すぺーすびーすと!~ネクサス怪獣擬人化作戦~   作:地獄星バロー

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光と闇。

それは常に反発しあう存在。
この墨色に染まった夜空、帰り道の炭色に染まる無機質なコンクリの地面、そしてわたしの歩く影というところに闇がある。

それに対して眩い電灯、一軒家やマンションから漏れる光、そしてわたしが触れているスマホから溢れるブルーライトという光が反発している。



この時のわたしはまだ気付かなかった。
いや、気付けなかったのかもしれない。
この光と闇の果てしなきバトル(反発)に白黒を付けるのはわたしだったということを。



#1最恐のスペースビースト現る!(朝から晩までマリオネットにされちゃうよ!?)

 

どうしたものなのだろうか。

 

「ぐふぇふぇふぇ〜♡ アキちゃん様ァ〜〜!!」

 

その日、わたしがベッドで目覚めたら、目の前に変な少女がいた。まるで痴漢をするオッさん顔をして、薄気味悪くニタニタしながら、目を離さずにマウントポジションを取っていたのだ。

 

その容姿を見るからにはわたしと同じくらいの20代辺りの年齢らしい。見た感じ、現在進行形で感じる姿と重さから推測しても、恐らくわたしと同じくらいの身長と体重で間違い無いだろう。一般的に見ても違うところは彼女の目が死んだ魚のように白く、ボサボサな青髪で、何よりバストがわたしよりもちょっと大きいところだ。いいなぁ……。

 

じゃなくて! この状況普通に怖いんですけど。ついでに彼女の服装は全身薄い桃色のコート。その姿のまま見ず知らずの人にマウント取ってくるあたり、やっぱり普通じゃない。単純に怖い。

 

「はぁっ!? もしかして、もう起きちゃった感じですか? 昨日はアンナに大胆だったのにぃ〜」

 

しかしこの子は社会人であろうに、不法侵入という言葉を知らないのだろうか。あるいはわたしが寝ている目の前で堂々とコソ泥を? それに彼女はなんでさっきからよだれを垂らしてわたしを美味しそうな目で見てるの!? てかさっきの言葉の真偽はなんなの!? ――まさか、この人そういう系の人……。てことはわたしはもう一線を――。

 

当然ながらわたしの脳内はかなり混乱していた。

 

「えっ、あのちょっと、一体わたしはどうなって……!?」

 

ぐるぐるに目と頭を朝から回してベッドから寝た姿勢で数分程硬直していたことにようやく気付いたわたしは一旦冷静になる。もしかしたら、幻を見てるのかもしれない。とりあえずガバッと上半身を起こして思いっ切りほっぺをつねってみる。でもやっぱり彼女はいる。ああ、もう……。

 

わたしの様子をしばらく見つめていた彼女は、突然突拍子も無いことを言い出した。

 

「おはようございまぁーす、アキちゃん様! 改めて今日からずぅっーとお邪魔しまぁーす♡」

 

 

はい?

 

あなたが?

 

この家にお邪魔する?

 

今日から?

 

ってずっと!?

 

え? この子と一緒に暮らせと? なんで? いつわたしがそんな許可を? ってかあなた誰?

 

 

 

 

自己紹介をしよう。

わたしの名前は古紋(こもん) アキ。23歳の女性。半年前にTLT社という世間の仕事の売り上げやデータを一括に収集して、管理するみたいな仕事に勤めているOLだ。今は物価がいいこの安アパートで暮らしている。しかしこの謎の女性、わたしの仕事の知り合いにも、学生時代でも、変な色をした髪の娘と知り合ったことなんてない。

 

じゃあ一体全体何がどうなってこんなことに……。

 

「あのぉ、あなたは……どちら様でしょうか?」

 

「え? 私のこともう忘れてしまったんですか!? ノスフェルですよ!  ノ・ス・フェ・ル! 闇の勢力の! 昨日の夜にこの家にずっと住んでいいって言ってくれたじゃないですか!」

