すぺーすびーすと!~ネクサス怪獣擬人化作戦~ 作:地獄星バロー
ひょんなことから
そして今ここに、スペースビースト同士の激しい戦いが幕を開けるのであった……!
二人の異星獣は勢い良く走り出して、人間では不可能な動きを次々に展開する戦闘が始まる。
「ぐりゃあああああああ!!!!」
「ぐぐぐ……はっああああ!!!!」
激しい……。言葉では表現の仕様がないよ。俊敏な動きで互いの攻撃が繰り出されている。普段のタランとしたノスフェルとは大違いだ。……もしかしたらわたし、本当に大変なモノが懐に入ってしまったのかもしれない。
「目を醒ませ、ノスフェルゥ!!」
ダークガルベロスのマフラーの両端が猛犬の如く荒れ狂い、火炎弾を連続発射してノスフェルに仕掛ける。
「だぁっ! はぁっっ! お断りするよっっ!!」
ノスフェルは火炎弾を華麗にかわしながら、いつか(と言ってもたった昨日の話なのだが)見せた赤黒い球体、ダークボウルで迎え撃つ。
一見戦況は互角かのように見えるが、自分の意思でわたしを防衛するノスフェルに困惑を隠せないのか、ほんの少しだけダークガルベロスの方が押されている。
よし、これならもうだいじょ……。
待って。
でも、これでいいのかな……?
本当に、これだけでいいのかな?
このまま、ダークガルベロスが倒されて良いのかな?
「……これで! お仕舞いですぅっっ!!!」
ノスフェルの長く鋭い爪がダークガルベロスのお腹を突く。
「がひゃあぁぁっっーー!!!!」
お腹から粒子のような返り血が飛び、ダークガルベロスは呻き声を上げながら倒れ込む。その顔の様子からは今にも息絶えそうなほどの苦しさが伝わってくる。
「ぐはっ……ぐがあぁ……」
「ダークガルベロス、アキちゃん様に牙を向けた罪はとてつもなく重いものです。悪いけどあなたはここで死んで償ってもらいます……」
ノスフェルの爪が、上半身を起こしたダークガルベロスに牙を剥く。
このまま倒せば、わたしを殺そうとした娘はいなくなる。
でも………でもっ……。
こんなの……
こんなの良いはずがないっ!
戦って倒して終わりじゃない。それだけじゃ根本的に何も解決なんでできやしない、しないのよ! 彼女の価値観や使命のために、彼女達の種族のためにわたしを襲ったことは、彼女にとっては間違ってない筈なんだ! 例え違う種族でも……わたし達はきっと分かり会えるはずだ!
今ここで誰の
わたしは走り出し、ノスフェルの片手を掴んだ。
「待って! もう辞めよう? こんなのおかしいよ!!」
予想外の事態にノスフェルはもちろん、傷ついたダークガルベロスも驚愕している。でも構わない。今止めなきゃわたしは、いやわたし''たち''は絶対に後悔する。
「何故ですかアキちゃん様……? ダークガルベロスはアキちゃん様をっ……ふひゃっ!?」
わたしはノスフェルの頭を撫でた。
「ノスフェル、助けてくれてありがとう。嬉しかったよ。わたしとノスフェルは全く違う生き物なのに、こんなに温かい絆を感じられたから。……だから、さ。ダークガルベロスだって、確かに異種間の差異は大きいかもしれないけれどもきっと、分かり合えると思うの! だから殺しちゃダメ!!」
「ず……ずるいです、アキちゃん様……」
照れるノスフェルを他所に、ダークガルベロスはわたしに問う。
「なんだと貴様……。俺はアンタを殺そうとしたんだぞ!? 目を離せば必ず殺しにいくぞ? それでもまだ俺を許すとでもいうのか?」
わたしは振り向いて笑顔で答える。
「その時はその時。お互いに理解出来合うまで付き合うよ。ノスフェルと一緒にね。だからわたしは……あなたを許したい」
「人間……お前……」
「アキちゃん様、なんて優しいんですか! 流石私だけの唯一の正妻です……」
ノスフェル、今すぐその長い舌も一緒にお口にチャックして。わたしはダークガルベロスに手を差し伸べた。
「ほら、今日の敵は、明日の友だよ……!!」
ダークガルベロスはわたしの手を見つめる。
「俺が……俺なんかが掴んでも良いのか? 俺は闇の勢力、貴様の恐怖を喰らうモノなんだぞ……」
隣でノスフェルがニコッとして代わりに返す。
「良いんですよ。私なんかハートまで奪われてしまいましたから♡」
「……そうか、そうなんだな……」
ガルベロスは漸くわたしの手を掴んだ。
すると突然、禍々しいダークガルベロスの服装が輝きだす。
「まっ、まぶしっ……! 急に何なの!?」
「まさか……。ダークガルベロス、あなた光を?」
光? 闇の勢力であるはずのダークガルベロスが光の勢力になっちゃうってこと?
光堕ち的な? ってそれアリなの!? こういうのってもう少し話が進んでからなんじゃ!?
