕を見上げる歩夢ちゃん。

 そして目が合った。

 

 

「よく眠れた?」

「……え? あれ……」

「大丈夫?」

「わ、私……寝てた?」

「うん。そりゃあ、もう、気持ちよさそうにぐっすりと」

「ごめんっ!」

 

 歩夢ちゃんが謝る事なんて何も無い。誰か一人犯人にするとしたらそれは多分、僕だ。

 急いでいた訳では無いのは確かなので、少しのんびりしても良いのは事実。けど、僕はそれにかこつけて少しでも歩夢ちゃんの可愛い寝顔を見ていたいと私利私欲のために引き伸ばした。それに関しては、僕に非があるのは確か。

 

 

「さっき(30分前)来たばかりだから大丈夫だよ」

「ほ、ほんとに……? 無理……してない?」

「してないよ。それに寝顔可愛かったし!」

「うぅ……見られちゃった……」

 

 思えば歩夢ちゃんの寝顔ってあまり見たことがない気がする。いつも起こされるのが日課になってしまっていたから、今思えば貴重なシーンだった。

 

 

「ほんとにごめんね……せっかくあなたがデートに誘ってくれたのに」

「もう謝らない。誰も怒ってないし、むしろありがとうございますだよ」

 

 笑って茶化して……。

 僕はとにかく気にしないでほしかった。

 

 

「そんな事より、まだまだ今日一日はたくさんあるんだ。いっぱい楽しもう! 高校時代に出来なかった"恋人デート"をさ」

 

 手を差し出す。

 そして少し待てば歩夢ちゃんは手を伸ばして手と手が触れ合う。

 

 

「じゃあ、行こっか」

「あ、待って……!」

「ん?」

 

 いざ! ……という時に歩夢ちゃんが足を止めた。ようやく駅のベンチから第一歩を踏み出せたところなのにと、肩を落とし後ろを振り向く。

 すると、

 

 

「あ、あのね。恋人同士だから手の繋ぎ方、こっちじゃなくて……」

 

 繋ぎあった手を離し、僕の指と指の間にするりと指を入れて繋ぎ直した。

 

 

「これって……」

「こ、恋人繋ぎ……だめ……かな?」

 

 ぎゅっと胸元を押さえて、少し上目遣いで訴えかける歩夢ちゃん。

 断られる……と思われているのなら癪だ。

 

 

「うん、もちろん。恋人同士だもんね?」

「……ぅん……」

 

 耳まで真っ赤だ。

 

 

「改めて、行こう!」

 

 なんだか今日はお互い雰囲気が違う。それは僕たちの心境の変化も強く現れている証拠なのかもしれない。

 

 

 




今回の戦果→待ち合わせ場所から一歩進んだ!

恋人としての初めの一歩、幼馴染みという枠から踏み出した二人の変化を少しずつ出していこうと思います。
そしてどうして歩夢ちゃんは寝ていたのか!
***
いっぱい色んな人に見ていただけていること、大変嬉しく思います。これからもどうぞよろしくお願い致します。

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