 

のすふぇる。一体どこの外人だろう。しかもなんかアニメっぽい居候話を語ってるんだけど、そんな約束をした記憶がまるでない。なんせ昨日は仲の良い先輩and後輩と一緒に飲みに行ったので、酔いに酔ったわたしはあんまり覚えていないのだけど……。

 

「ええっと、とりあえずその昨日の夜の経緯を教えてくれませんか…?」

 

「あっ、はい、分かりました! 実はですね……」

 

 

 

「ということなのです♡ これでOKですか、アキちゃん様?」

 

「はわわわ……嘘でしょ嘘でしょ嘘でしょーー!!」

 

あー。なんてことだ、些細な過ちだ……。

 

だんだん思い出してきた。確かにそんなことを言ったような感じがする。わたしのおぼろげな記憶とノスフェルが言うことには、昨日のわたしは酔っ払いながら家に帰り、ベッドにダイビングしようとした時にチャイムが鳴った。ドアを開けてみると物凄い形相をしながらこの娘(ノスフェル)が飛びかかって、

 

「お前の恐怖を喰わせろ……さもなければ肉ごと喰い殺す!」

 

と言ってわたしの首を掴んで襲おうとしたそうだ。彼女はどうやら闇の勢力(?)とかいう光のなんちゃらと対立している銀河の何処かにある組織に所属するスペースビーストで、光と闇が常に交わり合う星、即ち地球を制圧して闇の天下を取るべく、ノスフェルは仲間達と共に世界を闇に墜とそうとやってきたのだ。

ちょっと情報量が多いなぁ……。ってかすぺーすびーすとって?

 

「うーん。人間はまだ見たことないでしょうしねぇ……まぁ簡単に言うと、異生獣です! ちなみにわたしはスペースビーストの中では一番強いですよ! ……多分」

 

異生獣、ってことはノスフェルはモンスターァァア!? なんで人外がこんなところに!? これって最近の夜中のアニメでよく見る擬人化ってやつ!? 本当にヤバいよどうしたらいいのコレ……。

 

「突っ込むところそこですかー?」

 

あぁ、確かにそうだ。なんで異生獣であろうノスフェルがこの人型になっているのか? あろうことかわたしと同じくらいの年齢の女性に。

 

「その質問、待ってました! 実はですね……私もよくわかりません!!」

 

「分からないの!? 話振っといて!」

 

「今まではみんないつもカッコイイ怪獣のような姿だったんですが、どわああー! って、宇宙から地球の中に入った途端、わたし達みんなこんな感じの姿に変わっちゃったんですよ……」

 

原理は分からないけれど、さすが地球はオタクの星だ。こんなバケモノ達でも擬人化するとは。いやいやちょっと待って! そんなのが一杯地球にいるってことなの!?

 

「良いから話を進めますよ!」

 

あっごめん。

それでノスフェルは、手始めに人間の恐怖を得るべくたまたま付近を歩いていたわたしに目をつけて、家を特定、そうして始まった闇への勧誘(どう考えても脅迫だったけど、本人は勧誘と言い張っているのでそういうことにしておこう)に対して、寝ぼけていたわたしは、

 

「あ? わたし? うーん……恐怖よりぃ〜わたしの心奪って〜あはははー!!!」

 

と狂った発言。え? わたしそんなこと言った? ってか全然思い出せないわ……昨晩の記憶全部飛んでるし。

 

「貴様……舐めた真似を。まっ、良いだろう。記念すべき最初に目を付けた女だ。喰われ様ぐらい選択させてやる……。さて、どのようにお前の心、いいや心臓を奪ってやればいいのだ? 爪でえぐり抜けとかか? それともお前の故人の幻影に心臓そのものを捧げるとかか? フハッハッハッハァッ! さぁ決めるがいい!!」

 

とノスフェルは片腕だけを怪獣の姿に変えながら叫び散らした。それにわたしは、

 