眩い光が解き放たれ、ダークガルベロスの服装が眩しくなくなった。そこにはボロボロな紺色のユニフォームではない、まっ黄色に染まった綺麗なユニフォームを着こなすダークガルベロスがいたのだった。でもダークらしさは無いよね……。傷まで全て癒えた彼女はゆっくりと立ち上がる。
「ダークガルベロスじゃない、今日から俺の名前は……ガルベロスだ」
「……まさか、そんなことが……」
「改めて……よ、よろしくな、人間」
「うん……よろしく」
ノスフェルが茶化しながら謝罪をする。
「さっきはごめんなさいね、ガルベロス。でもまさか貴女が光を手にするなんて驚きですよ!」
「俺も謝る。………ごめん。それと、人間。……その、えっと……」
そしてわたしの方を見て、赤面で口をモゴモゴし始める。
「どうしたの? ガルベロス?」
「ふ……ふんっ! け、決して、俺は負けたんじゃねーんだぞ! 次会ったら今度こそ俺はアンタらに勝ってやる! 絶対勝つからなぁー!」
ガルベロスは逃げるように去って行ってしまった。逃げ去る彼女にわたしは言った。
「拳を振るわないものなら、なんでも受けて立つよ〜!!」
まっ。こういう分かち合いも、悪くないよね。
帰り道、ハプニングもあったものの、その後も十分に羽を伸ばしながらノスフェルに色んな物事を教えることができた。無事ノルマ達成ってところだ。でも空はもう夕焼け。時間とは、あっという間に過ぎるものなんだなぁ。わたし達は他愛もなく話しながら歩いていた。
「あの時のガルベロス、すぐに行っちゃいましたね……」
「そうだね、……また会えるといいね」
「きっと会えますよ。ガルベロス、素直じゃないだけの娘ですから。それと……」
「それと?」
「……私、彼女から、ものすごく暖かい光を感じました。それもどちらの勢力にも属さない光……。アキちゃん様、光ってなんなんですか?」
あっ、ガルベロスは正式な光の勢力に寝返った訳ではないのね。でも、ノスフェルだって同じなんじゃないの? そう言いたいところだが、なんとなく今はやめて、代わりに違う言葉を返した。
「そうだねぇ……光って、温もりなのかな?」
「温もり……ですか。私にはまだはっきりとわかりません。少し前なら分かってたと思ってたのですが……」
彼女の白い目は黄昏ていた。なるほど。きっとノスフェルもわたしの見えないところで沢山苦労してきたんだね。
「わたしもよくわかんないよ、そんなこと。でもさ、わたしはノスフェルに感じてるよ。温もり」
「……そうですよね! その内見つければ良いですもんね!! じゃあ取り敢えず、私の今の温もりもアキちゃん様です!」
「そうだね。じゃっ、帰ったら一緒に今日買ったものでも食べよっか」
「はい♡」
_______________________
_______________
____
「えぇ……どうしたの……ガルベロス!?」
翌朝、週明け。それはいつもより早く余裕を持って会社に向かった道中のことだった。なんとセーラー服を着たガルベロスに遭遇してしまったのだ。早速遭遇出来たのはいいけれど、一体これはどういうことなの!?
「こっ、これはだなっ……そ、そのぉ……俺だってせっかく地球に来たんだ、だから……そう! この星を調査しようと思ってだな、今日からJKとやらになってあの江抜高校に潜伏することにしたんだ!!」
「ええっーー!?!? そんなのってアリ!?」
「別に良いだろ! いかんせん俺はノスフェルより若い体付きなんだ、生きてくにはこれしか職がねぇだろ!!」
確かに始めてあった時はガルベロスって女子高生っぽい容姿だなぁー、っとは思ってたけど……。これはびっくりだよ。しかも以外と似合ってる……。可愛い。……写真撮ってもいい?
「う、うるさい! 忘れんなよ、俺は絶対アンタ……えぇっと、」
「古紋 アキ。アキでいいわよ」
「よ、よしアキ! この俺、ガルベロスこと
「あっははは……」
何処から突っ込んで置けばいいのやら。取り敢えず今度ガルベロスと同じ枝抜高校に通ってる親戚の子から問題用紙でも見せてもらうとするか……。確か、アイツもガルベロスと同年齢だし、もしかしたら同じクラスになっちゃったりして。まー流石にそんな偶然はないか。
「言っとくけどわたし、青春捨てて勉強全振りしてた人だから、それなりに強くなってきてから勝負しなさいよ?」
「もっ……もちろんだ! 人間のアキが出来ることなら俺だって出来るさ! とっ、とくと怯えるがいいっっ!!」
「……はいはいっ」
やはり少し恥ずかしかったのか、はたまた妙なやる気に満ちたのか、ガルベロスはそう言い終わったあとすぐにもの凄い早さでいざ高校へと走って行った。わたしは少し呆然としつつも、すぐに満面の笑みとなった。やっぱりあのとき、ちゃんと止められてよかったよかった!
「うそっ、もうこんな時間!? 折角早く出たのに〜〜!!」
何気無く時計を確認したわたしは今日も慌てて走り出したのであった。