「ちーがーうよ〜例え〜ば〜、わたしと一緒に暮らしてー、恋に堕ちちゃうとか? アハハハ〜〜」

 

と更に大いに狂った発言。道理で昨日少し変な夢を見たわけだ、わたし。

 

「なんだコイツ……。ふん! そんなノタノタとやってられるか! わたしには……時間が、時間がねぇんだよぉ!!」

 

とノスフェルはわたしを拘束して締め上げようとする。まっかっかな顔色のわたしはふにゃふにゃしながら聞く。

 

「でも……大変なんでしょ……? わたしの家に来なよ、世話してあげる。」

 

はは……ちょっと待ってよ。確かその変な夢は、捨てられたハムスターを家に連れて帰るようなものだけど、なんか展開がそのまんまな気がする。でも夢だよね……うん。ただの夢……。

 

「そ、それは……。だがそんな悠長なこと……」

 

寝ぼけてる人に図星されるってどういう気持ちなんだろう。わたしはそのままノスフェルの顔に手を触れる。

 

「ほら、ちゃんとわたしの顔見て」

 

そのままわたしは唇に顔を近づける。え……何やってるの、わたし? 嘘……でしょ!?

 

「お、おう……」

 

ちょっ……ノスフェルも駄目だって……!?

 

「んっ」

 

ああああああなにしてんだわたしいぃぃ!?!?!?!?

 

「……なんだ…………この感触は……!?」

 

柔らかい感触が伝わり、ノスフェルの顔色が少し赤くなる。わたしはノスフェルと唇と唇を重ね合い、キスをしてしまっていた。多分ノスフェルにとってもファーストキスだよね。わたしにとっても……。その後すぐにわたしはふらふらとしながらベッドに戻って眠ったらしい。これに心打たれた(勝手に恋に落ちた)ノスフェルが今日、いや正確には昨日の晩からこの家に居候することになったわけね……。

おかげで昨日の夢の経緯まで全部思い出しちゃった……百合百合しい、悪夢だ……。

 

「と、いうわけで、これからおねがいしますよ? アキちゃん様ぁ! 早速一緒にやりましょうよぉ♡」

 

駄目だこりぁ……昨日はすっごい殺意の気迫があったらしいのに、今はメロメロ。しかも性的な発言にしか聞こえないことばっか言ってる。とりあえず誤解を招くような発言はやめて! わたしはそっち系じゃないから。というか頼むから家からででってほしい! ……なんて言えない。さもなくばいろんな意味で襲われそうだ。 仕方ない。

 

「……まぁ、一応良いけど……」

 

「わぁ〜〜!! ありがとうございますぅ、アキちゃん様! ……それなら今晩はもう合意ってことですね?」

 

「断じて違う! 昨日のは寝ぼけてただけなんだからね! 勘違いしないで!!」

 

「むぅ……。わかりました、でも私は闇の勢力でありながら一度アキちゃん様に心を奪われた身。だから決っっして諦めませんよ!!! 必ずアキちゃん様の心も奪ってあげますからねー!!」

 

はぁ……。でも悪くない、独りぼっちじゃないのも。

 

 

こうして、わたしと『すぺーすびーすと』のノスフェルとの奇妙な生活が始まったのだった。でもなにか忘れてるような……。そう思いながらスマホを持って時計を見………

 

「あっっ!?!? 会社! 今日もあるじゃん⁉︎ やっば遅刻するぅ!」

 

完全に忘れてたぁっ!?

 

「アキちゃん様? 私も手伝いますよー! はい、バッグです!!」

 

おおありがとう……、ってそれは画用紙! とっ、とにかく行ってきまーす!

 

「はーい‼︎ でも早く帰ってきてくださいよ〜♡♡」

 

「はいはい分かってるわよ。言われなくたってノスフェルが誤った使い方して、家のものを沢山荒らすかもしれないしね!」

 

「そっ、そっちですか〜⁉︎」

 

 

 


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